召喚出来ない『召喚士』は既に召喚している~ドラゴンの王を召喚したが誰にも信用されず追放されたので、ちょっと思い知らせてやるわ~

「大丈夫だよニクス。国王は何か考えがある筈なんだ。俺もまだ聞いていないけど、ニクスの事は絶対に俺が守る。だから一緒に行こう」
「私もついてるよニクス!」

 ニクスは余程嫌なのか黙り込んでしまった。

「彼女に更に重荷を与える様で申し上げにくいのですが……。
イディアナ王国からの要望では、何としてでもフェニックスをヨーハン遺跡に戻してくれとの事です。

彼女が行方不明となってから、フェニックスの長がイディアナ王国に使いを向かわせたらしく、直ぐにニクスをヨーハン遺跡に戻せと言っ要求されたそうですよ。もし従わなければ王国を焼き払うとまで……。

イディアナ王国からした寝耳に水でしたが、必死に探してやっとの思いでここにいる事を突き止めたと、私と同じ諜報員をしている彼が泣いて知らせてくれたのです」

 思った以上に凄い事になってるな……。そりゃいきなり王国焼くなんて言われたら焦るよな。

「――分かりました……」
「え?」

 聞き間違いじゃなければ、今言葉を発したのはニクス。

「正直……何時かはこの日が来るだろうと思っていました……。自分でもケジメを着けなければいけないと思いながら、このままうやむやに時が過ぎ去ってくれればラッキーだなとも思っていました……」
「ニクス……」
「でも、これ以上ルカさん達に迷惑を掛けたくありません。ただ……自分の事なのに、私だけで行く勇気も覚悟もありません。
迷惑と分かっていながら、情けないと分かっていながら、それでもまだ負担を掛けてしまいますが、私と一緒に来てくれませんかッ……ルカさん、レベッカさん!お願い致します!勿論我が儘を言ってる事は分かってます!でも……どうかお願い致します!」

 声を震わせながらニクスは深々と頭を下げていた。
 小刻みに震える体から、様々な感情がヒシヒシと伝わってくる。

 ニクス……。
 俺達はもう仲間だ。家族同然のな。だから我が儘を言ってもいいし、迷惑を掛けたっていい。そもそもお前は何も悪くないんだから――。

「当たり前でしょニクス! 寧ろ私がその馬鹿にしたフェニックス達をやっつけてやるわ!」
「おいおい……それはそれで大問題になるぞ」

 まぁレベッカと気持ちは同じだけどな。

「ありがとうございます……!レベッカさん」
「それじゃあ取り敢えず行く事で決定だな。バロさん、俺達もニクスと一緒にヨーハン遺跡に向かいますよ」
「分かりました。ありがとうございます。この事はしかと国王に伝えさせて頂きます。では――」

 そう言ってバロさんは瞬く間に消え去ってしまった。

「もう泣くなニクス。何が合っても俺達が着いてる。明日に備えて今日はもう休むぞ」
「は、はい!」

 こうして、明日ヨーハン遺跡に向かう事が決まった――。

♢♦♢

~ヨーハン遺跡~

「――確かに連れてきましたからね」

 念を押す様に言ったのはイディアナ王国の諜報員。

 彼とバロさんは、ニクスがしっかりとヨーハン遺跡に来た事を確認する為の互いにとっての見届け人的役割。

 目の前には長からイディアナ王国への使いに出された1匹のフェニックスもいる。そしてコイツがニクスを置き去りにした全ての始まりの奴。今すぐ丸焼きにでもしてやりたいコイツの名前はザックと言うらしい。どうでもいいがな。

「いいですか? しっかりと貴方達の長に伝えて下さいね!王国を焼き払うなんて2度と言わないで下さい!では私は帰ります!」

 そう言ってイディアナ王国の諜報員の人は帰って行った。

「じゃあ私も国王に報告しに戻りますね。後は任せますねルカ君」
「はい」

 バロさんもそう言って王国に戻って行った。

「お前……本当にニクスか……⁉ 人化出来たのかよ……」
「だから何? 今はもう飛べるし魔法も使えるわよ」
「なッ……⁉」

 ザックとか言う奴は平然とニクスに話し掛けていたが、ニクスは目も合わせずあしらう様に言葉を帰していた。そして不死鳥だからよく感情が分からないが、何処となくこのザックと言う奴は機嫌が悪そうだ。

「おい、早く長のところへ案内しろ下っ端」
「何⁉ ムカつく人間だ…… チッ、こっちに来い」

 自然と俺の態度も悪くなっていたが、コイツがした事を踏まえれば当然だろう。生きてるだけ有難いと思え。

 そう思いながらコイツの後に付いて行くと、広く空けた場所に出た。そしてその奥にニクスの何倍も大きいフェニックスの姿があった――。

「戻って来たようですねニクス」

 これがフェニックスの長である“バーレーン”か……。

 ニクスの赤い毛の翼と違い、バーレーンの翼はユラユラと炎が纏われていた。初めて見たが凄い……しかも何か神秘的だ。ちょっと近づき過ぎると熱いけどな。ここでも熱波が熱い。

「お言葉ですがバーレーン様……私はここに戻ったのではありません!自分なりにケジメをつけに来たのです!」
「……」

 ニクスはバーレーンにハッキリと意思表明をした。こんなに堂々としているニクスの姿に驚いたが、更に驚かされたのはバーレーン。暫し沈黙した後、静かに口を開いてこう言った。

「――そうですか。後ろにいる彼らが貴方の仲間ですかニクス」
「はい!ルカさんとレベッカさんは私の命の恩人であり、私にとってかけがえのない存在です!」
「分かりました。ニクス、貴方がここを旅立つというのなら止めません。ですが、貴方の仲間がそれに値するかどうか……私に証明してみせなさい」

 バーレーンはそう言いながら俺達の方を向いた。

 おっと。何故急に矛先が俺達にきた?

「証明とは……?」
「貴方達がニクスの仲間に相応しいと分かる為に、ある者達を倒してほしいのです」
「ある者達?」
「彼らの名は“ドクロシーフ”。
イディアナ王国の冒険者と呼ばれる者達で、モンスターや人間の非道な討伐や売買を繰り返している愚か者集団。私の可愛いニクスをモンスターの餌にもした、非常に許しがたい者達です――」

 これは話が一気にまとまった。思いがけない偶然が重なり過ぎて何と言っていいか分からないが、一言で言うなら“賛成”です。はい。

「ハハハハ、なぁんだ。何かと思えばそんな事かよ。こりゃ願ってもない展開だ。俺も丁度ソイツらに用があるんだよな」
「では頼みましたよルカ、レベッカ。本来であれば、私自ら制裁を加えたいのですが、イディアナ王国の民に手を出してはならないと言う制約が私には課せられています」

 なんだその制約は……? バーレーンもバーレーンで訳ありって事か?

「そうなんだな……。でもイディアナ王国を焼き払うって……」
「ええ。制約は民ですので、別に“王国”は焼けます」

 ほぉ~。これはまた恐ろしい。物は言いようって訳ね。

「まぁ分かったよ。取り敢えず今から直ぐドクロシーフとかいう奴らを全員潰してッ……「――ルカ君、国王から新たな伝言です」

 うわッ! ビックリして声が出なかった。

 突如姿を現したのはバロさん。バロさんは何時もこうして突如気配もなく現れる。秘密裏に動く事が多いからという理由らしいが、如何せん毎回心臓に悪い。これは何度経験しても慣れないんだよな……。しかもこのタイミングじゃないとダメかな?

「ドクロシーフの拠点が此処との事です。そして、一切の手加減をせずぶっ飛ばせと――」

 俺が驚いている事や目の前いるバーレーンに全く構うことなく、バロさんは俺に拠点の位置が記された紙と物騒なメッセージを残すなりまた消え去った。

 成程……。
 段々繋がってきたぞ……。
 
 余りにタイミングが良すぎる上に全く無駄もない。しかも流れる様に事が進んでいる……。これは恐らく国王が元から計算していた事だな……。

 聞いた感じドクロシーフとやらは結構悪名高いから、何時か潰そうと思っていたところにタイミング良く俺が紛れ込んでしまったのか――。

 くそ……。ここまでが国王の策略の1セットか……。
 
 まぁいいや。どの道ニクスに酷い事した奴らだからな。寧ろ俺が直接仕返し出来るならラッキーだ。まんまと国王にハメられたが結果オーライ。逆に言えば俺が美味しいとこ取りだぜ。 

「よし。そうと分かれば全開で行こうじゃないかレベッカ」
「そうだね! 最近ずっと繊細なコントロールばかりでストレス溜まってたから、今日は全部発散させちゃう!」
<空回りだけは止めろよ……>
「了解ジークちゃん!」

 こうして、俺達は直ぐに紙に記されたドクロシーフの拠点へと向かった――。

~ドクロシーフの拠点~

「――ここだな」
「如何にもって感じだよね」
 
 ドラシエル王国とイディアナ王国の国境付近の森の奥。バロさんから貰った地図の通り、奴らドクロシーフの拠点と思われる、趣味の悪い1つの建物が建っていた。

 外観にデカデカとドクロマークが描かれているし、その建物の周りにいる奴らも出入りしてい奴らも皆ドクロのマークを付けているから確定だ。これ以上無いほど確定。こんな森の奥を拠点にしているのに、あのセンスのない拠点。隠れたいのか目立ちたいのかもう訳分からん。

「クソの集まりか……よし。派手にかましてくれレベッカ」
「え、いいの? よ~し。じゃあいきなり高火力の攻撃魔法出しちゃおうっと!」
<なんだ雑魚ばかりか。我は今回パスだ。寝る>

 レベッカはやる気満々。ジークはサボり。
 ギガントオークからまともにレベッカの戦いも見ていなかったから、またどこまで成長したか少し楽しみだ。

「“アイスド・メテオール”――!」

 次の瞬間、レベッカが杖を振り下ろすや否や、無数の氷塊が流星の如く拠点一帯に降り注いだ。

 ――ズガガガガガガガガガガガッ!
「ぐはッ……!」
「な、何だ⁉」
「うわぁぁぁッ!」

 静かだった辺りは一気に叫び声に包まれた。レベッカの放った氷塊はただ降り注ぐだけでなく、落下した氷塊が更に周囲を凍らせていった。

「凄いなレベッカ」
「フフフフ!」

 クレーグが特注で改造してくれたらしい杖によって、魔法の威力も上がってるみたい。これは氷魔法だけで見ればSSSランク並みの威力だぞ。やるな……。もう半壊はしてるんじゃないか?

