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~王都ネオシティ~

「――凄ーい!ここが王都の中心“ネオシティ”! 私初めて来た!」

 はしゃぎながら目をキラキラさせ、レベッカは辺りを眺めている。

「俺も初めてなんだよな……。デカい街。レベッカ、取り敢えず宿に荷物置きに行くぞ」

 ルージュドラゴンの討伐から1週間――。

 まさかの国王登場から話が急展開し、俺とグレイはそれぞれ自らの力の証明の為、正式に直接対決する事が国王の元決められた――。

 明日がその決闘当日。

 正直、俺としてはいい迷惑だ。何処までアイツらに振り回さなければいけないんだ。……ともこの1週間幾度となく思っていたが、俺は俺で確かに国王に直接認めてもらういい機会だと考える様になっていた。

 マスターやジャックさんやそれ以外の多くの人が俺の為に俺の知らない所で色々協力してくれた。そのお陰で今の俺がある。俺は俺で出来る事を精一杯やってきたつもりだから、それで何となくジークの件はもう大丈夫なんだと思っていた。

 だけど1番肝心な国王には確かに直接証明出来ていない。勿論その為にマスターからのクエストや最終テストを受けて認めてもらったようだけど、やっぱり俺が直接国王に証明出来るのならば当然それが1番いい方法だよな。うん、これで本当に実力を認めてもらえば全て解決だ。

 後は決闘でグレイとも白黒はっきりさせてやろう。アイツは本当に疫病神だ。あんな奴らとパーティを組んでいた事や時間や労力も全て返して欲しい。

<――我は初めに忠告したがな。ルカが好きでやっていたのだろう>

 急に出てきたジークの言葉。だが確かに的を得ている。これもまた俺自身のせいでもあるんだよな。そこがまたムカつくんだよ自分に。でもまぁその全ての清算だなコレは。

「でも“移動”は楽になったよな」
<それも初めからこうすれば良かったのだ。何も気にせずな>

 そう。ある意味もうジークの事を隠す必要がないのではと開き直った俺は、今まで人目のつくところでは極力ジークの力を使わない様にしていたが、それももうナシ。無駄に時間掛かっていた移動はドラゴンの姿で飛べば問題ない。一瞬だ。

 レベッカにももう見られちゃったし、怖がるどころか「乗ってみたい!」と興奮気味に言ってくれたので良かった。だからこれからはクエスト行く時の移動は全部コレ。ドラゴンで飛んで行く――。


~宿~

 俺とレベッカは国王が準備してくれた宿で受付を済ませた。聞いた話だとグレイ達は街の反対側にある宿らしい。国王になんという気遣いをさせてしまっているのだろうか俺は……。

 受付で案内された部屋に着き扉を開けると、そこはとても豪華な装飾が施されている別次元の部屋だった。

「すっご……! 何だこの部屋は……。こんな部屋使っていいのかよ俺達」
「ねぇルカ見て!このベッド凄いんだけどッ!ちょーフカフカ!」 

 宿の外観からして豪華そうだとは思ったが、やはり中も凄かった……。こんなの凡人では中々泊まれない。大きなベッドが2つ完備されているし、リビングや風呂場も無駄に拾い。下手したら普通の家よりも全然広い。何に使うんだろうって物まで完備されてる。

 今までひもじい生活してきた俺にとっては済む世界が違い過ぎて全く落ち着かねぇ……。

「ルカも寝てみなよこのベッド!」
「あ、ああ」

 大興奮しているレベッカに促され、俺も大きなベッドに寝転がった。

「あぁ……何だこの感触……。まるで雲に包まれているみたいだ……」

 たかがベッドと侮った。コレはとんでもなく幸せな場所だ。味わった事の無い感覚が俺の全身を襲っている。もう何もしたくない。

<ふざけている場合か。早く明日の決闘に備えろ>
「危ね、忘れてた。そうだった」

 いかんいかん。危うく全く眠くなかったのに寝てしまうところだった。まだ済ませないといけない“用事”があったんだ。

「レベッカ、この後どうする? 俺ちょっと武器屋に行かないといけないんだけど」
「う~ん……。私はもうこのベッドから離れられない体になっちゃった……」

 フカフカベッドの凄まじい威力に、レベッカはどうやら負けたらしい。

「ハハハ、分かった。じゃあ俺1人で行ってくるからゆっくりしてろ
よ。晩飯までには戻るから」
「は~い……いってらっしゃ~い……!」

 気持ちよさそうなレベッカの声に送られ、俺は宿を出て武器屋に向かった――。

 王都自体が広い事は知っているが、この王都の中心に位置するネオシティは更に人が多く活気づいている。見た事無い店や建物があちこち並んでいる。

 レベッカの奴、余程あのベッドが気に入ったんだろうな。
 最近順調すぎて報酬も驚く程溜まってるから、今度レベッカにあのベッドでも買ってあげようかな……。そういえば誕生日いつなんだろう? 帰ったら聞いてみるか。

