~闘技場~
俺とグレイ達の決闘終了の合図が出されると、闘技場の盛り上がりがまだ止まない中、突如数十人の騎士団員達が入って来た。そして騎士団員達は魔力を封じる鎖でグレイ達全員の拘束を始めた。
闘技場全体がどよめいていたが、俺は直ぐに昨夜の事が頭に浮かんだ。恐らく昨日騎士団に自首した奴らが全て白状したのだろう。その結果がこれだ。
4人は気を失っていたが、グレイだけが辛うじて意識を取り戻した。
「うッ……。ん……な、何だッ……?」
既に満身創痍であるがグレイだが、何故か拘束されようとしている事に抵抗し始めた。
「これはどういう事だ……! 止めろ……離せッ……!」
しかし、グレイの抵抗は最早無意味。既に鎖で拘束された上に、どう足掻いてもこの状況は覆らなかった。
「――国王様!ご命令通りグレイとそのパーティーを……誘拐の主犯として取り押さえました!」
「ああ。ご苦労」
「誘拐の主犯……⁉ くそ……お、俺はそんな事していないぞッ!」
往生際が悪い。
そう思っていた次の瞬間、今度は突如国王自らが闘技場に降り立った。しかも国王が決闘を観ていた場所はここから優に4、5mの高さがある場所。その余りに軽やかな身のこなしはどう考えても素人の動きではなかった。
もしかして、国王も元冒険者……?
俺のそんな疑問は他所に、国王は騎士団員に押さえつけられているグレイの前に向かった。
「冒険者グレイよ――」
国王から発せられた声は低く響き、まるで溢れ出る怒りを無理矢理押し込めている様にも感じた。その殺伐とした雰囲気に、闘技場が瞬く間に静かになってしまった。
「今しがたの決闘により、ルカが危険であると言う貴様の証明は無くなった。それに加え、貴様達は彼のパーティである女性を誘拐したという事が判明された。裏稼業の者達を金で雇ってな――」
国王の凄まじい“覇気”によって、グレイは何も言えずただただ震えていた。
「私の命の恩人でもある彼を侮辱しただけでなく……このよう卑劣な真似をした非人道的な者を、私は絶対に許さんぞグレイよッ!」
ジークとはまた別の王の覇気――。
国王のこの言葉と威圧によって、グレイは完全に意気消沈した。
「貴様とその仲間達は全員本日をもって冒険者の資格を剥奪する!
そして貴様達は全員島流しの刑として“辺境の島”へ送る!そこで余生を過ごせ!以上だ――」
グレイはもう全身の力が抜け、自力では立てなかった。騎士団員達に引きずられる様に連れて行かれ、ラミア達3人も意識がないまま全員運ばれていった。
騎士団員によってグレイ達が連行され静まり返った闘技場。
そこに国王の声が再び響き渡った。
「皆の者、聞くがよい――!
ここにいる冒険者、ルカ・リルガーデンは、先に開催された王国の討伐にてルージュドラゴンを討ち取り、その場にいた私と多くの者の救った英雄である!
彼は特殊な召喚魔法によってその身にモンスターの力を宿しているが、今ここにいる皆が見た通り、その力はしっかりと彼によって掌握されている! 彼に対する安全性とその実力は十分に証明された!よって、金輪際彼の力に対する差別は私が認めない!」
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」
静まる闘技場に国王の言葉が放たれ、この場にいた何万人もの観客達が物凄い大歓声を上げた。
「凄いな……」
大歓声によって闘技場が揺れている。その割れんばかりの歓声に俺も気が付けば鳥肌が立っていた。
これで本当に全部解決だよな……?