「よし。そろそろ中に乗り込もう」
「今ので凄いスッキリ!」

 こんな状況なのに、その可愛い笑顔に一瞬見惚れてしまった。
 ……って、何考えてんだ俺。集中しろ。

「さて……“どこだ”?」

 俺は抜いたゼロフリードに雷を纏わせながら匂いを追っていた。狙うは勿論ニクスを酷い目に遭わせた奴らだ。あの時ニクスと首輪に残っていた僅かな匂いを俺はしっかりと覚えている。何時か出会った時に為にとな――。

 数は全部で4人……。
 建物の中はレベッカの奇襲で大いに混乱中。俺を敵だと認識して攻撃してくる奴も多くいるがそんな連中は一先ず無視。何よりも先ず目的の4人を見つける。

「ここだ――」

 不意に漂ってきた目的の匂い。俺はそれを逃さなかった。

 匂いを辿って行きついたのはとある部屋。そこだけ一部が異様に暗く、扉も頑丈な鉄格子だ。更に奥から幾つもの匂いや魔力を感じた。

「早くズラかるぞ!」
「おい待て、こいつらどうするんだよッ⁉」
「知らねぇよ!それより自分達の命が優先だろうが普通!」
「どこの組織の敵襲だ?早くしないと此処も見つかッ……「――よお、なんか盛り上がってるな」
「「……⁉」」

 鉄格子の扉を開けて中に入ると、そこには幾つもの牢屋があった。逃げようとしていた男達を呼び止め何気なく牢屋を見渡すと、そこには何十体ものモンスターが捕まえられていた。

 ニクスに付いていた首輪と同じものがモンスター達にも付けられているから、やっぱコイツらだな。それにしても……。

 俺は思わず自分の目を疑った。
 何故なら……牢屋に閉じ込められたモンスターの他に、あろう事か“人”まで入れられていたのだ――。

「これが冒険者の……いや、人のする行為か……?」

 刹那、俺の中で何かがキレた――。

「なんだテメェは!」
「驚かせやがって!こんなガキなら俺達で片付けるぞ!」
「ああ、そうしよう!まだ入り口の方が騒がしいから、他の敵が来る前に逃げるぞ!」

 体の奥底から湧き上がってきたドス黒い衝動を、俺はそのまま覇気で飛ばした。

 ――ビクンッ……!
「<動くんじゃねぇ>」

 ジークの覇気で動けなくった男達に、俺は目の前まで近寄った。

「あッ……あが……ッ……!」

 男達は4人共ただただ震えるばかりで何も動けない。

「<お前ら、前にフェニックスを捕まえて餌にしたか? >」
「は、はい……」

 覇気によって本能的に逆らえない男達は、自分の意志に反して出た言葉に対し慌てて口を塞いだ。だがそんなの意味はない。

「<この牢屋にいる人やモンスターは何だ? 何してやがる>」
「こ、これは商品でして……」
「裏オークションで売買するんです……」
「全部“ボス”の命令で……」

 ボス?
 成程、そりゃ組織なんだから頭がいるか。こんな末端じゃ何人倒しても解決にならないもんな。

「<そのボスとやらは何処だ>」
「う、上です……!」
「1番上の階の、奥の部屋です……」
「<そうか。じゃあくたばれ――>」

 ボスの場所を聞き出し、俺はゼロフリードを男達に軽く当てた。

 ――バチバチバチバチッ!
「「ぐあぁぁぁッ……!!」」

 雷を食らった男達は感電し倒れ込む。ニクスにした事をお前らも味わえ。勿論俺の怒りも加わってるから威力は増してるけどな。だが致命的なダメージではないだろう。加減したから暫く感電を味わっていろクソ共が。

「――大丈夫か? 直ぐにここから出してやるからな皆。少しだけ待っててくれ。ボスを倒して安全になったらまた戻ってくるよ」
「分かりました……ありがとうございます……!」

 俺は牢屋に囚われていた人達にそう言い残し、最上階にいるボスの元へと向かった。

 本当に胸糞悪い連中だ……。早くぶっ飛ばして皆を出してあげないと。

「ルカ!」
「お、レベッカか」

 最上階を目指し階段を駆け上っていると、上の階に既にレベッカがいた。周りはそこかしこに倒れている者達がおり、所々凍り漬けにもなっていた。レベッカが攻撃したことは一目瞭然だな。

「全部1人でやったの?」
「勿論! 久々の解放感」
「そうか。俺今から上にいるボスのところに行くけど」
「そうなんだね。やっぱり親玉がいたんだ。じゃあもうここには敵がいないみたいだし、私は下に戻って足止めしておく!」
「分かった、ありがとう。でも無茶はするなよ。何かあったらすぐ呼んでくれ」
「うん!」

 レベッカは元気よく返事をして、階段を下って行った。余程調子がいいらしい。一切困った様子もなかったし傷1つ付いていなかったな。やはり心配しなくて大丈夫みたいだ。俺もさっさと終わらせよう。

 再び階段を駆け上がり、一気に最上階まで登った。すると廊下の1番奥の部屋から、明らかに異質な空気を纏った魔力を感じた。

「いるな……」

 ゆっくりと部屋の扉に近付き、バッと扉を開けた。

「ヒャハハハ!」

 ――ガキィィィン!
 扉を開けて1歩部屋に踏み込んだ瞬間、不気味な笑い声と共に鋭利な刃物が俺を襲ってきたが、手にしていたゼロフリードでその攻撃を受け止め武器ごと奴を弾き返した。

「こりゃ珍しく強いのが現れたなぁ! ヒャハハハ」
「お前がボスか」
「あぁ?それがどうした?」

 ドクロのマークが描かれたマントの様なものを羽織り、男は手に短剣を握っている。見るからにイカれた風貌だが、速さも威力もそこそこあったな。こんな組織とはいえ、腐ってもトップか。

「長居する気分じゃないからな……。直ぐにお前を倒してこんなところ潰してやるよ」
「なんだテメェはよ。ヒャハハハ、頭可笑しいのか?」

 それはお前だろと思いながら、俺は間髪入れず奴に炎魔法を放った。

「“プロメテウス”」

 ――シュゥゥン。
「ん……?」
「ヒャハハハ! 変わった魔力してるなぁお前!」

 俺は今確かに奴目掛けて炎を飛ばした。だがその炎は奴が向けた掌に吸い込まれる様にして消えてしまった。前にクレーグと戦った時ととても似ている。だけど奴は武器じゃなく、確実に手で吸収した……?

「魔法か?」
「もうビビったか! そうさ、これは空間魔法。どんな魔力も攻撃も封じ込めるのさ。ヒャハハハ!」
 成程、空間魔法ってあんな使い方も出来るのか。

<奴の空間魔法は少し違うな>
「お、ジーク。起きたのか」
<ああ、コイツだけ少しは暇つぶしになりそうだ。奴の空間魔法は全てを吸収している。我の様に空間に留めておく事は出来ない。言わば我の劣化版だ>

 そういう事らしい。まぁそれでもそこそこ厄介なのは変わらないぞ。

「お前何でこんな下らない事しているんだ?」
「は? どこが下らねぇんだよ。こんな効率よく稼げるもの他にねぇだろうが!ヒャハハハ! 頭が弱いみたいだなお前も。俺の部下もあんまり頭が良くねぇ。だからこれを思いついた俺が天才で俺がボスなのさ!
“国王お墨付き”なんだから間違いねぇだろうが。ヒャハハハ!お前強いみたいだから仲間にしてやってもいいぞ?」

 国王のお墨付きだと? 一体何の事だ……。まさかな。

「なんかきな臭い香りがプンプンしてきたぜ。これは俺が思っている以上に闇が深いなきっと」
「何をブツブツ言ってやがる! 仲間にならねぇなら邪魔だから死ねや!」
「お前が死んでくれ――」

 俺は再び連続で魔法を放った。だが奴の空間魔法によって全て吸い込まれてしまった。奴は随分と余裕なのかずっとニヤニヤしている。

「無駄無駄無駄ぁぁ! どれだけ攻撃しても俺には全部聞かねぇんだよ!」
「じゃあ斬る」

 ――ガキィィン!
「……!」
「だから無駄だって言ってるだろアホが! こんなの魔力を纏ってなきゃただの鉄の塊さ!甘く見るな、これでも俺はSSSランクだからなぁ。ヒャハハハ!」

 奴の言う通り、剣に纏っていた雷はどんどん吸い込まれてしまっていた。コイツSSSランクなのか。ちょっとだけ納得。

<ルカ、コイツの魔力量は相当だ。クレーグよりかなり多く吸い取るぞ。まぁ逆を言えば……それだけなのだが>
「そうなのか。なら1発で奴の吸い込める量を上回れば終わりだな」

