~ガメル山脈中腹~
突如現れたルージュドラゴンから避難した討伐隊。
無事にルージュドラゴンを倒したと報告が入った一行は、皆のパニックを落ち着かせるために1度ここで待機しながら休息を取った。
簡易的に組み立てられたテントが幾つも並ぶ中、ある1つのテントだけ、周りに大勢の護衛が配置されていた。言わずもがな国王がいるテント。そして周りはその国王の直属の護衛や騎士団員である。
その国王がいる大きなテントの中に、拘束されたルカが騎士団員と共に入って来た。
そしてそこには何故かグレイ達の姿もあった――。
(……よしよしよーしッ! ルカの奴マジで連行されてきやがった。これで俺達が国王から認られる!やっとこの状況を変えられるぞ!俺の“報告”が危険なモンスターを排除する結果となり王国を救った!ハッハッハッハッ!こりゃとんでもない報酬や地位を手に入れられるぞ!)
そう――。
ルカが連行される原因となった“報告”をしたのは、他でもないグレイ達であった。
♢♦♢
遡る事数十分前……。
「あれマジでルカなのかよ……。どういう事だ⁉」
「何でルカがあんなドラゴンになってるの? グレイは知っていたの?」
「ああ。何年か前にアイツにから直接聞いた」
「そんな事を何故ずっと黙っていたんだ」
「当たり前だろ! そんな話誰が信じるんだよ!」
「まぁ確かにな……」
ずっと溜まっていたモヤモヤが晴れ、1度はスッキリしたグレイであったが、そのプライド故、ルカ如きに助けられたという事実がグレイの怒りに再び火を付けたのだった。
(俺があの野郎に助けられただとッ……! ふざけんじゃねぇ。本当に竜神王なんかを召喚したならとんでもない事じゃねぇか!
……って待てよ。確かにとんでもなく“危ない力”だよな……? 確かにSSSランクになったとは多くの奴が話していたが、どんな力でSSSランクになったかまでは誰も知らない様な……。
いや、違う。成程……そう言う事か。俺が今思った通り、本当にあの伝説の竜神王なんかを召喚したとなれば、その力はかなりのもんだろう。
そんな危険な力を手にしてしまったからアイツはSSSランクになった。
だが“その事実”を、アイツは恐らく皆に話していない――。
その証拠にそんな話を1度も耳にした事がないからな!
ハハハハハ……そうかそうか。これはまだ俺達に最後のチャンスが残ってやがる。
散々俺達をコケにしやがったんだルカ……。だったら最後までテメーを“使って”やろうじゃねぇか――!)
グレイが出した答えがコレであった。
「どうしたのグレイ。何か笑ってない……?」
「ハッハッハッハッ! そりゃ笑いたくもなるぜ!こりゃ俺達全員アイツに“感謝”しなくちゃいけねぇかもな!」
突如そう言いながら大声で笑い出したグレイ。
「感謝って……。まぁ一応助けてもらったのは事実だけど……」
「確かに……。恥ずかしい話だがな」
「あぁ? 何を馬鹿な事言ってやがるんだお前ら!違うだろッ!
