~特殊隊の寮~

「――以上が今回の報告となります」
「分かった。ご苦労だったな」

 寮へと戻った俺達は、今回の件を全てダッジ隊長に報告した。ニクスの事も俺のパーティならと特別に許可を出してくれた。取り敢えず一安心だな。まぁ駄目だったら特殊隊抜けようと思ってたけど。

「この子がニクス? 可愛い!」
「フェニックスなんて初めて見た」
「……人間になれるのか……」

 ニクスを見た他の皆も珍しそうに見ていたが、何やら直ぐに打ち解けて仲良くなっていた。それからというもの、ニクスは毎日楽しそうに過ごしていた。レベッカとも互いの魔力コントロールの為日々訓練もしている。

 そして、そんな生活が早くも1ヵ月以上が経ったある日、俺はダッジ隊長に呼び出された。

「――え、国王様とですか……? 国王に謁見ですか?」
「ああ。何やら話しがあるとの事でな。だから俺と一緒に今から向かうぞ」
「あ、分かりました!」

 ダッジ隊長に呼び出されたかと思いきやまさかの国王からの呼び出しだ。何かあったのかな……? わざわざ俺なんかに話なんて。

 全く身に覚えがなかったが、俺はダッジ隊長と国王の元へ向かった――。

♢♦♢

~城・玉座の間~

「――国王様。国王団、国王特別特殊任務隊所属、ダッジ・マスタングとルカ・リルガーデンであります」

 城の扉を潜り、玉座に座る国王の前に通された俺とダッジ隊長は、国王の前で膝をつき敬礼をした。

「急に呼び出して申し訳ない。折り入った話が合ってな。もう楽にして構わぬ」

 そう言いながら国王が軽く手を挙げると、玉座の間にいた護衛の人達が一斉に部屋から去って行った。騎士団の大団長だけが残っている。

「すまないね。実は3人だけで話したかったんだ。彼だけは万が一の為残ると言ってな」

 国王は大団長を見ながらそう言った。

 そりゃそうですよ。貴方国王様なんですから……。幾ら話し相手が俺らだけだからって気軽過ぎますよ。

「全く問題ございません。それよりお話と言うのは」
「ああ、そうだな。早速本題に入らせてもらうとしよう――。
先日ダッジ隊長からも、ギガントオーク討伐応援の報告は聞かせてもらったね。話はそれに関わるのだが……ルカよ」

 国王は何やら真剣な表情で俺を見てきた。

「は、はい。何でしょうか……」
「実はな、新たに君の仲間となったフェニックスの少女の事だが……。彼女は紛れもなく聖霊のフェニックス、そしてフェニックスは隣の国であるイディアナ王国で古来より神として崇められている神聖な存在だ。
よって、誠に急で申し上げにくいが……直ちにフェニックスの少女をパーティから外し、住処であるヨーハン遺跡に帰してくれ――」

 国王からの突然の告白に、俺は直ぐには呑み込めなかった。返す言葉も出ない。何かの冗談だとも思いたいが、国王の表情は真剣そのもの。

 有り得ないだろ……。ニクスを帰すだと……?

「……お、お言葉ですが国王様!事の経緯をお伺いしたと言っておられましたが、ニクスがッ……彼女が僕のところに来る前、どのような事情があったかご存じなのでしょうか……?」
「ああ、勿論だ。彼女が仲間から馬鹿にされている事も、イディアナの犯罪冒険者共から酷い目に遭わされたという事もな。
だがこれは最早一言で片付けられぬ。そういう次元の問題ではないのだ。
我がドラシエル王国、そしてイディアナ王国と両国の全国民が関わる国際問題なのだ――。
私は王国の国王として、国民の命と安全性を第一優先に判断する」

 闘技場でも直に体感したこの圧倒的存在感……。これが多くの命を背負う、唯一無二の国王のオーラ。

 だが、例え偉大で恩のある国王様だからといって、こっちも簡単に納得出来る訳がない――。

「僕は確かに国王様程背負うもの多くはないです。ですが……ニクスはもう僕の大事な仲間です。納得出来ない理由もさることながら、俺は彼女を2度と同じ様な目に遭わせたくはありません!」

 うわー、何してるんだよ俺。何で微妙に国王に啖呵切っているんだよ……!