レベッカの為に鬼と化すと決めて今日に臨んだが、正直、途中から静まり返る皆を見て、俺は逆に恐怖を与えているんじゃないかと不安だった……。いや、きっとまだこの大歓声の中にも少なからずそう思っている人もいるだろう。
だけど……今日のこの瞬間というのは、俺とジークの存在が大勢の人に認められた特別な瞬間でもあった――。
「私に出来る事はこの程度かな――」
大歓声が止まぬ中。国王が俺にそう声を掛けて来た。
「い、いえッ、とんでもないです……! 国王様が僕なんかを庇って頂けるなんて……。あの、本当に何とお礼を申していいのか分かりませんが……あ、ありがとうございます!」
「ハハハハ!命の恩人にそう思ってもらえたのなら何よりだ」
国王は優しく笑っていた。
俺は国王のその笑顔や皆の歓声を受けて、フッと肩の荷が下りた気がした。昨日から余分に色んな感情を込めていたせいもあるんだろうな。帰ったらゆっくりしよう。
これで取り敢えず一段落……と、思いかけた瞬間、国王がまた俺を見るなり徐に口を開いた。
「――時にルカよ。不躾で悪いが、君は“国王団”に興味はないかね?」
「国王団……ですか?」
国王団は特別に選ばれた者しか入ることが出来ない、言わば王国の精鋭部隊。
「そうだ。ギルドに所属するのではなく、国王団でフリーの冒険者としてやるつもりはないかね? 勿論仲間のレベッカ君も一緒にな」
これはスカウト……されてるって事だよな? しかも国王から直々に……。ちょっとビックリした俺は一瞬言葉に詰まった。
「国王様、それは凄くご光栄なお話ですが、僕はこの世界のモンスターを全て倒すと言う目的があります。お言葉ですが……国王団に入らせて頂いたとしても、それは可能でしょうか……?」
俺なんかがどの立場で物申しているんだと言う事は俺でも当然分かる。国王団など人生何回やり直したら入れるのかも分からない狭き門。だが俺とジークの最終目標はそこじゃない。俺達のやりたい事が出来なくなるなら、申し訳ないが無意味でしかないんだ――。
「ハハハ、流石多くの者を救った英雄だ。そんな偉大な目標があるのだね。
勿論、国王団に入ったからと言って君の志や未来を奪う気は毛頭ない。寧ろこれまでに出来なかった事を経験出来ると思う。
そして、大いに君の目標に力を貸せるだろう――」
「そうですか……。ありがとうございます。でも、返事は少し待って頂いても宜しいでしょうか。レベッカとも相談したいので」
「それは勿論構わない。返事は何時でもいいさ。気持ちが固まったらまた教えてくれ」
この会話を最後に、国王は闘技場を去って行った。
その後俺も闘技場を去ろうとしたが、受けた事のないこの大歓声を前にどう対応したらいいか分からず、戸惑いながら何度もお辞儀をして闘技場を後にした――。
♢♦♢
~闘技場・通路~
「――おいおい、うちの大切な冒険者を勝手に横取りしようとするなよな“ネロ”」
「ゼインさん……。ハハハ、聞こえてしまった様ですね」
「聞こえてしまったじゃないだろ。ルカはうちのギルドの冒険者だ」
「それは確かにそうですけど、あの貴重な力を1つのギルドだけでなんて勿体ないです。彼はもっと多くの命を救える存在。これでも“今は”国王なのでね、国の利益を優先させてもらいますよ」
「国や命を出されたらこっちも何も言えんな。反論出来ないじゃないか。相変わらずタチが悪いなお前は」
「何を言ってるんですかゼインさん。それはこっちの台詞ですよ。ゼインさんだって国王の俺をアゴで使うくせに……。今回だって結構協力したつもりですけど」
「ハハハハ! まぁ確かにそうだがな。でも“昔みたい”でたまにはいいだろ。お前が駆け出しの冒険者だった頃を思い出す」
「やめて下さいよ今更。ゼインさんには勿論お世話になりましたけど」
