♢♦♢
「――北東の地域ですよね?グランマル街って」
国王団の特殊隊に入った翌日、俺とレベッカは早くも任務の要請とやらで朝からダッジ隊長に呼ばれていた。
「ああ。その国境付近でAランク指定されている“ギガントオーク”が20体出現してるそうだ。北のギルドのSランク冒険者が撃退している様だが如何せん数が多く苦戦を強いられている」
成程。ギガントオークはAランクだがその数はヤバいな。幾らSランクでも同時に相手出来るの精々は3、4体だろう。
「俺達も応援に行くって事ですね?」
「ああ、そうだ」
「でもギガントオークが20体って……。普通じゃないですよね」
「そうだ。だからその原因も調べてきてくれ」
「分かりました!」
ダッジ隊長に任務を告げられ、俺とレベッカは直ぐに向かおうと隊長の部屋から出ようとした時、ダッジ隊長に呼び止められた。
「そういえばルカ。先日お前と決闘をし、辺境の島へ送られたグレイとか言う奴だがな、何やら島の収容所から突然姿を消したと報告が入った。恐らく逃亡の類だと思うが原因は調査中らしい。もう関係ないだろうが一応伝えておくぞ」
「そうですか……。ありがとうございます」
久しぶりに奴の顔を思い出した。
姿を消したって……収容所から脱獄でもしたのかアイツは……? 仮にそうだとしても、収容所の警備は厳重の筈。一体どうやって――。
幾らかの疑問が芽生えたが、俺はもう興味がなかった。考える時間も勿体ないと思った俺は直ぐにレベッカと共に北東のグランマル街に向かった。
♢♦♢
~グランマル街~
「――ルカ~!レベッカ~!」
グランマル街に着くと、ルージュドラゴンを討伐した時にいたSランク冒険者の人が出迎えてくれた。確か名前はキャンディスさん。尻尾を切り落としてやると豪快に攻撃していた斧使いの美女だ。
「キャンディスさん、久しぶりですね。お元気そうで」
「ルカもね。それより貴方特殊隊に入ったんだって? 凄いじゃない!」
キャンディスさんはそう言って背中をドシドシ叩いてきた。相変わらず勢いのある人だな……。
「レベッカも久しぶり!魔力コントロール上手くなった?」
「お久しぶりですキャンディスさん! コントロールはまだまだ未熟ですが、皆さんの協力のお陰で着実に進歩はしてます!」
「それは良かった。そうしたら2人共こっちに来て。マスターが待ってるから」
キャンディスさんが言ったマスターとは勿論ここの北の領地のギルドマスターである。ゼインさんとはまた別だ。当然マスターだから強いし、名前も知ってる有名人。
“風神の双剣士”と呼ばれた疾風の槍神と呼ばれたウイング・ウィングさんだ。
「――おお!よく来てくれたな! お前が噂のSSSランク!」
凄い大きな声。
これが第一印象だ。
キャンディスさんが所属するギルドのマスターだからと言えば納得も出来るが、ここのギルドは皆こういった豪快な人ばかりなのだろうかと少し心配……。
「ルカ・リルガーデンと言います。宜しくお願いします」
「私はレベッカ・ストラウスです。宜しくお願いします」
「ああ、2人共宜しくな!」
「早速ですみませんが、状況を教えてもらってもいいですか?」
「分かった!一先ず座ってくれ」
椅子に腰かけた俺達はウイングさんから状況を伺った。