 奴もSSSランクなら結構力を込めて大丈夫だろ。俺は風魔法で手のひらサイスの小さい圧縮した風の弾を生み出した。そしてそこにこれでもかと魔力を込める。

「ハハハ、出来た。魔力を超圧縮した風のボール」
「余所見してんじゃねぇぞ!」

 奴が俺目掛けて剣を振り下ろそうとしてきたので、そっと風のボールを奴に投げてあげた。すると今まで通り何の疑いもなくボールを吸い込んだ。

「なんだこりゃ、失敗か? 悪いがこっちも暇じゃねぇッ……『――ズパァァァン!』

 皆まで言いかけた次の瞬間、超圧縮のボールを吸い込んだ奴は破裂するかの如く思い切り吹き飛び、建物の壁を貫通して外の地面に散っていった。

「……がはッ……⁉」
「おー、ビックリした。思った以上に勢いよく破裂したぜ」

 突如建物から飛んできた自分達のあられもないボスの姿を見て、残りの残党も慌てて逃げだして行った。これにて終了。呆気なかったな。

「ルカー!」

 空いた壁の穴から下を見ていると、相変わらず元気なレベッカが大きく手を振ってきた。

「――お疲れ様ですルカ君!」
「うわぁぁ⁉ バ、バロさんッ!」

 この人の登場も相変わらず心臓に悪い。もっと思いやりのある出方はないのだろうか……。他の皆もこんな感じなんだよな? しかも待ってましたと言わんばかりのタイミング。絶対監視してただろコレ。

「流石、ドクロシーフを仕留めてくれた様ですね」
「え、ええまぁ一応……」
「では再び国王様からの伝言です――。
ドクロシーフの件はこのまま他の者が後処理を行う為、ルカ君にはフェニックスの長であるバーレーンとの面会をお願いしたいそうです」
「面会って……国王がですか?」
「はい」
「あ、そうだ!それより牢屋にいる人達を出してあげていいですか?約束してあるんで」
「勿論構いません。ですが、囚われていた者達は重要な参考人でもありますので、こちらで安全に保護させて頂きます」
「分かりました。お願いします」

 俺は魔法で牢屋の鍵を壊し、皆を解放してあげた。その後騎士団員や国王団の他の隊が直ぐに来た為、俺とレベッカはニクスとバーレーンがいるヨーハン遺跡に戻った――。

♢♦♢

~ヨーハン遺跡~

「なんだあれ……」

 俺達が戻ってくると、何やらヨーハン遺跡の上空で炎が上がっていた。よく見るとその炎は一瞬で消えたり再び現れたりしている。

「何か飛んでる?……って熱いな!」

 その炎を確認しようと少し近付いたら、辺りは凄い熱波に包まれていた。それでも何とか少しづつ近づいていくと、上空を舞うニクスとザックの姿を確認した。

 どうやらニクスとザックが戦っている……? いや、どう見てもニクスが一歩的に攻撃してる様にしか見えない。全く状況が理解不能だった俺達は、一先ず下で静観しているバーレーンに報告をした。

「あの……。シドクロシーフの片付け終わりました」
「ルカ、レベッカ。ありがとうございます。流石の実力ですね。これで一安心です」
「後、国王が貴方と面会をしたいらしいんですけど……」
「国王がですか?」
「はい。俺も伝言を預かっただけで詳細は知りませんが」
「そうですか。分かりました。面会を快諾すると国王にお伝え下さい」
「あ、ありがとうございます。それであの……ずっと気になっているんですけど、ニクス達は何を……?」

 そう。一応バーレーンに報告をしているが、上で勢いよく炎を吐いているニクスが気になってしょうがない。

「あの子達はですね――」

 バーレーンは俺達がドクロシーフの所へ向かった後の事を教えてくれた。

 そもそも、今回ニクス達がこのヨーハン遺跡を抜け出してしまったのは私の落ち度であると言ったバーレーン。当然彼らフェニックスにはフェニックスの決まりや暮らしがあり、俺達は詳しい事情まで知らない。

 だが、色々思う事のあるバーレーンは、一先ず今回の一連の原因であるザックに対し、ニクスにお詫びをしなさいと言ったそうだ。しかしザックは面白くなかったのだろう。何時も馬鹿にしていたニクスが遺跡に戻って来た事や魔法が使える様になっていた事、そしてザックが悪いにも関わらずバーレーンがニクスを庇っている事に。

 素直に謝れなかったザックは会話の流れで俺達の事を悪く言ったそうだ。そしてそれにニクスが怒りを露にしたらしい。

 突如人化を解き、元のフェニックスの姿に戻ったニクスは、自分で少しずつ魔力のコントロールが出来ていた事もあり、ザックに置き去りにされたあの頃から二回り近く大きなフェニックスの姿に成長していた――。

 バーレーンからそう聞いた時は俺とレベッカも驚いたが、それは上を見れば一目瞭然。空を舞っているニクスの大きさはザックを遥かに上回っていた。

 バーレーンも好き好んで同じ仲間のフェニックス同士を争わせたくなかった。しかもニクスとザックフェニックスの中ではまだ幼鳥。一瞬悩んだバーレーンであったが、聖霊やモンスターも弱肉強食の世界。互いのいざこざの為に、そして今後生きていく1つの経験として、ニクスとザックが正面からぶつかるのを見守る事にしたとの事――。

「ニクス……」

 話を聞いている間もニクス達は戦っていた。そして……。

 ――ズガァン……!
 上を見上げた瞬間、ニクスが鋭い脚でザックを捉えそのまま地上にある岩盤へと押し込んだ。

「ぐッ……ま、待ってくれニクス……ッ!」
「私の事はいい……。でも、ルカさん達を侮辱した事は絶対に許さないわよ!謝りなさいッ!」
「わ、分かった……!ご、ごめんよ……」
「声が小さいッ!」
「ご、ごめんなさい!」

 ザックは泣きながらニクスに謝った。
 それを見て落ち着いたのか、ニクスは再び人の姿に戻っていった。

「次言ったらもう許さないからね!」
「ニクス」
「バーレーン様……」
「ザックがした事は決して許されません。ですが、ザックはあの後直ぐにニクスを迎えに行ったそうですよ」
「え、そうだったの……?」

 まだ泣いているザックにニクスはそう尋ねた。

「ああ……。流石に人に見つかったらマズいと思って……。でも戻ったらもうお前がいなかった……。探しても見つからなくて、怖くなって……。本当にごめん……」

 ザックの声はとても小さかったが、しっかりと気持ちが込められていた。

「ふーん。でもだからって、はいそうですかとは許せないわよ。散々私の事馬鹿にして、辛い目にも遭ったんだから!
でも……そのお陰でルカさんやレベッカさんに会えたのも事実だし、取り敢えず見逃してあげる。
けどバーレーン様、やっぱり私はここには戻りません――」

 ニクスはバーレーンを真っ直ぐみながらそう言った。

「貴方の気持ちは良く分かりましたニクス。彼らなら貴方を任せても大丈夫な様です。私の大切な仲間をを宜しくお願いしますね」
「ああ。ニクスは俺が守るから安心して下さい」

 こうして無事事なきを得た俺達は、王国へと戻ったのだった――。
~特殊隊の寮~

 ドクロシーフを片付けた日から3日後――。

 ニクスがバーレーンにしっかりと思いを告げ、正式にまた俺達と行動を共にする事となり、あの後寮に戻った俺達はダッジ隊長と国王にも詳細を報告し、無事一件落着となったのだ。

「――そういえばドクロシーフの奴らどうなったんだろ? クレーグ知ってる?」
「あー、アイツらかい? ドクロシーフの奴らは元から評判が最悪だったからねぇ、ルカが拠点を潰した後にさ、いざ蓋を開けて調査してみたら……これがとんでもない悪事ばかりが出るわ出るわだったらしくて、皆はらわたが煮え繰り返ったみたいだよ。
一切の余地なく重罪人扱い。即死刑でも良かったぐらいだけど、今頃死んだ方がいいと思える様な収容所で血反吐はいて労働してるよ」

 クレーグは明後日の方を見ながら俺にそう言った。

「収容所か……。そこってそんなにキツイの?」
「そうだね。聞いただけでもかなりヤバいかな。僕だったら迷わず自害するね。まぁそれすらさせてくれないからより地獄だよ。
あそこは1番キツイのが採掘場の労働と言われているみたいだけど、それ以上に恐ろしいのが、実質死刑になった連中が飛ばされる人体実験施設。

ドクロシーフの奴らは確実に採掘場かその人体実験施設のどちらかに放り込まれるってダッジ隊長が言っていたよ」

 うわぁ~、本当に聞いただけでヤバそう……。人体実験って何やらされるんだろ。まぁアイツらは自業自得だよな。非人道的な事していたんだから当然だ。

「そうなんですね……」
「まぁ関係ないけどね、僕らには。それよりフェニックスの件も無事済んだみたいで良かったね」

 そう。どちらかと言えばこっちの方が凄い事になっていた――。

 あの日、俺達がダッジ隊長と国王に報告を伝えた後で、国王は早くもバーレーンと会って話をした様だ。しかも超極秘の会談だったらしい。だが、何故そんな超極秘の会談があったと俺が知っているかと言うと、余りに“起きた事が大きい”からだ……。

 正確に言うと、この極秘会談は俺とダッジ隊長などごく一部の人しかまだ知らないと思う。だがその起きた事自体は国民全員が知っている。何故かって? そりゃそうだろ。だってあのイディアナ王国がドラシエル王国に“引き渡された”たんだから――。

 あれからまだ3日しか経っていないんだぞ……? 何故それで国民どころか世界が揺らぐ大騒動になったんだ。誰もがそう思う。勿論驚いた俺も理由を聞いた。そしてこの理由がまた驚きなんだけど……。