「本当に思っているのか? まぁこれで一先ず区切りにはなったが……。まだまだこれからも忙しくなりそうだな」
「ええ。そうですね――」
俺が闘技場を後にする数分前、薄暗い通路で国王とゼインさんがそんな会話をしていた。
だが当然、俺はそんな事知る由もない――。
俺とグレイ達の決闘終了の合図が出されると、闘技場の盛り上がりがまだ止まない中、突如数十人の騎士団員達が入って来た。そして騎士団員達は魔力を封じる鎖でグレイ達全員の拘束を始めた。
闘技場全体がどよめいていたが、俺は直ぐに昨夜の事が頭に浮かんだ。恐らく昨日騎士団に自首した奴らが全て白状したのだろう。その結果がこれだ。
4人は気を失っていたが、グレイだけが辛うじて意識を取り戻した。
「うッ……。ん……な、何だッ……?」
既に満身創痍であるがグレイだが、何故か拘束されようとしている事に抵抗し始めた。
「これはどういう事だ……! 止めろ……離せッ……!」
しかし、グレイの抵抗は最早無意味。既に鎖で拘束された上に、どう足掻いてもこの状況は覆らなかった。
「――国王様!ご命令通りグレイとそのパーティーを……誘拐の主犯として取り押さえました!」
「ああ。ご苦労」
「誘拐の主犯……⁉ くそ……お、俺はそんな事していないぞッ!」
往生際が悪い。
そう思っていた次の瞬間、今度は突如国王自らが闘技場に降り立った。しかも国王が決闘を観ていた場所はここから優に4、5mの高さがある場所。その余りに軽やかな身のこなしはどう考えても素人の動きではなかった。
もしかして、国王も元冒険者……?
俺のそんな疑問は他所に、国王は騎士団員に押さえつけられているグレイの前に向かった。
「冒険者グレイよ――」
国王から発せられた声は低く響き、まるで溢れ出る怒りを無理矢理押し込めている様にも感じた。その殺伐とした雰囲気に、闘技場が瞬く間に静かになってしまった。
「今しがたの決闘により、ルカが危険であると言う貴様の証明は無くなった。それに加え、貴様達は彼のパーティである女性を誘拐したという事が判明された。裏稼業の者達を金で雇ってな――」
国王の凄まじい“覇気”によって、グレイは何も言えずただただ震えていた。
「私の命の恩人でもある彼を侮辱しただけでなく……このよう卑劣な真似をした非人道的な者を、私は絶対に許さんぞグレイよッ!」
ジークとはまた別の王の覇気――。
国王のこの言葉と威圧によって、グレイは完全に意気消沈した。
「貴様とその仲間達は全員本日をもって冒険者の資格を剥奪する!
そして貴様達は全員島流しの刑として“辺境の島”へ送る!そこで余生を過ごせ!以上だ――」
グレイはもう全身の力が抜け、自力では立てなかった。騎士団員達に引きずられる様に連れて行かれ、ラミア達3人も意識がないまま全員運ばれていった。
騎士団員によってグレイ達が連行され静まり返った闘技場。
そこに国王の声が再び響き渡った。
「皆の者、聞くがよい――!
ここにいる冒険者、ルカ・リルガーデンは、先に開催された王国の討伐にてルージュドラゴンを討ち取り、その場にいた私と多くの者の救った英雄である!
彼は特殊な召喚魔法によってその身にモンスターの力を宿しているが、今ここにいる皆が見た通り、その力はしっかりと彼によって掌握されている! 彼に対する安全性とその実力は十分に証明された!よって、金輪際彼の力に対する差別は私が認めない!」
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」
静まる闘技場に国王の言葉が放たれ、この場にいた何万人もの観客達が物凄い大歓声を上げた。
「凄いな……」
大歓声によって闘技場が揺れている。その割れんばかりの歓声に俺も気が付けば鳥肌が立っていた。
これで本当に全部解決だよな……?