聞いたところによると、ギガントオークは元々このグランマル街から程近い、国境付近にある山が生息地との事。これまでも年に数回ギガントオークの被害が出ていたそうだ。
ここまでは俺が知っている情報通り、十分対応出来たとウイングさんも言っていた。
そうなるとやはり気にいなるのが……。
「――じゃあ今回の様に20体近くの群れで出て来たのは初めてなんですね?」
「ああ。流石に数が多くて手を焼いている」
「分かりました。じゃあオーク達は一先ず討伐して、その後原因の調査を行ってきます」
「頼んだぞ。キャンディス!彼らの案内頼む!」
「了解!」
こうして、俺達はキャンディスさんの案内でオークが出没している場所に向かった。
「――凄ッ! 速ッ!」
ドラゴンの姿で移動している為、俺の背には当然レベッカとキャンディスさんが乗っている。レベッカはもう慣れた様だが、初めて乗ったであろうキャンディスさんは終始興奮している様子だ。
「これは移動が楽で便利だなぁ!」
「そうですよね。速いし交通費も掛かりませんよ」
「……あの、ギガントオークはどこに……?」
背で盛り上がってるところ悪いが、本題はそこじゃない。
「そうだった。あっちあっち!この先で奴らが群れを作っているんだよ!」
キャンディスさんの言う通りに、俺は山の中を移動していった。
~山の中腹~
「――あそこだよ」
案内通り山道を進んで行くと、結構深い崖の上に出た。
キャンディスさんが崖の下を指差しているので恐る恐る下を確認すると、そこにギガントオークの群れがあった。
確かに数が多い。だがここに集まっているなら上から攻撃魔法を放てば一網打尽だ。でもそれだと簡単過ぎるから、レベッカの魔力コントロールの練習にでもなってもらうか。
「よし、2人共。ここから飛び降りるからまた背中に乗ってくれ」
「「えッ⁉」」
俺の突然の申し出に、レベッカもキャンディスさんも驚いている。流石に垂直に近いこの崖を下ると思っていなかった様だ。そこそこ高さもあるし。
「いやいや、大丈夫なの?」
「大丈夫です!早く乗って下さい」
俺は再びドラゴン化し、早く乗ってくれと2人を促した。キャンディスさんは開き直った様に乗ったが、レベッカはまだ不安そうな顔をしていた。
「じゃあ行くぞ」
そう言って、俺達は崖から飛んだ――。
「キャァァァァァァァァァァッ!!」
「アッハッハッハッハッ!」
飛ぶと言うよりこれはもう落下に近い角度だ。笑うキャンディスさんと悲鳴を上げるレベッカ。反応が両極端。
瞬く間に地上にいるギガントオーク達との距離が縮まり、俺はレベッカに指示を出した。
「今だレベッカ! 出来る限り広範囲で攻撃するんだ!」
「えぇぇぇ⁉ こ、この状況で……⁉ もうッ……“アイスブレイク”!」
レベッカは半ば投げやりで魔法を繰り出した。
放たれた大きな氷の結晶は勢いよくギガントオークの群れのど真ん中を直撃。そして瞬く間に地面やオーク達を凍り漬けにした。
「“プロメテウス”!」
レベッカの一撃で仕留めそこなった3体のギガントオークは俺が炎魔法で掃除し、無事全て討伐完了。
「こりゃ凄い!あれだけ私達が苦戦したのをこうもあっさり片付けちゃうなんて……。立場がないねこれは」
討伐したギガントオークの素材を全て回収した俺は空間魔法に収納し、そのまま今度は調査に入った。
今回のイレギュラーな事態の原因はなんだろうか……?