 イディアナ王国は何年か前に国王が変わったらしく、イディアナ王国の現国王であったソイツがかなりヤバい奴だったらしい。簡単に言うとドクロシーフの奴らとも繋がっていて、裏で相当悪事を働かせて利益を生み出していたとか何とか。

 以前からそのイディアナ王国の異変に気付いていたバーレーンが何とか状況を変えようとしたのだが、バーレーンは昔結んだ制約のせいで攻撃が出来なかった。でもそこへ今回の出来事。

 俺らの国王がバーレーンと手を組み、悪事を働かせていたイディアナ王国の国王を襲撃。まぁ襲撃と言ってもフェニックスと国王の絶対的な脅しらしいけど……。ってな感じでイディアナ王国の国王は自らその座を降り、かなり貧困が進んでいた情勢を立て直すべく、イディアナ王国はドラシエル王国に正式に引き渡される事となったんだ。

 そしてこれでも十分驚きだがまだある――。

 なんでも、イディアナ王国の立て直しに選ばれた最高責任者はなんとマスターだ。俺らのゼインマスターね。だからギルドの次のマスターはフリードさんがなった。

 色々驚く事ばかりだったが、人選に間違いないと俺は思う。俺なんかが偉そうに言う事じゃないけど……。


「――おーい、ルカ!」

 そんな事をボーっと考えていたらエレナに声を掛けられた。任務に行っていたから2日ぶりに顔を見た。

「お帰り。任務ご苦労様」
「ありがとう。なんか隊長が呼んでるよ」
「そうなんだ。すぐ行くよ」

 エレナにそう言われ、俺はダッジ隊長の部屋に向かった。


~ダッジ隊長の部屋~

「――以上が次の任務内容だ。頼んだぞ」
「はい!」

 しっかり返事をして、俺は部屋を後にした。
 
 ダッジ隊長から言い渡された次の任務……。内容はモンスターの討伐。もう慣れたものだ。と言うかほぼそれしかしていない。まぁそれが俺の目的でもあるからいいんだけどさ。

 こうして、新たな任務の為俺とレベッカとニクスの3人は、王国の最南端にある雪の街……スノウランド街に向けて出発した――。

♢♦♢

~スノウランド街~


「――よく来てくれたね!ルージュドラゴンの時は本当に助かったよ。改めてお礼を言わせてくれ」
「いえいえ、あれは皆で協力した結果なので、お礼なんてされる立場じゃないですよ」

 俺達を出迎えてくれたのはここのマスターだ。スノウランド街には南の冒険者ギルドがある。
 
 東西南北全ての街に冒険者ギルドが存在するが、どこのマスターとも以前のルージュドラゴンの件で顔はもう知っている。あんまり話す時間はなかったけど皆一緒に戦った仲間だ。

「寒ーい!」
「それは全くだ。マジで寒い!」
「ハハハハ。慣れていないとかなりキツイだろここは。取り敢えず中に入りなよ。暖かい飲み物でも用意するからさ」

 そう言ってマスターはギルドの中へ案内してくれた。

 流石雪国の人だなマスターも……。俺達より薄着なのに全然寒そうじゃない。それにニクスもこの寒さが大丈夫みたいだ。いいな~、羨ましい。フェニックス暖かそうだもんな。

 そんな事を思いながら、俺達は今回の討伐の件について話し合った。

「どうだ?少しは温まったか?」
「かなり良いです。ありがとうございます。それでマスター、今回は“ホワイトゴーレム”の討伐って事でいいですよね?」
「ああ。此処からもう少し南に行ったところに大きな雪山があってね。そこでホワイトゴーレムの姿が確認されているんだけど、何せその雪山はここより寒い上に吹雪が凄くて歩くだけでも大変なんだ。
雪や寒さに慣れている私でも1人だと厳しくてね。実力ある人にサポートしてもらわないと厳しくて」

 雪国で暮らすマスターでも大変な環境って……これ人選ミスじゃないか? 街の寒さで既に俺とレベッカは凍死しそうだぞ。

「俺達に出来る事なら勿論協力したいですけど、この寒さどうにかなりませんよね……?」
「ルカさんそんなに寒いの?レベッカさんも?」
「「寒い」」
「じゃあ私の聖霊魔法で暖かくしてあげますよ」

 えー!そんな事出来るの?是非お願いしますニクス様!

 ニクスは早速俺達に聖霊魔法を掛けてくれた。するとあら不思議。本当にポカポカと暖かくなってきた。

「もう大丈夫ですよ」
「本当だ。なんか暖かい感じする!」
「いや確かに暖かい感じするけど、本当に大丈夫?」

 決してニクスを疑っている訳ではないが、まさか本当にコレで寒さが和らいだのかと疑問に思いながら俺は確かめるためにまたギルドの外へ出た。すると……。

「うわ凄ぇ!本当に寒くない!」
「だから言ってるじゃないですか!信じてないんですか私の事」
「私は何も疑ってないからねニクス」
「ズ、ズルいぞレベッカ!俺だって別に疑ってた訳じゃないからなニクス……!」

 苦し紛れにそう言うも、ニクスは疑う様な目で俺を見ていた。

 そんなこんなで話を戻し、俺達はマスターと一緒に目的のホワイトゴーレムの討伐に向かった――。


~雪山~

 ホワイトゴーレムはSランク指定のモンスター。普通のゴーレムよりも更に防御力が高い。半端な攻撃では倒しきれないちょっと厄介な相手だ。しかも生息場所がこんな険しい雪山とくれば、普通のSランクより討伐が難しい。

「――あそこだよ」

 マスターがそう指差した方向に、確かにホワイトゴーレムの姿を確認した。

<奴はただの木偶の坊。強めに一撃放てば終わりだな>
「それよりも、凄い吹雪だな……!」
「前がほぼ見えないよ」
「何処かに降りますか?」

 マスターの言った通り雪山は吹雪がとても凄いな。普段から全く見慣れていない俺達にとってはより現実離れして見えてるだろう。

「いや、これは慣れない俺達にとって危ない環境だ。俺がこのまま1発で仕留める」
「頼もしいな~」

 マスターに少し茶化されながらも、俺はホワイトゴーレムを一撃で倒し、サクッと素材も回収して街に戻った。そしてマスターとも別れを済ませ、俺達は寮に帰った――。

~特殊隊の寮~

「――何時も通り迅速な対応だな。ご苦労。立て続けで悪いが次の任務だ」

 ホワイトゴーレム討伐の報告をした後、俺達は再びダッジ隊長から新たな任務を言い渡された。次の討伐対象は“デザートサーベル”。砂漠に生息するタイガーの様なモンスターだ。

 その日はもう寮で休み、俺達は翌日任務に向け出発した――。

♢♦♢

~デザバレー街~

「――おう、よく来てくれたな! お前達とはルージュドラゴンの時以来か。ガハハハ!」
「ご無沙汰してます。ここは凄い暑いですねマスター」

 俺達を出迎えてくれたのはデザバレー街のマスター。此処には西の冒険者ギルドがある。
 
「今度は暑いね……」
「ああ。昨日と両極端過ぎる。暑い……」
「ガハハハ。昨日は雪山に応援していたらしいな。此処は逆に炎天下で暑いだろ!取り敢えず中に入れ、ガンガンに冷やしてあるからな。腹壊すなよ」

 そう言ってマスターはギルドの中へ案内してくれた。

 ここはマジで暑すぎる。しかもマスターも豪快でちょっと暑苦し……おっと、それは失礼だ。マスターやSランクの人達は皆良い人ばかりなのに。暑さで頭がボーっとしているなこれは。

 それにしても、またもやニクスは大丈夫そうだな。寒さに強いのは分かるけど、暑さにも強いとは。まぁ一応炎だもんな。バーレーンなんか滅茶苦茶燃えてたし……。

 そんな事を思いながら、俺達は案内されたギルドの中で今回の討伐の件について話し合った。

「冷たい物でも飲んで行け!」
「ありがとうございます。それでマスター、今回はデザートタイガーの討伐って事ですよね?」
「ああ、そうだ。街から更に西に行くとバラサバラ砂漠があるだろう?そこを50㎞ぐらい行った場所でデザートタイガーの姿が確認されているんだ。
奴自体はSランクだがら討伐に問題はないんだがな、何せこっちは人手不足でよ。俺ともう1人のSランク冒険者も砂漠の反対側に討伐しに行かなくちゃいけねぇ。デザートタイガーが段々街に近付いてきているからそっちも早めに討伐しないと危ない。だから応援を頼んだ。宜しくな!
!」

 デザートタイガーなら確かに余裕だろう。昨日みたいな視界もまともじゃない状況に比べれば全然動きやすい。だが如何せん暑すぎる……。これはこれで意識が持っていかれそうだ。

「分かりました、任せて下さい! それと……関係ないですが、この暑さどうにかなりませんよね……?」
「ルカさん今度は暑いんですか?レベッカさんも?」
「「暑い……」」
「じゃあ私の聖霊魔法で涼しくしてあげますよ」

 えー!そっちも出来るの?是非お願いしますニクス様!貴方だけが頼りです。

 ニクスは早速俺達に聖霊魔法を掛けてくれた。するとあら不思議。本当にひんやりと涼しくなってきたではありませんか。

「もう大丈夫ですよ」
「凄い!涼しくなってる!」
「確かにな。確かに涼しい感じするけど……本当に大丈夫?」

 昨日と一緒の流れ。
 何度も言うが決してニクスを疑っている訳ではない。だがまさか本当にコレで暑さが無くなっているのかと疑問に思ってしまった俺は、確かめるためにまたギルドの外へ出た。すると……。

「うお、熱くない!こりゃ快適だ!」
「だから言ってるじゃないですか!やっぱり信じてないんですね私の事!」
「私は何も疑ってないからねニクス」
「だ、だからズルいぞレベッカ!俺だって別に疑ってた訳じゃないからなニクス……!」

