召喚出来ない『召喚士』は既に召喚している~ドラゴンの王を召喚したが誰にも信用されず追放されたので、ちょっと思い知らせてやるわ~

♢♦♢

~ペトラ遺跡~

「――なぁジーク、ベヒーモスってどんな感じ?」
<知力の低い単細胞だな。後は吐く炎が鬱陶しい>

 成程。Sランク指定のモンスターだが大丈夫そうだ。寧ろ先日のマスター達の総攻撃に比べれば最早何とも思わん。グリフォンも余裕だったしな。

「じゃあ今回も楽だな」
<何だか雰囲気が変わったのルカよ>
「そうか?」

 ジークの言った事は一理あるかもしれない。俺はあれ以来恐らく開き直っている。色んな意味で。

 ジャックさん達に褒められたのは本当に嬉しい。自信にもなったからな。でもマスターと出会ってからというもの展開が早過ぎる。しかもこっちの気持ちの準備はまるで出来ていないのに。

 今回のこのベヒーモス討伐のクエストもそうだ。

 俺は折角ジークの力をしっかり自分のものにしていると、約束通りグリフォンを討伐したのにも関わらず、まさか最終テストと名目され総攻撃を仕掛けられた。でも無事に認めてもらって黒色のタグを貰えた。

 だから俺はソロ冒険者として自由気ままにクエストを受けようと思ったのに……。何故俺の意志も選択肢もないままベヒーモスの討伐に来ているんだ俺は――。

「まぁいいけどね。どうせ最終的な目標は全モンスターを駆逐する事だから」
<何を1人でブツブツ言っている>
「それでも何でSランクのベヒーモス何かがペトラ遺跡で目撃されてるんだろう?」
<そんな事は知らぬ。早くあのデブを始末しろ>

 ジークはかなり博識だ。これまでもかなり助けられた。
 だがジークはモンスターの事となると最小限の事しか教えてくれない。コイツも俺と同じで相当モンスターが憎いんだろうな。裏切られる気持ちもよく分かる……。だから俺はそれ以上ジークに詮索するつもりはない。

「ベヒーモスってやっぱ肥えてるのか」
<たるんだ肉の塊だあんなものは>

 ペトラ遺跡周辺に生息しているモンスターの平均指定ランクはB。本来ならSランクのベヒーモスがいるのは有り得ないから、今回は何らかの原因で迷い込んだか突然変異個体のどっちかじゃないかな。

「ん――?」

 遺跡に向かっていたその時、数キロ先から人の叫び声が聞こえた。全く関係ないが何やら揉めているようだ。

「……いい加減にしろッ!」
「ごめんなさい……本当にごめんなさい」

 聞き耳を立てる訳じゃないが、こんな場所だと人がいる方が珍しいから静か過ぎて逆に聞いちゃう。クエストで来た冒険者パーティだろうな。

「お前のせいで魔法が使えないぞ!」
「勘弁してよね全く!」
「ごめ……んなさい……」
「もうダメだ!こんな奴置いて行こう!こっちが危険だ!」
「そうだな、お前はもう要らねぇ!このパーティから出ていけ!」

 やっぱり聞くんじゃなかった。嫌な記憶がフラッシュバックしてきたよ。どうしよう? 今追放されたのは女の子っぽいな……。鳴き声が聞こえるし本当に他の奴らは去っちまった。

「どうするジーク」
<知らぬ。人間の事を我に聞くな>

 そう言うと思った……。困ったなぁ。泣いてる女の子なんてどう接したらいいんだろう……。

 散々悩んだが、ここはモンスターがそこら辺にいる地帯。後で変に負い目を感じるのも嫌だから仕方ない。取り敢えず安全な場所まで連れて行ってやるか。

**

「――いた」

 俺は泣いている1人の女の子を見つけた。

「あ、あの~、大丈夫……?」
「――⁉」

 泣いている女の子に声を掛けると、その子は涙を流しながら驚いた表情で俺の方へ振り返った。突然声を掛けられた事とこんな所に何故人がいるのだろうと色々困惑しているようにも伺える。

 俺の顔を見た彼女は慌てた様子で涙を拭い、平静を装いながら笑顔で返事を返してきた。

「え、いや、何かごめんなさい……! 私は全然大丈夫です」

 必死で笑顔を取り繕っているのはバレバレ。他人の俺に気を遣わせない様にしているんだろうな。

「そう……? もし良ければ安全なところまで送るけど」

 そこまで口にしたと同時に気が付いてしまった。彼女のタグが金色である事に。アレはAランクの色だ。

「え、本当ですか⁉ 実は地図を持っていなくて道が分からないんです……。なので道だけ教えて頂いて宜しいでしょうか? 余計なご迷惑はお掛けしたくないので、道だけ分かれば後は何とか1人で帰れるかと……」

 彼女は申し訳なさそうにそう言った。

 まぁ確かにAランクの冒険者ならモンスターの心配は大丈夫か……。でも道を教えるって言っても、到底口で説明出来ないほど複雑なんだよなここら。

「教えたいんだけど、ここら辺凄い入り組んでて俺もクエスト途中なんだ。だから速攻でモンスター討伐するから少しだけ同行してもらってもいいかな? そうすればその後直ぐに送り届けるからさ」

 Aランクなら側にいるぐらい大丈夫だろう。俺も一瞬で片付けるつもりだし。

 と、思っていたのだが、彼女の返事は余りに予想外だった。

「ご、ごめんなさいッ! 貴方に“同行”するのは絶対に無理です!」

 ええーー⁉ 嘘、何で?
 もしかして下心ある変態野郎だとでも思われたか俺……⁉

「え、いッ、いや……あのさ、別に俺変な下心がある不審者とかじゃなくて……!その、此処からだとさ、安全な場所まで行って戻るのに俺も時間掛かっちゃうしッ、だからその……直ぐに討伐終わらせて帰った方が都合がいいかな~と思ったんだけどッ……! 変な下心とかじゃなくて!ホントに! 全然離れて同行してもらって構わないしさ……!」

 何してるんだよ俺。これじゃあ余計に怪しまれるぞ。逆に下心ありますと言ってるようなものだ。

「え? あの~違うんですッ……! そうじゃなくて……」
「ん、違うの?」
「勿論です。全然そんな風には思ってません……。ただ、同行したら絶対に貴方に迷惑を掛けてしまうので」
「ああ、それなら俺は大丈夫だよ。気にしないで」
「い、いえッ!“そう”ではなくて……あの、実は私……近くの人の魔力を吸ってしまう“特異体質”持ちで……」

 魔力を吸う特異体質……?
 何だそれ、初めて聞いたな。

「魔力を吸うって、何もしなくても近くにいるだけで……?」
「はい、そうなんです……。昔から自分でもコントロール出来なくて……。だから私が同行したら 絶対貴方にッ「――別にそんな感じ全くしないけどな」