アイツは竜神王なんていうとんでもなく危ない化け物を召喚しやがった大罪人だぞ!!」
「竜神王って……あの伝説の?」
「おいおい、あんなのお伽噺だろ」
「いや! 間違いその竜神王ジークリートだ! 奴が確かに俺にそう言ったから間違いねぇ!」
グレイは1人納得していたが、初めて聞かされたラミア達は直ぐには呑み込めなかった。当然の事だろう。
「アイツは恐らくその事を黙ってやがるに違いない! 自分でも危ないと分かっているから誰にも言えないんだ。だからこの事を今から国王に報告しに行く。そうすれば俺達は大いなる脅威から王国救ったとしてたちまち英雄になれるぞ!」
ただひたすらに、グレイはプライドと欲に蝕まれていた。
「この話が本当なら、最近の事に全て辻褄が合うな……」
「そうね。そんなやばい奴を召喚したならSSSランクになったのも頷けるわ」
「皆その話はしていたが、竜神王ジークリートなんて単語は1度も聞いていないしな」
「ハハハハハ!分かってきたじゃねぇかお前らもよ! やっぱりアイツはこの事実を黙ってやがるんだ! その力を卑怯に使ってここまで上り詰めたんだよ。きっと俺達に分からない様に邪魔もしていたと考えりゃ全てに合点がいく!」
時に偶然とは恐ろしい重なり方をしてしまう。
グレイの言葉に、もう誰も疑う者はいなかった。それどころか、ここにきて間違った方向に意見が満場一致してしまうのだった。
こうして、避難していた討伐隊に戻ったグレイ達は、足取り軽く、そのまま国王直属の護衛や騎士団に、ルカの件を報告したのだった。
ルカが竜神王ジークリートの力を手にしているという事実に加え、今しがた現れたルージュドラゴンもルカの力の影響だと、あられもない事実を付け加えて――。
そして報告を受けた騎士団員が直ぐに事実確認をする為、ルカを連行する事を決定したのだった。
♢♦♢
こうして物語は今に至る――。
騎士団員が連行してきたルカの姿を見て、テントで待機していたグレイ達は思わず嬉しくてニヤけが止まらない様子であった。
「モレー大団長! 先ほど報告された“危険なモンスターを召喚している”者を連れて参りました!」
ルカを連行していた1人の団員がそう声を張って言った。大きなテントの奥には更に区切られた部屋があり、そこに国王がいるのだと分かる。護衛と騎士団員数名がその部屋の入り口で待機していた。
「そうか。何やら物騒な報告があったと、今しがた私も他の団長達から報告を受けた所だ。……で、その報告にあった者とは?」
「はい! こちらにいるルカ・リルガーデンという冒険者です! 彼は危険なモンスターを召喚し、その力を悪用していたとの報告が! 今のルージュドラゴンが現れた原因も彼だと報告が入っております!」
この瞬間、グレイ達は心の中で思い切りガッツポーズをしていた。
(SSSランクよりも凄い称号を手に入れられるぞこれは!)
(こりゃパァと祝うしかねぇな! )
(ヤバいどうしよう! これ凄い報酬貰えるんじゃない?)
(グハハハ! これで一生生活に困らんだろう!)
グレイ達はルカに助けてもらった事など微塵も恩を感じていなかった。それどころか自分達をこんな目に遭わせたのだから当然の報いだとさえ思っている。
「ルカ・リルガーデン……だと?」
ルカの名前を聞いた途端、何故かモレー大団長は眉を顰め、ルカの顔をまじまじと見出した。そして、ハッと何かに気付いた表情を一瞬浮かべたモレー大団長は大声でこう言った。
「何をしているんだお前達! その者、ルカ・リルガーデンは王国きってのSSSランク冒険者! 此度の討伐においても、国王が直々にお呼びになった大事な招待者であるぞッ! 直ぐにその拘束を解くんだ無礼者共!」
「「は、はいッ……! 申し訳ございません!」」
モレー大団長から放たれた怒号と威圧によって、場が一気にピリついた。その場にいたグレイ達は勿論、拘束していた騎士団員達や他の者達も状況を吞み込めていない。ただ並々ならぬ事態だという事だけが本能的に感知していた。
その口ぶりから、ルカの対応に対してモレー大団長が激怒しているのは明らか。だが肝心の“理由”が分からなかったのだ。
(は……? 一体何が起こっているんだ? ルカはあの竜神王を召喚しているんだぞ……! そんなの危険に決まってッ……「早く彼から離れろ! お前達はもう下がって良い!」
「「はい……!!」」
ルカの拘束を解いた団員達は足早にその場から去って行った。
そして、ルカに近付いたモレー大団長はルカの目の前で片膝を付き、頭を垂れた。
「ルカ・リルガーデン様――。
我が王国の貴重な存在である貴方に、私の部下がとんだ無礼を働かせてしまいました。誠に申し訳ございません。心の底からお詫びをさせて頂きます。私などの謝罪では不十分でしょうが、どうかお気を戻して頂けないでしょうか」
その場にいた者達が全員目を見開きポカンとした表情になっていた。
それはまたルカも然りだった――。
突如現れたルージュドラゴンから避難した討伐隊。
無事にルージュドラゴンを倒したと報告が入った一行は、皆のパニックを落ち着かせるために1度ここで待機しながら休息を取った。
簡易的に組み立てられたテントが幾つも並ぶ中、ある1つのテントだけ、周りに大勢の護衛が配置されていた。言わずもがな国王がいるテント。そして周りはその国王の直属の護衛や騎士団員である。
その国王がいる大きなテントの中に、拘束されたルカが騎士団員と共に入って来た。
そしてそこには何故かグレイ達の姿もあった――。
(……よしよしよーしッ! ルカの奴マジで連行されてきやがった。これで俺達が国王から認られる!やっとこの状況を変えられるぞ!俺の“報告”が危険なモンスターを排除する結果となり王国を救った!ハッハッハッハッ!こりゃとんでもない報酬や地位を手に入れられるぞ!)