 苦し紛れにそう言うも、ニクスは再び疑う様な目で俺を見ていた。

 そんなこんなで話を戻し、俺達はマスターと一旦別れて目的のデザートタイガーの討伐に向かった――。


~バラサバラ砂漠~

 デザートタイガーはSランク指定のモンスター。足場の悪い砂漠でも俊敏に動き回る奴だ。鋭い牙には毒があるから、それだけ気を付ければ特に危険はない。それよりも、砂漠と言うのは一面砂で目印がほぼない。俺達は飛んで移動してるからいいけど、ここを歩くのはかなり大変だ。

「――お、いたぞ」

 砂漠の真ん中にポツンと存在するオアシスで水を飲んでいるデザートタイガーを見つけた。

<アレは犬と変わらん。寮で他の者達と訓練していた方がマシだ>
「じゃあ今日は私が倒していい?」
「勿論どうぞ」

 レベッカが申し出てくれたので今回はレベッカに任せよう。飛んでいた俺達は下に降り、早速レベッカが魔法を放った。

「よーし、“エアロウイング”!」

 次の瞬間、強烈な風が吹き荒れ、大きな風の刃が複数同時にデザートタイガーを襲った。

 ――ビシュン!ビシュン!ビシュン!ビシュン!
 四方から撃たれた風の刃によってデザートタイガーは一撃でその場に倒れた。レベッカも結構強くなってるな。
 
「やった。いい感じに決まった」
「凄いですレベッカさん!」
「大分コントロール上手くなってるな」
「そうでしょ? クレーグに改造してもらった武器も凄いしっくりくるんだよね」
「良かったな。それじゃあ取れる素材を回収して、ギルドに戻るか」

 デザートタイガーを討伐した俺達は何時もの如く、慣れた手つきで使える素材を回収しギルド戻った。だがその途中、Aランクモンスターである“スナスネーク”の群れを見つけた俺達。

 別に討伐の目的ではなかったが、レベッカが何やら試したい魔法あるとか言い出し為、再び下に降りた。

「何する気だ?」
「フフフ。だから言ったでしょ、ちょっと試したい技があるの」
 
 特殊隊の影響だろうか……。あそこは毎日の様に誰かが訓練しているから、その影響が少なからずレベッカにも出ているのかもしれない。勿論悪い事ではないし、俺の気のせいならいいのだが、以前に比べて少し好戦的になっている気がしなくもない――。

「上手く出来るかな……。“エアロ”! そして“フレイム”!」

 レベッカは風魔法と炎魔法を同時に発動させた。目の前の風と炎が互いにどんどん交わりながら勢いを増し、みるみるうちに巨大な玉が出来上がった。

 へぇ、これはなかなか。しかも……。

「……そして“バフ”!」

 風と炎の同時発動に加え、レベッカは出来上がった巨大な玉に更に付与魔法を加え火力を上げた。

<ほお。3魔法同時とは、やるではないかレベッカ>
「ジークちゃんに褒められるなんて嬉しい!」

 滅多に認めないジークからの誉め言葉に、レベッカは本当に嬉しそうだ。そしてその喜びのままレベッカはスナスネークの群れに巨大な玉を撃ち込んだ。

「よし、それじゃあ今度こそギルドに戻ろう」

 こうして、俺達はギルドに戻りマスターとも合流した。報告と別れを済ませ、最後は特殊隊に帰りダッジ隊長にも報告。これが何時もの流れだ。




 だがしかし――。

 それからというもの、俺達は任務の報告をする度に直ぐ次の任務を言い渡され翌日には出発すると言う鬼スケジュールがかれこれ3ヶ月は続いたのだった――。



「――ダッジ隊長!流石に限界です!休みを下さい!」

 俺はこの日、遂にダッジ隊長に盾突いた。

「何ですかこの激務は! ほぼ毎日Sランクモンスターの討伐ですよ!1週間に1日休みがあるかどうかです!レベッカもニクスも疲れ切ってもう限界ですよ!だから休みを下さい!」

 俺は隊長の目の前のデスクをバンバン叩いて抗議した。だってここ3ヶ月は本当に扱いが酷い!

「大声で言わなくても聞こえている。今は“別件”で他の隊員が動いているからな。たまたまお前達に任務が集中しただけだ」
「でもだからって過労で倒れますよこっちは!」
「じゃ休んでいいぞ」
「え……?」
「嫌なのか? じゃあ次のッ……「欲しいです!欲しいに決まってますよ!何言ってるんですか!」

 こうして抗議の甲斐あってか、俺達は1週間のリフレッシュ休暇を貰う事になり、俺達は久々の休みを堪能した――。
♢♦♢

~特殊隊の寮~

 あれから1週間――。 
 久々の休みを満喫した俺達は久々に訓練場で体を動かしていた。

「――戻ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「五月蠅い。静かにして。耳障り」

 突如、寮全体に響くような声が聞こえてきた。

 赤髪の男と黒髪の女の2人。どちらも全く見覚えがない。俺とレベッカとニクスがキョトンとしていたが、他の皆は違った。

「帰ってきたみたいだね、ヴァン。リリィも久しぶり」
「あ、リリィお帰りー!」
「……お疲れ様、2人共……」

 皆この2人を知っている様子だ。あ、そう言えばまだ他の任務に行ってる人がいるって初日に聞いた気が……。この人達の事か。

「久しぶりだなお前らも!元気してたか」
「テンション高過ぎよ。静かにして」
「お前が落ち着き過ぎなんだよリリィ。ほら! この子みたいにもっと可愛げを出したほうがいいぞ!」

 ヴァンと呼ばれた赤髪の男がレベッカを見ながらそう言った。そして馴れ馴れしくもレベッカの肩を掴み自分の方へグイっと引き寄せたのだ。

「え……?」

 突然の事にレベッカも恥ずかしそうに戸惑っている。

「君凄い可愛いじゃん! あ、俺はヴァン! もし良かったら俺と付きあッ……「――手離せよ」
「「……⁉」」

 気が付くと、俺はゼロフリードの切っ先を奴の首元に突き付けていた。

「おいおい、何をマジになってんだよ」

 ヴァンはレベッカから手を離し、俺に笑顔を向けて来た。
 何だコイツは……。

「お前が噂のジークリート召喚少年か。って事は初めましての彼女がレベッカちゃん? それでそっちの彼女がニクスちゃんか!フェニックスってマジ? 後で見せてよ」

 何かチャラいと言うか軽い。行動も口調も。コレがこの人の普通なのか……。皆特に反応を示してないって事はそうだよなきっと。

「やめなさいよヴァン。明らかに迷惑そうよ」
「え、そうなの?」
「あー!ヴァンだ。帰って来たんだね、お帰り!」
「おおピノ!ただいま」
「相変わらずで安心したよ。ルカ達は初めてだよね?」

 話しをまとめようとクレーグさんが1歩前に出て彼らを紹介してくれた。

「こっちがヴァン、そしてこっちがリリィ。ずっと任務に出ていてね、2人共特殊隊の仲間だよ。君達にも前に報告だけしてあると思うけど、この子達が新人ね」
「ルカとレベッカとニクスね。初めまして、私はリリィ。宜しくね」
「俺はヴァンだ! 会いたかったぜお前らにもよ」

 ヴァンとリリィはそう自己紹介をし、俺達も宜しくと言葉を交わした。

「――じゃあ挨拶も済んだし、早速“やろうぜ”ルカ!」
「え?」

 凄い嫌な予感。そしてコレは恐らく的中してしまうだろうな。

「ずっとあのジークリートの力がどんなもんか気になっていたんだ。久々に本気でやらせてもらうぜ!」
「元気だねぇヴァン。いきなりルカと遊ぶのか」

 やっぱり。こんな事だろうと思ったぜ。本当に変わった人の集まりだここは。

「じゃあ私達も行きましょうか」
「私もその後を聞きたいな!」
「え、もしかして……!」

 リリィとエレナに連れられたレベッカは、何時ぞやと同じ様に何処かへ連行されていった。行き先は風呂場だろう……。そして俺はここでヴァンと戦わなければいけないのか……。


~訓練場~

「――うし。 それじゃあ始めるか! 俺は炎魔法使うから宜しくな」
「え、先に言ってよかったの……?」
「勝負はフェアじゃないと面白くないだろ。こっちはジークリートいるって知ってるんだから、俺の教えとかないとな」

 これは意外だった。
 勿論決めつけは良くないけど、さっきの行動や態度からいまいち信用ならない人だと思ったけど、どうやら悪い人ではないみたいだな。

「なんか、ありがとうございます」
「ハハハ!何だそりゃ。もういくぞ……“ファイア”!」

 ヴァンは勢いよく炎魔法を繰り出した。しかしそれは誰もが扱える初歩な下級魔法。ただ小さな炎を出すだけの基本魔法でもある筈なのだが、ヴァンが出した炎は直径4~5mはあろうかと言う超巨大な火炎球だった。しかも複数。

「何だこれ……でか。しかも熱い。ただの下級魔法じゃないのか……?」
「そうだ、言い忘れた!俺は炎魔法の使い手だけど、特殊適性である“煉獄の極み”の効果で、炎魔法の威力が30倍になってるからな!」

 また初めて聞く力だな……。威力30倍って反則じゃないかそれ……?
ただの下級魔法がすでに上級魔法並みの火力じゃないか。

<これはまた面白い>

 ジークがやる気という事はやっぱ強いのかこの人も。

「これで本当にフェアだな。じゃあ遠慮なく……食らえ!」

 ヴァンは何の躊躇もなくデカ火炎球を全て放ってきた。

 ――ズドォン!ズドォン!ズドォン!
 かなり広い筈の訓練場が狭く感じる程の火炎球のデカさ。当然威力も強いし。

<やるな。だがこれは魔力の消費が多い筈。しかも火の玉の大きさで死角だらけだ。やれルカ>

 やる事は分かっているだろと言わんばかりのジークの発言。だがそれは俺も思っていた事。俺はヴァンが連続で放ってくるデカ火炎球の死角を狙って一気にヴァンへ距離を詰めた。