「それにしても、やっぱ“剣”って必要かな?」
<知らん。それは人間の武器だろう。だが我は嫌いではない。モンスターを気持ちよく斬れるからな>

 そう。俺が武器屋に向かっている理由は剣を買う為なのだが、俺は適性が剣士とかではないから大して剣は使わない。ジークと出会う前、最低限自分の身は守らねばと剣の特訓もしたし、今も何となく装備しているが、ぶっちゃけジークの力があるからほぼ剣など使っていなかった。

 でもマスターやジャックさんが、よりジークの力を幅広く使える様にと、武器の1つでも使ってみてはどうだと以前からアドバイスを貰っていた。改めてそう言われると俺も幾らかその気になったし、ジークは微妙に剣がお気に入りらしい。

 それならばと、取り敢えず剣を持つなら自分に合った物を新調しようと思ったのだ。

 そして俺が向かっている武器屋はマスターが直々に紹介してくれた所。マスターが昔からお世話になっているらしい。


~武器屋~

「――いらっしゃいませ。今日は何をお探しですか?」
「ちょっと剣を見に来たんですけど……」

武器屋に入るなり、感じのいい店主が声を掛けてきた。店はこの人だけと言っていたから、この人が店主だよな。マスターから宜しく伝えてくれと頼まれてるんだ。

「あ、それと、実はマスターから店主に宜しく伝えてくれと言われてまして」
「マスター? あ、ひょっとしてルカ様ですか?」

 俺がそう言うと、店主は何故か俺の名前を呼んだ。そして「ちょっと待ってて下さい」と言うなり店の奥に行ってしまった。

「――コレだコレだ!実はゼインさんから君の事を聞いていてね、待っていたんだよ。君が来たらコレを渡してくれと」
「え、コレは……?」

 店主は奥から1本の剣を持って来て、そのままそれを俺に渡した。

「この剣は『ゼロフリード』と呼ばれる古の剣でね、特殊な魔石と魔法陣によって作られている素晴らしい物なんだよ。使用者の魔力を大幅に増幅させる効果があるんだ」

 店主に説明され、渡された剣を何気なく握ってみると、今までに感じた事がないぐらいしっくりきた。
 
「何か凄そうだなコレ……」
「そりゃそうだろう。世界に1本しか存在しない超希少な幻の剣だからね! フフフ、しっかりと君に渡したよ。ゼインさんにもまた宜しく伝えておいておくれ」
「え⁉ そんな貴重な剣なんですかコレ! そんなの使えないですよ!」
「大丈夫大丈夫。普通の剣となんら変わらないから誰にでも使えるよ」

 いや、あの……そういう意味じゃ……。

「ゼインさんからもう代金も貰ってるから、それはもう君の物だ。何か困った事があれば私に何でも言っておくれ。勿論武器の事でな」
「え、代金までマスターが……⁉」
「フフフフ。余程期待されているようだね君は」

 こうして、俺は本当に貴重な剣を手にしてしまった。しかもマスターに剣の代金を出してもらって……。嬉しい事だが、これはこれで逆にプレッシャーだ――。

 そんなこんなで用が済んでしまった俺は宿に帰った。


~宿~

「ただいまー……!」

 自分の家ではないが、癖でそう言ってしまった。そして俺は部屋に入った瞬間妙な違和感を感じ取った。

「レベッカ……?」

 俺の言葉に返事1つ返ってこないどころか人の気配すらない。しかも僅かに知らない“匂い”が部屋に残っていた。

 徐にリビングまで行くと、部屋の真ん中にあったテーブルの上に1枚の置き手紙があるの見つけた。

 そこに書かれていたのは……。

『ルカ・リルガーデンよ。仲間の女は預かった。無事に返して欲しければ明日の決闘を棄権しろ。さもなくば女の命は保証しない――』

 おいおい、何だこれは……!