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~ネオシティ・闘技場~

 昨日の事件から一夜が明け、遂に今日は俺とグレイの決闘日となった――。

 昨日レベッカを攫った男が言っていたが、今回の決闘は国王が取り決めたという事もあり、この1週間王国中が俺達の話題で持ち切りだ。闘技場にはこれでもかと冒険者や一般の人が決闘を観に来ていた。

 ただ単に国王が取り決めた異例の決闘と言うのもあるが、既に俺がルージュドラゴンを倒しモンスターを体に宿しているという話が広がっているらしい。それもここまで盛り上がっている理由の1つだそうだ。まぁ傍から見れば物珍しいからな……。

 そしてそんな俺の存在が危険であると証明する為に、グレイ達は俺と戦うのだ。ここでもう反則と言うか可笑しいと思うのは、俺は1人なのに対し奴らはパーティ4人で俺と戦うという事。まぁこれはジークを召喚している俺も反則みたいなものだから強くは主張出来ないし、俺からすればまとめて仕返し出来るから丁度いい。

 もうコイツらとは今日ここで全ての因縁にケリを着ける。

 俺が甘かったよ……。
 俺が舐めていた……。
 まさかお前達がここまで腐りきっているとは思わなかったから。

 もうお前達を人として見ないよ俺は――。


♢♦♢


「――それでは両者前へ! いざ……開始ッ!!」
「「おおォォォォォォ!!」」

 闘技場に響いた決闘開始の合図と共に、何万人という人の数で埋め尽くされた観客席から、凄まじい歓声が響いた。

「ルカー!頑張ってー!」

 これだけの人数が同時に声を発しているのにも関わらず、俺はレベッカの声を鮮明に聞き取れていた。すると、俺のすぐ側から不愉快極まりない声が聞こえてきた。

「――遂にこの日が来たなルカ! 今日お前をぶっ殺して俺は国王に認めてもらうんだ!覚悟しろッ!

(……何故あの女がここにいる⁉ 確かに奴らから攫ったと連絡が入っていたのに……どうなってやがるんだアイツら!
畜生ッ……!誘拐するのに幾ら金払ったと思ってやがる! 武器も防具も売って金かき集めたんだぞクソがッ!)」

 グレイは余裕そうな笑みを浮かべている。

「キャハハハ! アンタ相変わらず使えもしない剣提げてるの?マジでウケるんだけど! ランク上がってるくせに武器も防具もまともに買えないなんて有り得ないんだけど!

(ちょっとどうなってるのよ……⁉ ルカは棄権するって言っていたじゃないのよグレイ! だから仕方なく私のお金もグレイに貸してあげたっていうのにッ……!)」

 ラミアは相変わらず俺を蔑んだ目で見ているな。

「能無しの雑用がッ!もう卑怯な手を使わせねぇからな!

(おいおいッ、何やってやがるんだグレイは! 折角俺が苦労して裏稼業の奴の情報集めたのによ!
まさか金だけ取って奴らに依頼してないんじゃねぇだろうな?)」

 ブラハム、お前は昔から偉そうだ。

「グハハハ、お前相手に4人など必要ない!俺1人で十分だろう!

(何でルカの野郎がいるんだグレイ! お前が絶対大丈夫だと言うから、俺達は予備の武器も防具も全部売ってお前に金渡したんだぞッ……!
何がその道のプロに頼むだ馬鹿が! 失敗してるじゃねぇかよ!)」

 ゴウキンも変わらないみたいだな……。

<――ハッハッハッハッ! やはり数年間にこうしてハッキリさせておくべきだったな> 

 今になって本当にジークの言葉が身に染みるよ。俺が抜けてからもう数ヶ月は経つが、ここまで落ちぶれてくれるとはな。俺だけならまだ放っておいてやったが、レベッカに手を出した事は許さねぇぞお前ら――。

「ハハハ、相変わらずで安心したよ。悪いな……なんか“予定”が狂ったみたいで」
「「……⁉」」
 
 俺の発言に4人がびくりとなった。この反応を見ればもう一目瞭然。自白してるようなものだ。

「は、はぁ⁉ なに訳分からねぇ事言ってやがる!」
「もういい!さっさとコイツ始末して全て終わらせるぞ!」

 ゴウキンの言葉でハッとなった4人は一気に魔力を高め戦闘態勢に入った。

 ……だが、改めて対峙してよく分かった事がある。

 今までは一応パーティを組んでいたから、こうしてしっかり向き合う事が無かった。仲良く特訓をした事もなければ、敵として対峙するなど初めてだ。

 だからこうして今まさに分かったんだ……お前達が本当に“弱い”という事が――。

「おいおい、勘弁してくれよ。まさかと思うが、それがお前達の全力の魔力じゃないよな?嘘だよな?」
「ふざけんじゃねぇ!ちょっと強いモンスター召喚したからって余裕かましてんじッ……『――ドサドサドサッ……!』