 そして、近づいた最後の1発のデカ火炎球をゼロフリードで一刀両断し、僅かに困惑していた一瞬の隙をついてヴァンの背後を取り終了。

「うっはー、マジかよ!ハハハハ!こりゃ確かに凄いぜ!お前の勝ちだルカ。面白かったよ」
「ありがとうございます」

 こうして、また挨拶がてらの遊びが終わった。


♢♦♢

~お風呂場~

「――それで? レベッカとルカは恋人同士なのですよね」
「え⁉こ、恋人……⁉」
「アハハ、リリィはストレートに言うからね。正直に話しなレベッカ」

 一方のレベッカはというと、案の定お風呂場で根掘り葉掘り事情聴取を受けているのであった。

「そんな……わ、私達、別に恋人じゃないの……!」
「そうなの? でもさっきのルカのあの行動は、明らかに自分の女に手を出された事に対する怒りの現れ。レベッカに触れたヴァンに殺意まで放っていたわよね。それで恋人同士ではないと?」
「う、うん……。ルカがどう思ってるか私も分からないけど、恋人ではない……」

 俯きながら言うレベッカは恥ずかしくもあり、何処か寂しげな感じでもあった。

「成程。もし2人が恋人同士ならば、ヴァンに邪魔するなと釘を刺しておこうと思ったけど、違うのね。
なら、ヴァンが貴方に好意を寄せてもいいし、私がルカに好意を寄せても問題ないわね」
「え⁉ な、なんでそうなるの……⁉」
「アハハハ! ヤバいねレベッカ。アンタも可愛いけど、美人のリリィにルカ取られちゃうよ」

 エレナは冗談で茶化していたが、レベッカは心中穏やかではない。見るからに焦っている様子だ。

「そんなぁ……! だ、だてリリィはルカが好きなの……⁉」
「いや、今は好きじゃないわ。あくまで可能性の話だから。でも今後そうなる事も否定出来ないわね。確率はかなり低いでしょうけど」
「そ、そうなんだね……」
 
 リリィの言葉にホッとした表情を浮かべたレベッカを、エレナは見逃さなかった。

「へぇー、リリィにその気がないなら、私がルカの恋人になろうかな! 今どっちもフリーだし」
「ダメ! それは絶対にダメ!」
「アハハハ! 何でそんなに焦ってんの? 別に恋人同士なら関係ないじゃん。ずっと一緒にいてその気もないみたいだし、私がルカと付き合ってもいいと思うけどなぁ~」

 未だにハッキリしないレベッカに対し、もう全て分かっているエレナが悪戯っぽくレベッカをイジる。そして、レベッカは半ばやけくそで遂に本心を言った――。

「も~ズルいよ……エレナも分かってるくせに! そうよ……!私はルカが好きなの! だから皆手を出さないでッ!」

 こうして、リナの心の叫びが風呂場に響き渡ったが、当然リリィとエレナ以外には聞こえる筈もなかった――。

♢♦♢

 ヴァンとリリィが長期の任務から戻って来たという事で、今日は皆で少しだけ豪華な食事をとる事になった。皆で集まって食べる食事はとても楽しくて賑やかだった。

「――ふぅ~、腹いっぱいだもう」
「そう言えば任務はどんな感じだったの?」

 食事も終え、皆がそれぞれが和気あいあいと話してた。
 ピノが何気なくヴァンと話し始めると、そこにクレーグさんも加わり、不意に俺の耳にも届いてきた。

「そうだね。結局“奴”はいたのかい?」
「ああ。直接見た訳じゃないけど、やっぱドラシエル王国の何処かにいるみたいだな。3年前王国を襲ったモンスター軍も“そいつの仕業”だろう――」

 ヴァンの言葉に、俺は思わず耳を疑った――。
 3年前のモンスター軍……? それって、母さんを殺したあのモンスター軍の襲撃の事か……?

「ヴァ、ヴァン……! その話、俺にも詳しく聞かせてくれないか!」

 反射的にもう声を掛けていた。でもコレだけは聞き逃せない。あのモンスター軍襲撃が自然災害ではなく“故意的”なものだと言ってる様なら尚更だ。

「どうしたんだよ急に」
「ルカは王都に住んでたから」
「何?まさか3年前の被害者か?もしかしてあの時のドラゴンって……」

 ヴァンを始め、いつの間にか皆が話を聞いていた。

「そうです。俺は3年前のモンスター軍によって、唯一の家族だった母さんを殺された……。そして俺もモンスターに襲われ、死にかけた時にジークと出会ったんだ」
「成程な……。勿論お前も話を聞くのは構わない。だが、本当大丈夫だろうな?」
「ああ。俺にも真実を教えてほしい――」

 ヴァンなりの気遣いだろう。俺に改めて確認をすると、ヴァンは口を開き話し始めた。

 その話によると……ヴァンとリリィはそもそも、以前からモンスター軍の襲撃の原因をずっと調べていたらしい。勿論それだけではなく、他にも俺達と同じ様に別の任務もこなしていたが、以前のルージュドラゴンの件がきっかけで、またモンスター軍の調査をし始めたとの事だ。

 理由はルージュドラゴンが出現したきっかけである魔石。本来であればそこにある筈の無い魔石が存在していた事に、ヴァンやリリィやダッジ隊長などが気になった事が始まりだ。

 そして調査で分かったのは、過去にこの魔石の発見された場所が2ヵ所存在していたという事。1ヵ所は別の大陸の王国。そしてもう1ヵ所が辺境の島にある採掘場であった――。

 ヴァンとリリィはその情報を元に辺境の島の収容所で調査を続けると、そこで忽然と姿を消したグレイ達の事と“白銀の人”を見掛けたという情報を掴んだらしい。

「このグレイって奴らがお前の元パーティなんだってなルカ」
「あ、まぁ……。思い出したくもないけど。それって何か関係が?」
「どうだろうな。まだ決定打には欠けるが、そもそもあの収容所からグレイ達が脱獄するの不可能だ。聞いた限りだとそんな実力もないだろ?それにあそこから逃げた奴なんて聞いた事ない」
「そうね。あそこは重罪人が飛ばされる危険な場所。ある意味王国で1番厳重な警備と管理をしているからね」

 ヴァンとリリィがそこまで言うのなら、やはり収容所とから脱獄するのは不可能なのだろう。でもだったら何であのグレイ達が……。
 
「そういう事だ。それに気になるのはもう1つのほう――。
グレイ達が消えた日の真夜中、収容所の周囲を見回りしていた警備の者がすぐ側の森林の一角で、何やら白く光る様なものを一瞬見掛けたらしい。

当然収容所からは距離もあったし、辺りは暗闇同然。見えたのも一瞬だからその時は気にしていなかったらしいが、それから約3時間後……。もうすぐ夜が明けると言う時に、森の奥から叫び声の様な音が聞こえたと警備の者が言っていた。
しかもこれは1人じゃなく他にも数人が同じ声を聞いている。

そして更に気になるのはここから……。
警備の者達が声を聞いたと言う時間から僅か数分後の時刻に、収容所から姿を消した筈のグレイとよく似た人物が“ペトラ遺跡”で目撃されているんだ――」

 ペトラ遺跡で……? いや、待て……。そもそも収容所からペトラ遺跡って……。

「“普通”なら有り得ないね」

 俺が思った事をクレーグが一足早く口にした。

 そう。
 今いった通り、もしグレイならば有り得ない話だ……。収容所のある辺境の島からペトラ遺跡までなんて普通に移動したら丸5日は掛かる距離。俺やニクスみたいに飛べるか、バロさんの様な特殊な魔法でも使えれば話は別だが、グレイは当然そんな魔法持っていない。

「それって、本当にグレイなの?」
「俺とリリィもそう思ったよ。だから収容所での話もあったし、国王に報告して極秘で森林を調べたんだ。
そうしたらグレイ達がしていた魔力封じの鎖が森の奥で発見された。4つ壊された状態でね」

 マジかよ……。本当にアイツらなのか……。

「しかも、そこから3つの足跡が山道を続いていてね、暫く進んだところでその3つの足跡がバラバラの方向に進んだ後、これまた突然足跡が途絶えたんだ……。
それに、足跡が途絶えた周辺には血も発見された。確認してみると、収容所からグレイと共にいなくなったラミア、ブラハム、ゴウキンという者達の血である事が確認された――」
「何それ……」
「どういう事だ……」

 俺は勿論、話を聞いている他の皆もいまいち理解出来ていない状況。

 無理もない。聞けば聞くほど奇妙な疑問ばかりが残る……。もうアイツらには同情する余地もないが、一体何があったんだ……?

「ヴァン。グレイはどうなったんだ?」

 一気に情報が溢れて頭が追い付かないが、取り敢えずラミア達の事は分かった。ならばグレイはどうなった?足跡が続いていたのが3つなら、グレイは何をして何処に行った……?

「ああ。そこもまた不可思議な部分だが、グレイと思われる足跡だけが、鎖が落ちていた場所から何も動いていなかったんだ……。
それどころか、そこにはグレイ達4人以外の“別の足跡”が1つだけ見つかってる。本当に不思議でしょうがないだろ?