 俺の体に特別変わった様子もなければ彼女の言うように魔力を吸われて感じも全くない。俺は自分の体を確かめながら何気なく呟いただけだが、彼女は何故かとても驚いていた。

「え……⁉ 本当ですか? いや、でもそんな事有り得ない……」
「そうなのか? でも実際俺は大丈夫だぞ。ほら、何ともない」
「嘘……」

 彼女は俺をまじまじと見ている。彼女にとっては余程信じられない光景なのだろうか。

「コレが理由って事なら、一先ず同行してもらうのはOK?」

 よく分からんが同行自体が嫌でなければ俺も助かる。直ぐに討伐して帰ればいいだけだからな。

「も、勿論です!」

 お、急に元気になった。取り敢えず良かった良かった。

「あの!貴方のお名前は⁉」
「ん、そう言えばまだ名乗ってなかったな。俺はルカ・リルガーデン。宜しく」
「私はレベッカと言います!レベッカ・ストラウスです」

 お互いに自己紹介し、じゃあ行こうかと俺が言おうと思ったまさに次の瞬間、彼女の口から今日1番の驚きの言葉が発せられた――。 

「あ、あの……ルカさん! 突然で失礼ですが、是非私と“パーティを組んで”下さい! お願いします!」










「――丁寧にお断りします」








 心の底から出た混じりけの無い一言だった。




「え、そんな即答!?  お……お願いします! 確かに突然で失礼ですが、私この体質のせいで、もう何十回もパーティから外されてしまってるんですッ……!
私の近くにいて魔力が吸われない人はルカさんが初めてでッ……!今までにこんな事なかったから……。
折角冒険者になったのにまだ1度もクエストを達成出来た事がないんです。だから無理を承知で……失礼を承知で言ってます。どうかお願いします!私とパーティを組んで頂けませんか⁉」

 彼女の言葉もまた、混じりけの無い本心だった――。

 涙ぐみながら頭を下げる彼女を見て、俺はそんな彼女と何時かの自分が重なって見えたんだ……。

 彼女も俺と同じ。
 信じていた仲間に捨てられ追放された。しかも単純に彼女は俺よりその回数が多いだろう。同じ俺にはよく分かる。


「そこまで言うならいいよ。パーティ組もうか」


 無意識の内に、俺はそう言っていた――。
「ほ、本当ですかッ⁉」

 自分でも何でそんな事言ったのか分からない。あんな裏切られ方をしたから2度とパーティなんて組むつもりなかったのにな……。

「ああ。でも条件がある」
「条件……? 大丈夫です! 何でも言って下さい!」
「追放者同士、お互いに突然の裏切りは止める。それだけだ」
「追放者同士って……ルカさんも? と言うか、私が追放されたの知ってたんですね……。お恥ずかしい」
「それは御免。別に聞き耳を立てるつもりじゃなかったんだけど、聞こえちゃって」
「フフフ。別に構いませんよ。本当の事ですからね。それよりルカさんが追放されていた事に私は驚きましたよ。こんな素敵な人なのに」
「――!」

 彼女の言葉に、俺は思わずドキッとしてしまった。何だ……今の高鳴りは……。

「な、何言ってんだよ。そんな事より早く行くぞ」
「そうでしたね! ルカさんのクエストに向かいましょう」

 こうして、俺は予想だにしていなかった出会いを経て、これまた予想だにしていなかったパーティを組んでしまった――。


♢♦♢

~ペトラ遺跡・森の奥~

俺と彼女……レベッカは、あれから日が暮れる前にベヒーモスを見つけ様と、深い森の奥にある遺跡目指して進んでいた。

 何時しか辺りはだいぶ薄暗くなってきた。俺は暗闇でもある程度見えるが、レベッカはただ見えずらいのかはたまた彼女は少しドジなのかは分からないが、さっきから幾度となく転びそうになっていた。

「わッ!……っとと⁉……ハァ……ハァ……。キャッ!」
「大丈夫か……?」

 進む足を止め、後ろを振りレベッカを確認すると、彼女は屈託のない笑顔を放ちながら「大丈夫!」と言った。

 絶対にいい子なんだろうなというのは直ぐに分かる。だから俺もパーティを組むなんて有り得ない発言をしたんだろうな。

 そして正直、レベッカは結構美人だ。綺麗な明るいロングの髪にパッチリとした青い瞳。それに服の上からでも分かるスタイルの良さ。これはかなり男にモテるだろう……と、全然関係ない事まで思ってしまう。

「……!これは」

 突如臭ってきた獣臭と血の折り混ざった鼻につく臭い。どうやらお目当てのベヒーモスがいるみたいだ。俺は魔力感知で敵の位置を探った。

「レベッカ、近くにベヒーモスがいる。気を付けろ」
「べ、ベヒーモス……⁉ Sランクの⁉」

 あれ、その事言ってなかったか……?

「俺の目的はベヒーモスだ。……お、やっぱいるな。しかも向こうから俺達に近付いて来てるぞ」
「えッ! ちょ、ちょっと待って下さい……まだ心の準備が」
「レベッカ、そっちから来るぞ!」

 次の瞬間、木々の間から雄叫びを上げたベヒーモスが姿を現した。

『グオォォッ!』
「……ッ⁉」

 大きさは3m以上。ジークの言った通り横にもデカいせいでより大きく見える。俺達を完全に獲物としてロックオンしているみたいだ。

<吐くぞ>

 ジークが言ったとほぼ同時、ベヒーモスが得意の炎を俺達目掛けて吐いてきた。

 ――ブオォォォォ!
「マジかコイツ!……っと、レベッカ大丈夫か⁉」

 俺は慌ててレベッカを確認した。すると、レベッカはいつの間にか杖を手にしており、氷の防御壁でベヒーモスの炎を防いでいた。

「は、はい!なんとか」
「おー、流石Aランク。ちょっと抜けた感じだったから心配だったけど、余裕そうだな。一応俺の魔法で付与しておくか」

 こんな実力あるのに何回もパーティから追い出されるなんて、よっぽど厄介な体質なんだろうな。まぁ魔力なんて吸い取られたら何も出来ないから皆困るか。

『グオオオ!』
「さっさとくたばれ。“炎撃波《プロメテウス》”」
 
 俺はお返し代わりにベヒーモスに炎魔法を放った。奴に向けた右手から豪炎を放ち、直撃したベヒーモスは一撃で戦闘不能となった。

 当たり前だ。お前のとは火力が桁違いだからな。

<デジャヴかコレは――>
「もう1発」

 ベヒーモスの攻撃を放った瞬間、別方向からもう1体のベヒーモスが襲い掛かっていた。ジークの言った通り、まるでグリフォン討伐のデジャヴみたいだ。

 俺は反対の手を奴に向けまたプロメテウスを放った。だが、僅かに攻撃するタイミングが遅かったせいでダメージが浅かった。

 どの道次で終わり。
 そう思いながら連続でもう1発放とうと思った瞬間、ベヒーモスの体が突如氷に覆われた――。

「“氷の一矢(アイスブロー)”!」

 攻撃を放ったのはレベッカだった。見た感じ魔法使いの適性だろう。杖を持っているし、当たった氷の矢が一瞬でベヒーモスを氷で固めてしまった。

 そして何だろうこの不思議な高揚感は……。
 まさか今のが“連携攻撃”とかいうお洒落な技じゃないだろうか。
 散々グレイのパーティにいた時は活用していたが、それは勿論後方からのサポート。自分が直接加わったのはこれが初めてだ。何とも新鮮な感じ。

「これが本物のパーティか」
<何をブツブツ言っている>

 連携攻撃の余韻に浸りながらふとレベッカを見ると、何やら彼女は震えていた。

 え?もしかして奴の攻撃が当たっていた?
 そう思った矢先、レベッカは俺を見ながらお礼を言ってきた。

「ルカさん!ありがとうございます!」

 なんのお礼かは分からないが取り敢えず大丈夫そうだ。

「私、こんな魔法使えたの初めてなんです! 何時も人の魔力吸い取った挙句に直ぐ消えちゃっていたので!」

 そう言う事か。彼女も中々大変な人生を歩んできたようだな。

「いやいや、俺の方こそ。実は初めて連携攻撃みたいな事が出来て興奮してるんだ。凄い新鮮な気持ちだ」

 俺とレベッカはそんな事を言いながら笑い合っていた。

「そう言えばレベッカって歳いくつ?」
「え、18ですけど」
「何だ、俺と一緒じゃん。だったらもう敬語止めにしようよ。パーティも組むんだし」
「いいんですか……じゃなくて、分かった! これから宜しくねルカ!」
「こちらこそ。じゃあギルドに戻るか」