「そうか……。流石私の“よく知る”ルカ・リルガーデンだ。君がこの話を受け入れ無い事は予想通り。
だがこれはさっきも言ったが、王国に関わる国際問題。下手したら戦争だって起こりかねないんだよ――。
だからわざわざ此処に招き、国王である私自らが君に頼んだのだ。これが君への最大の譲歩だと思ってな」

 ――グワァン……!
「……!」

 刹那、国王が王の覇気を俺に放ちながら言った。

「だからこれは頼みではなく、私からの精一杯の気持ちを込めた命令だ。例え相手が君であったとしてもこれは覆らない……。
まだ納得いかないというならば、こちらも“それ相応の対応”を取らざるを得ないぞ――!」

 国王の覇気がこれでもかと俺を襲って来る。正直、ここまで事が深刻になるとは思わなかった……。だが、こっちだって例え国王の言う事であっても、やはり引く事は出来ない。

「特殊隊で国王様の命令をどうしても聞かないと言うならば、僕は今すぐに止めます。勿論ニクスも帰すつもりはないです……!」

 国王の覇気に対し、俺も無意識のうちにジークの覇気を飛ばしていた。

 やべぇぇぇッ……! 国王様なんて俺にとって恩しかない人なのに何してるんだよ俺は。もうなんか引っ込みつかねぇぞコレ……!

 俺が覇気を飛ばしたことにより、近くにいたモレー大団長とダッジ隊長も即座に戦闘態勢に入っていた。勿論俺目掛けてな……。何とも恐ろしい状況だが、悪いけど負ける気もしない。

「ルカよ。己が言っている事を本当に理解しているのか?
ハッキリ言おう……。君のその選択は間違いなく戦争を意味する。それでもやはり変わらぬと――?」
「勿論戦争など望んでいません。自分が今している無礼も百も承知です。ですが……僕はニクスが、彼女自身が帰りたくもない場所に無理矢理連れて行くなんて出来ないんです!
それにニクスはもう僕の大事な仲間……。力で来るならこっちも“力で対応”するだけですよ――!」

 うはぁぁぁッ! な、な、何て事を口走ったんだ俺! どこの国のどこのアホが自分の王国の国王に宣戦布告なんてするんだよこの馬鹿がッ!

 そう思った次の瞬間、覇気を解いた国王は大笑いをした。

「ハッハッハッハッハッ!確かに今しかと聞きかせてもらったルカ!
ならば自分が言った通り、フェニックスに向けられている“脅威を相手に”力で対応してもらおうか!」

 高々と声を上げて笑う国王は、最後にニヤリとした表情を浮かべ俺を見た。



「――え、ハメられた……?」



 勘づいた時に時すでに遅し――。

 そう。
 国王はハナから俺が賛同すると分かっていたんだ……!

「……」
「成程。そう言う事か」

 冷静に状況を察したモレー大団長とダッジ隊長も戦闘態勢を解いていた。

「ハッハッハッ!若者は勢いがあって良い! 自らこんな大きな問題に志願してくれるのだからな!」

 くそくそくそッ……! 完全に乗せられた! まぁ結果ニクスの事だけど、まんまとしてやられた。そしてそれを受け入れる程腹が立つ!

「では国王様、ルカは次の任務が決まったという事で?」
「良い。 詳細はまた追って出す。ご苦労だったな!」

 こうして、訳の分からない国王との話し合いが終わった――。

 結構性格悪いのかもな、国王って……。


♢♦♢

~特殊隊の寮~

 先日の国王との話し合いから1週間。遂に今回の任務の詳細が入ってきた。とは言っても、内容は大方は話した通り。ニクスの存在でちょっと面倒が起きている様だ。

「――分かりました。一先ずニクスをヨーハン遺跡に連れて行けばいいんですね?」

 俺は今、国王直属の諜報員であるバロさんと話している。彼は様々な裏方の任務を任されており、俺や他の人達に任務の伝令もしている。

「はい。国王よりそう伝えられています」
「い、嫌ですッ!ルカさん、私絶対に帰りたくないです!
!ずっとここにいたいです!」

 分かってはいたが、ニクスはずっとこの調子だ。そりゃそうだよな。