しかもこれは国王団に所属する調査のエキスパート部隊が調べた結果らしいんだが、その別の人物の足跡が見つかった場所から、何か得体の知れない魔力の残り香を見つけたと言っていた。勿論正体は分からず終いだ。

そして肝心のグレイが目撃されたペトラ遺跡……。そこで調査をしていたら、目撃情報があった場所でグレイの足跡が確認された。森で見つかったものと同じだから間違いないと確証が出ている」

 もう何が起こってるのかさっぱりだ――。

 皆がこの不可思議な物語を聞いて頭を悩ませている。各自自分なりに整理しようとしているのか数秒の沈黙が生まれていた。

 そして、この沈黙を破ったのは他の誰でもないジークであった。


<――全ては“オロチ”であろう>


 その言葉に再び僅かな沈黙が生まれたが、クレーグが1人だけ驚いた表情を浮かべながら小さく「まさか……」と呟いた。

「オロチって……誰の事だよジーク。知ってるのかお前」
<知っているもなにも、我をハメて封印したのが奴だからな>
「「――⁉」」

 俺は勿論、他の皆もジークの言葉に驚いていた。そしてそれに加えてヴァンとリリィが更にこう言った。

「オロチって、ジークリートと同じドラゴンの事かひょっとして?」
<最早同じ種族と思いたくはないがな>
「サラッと凄い名前出たね……。オロチも有名な名前だし。本当にいるんだ」
<奴の仕業だと思えば合点がいく。裏でコソコソ動くのが得意だからな>
「成程な。今のを聞けば確かに不可思議な事も全て繋がるな。ルージュドラゴンもソイツの仕業か」
<だろうな。採掘場とかやらから盗んだんだろう。奴なら誰にも見つからずグレイ達を出す事も可能だ。白銀というのも見た目と一致する>
「ハハハハ!一旦戻ってきて正解だったなリリィ。思わぬ収穫だ」
「そうね。しかも3年前のモンスター軍の襲撃でも、そのオロチとか言う白銀の者の目撃情報がある。それも繋がるわね」

 様々な憶測や不可思議な点が一気に繋がっていく……。

 突如出てきたオロチという名と共に――。



 今の話が全部の真相だとするならば、俺の母さんを殺した元凶がソイツだ。

 オロチ……。
 どんな奴なのか全く分からないが、絶対にお前を始末してやるからな。

<あのオロチが動き出しているとなると、かなり面倒だ。もう既に奴に先手を打たれているも同然。何が最終的な目的か知らんが、これからは気を引き締めろルカ>
「ああ。お前をハメて母さんを殺した奴なんて絶対見過ごせねぇ。絶対倒すぞジーク!
ヴァン、グレイとオロチって繋がっているのかな? だとしたら奴らはまだペトラ遺跡に?」

 直ぐにでも行って奴を倒したい――。

「どうかな……。何が目的かは分からないが、オロチとグレイが一緒にいる可能性はかなり高い。それに一応ペトラ遺跡ではグレイと思われる人物も見つけたからずっと他の隊が監視している。
特に新しい情報が入ってこないから、恐らく奴らはまだペトラ遺跡にいるだろうな」
「だとしたら尚更行こう。場所が分かってるならチャンスじゃないか」

 俺が行きかけた瞬間、ヴァンとクレーグに止められた。

「ちょっと待てルカ。その独断はマズイ」
「そうだね。流石に相手があのオロチとなれば、国王に1度報告しないと。ジークリートがハメられたとなると相当ヤバいやつだろう」
「確かにそうだけど……」
「焦るなルカ。奴はちゃんと他の隊が監視してる。やり合うならやり合うで、こちらも総力戦で挑むぐらいの覚悟じゃなきゃ危ない。国民もな」

 確かに……。ヴァンとクレーグの言う通りだ。俺だけの独断で関係ない人達にまで危害が及んだら元も子もない。2度と母さんの様な被害を出しちゃいけないんだ――。

「分かりました……」
「大丈夫。僕から直ぐに隊長に報告して、国王にも伝えてもらうから」
「ありがとうございます」

♢♦♢

~特殊隊の寮~

 昨日のオロチの話しから一夜明け、今日という日の日が沈んだ頃、徐にクレーグさんが俺のところに来た。

「――ルカごめん。なんかダメみたい。オロチの討伐」

 クレーグさんの言葉は余りに意外で俺のやる気を根こそぎ狩った。

「え、どうして⁉」

 正直ダメなんて全然思わなかった。寧ろ直ぐに行ってもいいぐらいの勢いだと思ってずっと待っていたのに。何で……⁉

「僕も出来る限りの事は言ったんだけどね、最終的に国王の判断で却下になったみたい」
「そんな……全然納得出来ない」
「まだオロチの実力が不明確な上に、もし仮にオロチを倒しに行くとしても、今行っている任務や他の任務も一時的に中断して戦力を整えないといけない。

確実な勝算が無い限り、そんな危険な方向に舵を取る事は現状出来ないとの事だよ。中でも僕ら特殊隊は国民の為にモンスターを討伐する事が主。みすみす国民を危険に遭わせる可能性があるならば許可出来ないらしい」

 なんだそれ……。確かに意見はごもっともだけどさ……。

 どうしよう。やっぱ全然納得出来ない。こうなったら……。

「なら俺が国王に直接頼みに行く。図々しく行けば何か変わるかも」
「ハハハ。凄い力技だけど一理あるね。寧ろ最初からその方が君も納得したかもね」
「先ずは隊長に相談します!」

 そう言って俺は直ぐにダッジ隊長の部屋に向かった。


~隊長の部屋~

「――今すぐになど無理だ」
「お願いします! ダメならもうこのまま直接行きます!」

 無茶苦茶な事を言ってるのは百も承知。でも、目と鼻の先に全ての元凶がいると知った今、とてもじゃないけど気持ちを抑えきれない。

「強情な奴だな……。分かった。ならば2日後だ。俺は国王に報告しなければいけない事があるから、その時にお前も同行しろ」
「分かりました!ありがとうございます!」

 本当は今すぐに行きたかったが仕方ない。これ以上は幾ら何でも自己中過ぎるか。急に国王に会える事になっただけ良しとしないとな──。

 そして2日後。
 俺はダッジ隊長について行き、直接国王と会った。

♢♦︎♢

〜城〜

「──久しぶりであるなルカ。わざわざ志願して隊長について来たそうだがどうした?」

 国王は何時もと変わらぬ気品さと真剣な面持ちで俺にそう聞いてきた。

「国王様、急にお時間を取らせてしまい申し訳ございません。本日こうして直談判に来たのは他でもない……オロチの件についてです――」

 俺の言葉に国王は特に驚く様子もなかった。恐らく大方の察しは付いていたのだろう。

「成程。その件については先日結論が出た。しかしそれでは不服という事だな?」
「はい……。自分が誠に失礼で勝手な事を言っているのは承知しています。ですが、やはり全ての元凶とも言えるオロチが目の前にいると知ってしまった以上、どうしても奴を倒す事以外考えられません」

 国王は俺の申し出に対し、少し悩む様な表情を浮かべた。
 無理もない……。全国民や冒険者の命を第一に優先させなければいけない国王と、何の責任もない自己中な俺。国王がそう簡単に判断を下せる訳がない。俺とは違うんだから。

 でも国王は最大限俺の意見を尊重してくれようとしている。だから俺もこうしてわざわざ国王に話しをしに来ているんだ。返しきれない程の恩がある国王だからこそ。

「ルカの気持ちは良く分かった。そして私だって奴を倒したいと言う気持ちは当然ある。相手が他でもないあのオロチだからな。ジークリートが君の中にいる以上、最早奴が全モンスターのトップと言っていい存在だろう――。

でもだからこそ、計り知れぬ奴と対抗する為にはこちらも相応の準備が必要となる。まぁ正直君とジークリートが誰かに負けるという事が想像出来ぬが、そのジークリートを奴が封印したのもまた事実だ……。

ルカよ。本音を言うと私は迷っている。
確かに全ての元凶と言っても過言ではないオロチを討ち取れるならば、それい以上の成果はない。だがそれと同時に、奴を倒すからと言ってそこに戦力を注ぎ込む事を直ぐには出来ぬ。王国と国民の安全が掛かっているからな。

よって、もう好きに決めてくれ君が――」

ん……? え、どういう結論なのこれ……。

「なんだ? オロチの討伐許可が欲しくてわざわざ私の所に直談判しに来たのだろう? だから奴の討伐を許可する!
ただし、対オロチ用に特別な命令は勿論出せぬ。動く事は許可するが、奴を討伐しに行く戦力は自身で集めるのだ!」

 国王は俺に堂々とそう言い放った。

「戦力を自分で……。それって、俺の身勝手に付き合ってくれる物好きを勝手に誘えって事ですよね? 」
「ああそうだ。君の思う様に動いてオロチ討伐に向かって構わん。だが王国の安全が手薄になったり、他の任務に差し支えが出そうな人選ならば私が止める。それ以外なら後は好きに動いてくれ」

 何だそれは。そんなの好きに動ていいと言っておきながら結局は人選も限られてるんじゃ……。

「あの……因みにそれって、俺1人で行ってもいいんですか……?」
「“私は”構わぬ。たった今好きに動いて良いと許可を出したからな」
「私は……?」

 何だろう、この含みのある言い方は……っと思った次の瞬間、聞こえたきたのはダッジ隊長の声だった。

「――ルカ。オロチの討伐に行くと言うのならば、勿論隊長である私の許可がなくてはダメだ」

 おっと、まさかのパターン。

「え、あの……隊長、俺オロチの討伐行っていいんですよッ……「ダメだ」
「え! 何ででッ……「俺と勝負して勝ったら許可を出そう」

 おいおい。何だこの流れは……。取り敢えずオロチの討伐は行っていいのか? そして俺はダッジ隊長と戦わなければいけないって事か?