 ベヒーモスを無事討伐した俺とレベッカは、ペトラ遺跡を後にした――。

♢♦♢

~冒険者ギルド~

「――すみません、クエストの手続きお願いします」
「はい。かしこまりました……って、ルカさんじゃないですか!お疲れ様です。 ベヒーモスの討伐もう終わったんですか⁉」
「うん、まぁね」
 
 マリアちゃんは何時も元気だ。だがその驚きの声で周りの人から視線が集まっちゃってるよ。ベヒーモスって一応Sランクだからね。

「流石ですね」
「そんな事無いよ。あ、そうだ、そう言えばこの子とパーティ登録したいんだけど」

 パーティを組むにはギルドで登録が必要。俺とレベッカはその手続きをする為にタグを一緒に渡した。

「え、ちょっと待って⁉ ルカそれって……まさかSSSランク⁉」
「ああ」
「凄いッ……私初めて見た」

 これもまた似た者同士か。
 レベッカもマリアちゃんと同様元気タイプだから少し声が大きい。また周りの視線が集まってるじゃないか。別に隠すつもりはないからいいんだけどさ、注目されるのは慣れてないんだよ。

「マリアちゃんごめん、急いで頼める? 面倒な事になりそう」

 ハッとしたマリアちゃんは急いで準備をしてくれた。
 レベッカをパーティーに登録した後、手続きの関係でレベッカが再診断を受ける事になった。

「レベッカ様、こちらで再診断お願い致します」
「はい、分かりました」

 俺が再診断した時と全く同じ。レベッカは魔石に手を置き魔力を流し込んだ。

『レベッカ・ストラウス 魔力値:Sランク』

「え? 私何でランク上がってるの?」

 そうだ。付与魔法掛けたままだった。まぁどっちにしても俺とパーティ組むとジークの恩恵で能力値向上するけどね。

「あー、それ多分俺のせいかも。言ってないけど俺もある意味ちょっと特異体質なんだよね。でも魔力とか身体能力が向上するから損はないと思う」
「へぇ~、そんなのあるんだルカ君。驚いちゃった。私が言うのも変だけどね。だから私ベヒーモス相手にあんな魔法出せたのね」

 多少は俺の力によるものだけど、元々のポテンシャルが高いんじゃないかなレベッカは。少しドジっぽいけど……。

 レベッカはランクが上がった事もあり更に診断を行った。

『レベッカ・ストラウス 魔力値:Sランク

 適性:魔法使い 
 
 使用魔法:氷魔法 水魔法 炎魔法 
      風魔法 土魔法 回復魔法 付与魔法  

 身体・特殊:魔力感知(B)状態異常耐性(A)

 性質:魔力イーター 』

「わぁ……。凄い能力アップしてる」
「それではレベッカ様、新しい冒険者タグの準備が出来ましたらまたお渡ししますね」

 そう係りの人に言われ、何故か俺はまたマスターの部屋に呼ばれた。

 レベッカも一緒に――。

~冒険者ギルド・マスターの部屋~

 成程、マスターの本当の目的はレベッカか――。

 俺とパーティを組んだことにより能力が上がったレベッカは、冒険者の中でもかなり貴重なSランクとなった。勿論、ジークの魔力の恩恵もあるが、レベッカはやはり元の能力ガ高かったんだろう。変な体質さえなければAランクでもトップクラスの実力があるとマスターが今しがた言っていた。

 確かに王国としてもギルドとしても、そして責任者であるマスターとしても当然Sランク冒険者の存在はとても重宝したいところだろう。ドラシエル王国は今Sランクが10人いるかいないかぐらいだから、その人達も負担も少しは減るからな。

 それにしてもマスターよ――。
 俺の時に向けていたあの禍々しい殺気は何だったんだ。レベッカのこの面談では微塵もそんな素振りがないじゃねぇか。

 まぁ俺の時は話の内容が内容だったから無理もないが……。

「――それではレベッカ君、君のこれからの活躍を期待しているよ。そして是非ともその素晴らしい力を、王国や我々の為にも振るって頂きたい」
「はい、勿論ですッ!王国や皆さんの為に精一杯頑張りたいと思います!」
「ハハハ、ありがとう」

 マスターに褒められてレベッカもご機嫌な様子だ。素直そうな性格だから余計に効果がありそうだな。それにしても、俺はモンスターを駆逐する為に王国を出ようとずっと思っているのに……。今の会話の流れだとレベッカは本当に王国の為に頑張りそうだ。

 すなわち、それは遠回しに彼女とパーティを組んだ俺の行動も制限されるという事になる。

 ベヒーモスのクエスト終わったら次こそ絶対出発しようと思っていたのにさ、これじゃあ何となくレベッカに伝えにくいぞ。なんだか凄いやる気も出しているしとても水を差せるような空気ではない。やっぱり不用意にパーティを組むなんて言わない方が良かったんじゃ……。

「――時にルカ君」

 おっと、急に矛先が俺になった様だ。

「何でしょうか」
「実はな――」

 マスターは穏やかながら少し真剣な表情で口を開き始めた。話の内容は他でもない、俺とジークの事だった。

 マスターは本部や王国に俺の話をどう伝えるかずっと考えてくれていたらしい。そしてあらゆるパターンを想定した結果、俺やジークが不用意に狙われないよう今回の件を伝えてみてはどうかと提案された。

 これはちょっと意外だな……。ジークの事を知っているマスターとジャックさんの雰囲気から何となく察していたけど、コレはやはり公にしない方がいいと思っていたから。

 だが、マスターはこれが決して簡単に決めた事ではなく、寧ろ相当の覚悟を決めたように俺に話していた。その緊張感がひしひしと伝わってきている。

 俺はそんなマスターを勿論疑ってなどいないが、最終的にどうしてその結論に至ったのかだけ知りたかった。それをマスターに正直に伝えると、マスターは優しく教えてくれた……。
 
 先ず、ジークの封印が解かれた事は、既にドラシエル王国の国王と、マスター。そして信頼出来るSランク冒険者達にのみ伝わっているとの事だ。

 当然そのジークが俺の中にいる事まで知るのはマスターとジャックさんのみ。

 言わずもがな竜神王ジークリートの力は強大なものと知られている。故に、その力を持つ俺が危険対象とみなされる事も十分に考えられるらしい。最悪即死刑も免れないだろうと……。

 まぁそりゃそうだよな。ジークリートの力なんて何も知らない人からすれば未知の脅威に等しい。

 是が非でもその最悪だけは避けたいと考えたマスターとジャックさんは、俺がジークの力を完全に掌握している事を国王に理解してもらえば、それが全員にとっての安全になるのでないかと言う結論に至ったとの事だ。

 例え害がないと分かっていても、それを隠していたとなれば少なからず反発の声が上がる事も想定出来る。俺にもジークにも、そして王国中の人々の為にも、そうするのが最善ではないかと――。