レベッカの為に鬼と化すと決めて今日に臨んだが、正直、途中から静まり返る皆を見て、俺は逆に恐怖を与えているんじゃないかと不安だった……。いや、きっとまだこの大歓声の中にも少なからずそう思っている人もいるだろう。
だけど……今日のこの瞬間というのは、俺とジークの存在が大勢の人に認められた特別な瞬間でもあった――。
「私に出来る事はこの程度かな――」
大歓声が止まぬ中。国王が俺にそう声を掛けて来た。
「い、いえッ、とんでもないです……! 国王様が僕なんかを庇って頂けるなんて……。あの、本当に何とお礼を申していいのか分かりませんが……あ、ありがとうございます!」
「ハハハハ!命の恩人にそう思ってもらえたのなら何よりだ」
国王は優しく笑っていた。
俺は国王のその笑顔や皆の歓声を受けて、フッと肩の荷が下りた気がした。昨日から余分に色んな感情を込めていたせいもあるんだろうな。帰ったらゆっくりしよう。
これで取り敢えず一段落……と、思いかけた瞬間、国王がまた俺を見るなり徐に口を開いた。
「――時にルカよ。不躾で悪いが、君は“国王団”に興味はないかね?」
「国王団……ですか?」
国王団は特別に選ばれた者しか入ることが出来ない、言わば王国の精鋭部隊。
「そうだ。ギルドに所属するのではなく、国王団でフリーの冒険者としてやるつもりはないかね? 勿論仲間のレベッカ君も一緒にな」
これはスカウト……されてるって事だよな? しかも国王から直々に……。ちょっとビックリした俺は一瞬言葉に詰まった。
「国王様、それは凄くご光栄なお話ですが、僕はこの世界のモンスターを全て倒すと言う目的があります。お言葉ですが……国王団に入らせて頂いたとしても、それは可能でしょうか……?」
俺なんかがどの立場で物申しているんだと言う事は俺でも当然分かる。国王団など人生何回やり直したら入れるのかも分からない狭き門。だが俺とジークの最終目標はそこじゃない。俺達のやりたい事が出来なくなるなら、申し訳ないが無意味でしかないんだ――。
「ハハハ、流石多くの者を救った英雄だ。そんな偉大な目標があるのだね。
勿論、国王団に入ったからと言って君の志や未来を奪う気は毛頭ない。寧ろこれまでに出来なかった事を経験出来ると思う。
そして、大いに君の目標に力を貸せるだろう――」
「そうですか……。ありがとうございます。でも、返事は少し待って頂いても宜しいでしょうか。レベッカとも相談したいので」
「それは勿論構わない。返事は何時でもいいさ。気持ちが固まったらまた教えてくれ」
この会話を最後に、国王は闘技場を去って行った。
その後俺も闘技場を去ろうとしたが、受けた事のないこの大歓声を前にどう対応したらいいか分からず、戸惑いながら何度もお辞儀をして闘技場を後にした――。
♢♦♢
~闘技場・通路~
「――おいおい、うちの大切な冒険者を勝手に横取りしようとするなよな“ネロ”」
「ゼインさん……。ハハハ、聞こえてしまった様ですね」
「聞こえてしまったじゃないだろ。ルカはうちのギルドの冒険者だ」
「それは確かにそうですけど、あの貴重な力を1つのギルドだけでなんて勿体ないです。彼はもっと多くの命を救える存在。これでも“今は”国王なのでね、国の利益を優先させてもらいますよ」
「国や命を出されたらこっちも何も言えんな。反論出来ないじゃないか。相変わらずタチが悪いなお前は」
「何を言ってるんですかゼインさん。それはこっちの台詞ですよ。ゼインさんだって国王の俺をアゴで使うくせに……。今回だって結構協力したつもりですけど」
「ハハハハ! まぁ確かにそうだがな。でも“昔みたい”でたまにはいいだろ。お前が駆け出しの冒険者だった頃を思い出す」
「やめて下さいよ今更。ゼインさんには勿論お世話になりましたけど」
「本当に思っているのか? まぁこれで一先ず区切りにはなったが……。まだまだこれからも忙しくなりそうだな」
「ええ。そうですね――」
俺が闘技場を後にする数分前、薄暗い通路で国王とゼインさんがそんな会話をしていた。
だが当然、俺はそんな事知る由もない――。