 いきり立つグレイの言葉を遮る様に、俺は奴らの足元にオリジナルの薬草を大量に投げた。コレは昨日“思い付いて”用意したんだ。お前達の為にな。

「こ、これは……!」
「ルカの薬草?」
「へぇ。俺の薬草だって知ってるのか。まるで関心がなかったから意外だな。それ全部お前達にやるよ」
「何ッ……⁉」

 戸惑う奴らを無視して、俺は立て続けにジークの覇気を放った。勿論ちゃんとコントロールしてグレイ達4人だけに――。

「<体力と魔力が無くなったら好きなだけ使え。その薬草全て無くなるまで俺に向かって来い>」
「「……⁉⁉」」

 グレイ達は当然俺の言う事なんかに従いたくない。だが、コレは竜神王ジークリートの王の覇気。並大抵の実力ではこの力を防ぐのは不可能だ。

「な、何だッ……⁉ 体が思う様に動かない……!」
「ルカ如きにビビってるの……? 私が……?」
「ほら、早く始めようぜ皆」
「ぐッ……死ねこのクソがッ!」

 1番初めに動き出したのはグレイ。
 そしてこれが合図かの如く、王の覇気に必死に抵抗しながら、ラミア達も攻撃を仕掛けてきた――。

「俺達の連携で速攻殺すぞッ!」
「え、ええ! 食らいなさい……ファイアインパクト!」

 お決まりのパターン。
 ラミアの魔法攻撃を皮切りにゴウキンが続き、ブラハムとグレイが更に追撃を繰り出す。

 流れが全て分かっている俺はグレイ達の“余りに遅い攻撃”に暇を持て余した為、昨日手にしたばかりの新しい剣……ゼロフリードを腰から抜き、試しに魔力を流し込んだ。

「おー」

 これは凄いな。ちょっと魔力を流し込んだだけで本当に増幅してる。ジークの力と合わせたら無敵じゃないかこれ。

 おっと……。ラミアの攻撃がもう届きそうだな、同じ炎魔法で打ち消すか。

 ――ズバァン!
「「……⁉⁉」」

 俺は剣に炎を纏わせ軽く振るっただけ。ラミアの攻撃を相殺されたグレイ達は何が起こったのか分かっていない。ただ俺を驚いたように見つめながら立ち止まっていた。

「戦闘中にそんな隙見せたら死ぬぞお前ら。ほらどうした? 何時もの連携は」

 戸惑うグレイ達を煽る。得意の連携攻撃の初手を潰したものだから焦っているな。だが俺には分かるぞグレイ……。お前はプライドが高いから、こんな安っぽい挑発でも直ぐに乗ってくる。

「この野郎……! たかがルカのくせに生意気なんだよッ! 何してんだラミア!もう1発撃て早く!」
「ファ……ファイアインパクト!」
「続くぞお前ら!」

 馬鹿の一つ覚えかの様に、グレイはラミア達に指示を出し、再び連携攻撃を繰り出してきた。馬鹿にはやはり体で覚えさせるしかないみたいだ。

 俺は分かりきったグレイ達の連携攻撃を一先ず最後までやらせてあげた。そしてそのついでに1人1人軽めの攻撃を食らわせてやったんだ。

「ぐッ……⁉」
「がは⁉」
「な、何が起きた……!」
「……ゲホゲホッ!」

 準備運動にもならない攻撃。それにも関わらず、グレイ達は悶絶の表情を浮かべながらその場に蹲っていた。

「もう息が上がってるな。早く薬草でも使えよ。弱過ぎるぞ」
「ぐぐッ……畜生……! ふざけやがってルカ……ッ!」
「その威勢と聞き飽きた戯言はいい。兎に角かかって来い、ほら」

 蹲るグレイ達に対し、俺は更に煽った。皆ある意味根性だけはある。俺の挑発に血管が切れそうなぐらい苛立っているからな。

「くッ……本当にムカつくわね……! さっさとくたばりなさいよ!“ファイアキャノン”!」

 今度はラミアが1番最初に動いた――。