「分かりました」

 話を全て聞き終えた俺は、自然とそう返事をしていた。

 マスターとジャックさんがそこまで俺なんかを心配してくれていたなんて……。本当に感謝してもしきれない。

「そうか。ではその方向で話を進めるぞルカ君。後は“派遣クエスト”で存分にその力を発揮し、国王どころか全冒険者に君の実力を認めさせるんだ」
「はい――!」

 こうして、俺は無事にレベッカとパーティー組み、国王にもジークの事を伝える方向で話がまとまった――。


♢♦♢


「レベッカずっと宿屋に泊ってるのか」
「うん。こんな体質だからパーティも追放されっぱなしだったし……。何時か王国を出ようかとも考えていたから」
「そうだったのか」
「でもルカのお陰で一気にその心配はなくなっちゃった! マスターにも期待してるって言われたから頑張らないと!」

 マスターの話も終え、レベッカは新たにSランクの証明である虹色のタグを受け取り、俺達はギルドを後にしていた。

「ずっと宿屋も大変そうだな。何なら住む部屋が見つかるまで俺ん家使う?」
「ルカの家?」
「そう。俺1人だし2階誰も使ってないんだよね。好きに使ってくれて構わないけど」
「え……それは凄いありがたいけど……」

 やば。何だこの微妙に気まずい空気は。よく考えたら俺また凄い変態発言してるんじゃ……。

「あ、いや、別にッ! そんな深く考えないで……! ただ、2階なんて全く使ってなくて掃除も面倒だったから、いっその事誰か使ってくれていた方が楽だなぁなんて思ってただけで……ッ!」

 だからよ俺。
 逆にこれが怪しく思われるんだって。本当に下心がなかったとしても。
 
「ううん、そうじゃなくて……! 部屋を借りられるのは凄い助かるんだけど、迷惑じゃない……? それに家賃とかどうしたらいいかと思って」

 なんだ……。そう言う事か。焦った。

「全然迷惑じゃないって。家賃も当然要らない。もし逆に気を遣うなら家賃代わりに部屋の掃除だけお願い」
「本当にそれでいいの?」
「勿論。あ、そうか。念の為に魔法で結界でも張っとくか。俺が間違った行動に出ないように。それなら女の子1人でも安心だろ?」
「フフフ。大丈夫、そんな心配してないよ。じゃあお言葉に甘えて、部屋が決まるまでお借りします」

 レベッカは屈託のない笑顔でそう言った。

 改めて思うけどやっぱ可愛いよな。俺が言うのアレだけど、少し無防備だから気を付けた方がいいと思う。

「そういえばもうこんな時間だね。夕飯はどうする?」
「もうそんな時間になるか」
「何も決まっていないならさ、街で買ってルカの家行こうよ! 早く見てみてたいな」
「ハハハ、じゃあそうするか」

 俺とレベッカはそう話し、宿屋に置いてあるレベッカの荷物を取りに行きながら街で夕飯を買って家に帰った。
 


~ルカの家~

「――ここが俺の家。遠慮せず入って」
「お邪魔しまーす!わ~、素敵なお部屋」
「1階のこっちがリビングとキッチン。向こうに風呂とトイレがって、あっちが一応俺の部屋。
2階は部屋が3つあるから、どこでも好きな様に使ってくれて構わないから」
「ありがとう!じゃあ早速2階見させてもらっていい?」

 そんなにはしゃぐ様な豪邸ではないけど、取り敢えず喜んでくれているみたいで良かった。

「いいよ。荷物は運ぶから先に部屋でも決めてくれ」
「ルカありがとう!」

 レベッカはそう言いながら2階へと駆け上がって行った。

「まぁ運ぶって言ってもコレ1つだけどな……」

 聞いた話によると、レベッカは3ヶ月近く宿屋に滞在していたらしい。だが宿屋から持ってきたのはこの大きめの鞄1つだけ。追い出される度に街を転々としていたと言っていたから、荷物はいつも最小限なんだろう。

「――ルカ!部屋決めたよ!」
「はや。今行く」

                         
 こうして、寂しかった俺の家に、レベッカという1人の元気な女の子が住み始めました――。
  
**
 
 レベッカとの思いがけない出会いから早くも1週間――。
 今日も特別変わった事がない1日。この生活にもお互い少しは慣れただろう。レベッカが寝たのを確認した俺は、自分の部屋のベッドでの転がりながらジークと話していた。

「――へぇ~、じゃあやっぱレベッカの魔力イーターってかなりレアな体質なんだな」
<ああ。レベッカのそれは我らモンスターにとっても厄介であるな。まぁレベッカの場合はまだ自身でコントロール出来ていない上に、本来の魔力がそもそも多い。それで余計に手間取っているのであろうな>
「そうか……。常に魔力を吸い込んじゃうって大変だよなきっと。魔力のコントロールさえ出来れば多少は解決になるのか?」
<それは当然だな>

 成程ね……。だったら次のクエスト行く前に、少しでも練習した方がいいな。訓練場は他の冒険者がいるから使えないし……。

「どっか場所ないかな?」
<……>
「ん、聞いてるかジーク」
<……>
「おい、どうしたんだよ急に黙りッ……「ルカ?」

 空けていた部屋の扉の隙間から、レベッカが俺の名を呼んだ。

 あれ、起きたのか。やばい……。まさか今の聞かれてた?

「なんだレベッカ、起きてたのか」
「うん、ちょっと喉が渇いちゃって。それよりルカ、今誰と話してたの?」

 おっと、やっぱり聞かれていたか。別にいいと言えばいいんだけど……。どうしよう。

「気のせいじゃない? ほら、 俺以外部屋に誰もいないし」
「嘘だ」

 一応扉を開いて部屋の中を見せたけどダメみたいだな。完全に疑ってる。

「ねぇルカ、確かにまだ出会って数日しか経っていない関係だけど、嘘はつかないでほしい」
「レベッカ……」
「私はルカとパーティーだよね? 話したくない事があるなら無理には聞かないよ。だからそれならそうだとちゃんと言ってほしい。嘘や誤魔化しは嫌なの……」

 しまった……。コレは滅茶苦茶正論で言葉が出ない。自分でもお互いに裏切りは止めようって約束したもんな。確かに今のは俺が悪い。

「ごめんレベッカ……。俺が悪かったよ。でも決して君を失望させようと思ったわけじゃないんだ……」
「分かってるよ。ただ正直に言ってほしかっただけ」
「そうだよな。じゃあこんな時間で悪いけど、今から俺の秘密を聞いてくれ」
「え……? 」

 レベッカなら話してもいいと思えた。
 いや、寧ろレベッカには聞いてほしかった。彼女の事も知りたいし、俺の事ももっと知ってほしいと思ったんだ。

「眠いなら明日でも大丈夫だけど」
「何よ急に。気になって逆に眠れないよ」

 俺はリビングへとレベッカを促し、暖かい飲み物を入れた後、静かに口を開いた。

「実はさ、俺体の中にモンスターがいるんだ……」

 自分でも凄い話の切り口だと思う。案の定レベッカも目を見開いて驚いているし。そりゃそうだよな。俺達冒険者はモンスターを討伐するのが最重要目的なのに、そんな奴が事もあろうかそのモンスターを体に宿してるんだから。

 あー、やっぱ言わなきゃ良かったかなぁ。僅かな間が永遠にも感じる……。

 どうしよう。これで怖がられたり拒絶されたら……。それはまた結構ショックだな。前回は立ち直れたけど、何か今回はもう無理そうだ。

「そうだったんだね……」

 飲み物を一口飲み、レベッカはグラスをテーブルに置きながらそう呟いた。

 おいおい、コレは一体“どっち”の反応だ? やっぱり怖がられたッ……「だからそんなに強いんだルカは!」

 え……?