 俺が今の状況を飲み込めずあたふたしていると、国王は何が面白いのか分からないが少し笑っている様に見えるし、ダッジ隊長に限っては本当にやる気満々だ――。

「そうか。ルカとダッジ隊長が戦うか……。これは私個人的にも凄く興味がある。
良かろう! ならば明日、オロチ討伐許可を懸け正式に両者が決闘する事を認めるぞ!」

 何故そうなる!
 俺の心の叫びも虚しく、話は一気に進んでしまった。

「場所は特殊隊の訓練場にて行う! SSSランク“同士”の戦いだからな、特別に観覧も許可するとしよう。盛り上がりそうだ」
「決まりだなルカ。俺に勝てたら正式に討伐許可を出す。好きに動いていい。それに特殊隊は出来る限りお前のサポートに付いてやる」

 こうして、ツッコミどころ満載なまま、俺はダッジ隊長との決闘が正式に決まった――。








……何で??
~特殊隊の訓練場~

 訳が分からない流れのまま一夜が明け、何時も俺達が使っている訓練場には結構な人数が集まり活気が生まれていた。

 これが俺とダッジ隊長の決闘というのが未だに実感がない。
 もう始まりそうなのに――。

「隊長とルカが戦うなんてどうなるんだろう!」
「……ルカも確かに強いけど、やっぱ隊長も強い……」
「お前も物好きだな本当に」
「いやいや、ゼインさん程ではないですよ。それにたまには息抜きがないとやってられません!」
「国王様……。その様な発言は余り大きな声でしないで下さい」

 訓練場の周りでは本当に多くの人が観戦しに来ている。
 特殊隊の仲間は勿論、国王やモレー大団長。それにどうやってこんなに早く情報を知ったか分からない他のギルドのSランク冒険者やその他国王団の人達まで来ている……。

 しかもマスターまでいるじゃないか。久しぶりに見たが元気そうで何よりだ。だが、この状況を見た俺が今思っている事をはっきり言おう――。

「あの、なんか盛り上がっているところに水を差して悪いんですけど……決闘している時間があったらオロチの討伐行けませんかね? ここのいる面子で。最強だと思いますけど……」
「――ダメだ。隊長である以上部下の勝手な行動は許さん。それにお前の実力を、俺はまだしっかりと把握していない。オロチを倒したいのならば、それ相応の強さを示せ」

 ダッジ隊長はそう言い、凄まじい魔力を瞬時に練り上げながら戦闘態勢に入った。

 成程。腐ってもこの特殊隊の隊長だと言う事を忘れていた。思い返せばここに来た初日、いきなり“遊び”という名の攻撃を仕掛けてきた変わり者が集う場。それがこの特殊隊……。

 毎日毎日誰かが必ず訓練場で戦っている。俺も当然幾度となく皆と戦っていたが、ダッジ隊長とだけは確かに1度も戦った事がない。

 変わり者をまとめている隊長だからどこか人格者なのだろうと昨日まで勝手に思い込んでいたが……どうやら見当違い。結局はダッジ隊長もここに集まる変態達と同じだった――。

「隊長の戦いなんて見た事ないよ!」
「隊長はSSSランクだから当たり前に強い。しかもドラシエル王国のSSSランクの中でも最強らしいからね。ルカとどんな勝負になるか楽しみしかないよ」

 不意にクレーグのそんな言葉が聞こえた。

「なんと、まさかSSSランクの中でも最強とは……。それはマスターよりも強いという事か? 何とも恐ろしい」

 思わず自分の心の声が駄々洩れた。そしてジークがそれに反応している。

<フハハハハ! これは今までで1番の実力者。楽しみだなルカよ>

 ジークもダッジ隊長の実力を認めた様だ。あのジークが今までで1番だと言ったんだから間違いないだろう……。これは本当に嫌だ。

 だがここだけは譲れない。隊長を倒して俺は絶対にオロチをぶっ飛ばしに行くからな。しかも隊長は俺が勝てば特殊隊でサポートするとまで言った。それは正直滅茶苦茶有り難い。オロチの実力が分からない以上、皆が付いて来てくれるならかなり心強いからな。

「――そろそろ始めようか」
「はい……お願いします!」

 こうして、ダッジ隊長の決闘が始まった。

「行くぞジーク!」
<ああ>

 俺とジークは最初から全開。相手が王国最強と言われているならば当然だ。抜いたゼロフリードに魔力を注ぎ込みながらダッジ隊長に魔法を放った。

「“プロメテウス”!」
「“シールドロック”」

 高火力の炎を放った俺に対し、ダッジ隊長は土魔法で大きな岩を繰り出し炎を打ち消した。だが俺は続けざまに雷魔法を連続で撃ち込む。

「“ロックメテオ”……!」

 ダッジ隊長は俺の雷魔法も全て防ぎきると同時に、出していた岩に炎を纏わせ弾丸の如く放ってきた。

 ――ズガン!ズガン!ズガン!
「凄い威力だ……」

 飛んでくる炎の岩を避けながら、俺は避け切れない分を剣で打ち落とした。そして最後の1発を剣で防ぎダッジ隊長に攻撃を仕掛けようとした刹那、既に隊長が俺の背後で剣を振りかざしていた。

 ――ガキィィンッ!
「ほぉ……」
 
 間一髪反応した俺は何とかダッジ隊長の剣を受け止めた。

「お前も珍しい剣を持っているな」
「……!」

  ダッジ隊長と鍔迫り合っていると、ダッジ隊長の持つ深紅の剣がどんどん俺の魔力を吸い込んでいた。

<コイツの吸い込みは次元が違う。距離を取れ>
「分かった……“トール・サンダー”!」

 俺は大きな雷を放ち、僅かに意識が逸れた瞬間ダッジ隊長と距離を取った。しかし、一瞬たりとも休む間を与えてくれないのか、ダッジ隊長は自身が扱えるという全種類の魔法を一斉に放ってきた。

「“アイスドラゴン”、“ロックスネーク”、“フレイムジャッカル”、“エアロバード”、“ライトニングキメラ”――」
「なッ……⁉」
<面白い!>

 間違いなくこれまでに俺が戦った中で最強の相手……。1発1発の威力がある事は勿論、狙いもタイミングも全て抜群。一瞬でも判断が遅れれば命取りだ。しかも放ってくる属性の種類が多いいから的を絞りにくい。確実なダメージを与えるには一苦労だぞこれは。

「なぁジーク、ダッジ隊長とんでもなく強いぞ。どうする?」
<確かにな。間違いなく今までの中で1番だ。だが……それがイコール負ける理由にはならぬな――>
「ああ。ダッジ隊長倒して、全てを終わらせに行くぞジーク――!」

 怒涛の攻撃を繰り出すダッジ隊長に対し、俺はドラゴン化で全ての攻撃を掻い潜りながらダッジ隊長との距離を少しづつ詰めていった。そして互いの間合いに入った瞬間、俺は再びゼロフリードに渾身の魔力を込めて振り下ろした。

 ――ガキィィン!
「吸い尽くせ……“ダークサキュバス”」

 俺の剣とダッジ隊長の剣がぶつかり合った瞬間、再び魔力がどんどんダッジ隊長の剣に吸われ始めた。



 ここだ――!



「……⁉」



 魔力が吸われ始めた刹那、俺はそのまま手にしていた剣をパッと離し、予め攻撃魔法を放つ準備をしておいたもう一方の腕で、僅かに反応が遅れたダッジ隊長の体に勢いよく撃ち込んだ――。

「“竜神の全撃(ドラファクト)”!」

 俺の放った攻撃はダッジ隊長を捉え、その屈強な肉体を訓練場の端の壁まで瞬く間にぶっ飛ばした。

 ダッジ隊長は壁がめり込む程の勢いで衝突し、僅かに意識を保ちながら体を動かそうとしたが、次の瞬間そのまま地面に静かに崩れていった。

<終わったな。まさかここまでとは>
「本当だよ……。ダッジ隊長以外、今の攻撃を受け切れるSSSランク冒険者はいないだろうな。一瞬立ち上がってこようとしてたし……」

 そんなこんなで、俺とダッジ隊長の決闘は無事終わったのだった。

「――凄い戦い……」
「ルカも化け物だがダッジ隊長も化け物だったぞ」
「ニクス、隊長を頼めるかな?」
「任せて下さい! 私の聖霊魔法で治します」

 そう言ってニクスはダッジ隊長に優しく聖霊魔法を掛け、傷が癒えていくと共にダッジ隊長は意識を取り戻した。それを見て周りにいた皆も集まって来る。

「……どうやらやられたみたいだな……。見事な実力だったぞ、ルカ」
「ありがとうございます隊長」
「とんでもない決闘だったな!」
「まさかダッジ隊長が撒けるとは。いやはや、恐れ入ったよ……」
「お疲れ様、ルカ君。また一段と強くなった様だね」
「あ、あの! これで俺オロチの討伐に行ってもいいんですよねダッジ隊長……!」

 皆は今の俺とダッジ隊長の決闘を称えてくれたが、この戦いの真の目的はオロチの討伐許可。意識が戻って直ぐで申し訳なかったが、俺は焦る気持ちを抑えられずに聞いてしまった。

「そう慌てるなルカ……。勝負はお前の勝ち。約束通り、オロチの討伐に“行く”ぞ。しっかり準備をしておけ」
「え、行くぞってもしかして……」
「当然、特殊隊総員で行くぞ。サポートの約束もしたからな――」
「ダッジ隊長……」

 隊長はそう言い、皆にもその旨を伝えた。こうして俺達は、晴れて3日後に再度集まる事が決まった。

 目的は勿論オロチの討伐――。

 この3日間は各自準備や束の間の休息を取ったのだった――。