そう――。
ルカが連行される原因となった“報告”をしたのは、他でもないグレイ達であった。
♢♦♢
遡る事数十分前……。
「あれマジでルカなのかよ……。どういう事だ⁉」
「何でルカがあんなドラゴンになってるの? グレイは知っていたの?」
「ああ。何年か前にアイツにから直接聞いた」
「そんな事を何故ずっと黙っていたんだ」
「当たり前だろ! そんな話誰が信じるんだよ!」
「まぁ確かにな……」
ずっと溜まっていたモヤモヤが晴れ、1度はスッキリしたグレイであったが、そのプライド故、ルカ如きに助けられたという事実がグレイの怒りに再び火を付けたのだった。
(俺があの野郎に助けられただとッ……! ふざけんじゃねぇ。本当に竜神王なんかを召喚したならとんでもない事じゃねぇか!
……って待てよ。確かにとんでもなく“危ない力”だよな……? 確かにSSSランクになったとは多くの奴が話していたが、どんな力でSSSランクになったかまでは誰も知らない様な……。
いや、違う。成程……そう言う事か。俺が今思った通り、本当にあの伝説の竜神王なんかを召喚したとなれば、その力はかなりのもんだろう。
そんな危険な力を手にしてしまったからアイツはSSSランクになった。
だが“その事実”を、アイツは恐らく皆に話していない――。
その証拠にそんな話を1度も耳にした事がないからな!
ハハハハハ……そうかそうか。これはまだ俺達に最後のチャンスが残ってやがる。
散々俺達をコケにしやがったんだルカ……。だったら最後までテメーを“使って”やろうじゃねぇか――!)
グレイが出した答えがコレであった。
「どうしたのグレイ。何か笑ってない……?」
「ハッハッハッハッ! そりゃ笑いたくもなるぜ!こりゃ俺達全員アイツに“感謝”しなくちゃいけねぇかもな!」
突如そう言いながら大声で笑い出したグレイ。
「感謝って……。まぁ一応助けてもらったのは事実だけど……」
「確かに……。恥ずかしい話だがな」
「あぁ? 何を馬鹿な事言ってやがるんだお前ら!違うだろッ!