「これで納得しちゃったな~。私の特異体質も効かないし、魔力量も凄い。それにルカは魔法使う時に魔力がキラキラキラ~って輝いているもんね! それも全部モンスターの力って事なんだ!」
「あ、ああ……まぁ」

 予想外の反応に俺の方が驚きを隠せない。

「凄いね!モンスターを宿して戦うなんて何か格好いいよね」
「え、そう……? って言うか、怖がったりしないの? と言うかまず信じてくれたの……?」
「フフフ、何言ってるのルカ。全然怖くないし、信じるに決まってる。それにこの状況で冗談言えたらある意味凄いよ」

 レベッカはそう言いながら、何時ものあの笑顔を見せてくれた。

「ハハハ……。ごめん、俺もジークの事自分から話して信じてくれたのレベッカが始めてだからさ、ちょっと驚いてる」

 グレイに話した時は信じて貰えなかった。ジャックさんとマスターには先に気が付かれていたし、それ以外の人に話したこともなかった。

「なぁんだ、もっと言いづらい事情でも抱えてるのかと思ったよ。実は私が美人過ぎて緊張するから寝られないとか!」
「何だそれ。絶対自分で言わない方がいいぞ」
「え、それはちょっと失礼!」
「じゃあ何て言えばいいんだよ。ハハハ」

 照れ隠しで精一杯。確かにレベッカは可愛いよ。だけど当然そんな事は言える筈もない。そして俺のこんな話しを受け入れてくれた事が凄く嬉しくて、凄く照れ臭くて……。

 今はちょっと素直になれないんだ――。

「それにしても、俺の魔力ってキラキラしてるの?」
「してるよ。凄いキレイ! そう言えばさ、さっきジークって言ってたけど、もしかしてそれモンスターの名前?ルカの体に何がいるの?」
「いいかレベッカ。教えるけど嘘じゃないからな。俺の体にいるのは……あの竜神王ジークリートなんだ――」
「え、竜神王って……あの伝説の⁉ あんなのが本当にいるの……⁉」
<“あんなの”とは無礼だな――>
「わッ⁉ なに⁉」

 レベッカの言葉に反応したジークが会話に入ってきた。

「――って、ジーク! お前俺以外の奴とも話せるのか⁉」
<当たり前だ。何故ルカと会話が出来て他の奴と出来ん。そこは我の気分次第だ>

 何だそれ~。3年も経って初めて知ったぞ俺は。まぁ今思えば黙っててくれた方が何かと良かったけどな。バレたらいちいち面倒だし。

「凄い……!本当に存在するだね、竜神王ジークリートって……。驚き」
「俺も驚いてるけど、まぁ取り敢えず害は無いから安心してくれ。王だからちょっと偉そうだけど、根は良い奴なんだ」
<ルカ。貴様そんな風に思っていたのか>
「逆に自覚なかったのか」
「ハハハハ!ルカとジークは仲良しだね。そもそもどうやって出会ったの?」

 レベッカの何気ない問いに、一瞬胸の奥が高鳴った。
 僅かに空けてしまった変な間のせいで、レベッカが何やらバツが悪そうな表情を浮かべた。

「大丈夫だよレベッカ。今まで誰に話してこなかったから慣れてなくて……。
俺がジークと出会ったのは3年前、王国を襲ったモンスター軍の襲撃の時さ――」

 俺は気が付けば全てをレベッカに話していた……。

 母さんが死んだ事、自分が死にかけた事、ジークと出会った事、パーティから追放された事。

 レベッカと出会う前の事も知ってほしくて、俺は全てを彼女に話してた――。

「そうだったんだね……」
<まさかルカが召喚魔法もまともに使えんとは思わなくてな>
「それは何度も悪かったって謝っただろ」
<その後もあんな奴らの為に我の力を使いよって。しかも後方からサポートなど暇で暇でしょうがないわ>
「ハハハ、それも悪かったよ」
<改めて思い出したら腹が立ってきた。我はもう寝るとする>

 そう言ってジークは本当に眠りについてしまった様だ。

「おいおい、何だコイツ。また勝手なッ……⁉」

 次の瞬間、気が付くと俺はレベッカに抱きしめられていた。
 
「辛かったね。もう大丈夫だよ」
「……⁉」

 レベッカのその一言で、俺の目からは涙が溢れ出した――。

 甘い香りと優しい暖かさ。

 そっと寄り添い抱きしめてくれたレベッカの腕の中で、俺は自分の目から流れる大粒の涙を止められなかった――。
~ドラシエル王国・王都~

「――それじゃあラミア、取ってきた薬草と素材の仕分け頼むな」
「うん、わかったわ。任せて」
「取り敢えず次は3日後だな。じゃあまたギルドでな」
「全く……。じゃあな」

 王都に戻ってきたグレイ達はギルドに報告し後、兎に角休もうと直ぐに解散したのだった。パーティを組んで初めてとも言っていい予想外の出来事に皆限界だったらしい。

 翌日――。
 十分に睡眠を取ったラミアは回収した薬草や素材の仕分けを行う為、ギルド近くの作業場に来ていた。

 此処は冒険者達がクエストで回収してきた薬草や素材の仕分けをしたり、買取前に綺麗に洗浄したりする場所だ。

 昨日のクエストでブラハムが野宿の準備をし、トラブルを招いたがゴウキンが火の番を担当した。だから回収した薬草と素材の仕分けはラミアが担当となっていた。

「ふぅ。こんなの直ぐに終わらせて次のクエストまででのんびりしようっと」

 ラミアはこの時、疑うことなく余裕だと思っていた。仕分けなど誰にでも出来る雑用作業だと――。

 ラミアには薬草や素材の知識が最低限は備わっていた。だから回収した素材だって魔法が得意だからすぐに仕分けや洗浄もお手の物だと。だが……。

「ちょっと!これ何⁉ さっきから似たようなのばっかり……。アイツら人がやると思って雑に入れ過ぎなのよ!信じられない!」

 今回ラミア達が回収した薬草や素材は、量だけで見ても平均より少なめ。勿論討伐がメインの為、目的の素材以外はおまけの様なものだ。そして特別貴重な物も無ければ、扱いや洗浄が難しい素材は何もなかった。

 しかし慣れていないラミアは思った以上にこの作業に手を焼いた。途中で心が折れかかってしまう程であったが、薬草や素材は当然汚れている。買取の前にしっかりこの作業をしないと売値が物凄く低くなってしまうのである。

 そうとはしっかり分かっていたが、疲れて集中力のなくなったラミアは作業が雑になった。
 
「あー疲れた、もうこれぐらいでいいでしょ。薬草は大して汚れていないし、このまま売っちゃえばいいわ。後はこっちの素材ね……。これなら――」

 薬草の仕分けが終わり、次に素材に手を付けたラミアだったが、回収の仕方が雑だったせいかこちらも先ずは洗浄が必要だった。モンスターの血や泥がこびり付いていて到底売り物にならない。

 ラミアは素材を綺麗にするのにこれまた時間を要した。

「もうッ……! 何で?全然取れない。私、水魔法が1番得意なのに……!」

 作業場で同じように作業をしている他の冒険者達はいとも簡単にやっている。そもそもラミア達程素材の汚れが酷くもなければ、ラミアと同じ水魔法が得意な者達が手際よく処理していた。

(何でこんなに差が出るの……? ぶっちゃけ頼みたいけど私はSランクパーティーの冒険者。あんな底辺の奴らに絶対お願いなんてしたくない!)