「ルカ、匂いって辿れる? もしかしたらコイツらが来た方向に何か手掛かりがあるかも」
「確かにそうですね。寧ろそれしか調査のしようがないかも」
俺は再び2人を背に乗せ、ギガントオークの匂いを辿った。そして暫く進むと、山の奥にある洞窟を見つけた。
「匂いはあの奥に続いてるな」
「行ってみよう」
「こんな洞窟に何かあるのかな……」
洞窟の中に入ろうと入り口まで近づくと、そこには何故か結界魔法が張られていた――。
「何でこんなところに結界魔法が……」
「ねぇルカ、あそこ見て!」
徐にレベッカが洞窟の奥を指差した。すると、入り口からの明かりが辛うじて届くぐらいの位置で“何か”が動いたように見えた。
「あれは何だ……?」
「ただの鳥かな?」
<違う。奴は確か聖霊“不死鳥”だ――>
「不死鳥って……フェニックス⁉」
薄暗くてしっかりと姿を確認出来ない俺達にジークがそう言った。
「フェニックスって、あの聖霊の……?」
なんと、そこに倒れるのは聖霊と呼ばれる珍しいモンスターのフェニックスであった――。
「――北東の地域ですよね?グランマル街って」
国王団の特殊隊に入った翌日、俺とレベッカは早くも任務の要請とやらで朝からダッジ隊長に呼ばれていた。
「ああ。その国境付近でAランク指定されている“ギガントオーク”が20体出現してるそうだ。北のギルドのSランク冒険者が撃退している様だが如何せん数が多く苦戦を強いられている」
成程。ギガントオークはAランクだがその数はヤバいな。幾らSランクでも同時に相手出来るの精々は3、4体だろう。
「俺達も応援に行くって事ですね?」
「ああ、そうだ」
「でもギガントオークが20体って……。普通じゃないですよね」
「そうだ。だからその原因も調べてきてくれ」
「分かりました!」
ダッジ隊長に任務を告げられ、俺とレベッカは直ぐに向かおうと隊長の部屋から出ようとした時、ダッジ隊長に呼び止められた。
「そういえばルカ。先日お前と決闘をし、辺境の島へ送られたグレイとか言う奴だがな、何やら島の収容所から突然姿を消したと報告が入った。恐らく逃亡の類だと思うが原因は調査中らしい。もう関係ないだろうが一応伝えておくぞ」
「そうですか……。ありがとうございます」
久しぶりに奴の顔を思い出した。
姿を消したって……収容所から脱獄でもしたのかアイツは……? 仮にそうだとしても、収容所の警備は厳重の筈。一体どうやって――。
幾らかの疑問が芽生えたが、俺はもう興味がなかった。考える時間も勿体ないと思った俺は直ぐにレベッカと共に北東のグランマル街に向かった。
♢♦♢
~グランマル街~
「――ルカ~!レベッカ~!」
グランマル街に着くと、ルージュドラゴンを討伐した時にいたSランク冒険者の人が出迎えてくれた。確か名前はキャンディスさん。尻尾を切り落としてやると豪快に攻撃していた斧使いの美女だ。
「キャンディスさん、久しぶりですね。お元気そうで」
「ルカもね。それより貴方特殊隊に入ったんだって? 凄いじゃない!」
キャンディスさんはそう言って背中をドシドシ叩いてきた。相変わらず勢いのある人だな……。
「レベッカも久しぶり!魔力コントロール上手くなった?」
「お久しぶりですキャンディスさん! コントロールはまだまだ未熟ですが、皆さんの協力のお陰で着実に進歩はしてます!」
「それは良かった。そうしたら2人共こっちに来て。マスターが待ってるから」
キャンディスさんが言ったマスターとは勿論ここの北の領地のギルドマスターである。ゼインさんとはまた別だ。当然マスターだから強いし、名前も知ってる有名人。
“風神の双剣士”と呼ばれた疾風の槍神と呼ばれたウイング・ウィングさんだ。
「――おお!よく来てくれたな! お前が噂のSSSランク!」
凄い大きな声。
これが第一印象だ。
キャンディスさんが所属するギルドのマスターだからと言えば納得も出来るが、ここのギルドは皆こういった豪快な人ばかりなのだろうかと少し心配……。
「ルカ・リルガーデンと言います。宜しくお願いします」
「私はレベッカ・ストラウスです。宜しくお願いします」
「ああ、2人共宜しくな!」
「早速ですみませんが、状況を教えてもらってもいいですか?」
「分かった!一先ず座ってくれ」
椅子に腰かけた俺達はウイングさんから状況を伺った。