アイツは竜神王なんていうとんでもなく危ない化け物を召喚しやがった大罪人だぞ!!」
「竜神王って……あの伝説の?」
「おいおい、あんなのお伽噺だろ」
「いや! 間違いその竜神王ジークリートだ! 奴が確かに俺にそう言ったから間違いねぇ!」
グレイは1人納得していたが、初めて聞かされたラミア達は直ぐには呑み込めなかった。当然の事だろう。
「アイツは恐らくその事を黙ってやがるに違いない! 自分でも危ないと分かっているから誰にも言えないんだ。だからこの事を今から国王に報告しに行く。そうすれば俺達は大いなる脅威から王国救ったとしてたちまち英雄になれるぞ!」
ただひたすらに、グレイはプライドと欲に蝕まれていた。
「この話が本当なら、最近の事に全て辻褄が合うな……」
「そうね。そんなやばい奴を召喚したならSSSランクになったのも頷けるわ」
「皆その話はしていたが、竜神王ジークリートなんて単語は1度も聞いていないしな」
「ハハハハハ!分かってきたじゃねぇかお前らもよ! やっぱりアイツはこの事実を黙ってやがるんだ! その力を卑怯に使ってここまで上り詰めたんだよ。きっと俺達に分からない様に邪魔もしていたと考えりゃ全てに合点がいく!」
時に偶然とは恐ろしい重なり方をしてしまう。
グレイの言葉に、もう誰も疑う者はいなかった。それどころか、ここにきて間違った方向に意見が満場一致してしまうのだった。
こうして、避難していた討伐隊に戻ったグレイ達は、足取り軽く、そのまま国王直属の護衛や騎士団に、ルカの件を報告したのだった。
ルカが竜神王ジークリートの力を手にしているという事実に加え、今しがた現れたルージュドラゴンもルカの力の影響だと、あられもない事実を付け加えて――。
そして報告を受けた騎士団員が直ぐに事実確認をする為、ルカを連行する事を決定したのだった。
♢♦♢
こうして物語は今に至る――。
騎士団員が連行してきたルカの姿を見て、テントで待機していたグレイ達は思わず嬉しくてニヤけが止まらない様子であった。
「モレー大団長! 先ほど報告された“危険なモンスターを召喚している”者を連れて参りました!」
ルカを連行していた1人の団員がそう声を張って言った。大きなテントの奥には更に区切られた部屋があり、そこに国王がいるのだと分かる。護衛と騎士団員数名がその部屋の入り口で待機していた。
「そうか。何やら物騒な報告があったと、今しがた私も他の団長達から報告を受けた所だ。……で、その報告にあった者とは?」
「はい! こちらにいるルカ・リルガーデンという冒険者です! 彼は危険なモンスターを召喚し、その力を悪用していたとの報告が! 今のルージュドラゴンが現れた原因も彼だと報告が入っております!」
この瞬間、グレイ達は心の中で思い切りガッツポーズをしていた。
(SSSランクよりも凄い称号を手に入れられるぞこれは!)
(こりゃパァと祝うしかねぇな! )
(ヤバいどうしよう! これ凄い報酬貰えるんじゃない?)
(グハハハ! これで一生生活に困らんだろう!)
グレイ達はルカに助けてもらった事など微塵も恩を感じていなかった。それどころか自分達をこんな目に遭わせたのだから当然の報いだとさえ思っている。
「ルカ・リルガーデン……だと?」
ルカの名前を聞いた途端、何故かモレー大団長は眉を顰め、ルカの顔をまじまじと見出した。そして、ハッと何かに気付いた表情を一瞬浮かべたモレー大団長は大声でこう言った。
「何をしているんだお前達! その者、ルカ・リルガーデンは王国きってのSSSランク冒険者! 此度の討伐においても、国王が直々にお呼びになった大事な招待者であるぞッ! 直ぐにその拘束を解くんだ無礼者共!」
「「は、はいッ……! 申し訳ございません!」」
モレー大団長から放たれた怒号と威圧によって、場が一気にピリついた。その場にいたグレイ達は勿論、拘束していた騎士団員達や他の者達も状況を吞み込めていない。ただ並々ならぬ事態だという事だけが本能的に感知していた。
その口ぶりから、ルカの対応に対してモレー大団長が激怒しているのは明らか。だが肝心の“理由”が分からなかったのだ。
(は……? 一体何が起こっているんだ? ルカはあの竜神王を召喚しているんだぞ……! そんなの危険に決まってッ……「早く彼から離れろ! お前達はもう下がって良い!」
「「はい……!!」」
ルカの拘束を解いた団員達は足早にその場から去って行った。
そして、ルカに近付いたモレー大団長はルカの目の前で片膝を付き、頭を垂れた。
「ルカ・リルガーデン様――。
我が王国の貴重な存在である貴方に、私の部下がとんだ無礼を働かせてしまいました。誠に申し訳ございません。心の底からお詫びをさせて頂きます。私などの謝罪では不十分でしょうが、どうかお気を戻して頂けないでしょうか」
その場にいた者達が全員目を見開きポカンとした表情になっていた。
それはまたルカも然りだった――。