 自意識過剰なプライドが邪魔をし、ラミアは仕方なく1人で作業を進めたのだった。

 そして、全ての素材の処理を終えるのに、結局夜まで時間が掛かってしまった……。



~グレイとラミアの家~

「――ただいま……」

 ラミアが疲れ切って家に帰ると、同棲しているグレイがソファでくつろいでいた。

「おかえりラミア。どうしたんだよ、随分遅かったな」

 そう言いながらグレイは帰ってきたばかりのラミアを抱き寄せ、軽いキスをした。そしてそのまま激しい接吻をしながら、グレイの手はいやらしい動きでスッとラミアの身体を触っていた。

 勿論グレイは“その気”であったが、如何せんラミアは違った様だ。

「ちょっと止めて。先にお風呂に入りたいし凄い疲れたんだから。そんな気分じゃないのよこっちは」
「風呂なんて気にするなって。ラミアはいつもいい香りだから、そのまましようぜ」
「だから止めてって!ほぼ立ちっぱなしで疲れてるの。ゆっくり休ませてよ」

 そういう事ではないと、ラミアは若干イライラした様子でそう言った。一日中くつろいでいたグレイにはそこまで気が回らない。若さ故の欲が勝っているのだろう。

「ただの仕分け作業だろ?誰にでも出来るじゃねぇかあんなの。何そんなにイライラしてるんだよ。それなら俺がその気にさせてやるって、な」

 そう言ったグレイはラミアの服の中にグッと手を入れ、彼女の豊満な胸をいやらしく揉み始めた。

「ねぇちょっと!嫌だって言ってるじゃないッ!」

 ――バチンッ!
 しつこいグレイに対し、ラミアは思わず平手打ちを食らわせた。

「痛ってーな!何すんだよ!手ぇ出す事ねぇだろうが!」

 思い通りにならない事と急な平手打ちによってグレイも怒りをあらわにし、ラミアに怒鳴りつけた。

「先に手ぇ出したのはグレイでしょ⁉ 自分勝手もいい加減してよね!アンタは何もしてないから無駄な体力ばっか残ってんのよ!」
「はぁ? いい加減しろよラミア!俺はリーダーとしての役目を果たしてるだろうがッ! 全員で順番に担当なんだから当たり前だろ!」
「何がリーダーの役目よ! 自分が面倒な事したくないだけでしょ!」
「何言ってんだ!昨日のスカルウルフの襲撃だって最初に気が付いたの俺だろ!」
「あんなの思いっ切りたまたまでしょ!」

 
 結局、グレイとラミアの口論は夜中まで止まらず、散々言い合った2人は喧嘩したまま眠りについたのだった。

 だが次の日の朝。
 一晩明け冷静になったのか、2人は仲直りをするなりまた甘い世界へと入り込んでいくのだった――。

♢♦♢

~冒険者ギルド~

 前回の解散時から約束の3日後。
 この日は次のクエストを受けるべくギルドに集合する予定だった。しかし、前夜に甘い世界でラブラブしていたグレイとラミアはかなり遅刻。既に待っていたブラハムとゴウキンは呆れた顔でギルドに来た2人を見ていた。

 だがブラハムとゴウキンがそんな顔をしていたのには他にも理由があった――。

「悪いな遅れて」
「ふん、そんな事は“もうどうでもいい”」
「ああ。それよりも……」

 次のゴウキンが発した言葉に、グレイとラミアは固まった。

「は? ルカがSSSランク……?」

 驚くというより、何を言っているんだといまいち吞み込めていないグレイ。ルカがFランクという事はここら辺の冒険者界隈でも当然知れ渡っている。今ブラハムとゴウキンと話している他のパーティの者達もそうだ。

 Fランクはある意味SSSランクぐらい珍しいとも言えるから。

 グレイは胸の奥底で一瞬嫌な感じをしたが、それには気にも留めず話を進めた。

「そうらしいぜ。何か受付で黒色のタグ出しててよ、係りの人に聞いたら確かにSSSランクって言ったんだよ」
「いやいや……。どうやったらそんなにランク上がるんだよ。つうかそもそもあのルカだぞ!何かの間違いだろ!」
「俺達だってそう思ってるけどな」
「そりゃそうだ、だってあのルカだからな! 多分お前らのとこのレベッカより使えないだろ」
「そうなのか?まぁこっちはこっちでルカの事より、そのレベッカが何より問題なんだけどさ……」

 グレイが1ミリも納得出来ない中、ブラハム達の雑談はいつしか話題がルカから他の冒険者へと切り替わっていた。

 ただグレイのモヤモヤは全く消えていない。

(一体どういう事だ?あのルカがSSSランクなんて絶対有り得ねぇぞ……⁉︎ 完全に人違いだ。受付の奴が何か勘違いして言ってやがるに違いない。

ルカとはこれでも幼馴染。俺が冒険者になった時からずっと知っているが、アイツは間違いなくFランクだ。しかも雑用しか出来ない。

考えれば考える程、絶対間違いの他ない。万が一そんな天変地異が起こったとしても、アイツが俺達のパーティを抜けたのはほんの数日前……。

この僅かな時間でFランクがSSSランクなんて死んでも有り得ねぇ!)

 絶対に有り得ない筈なのに、グレイは何故か苛立ち収まらなかった。

「無駄話してないで行くぞお前ら!」

 グレイパーティは前回のソンモンキー討伐の失敗を取り戻すべく、新たな討伐クエストを受けるのだった──。
 グレイ一行は、新しく受けた討伐クエスト目的地である、王国からほど近いウォール湖に来ていた。

「――ハァ……ハァ……。もう追って来てねぇか……?」
「ええ……もう大丈夫みたい……」

 グレイ達は徐に後ろへと振り返り、モンスターの存在を確認していた。
 
 前回の経験から、無駄な体力を極力使わない様、最低限のモンスターだけ討伐しながら前へ前へと進んでいた。今回の討伐目的であるチャイルドベアーはAランクの中でも下位クラスと弱めである。今度こそ大丈夫だと誰もが思っていた――。

「くっそ、また結構体力使っちまったな……。誰か回復薬持ってないか?」
「全く……これでも飲んでおけ」

 皆より一回り図体がデカいせいだろうか。中でも1番体力を消耗していたゴウキンがそう言い、ブラハムが持っていた回復薬を渡した。

 ――ゴクゴクゴクゴクッ……。
 余程疲れていたと見えるゴウキンは回復薬を一気に飲み干し、機嫌が悪そうに口を開く。

「この間から思っていたけどよ、何か最近回復薬の効き目が妙に悪くないか?」
「それは俺も思ってたぜ。ちょっと前までの回復薬は平気で半日以上効果があったのに……」

 これに関してはグレイも疑問に思っていた。ここ最近、どうも回復薬の効果がいまいち。1度飲んでも余り効果がない為また直ぐに使うしかなかったのだ。

「でもおかしいわね……。普通に商店で買っているのに」
「回復薬の質が下がったのかな? まぁでもそれは他の冒険者も同じだろ。今まで以上に多く持って行くしかないよな。売ってる回復薬はコレしかないんだから」

 ルカが特別仕様で作っていた回復薬だとは当然まだ知る由もないグレイ達。パーティから追放した際にルカ本人から言われていたにも関わらず、今は誰もそんな事覚えていないのだ。

 これが身に染みて分かるのはもう少し先のお話――。



「……おい、見つけたぞ!チャイルドベアー!」

 討伐の対象であるチャイルドベアーを見つけた。
 チャイルドベアーは普通の熊よりももっと大きく攻撃的な性格のモンスターだ。遭遇した時、冒険者達がまるで赤ちゃんに思えてしまう程の体格差と存在感からその名が付けられたと言われている。