聞いたところによると、ギガントオークは元々このグランマル街から程近い、国境付近にある山が生息地との事。これまでも年に数回ギガントオークの被害が出ていたそうだ。
ここまでは俺が知っている情報通り、十分対応出来たとウイングさんも言っていた。
そうなるとやはり気にいなるのが……。
「――じゃあ今回の様に20体近くの群れで出て来たのは初めてなんですね?」
「ああ。流石に数が多くて手を焼いている」
「分かりました。じゃあオーク達は一先ず討伐して、その後原因の調査を行ってきます」
「頼んだぞ。キャンディス!彼らの案内頼む!」
「了解!」
こうして、俺達はキャンディスさんの案内でオークが出没している場所に向かった。
「――凄ッ! 速ッ!」
ドラゴンの姿で移動している為、俺の背には当然レベッカとキャンディスさんが乗っている。レベッカはもう慣れた様だが、初めて乗ったであろうキャンディスさんは終始興奮している様子だ。
「これは移動が楽で便利だなぁ!」
「そうですよね。速いし交通費も掛かりませんよ」
「……あの、ギガントオークはどこに……?」
背で盛り上がってるところ悪いが、本題はそこじゃない。
「そうだった。あっちあっち!この先で奴らが群れを作っているんだよ!」
キャンディスさんの言う通りに、俺は山の中を移動していった。
~山の中腹~
「――あそこだよ」
案内通り山道を進んで行くと、結構深い崖の上に出た。
キャンディスさんが崖の下を指差しているので恐る恐る下を確認すると、そこにギガントオークの群れがあった。
確かに数が多い。だがここに集まっているなら上から攻撃魔法を放てば一網打尽だ。でもそれだと簡単過ぎるから、レベッカの魔力コントロールの練習にでもなってもらうか。
「よし、2人共。ここから飛び降りるからまた背中に乗ってくれ」
「「えッ⁉」」
俺の突然の申し出に、レベッカもキャンディスさんも驚いている。流石に垂直に近いこの崖を下ると思っていなかった様だ。そこそこ高さもあるし。
「いやいや、大丈夫なの?」
「大丈夫です!早く乗って下さい」
俺は再びドラゴン化し、早く乗ってくれと2人を促した。キャンディスさんは開き直った様に乗ったが、レベッカはまだ不安そうな顔をしていた。
「じゃあ行くぞ」
そう言って、俺達は崖から飛んだ――。
「キャァァァァァァァァァァッ!!」
「アッハッハッハッハッ!」
飛ぶと言うよりこれはもう落下に近い角度だ。笑うキャンディスさんと悲鳴を上げるレベッカ。反応が両極端。
瞬く間に地上にいるギガントオーク達との距離が縮まり、俺はレベッカに指示を出した。
「今だレベッカ! 出来る限り広範囲で攻撃するんだ!」
「えぇぇぇ⁉ こ、この状況で……⁉ もうッ……“アイスブレイク”!」
レベッカは半ば投げやりで魔法を繰り出した。
放たれた大きな氷の結晶は勢いよくギガントオークの群れのど真ん中を直撃。そして瞬く間に地面やオーク達を凍り漬けにした。
「“プロメテウス”!」
レベッカの一撃で仕留めそこなった3体のギガントオークは俺が炎魔法で掃除し、無事全て討伐完了。
「こりゃ凄い!あれだけ私達が苦戦したのをこうもあっさり片付けちゃうなんて……。立場がないねこれは」
討伐したギガントオークの素材を全て回収した俺は空間魔法に収納し、そのまま今度は調査に入った。
今回のイレギュラーな事態の原因はなんだろうか……?
「ルカ、匂いって辿れる? もしかしたらコイツらが来た方向に何か手掛かりがあるかも」
「確かにそうですね。寧ろそれしか調査のしようがないかも」
俺は再び2人を背に乗せ、ギガントオークの匂いを辿った。そして暫く進むと、山の奥にある洞窟を見つけた。
「匂いはあの奥に続いてるな」
「行ってみよう」
「こんな洞窟に何かあるのかな……」
洞窟の中に入ろうと入り口まで近づくと、そこには何故か結界魔法が張られていた――。
「何でこんなところに結界魔法が……」
「ねぇルカ、あそこ見て!」
徐にレベッカが洞窟の奥を指差した。すると、入り口からの明かりが辛うじて届くぐらいの位置で“何か”が動いたように見えた。
「あれは何だ……?」
「ただの鳥かな?」
<違う。奴は確か聖霊“不死鳥”だ――>
「不死鳥って……フェニックス⁉」
薄暗くてしっかりと姿を確認出来ない俺達にジークがそう言った。
「フェニックスって、あの聖霊の……?」
なんと、そこに倒れるのは聖霊と呼ばれる珍しいモンスターのフェニックスであった――。