「サクッと終わらせるぞ。何時も通りの連携だ。いけ、ラミア!」
「ええ。ファイアインパクト!」

 前回は疲労とイレギュラーで攻撃が甘かった為、今度こそ確実に仕留めようとラミアは自身の中でもトップクラスに威力のある攻撃魔法を放った。

 見事命中したラミアの攻撃に続き、今度はゴウキンの重い一撃で敵の動きを更に鈍くさせる。

 そして間髪入れずブラハムの槍攻撃が炸裂し、お決まりのパターンでグレイが止めの一撃を振り下ろした。

「食らえッ、チャイルドベアー!」

 グレイ達の得意の連携攻撃は完璧に決まった。 

 だがしかし……。
 前回のソンモンキー同様、チャイルドベアーは倒れていなかった。

「なッ……⁉」

 唯一ソンモンキーと違うのは、辛うじてダメージは与えられていた事。だが仕留めるまでには及んでいなかった。ふらつきながらも体勢を立て直したチャイルドベアーはそのまま正面にいたグレイに攻撃を仕掛けた。

「畜生、またじゃねぇか! 何で俺達の攻撃で倒れない⁉」

 動揺しながらも何とか攻撃を躱したグレイは、剣を振りかざし応戦した。他の者達も最後の止めを刺そうと必死に応戦する。

 だが如何せん、中々決定打に恵まれなかった。

「おい、回復薬よこせ!」
「俺は持ってねぇぞ!さっき渡したので最後だ! お前らは持ってねぇのか!」
「冗談だろ……!俺は持ってねぇぞ。ハァ……ハァ……それに体力が ヤバい……!」
「嘘でしょ⁉ このままだと討伐どころか全滅の危険性があるじゃない!」

 思いがけない数時間に及ぶ戦いで、回復薬も切れ全員が満身創痍の状態であった。この状況を見たグレイは思い切り歯を食いしばって指示を出すのだった。

「くそくそくそッ……! 全員、撤退だッ!!」

 グレイパーティーはまたしてもクエストに失敗した――。

♢♦♢

~冒険者ギルド~

「――え、モンスターの再調査?」
「だからそうだって言ってるだろッ!」

 ドラシエル王国の王都にある冒険者ギルド。今ここで、深夜にも関わらず怒号が聞こえていた。

「……? 確認しますけど、チャイルドベアーで間違いないですよね?Aランクの」
「そうだッ!この前もソンモンキーが間違っていたんだぞ!何してるんだよお前らは!いい加減してくれ!」

 グレイが怒鳴り散らしている相手は、この日ギルドの夜勤担当であったSランク冒険者のリアーナ。

 何やら必死で訴え掛けているグレイを見て、リアーナは少し悩んでいる様子である。それはジャック同様、モンスターが本当にランク違いなのか否かだ。確かに稀に突然変異の個体が現れるし、グレイはAランクの冒険者。普通の見解であれば確かにチャイルドベアー程度なら倒せるランクだ。

 僅かに疑問を抱いたが、グレイの顔をしっかり見たリアーナは、何か腑に落ちた様なスッキリした表情になり、優しく微笑みながらグレイに聞き返した。

「分かりました。再調査の手続きはしておきましょう。それともう1つ確認ですが、確か貴方はルカ・リルガーデンが元いたパーティの御方ですよね?」
「――! ん?それは確かにそうだけど……。今はそんな事関係ねぇだろ!」
「フフフ、やはりそうでしたか。では今回の件はしっかり報告させて頂きます」

 リアーナの言葉に納得したグレイはそのままギルドを後にするのだった。

「アレでAランクですか……。初めて見ましたが納得ですね。あの程度の度量ではルカの真価に気付けないのも頷けます。
調査はあの方に頼めば色々面白いことが分かりそうですね。フフフ」

 リアーナは凍りつくような視線と微笑みでギルド出ていくグレイを見ていたが、グレイ本人は当然知らなかった――。


~ギルド横の作業場~

 建物内ではラミア達が集まって素材等の整理をしていた。机の上には今回回収した薬草や素材が置かれている。

「――私は今回薬草を回収しながら進んだから、コレの後作業は全部グレイでいいと思うんだけど」
「そうだな。今回は日帰りだったけど、俺回復薬とか野宿用の準備もしてたし」
「俺も素材を回収した。後は何もやってねぇグレイに任せるか」

 ラミア達は意見が一致。今回の後作業はグレイに決まったようだ。今回も疲れている皆は早く帰りたそうである。そこへギルドに文句を言いに行ったグレイが戻ってきた。

「ここにいたのか。で?今回は誰が当番なんだ?」

 呑気に声を掛けたグレイ。自分は全く関係ないと言わんばかりの態度だ。この態度が余計に皆を苛立たせた。

「私は薬草これだけ集めたから今日はもう帰るわ」
「俺も次のクエストの準備とか補充があるからパス」
「素材は俺が全て回収した。今日分の働きは終えたから帰る」

 ラミア達はそう言って作業場を出て行こうとしたが、グレイが納得いかない表情で呼び止めた。

「は?何言ってんだよお前ら。 だったら誰がこの処理するんだよ!」
「「――お前がやれッ!!」」

 予想外の態度と言葉に、グレイは驚いて言葉が出なかった。そしてその間にラミア達は堂々と帰って行くのであった。

「おいおい……ふざけんじゃねぇぞ。何でリーダーの俺がこんな雑用しなくちゃいけねぇんだ!クソが!」

 文句を言ったがもう誰もいない。
 目の前に散らかった薬草と素材を見て更にイライラしたが、これをやらなければ全くお金にならない。グレイは渋々作業をやり始めたが薬草や素材の知識もなければ当然やり方も分からなかった。

 散々馬鹿にしていた雑用すらも出来ないと思わず悟ってしまったグレイは余計にイラついた。だからと言って誰かに教えてもらうなど到底プライドが許さない。

「チッ、面倒くせぇからもうこのままでいいだろ」
 
 グレイは結局何もせずにそのまま全て袋に詰め、雀の涙程の料金で買い取りに出し、イライラが収まらないグレイはその金で酒を買い、朝まで飲んでいたのだった――。                
~ルカの家~

「――おはよう」
「あ、ルカ!おはよう」

 昨晩の出来事から一夜明け、目が覚めた俺は既に起きてリビングにいたレベッカに声を掛けた。

 何か微妙に気まずい……。
 柄にもなく人前で泣いてしまった。しかも結構がっつり。それも女の子の前で。

 全く気にしていない様子のレベッカは朝から変わらず元気だが、正直俺は滅茶苦茶恥ずかしくてこの場にいるのがちょっと嫌だ……。と、思っていたのだが、よく見るとレベッカも些か顔が赤く見えた。

 ひょっとしてレベッカも気まずいのか……? やばい。余計に俺まで意識し始めちゃったけど、流石に無視する訳にはいかねぇぞ……。

「レベッカ、今日クエストに行こうと思うんだけどどう?」

 俺は精一杯普段の自分を取り繕って、何気なく声を掛けた。

「え、クエストに? 勿論大丈夫だよ。寧ろ行きたいな!」

 一瞬恥ずかしそうに見えたけど、自然に返事を返してくれた。
 取り敢えず大丈夫だよな。意識する方が余計可笑しくなるし……。

「それじゃあ朝飯食べたらギルドに行こうか」
「うん、分かった!」

♢♦♢

~冒険者ギルド~

「――あ、ルカさん!実はちょっとご相談が……」

 クエストを受け様と受付に行くなり、マリアちゃんが俺達にそう声を掛けてきた。

「どうしたの?」
「あの、昨夜リアーナさんから調査の依頼が入りまして……。調査と言っても問題なければそのまま討伐してほしいと。対象はウォール湖のチャイルドベアーで、リアーナさんから是非ルカさん達にお願いしたいと頼まれているんですけど」

 マリアちゃんは事情を説明しながらクエスト内容が記された紙を見せてくれた。

「リアーナさんって……あのSランク冒険者の? この間初対面でマスター達と一緒に俺を攻撃してきたあのリアーナさん……?」

 勿論その名前は知っている。氷の魔法使いリアーナと呼ばれる有名な人だから。しかも既に会うどころかまともに挨拶する間もなく攻撃されるという特殊な出会いをした関係だからな。

「そうです。そのリアーナさんが是非ルカさんにと依頼をされているのですが、どうでしょうか?」

 正直理由が全く分からない。確かに先日の件で面識はあるが、何でわざわざ俺なんかにお願いしてくれたのだろうか?

 とても疑問に思ったが別に断る理由も無い。
 寧ろクエストを受けに来た訳だし、幾ら個人のランクがSSSであってもパーティを組んだのはつい最近。肝心のパーティランクはFのままだからどの道Fランクのクエストしか受けられなかった。だからある意味ラッキーだなコレは。

「その話し受けさせて下さい。あ、勿論報酬とかは貰えるよね?」
「本当ですか! ありがとうございます、助かります!勿論報酬は出ますよ」
「了解。じゃあこのクエスト行ってきます」

 こうして、ひょんな事から俺はリアーナさんから頼まれたクエストを受ける事にした――。

(流石ルカさん、頼りになりますね。リアーナさんにも早速報告しなくちゃ。え~と、確か依頼を受けて貰ったらルカさんのパーティーランクを一気にDまで上げる様にとの事だったよね……。

よし。これで登録完力っと!
 
それにしても、さっきはリアーナさんが止めにきてくれて良かった。グレイさんに、朝から調査したモンスターの結果はどうだったかと詰め寄られて大変だったから凄く助かった……。

事情はよく分からないけど、リアーナさんからももうグレイさんの言う事は無視していいと言われたから、もしまた同じ様な事があったら早めにマスターにでも助けてもらわなくちゃ――)


♢♦♢

~ウォール湖~

 綺麗な湖として知られるウォール湖。王国から割と近い位置の湖だが、ここは辺りの森が結構入り組んでいる。そこまで危険なモンスターはいないが、唯一ここらを縄張りに生息しているチャイルドベアーだけが厄介な存在だろう。

「――全然魔獣が寄ってこない。これもルカの力なの?」
「まぁな。正確にはジークだけど」
<よく分かっているな。我の魔力ならば大抵の雑魚は寄ってこぬ>

 ジークの力は本当に使い勝手が良い。コレもドラゴンの王の力なんだろう。本来なら当たり前に出るモンスターが本当に出て来ない。虫除けみたいな効果があってとても便利。

「凄いね! 流石伝説の竜神王」
<まだまだ我の力はこんなものではない>

 機嫌がいいジークは珍しくずっと話している。
 コイツは結構単純な所がある。勿論本人にはそんな事言えないけどな。それにレベッカの自然な反応もまた良いんだろう。

「――うるせぇな! リーダーは俺だろ!」

 森に入って直ぐ、俺とレベッカではない聞き覚えのある声が不意に響いてきた。

 うわぁ……。この声は間違いない。でも、会いたくねぇな。


「は⁉ 何だその言い方!」
「だったらお前は何するんだグレイ!」
「また何もしないつもり⁉ 私だって今日はもう何もしないからね!」

 やっぱりグレイ達か――。
 何でこんな所で言い争っているのか知らないけど、会ったら絶対面倒だな……どうしよう。

<ルカ、こっちからも奥に進めるぞ>

 俺と同じ事を思ったのか、ジークが別の道を教えてくれた。

「本当に? それならこっちから行こう。レベッカ、こっちだってよ」
「う、うん。もしかしてあの人達って……」
「そう。あれが俺の元パーティーの奴ら。そんなのどうでもいいから早く行こうぜ」

 見るだけで気が滅入る。
 正直何時か顔を合わせた時、俺はどういう気持ちでいるんだろうと思ったが、実際にそうなると何でもない。どうでもいいし関わりたくもなかった。

 俺にはジークがいるし、レベッカもいるんだから――。


♢♦♢


~ウォール湖・湖前~

「着いたな。じゃあ一先ず、今日は1人で任せてもいいかレベッカ」
「え⁉ 1人で……?」
「ハハハ、勿論俺もフォローはするよ。ジークとも話したんだけど、レベッカのその魔力イーターって言う体質、先ずはやっぱりそれをコントロール出来た方がいいんじゃないかと思ってさ」

 話はやはりここからだと思う。
 俺は勿論の事、魔力イーターをコントロール出来ればレベッカ自身が1番助かるし、悩みも無くなるんだから。それにこの能力は自在に扱えればかなり強力だ。

「魔力イーターの力をコントロール……」
<そうであるレベッカ。主は元の魔力量が高い事に加え、他の者の魔力も吸い込み取り込んでしまう。故に人並み以上にコントロールが難しい。
だがそのコントロールが出来れば、主の1番の強みとなろう>
「そっか……分かったよルカ、ジーク“ちゃん” ! 私やってみる」
<なッ……⁉>

 レベッカはやる気になったらしく元気よく返事をした。だが気になったのはそのすぐ後――。
 
 レベッカがまさかのジークをちゃん付けで呼んだ事に、ジークは勿論俺も一瞬驚いた。だが……。

「ハッハッハッハッ!」

 気が付けば俺は笑っていた。

<な、おいッ……笑うでない! それにレベッカよ! 今の呼び方は何だ!>
「呼び方って……もしかして嫌だった? 私は可愛いと思うんだけど。ジークちゃんって!」
「ハ~ハッハッハッ!」
<コラッ! 笑うなでないぞルカ!>

 思いがけない話の流れによって、レベッカの中で呼び方はジークちゃんになったらしい――。

<もうよい! 早くあの熊を倒せ!>

 口調は荒いが本当に怒っている訳ではない。これは恥ずかしくて照れ隠しをしている。俺にはそれが直ぐに分かった。

「うん、やってみるね!」
「あっちにいるなチャイルドベアー。魔力を感じる」
「よーし……」

 目的でったチャイルドベアーは目と鼻の先。岩陰に隠れていたが、魔力感知でレベッカも位置を捉えた様だ。そしてレベッカは集中した表情で魔力を高めると、魔法攻撃を繰り出した。

 ――ズガァァァンッ!
「わッ⁉」

 レベッカが放った攻撃は岩を砕き、そのままチャイルドベアーを直撃。1発で倒してしまった。

「な、何今の威力……⁉ 何時も通りに打っただけなのに凄いの出ちゃった……」
<今は我の力も反映されている。そんなに力まずもっと楽に放てば良い>
「そうなんだね……。分かった!次は気を付ける」
<じゃあついでに向こうにいるモンスターを狙ってやってみろ>
「うん!」

 その後レベッカの魔力コントロールの為に暫しモンスター討伐をした後、俺達はギルドへと戻った――。

~冒険者ギルド~

「――おい、聞いたか? ルカの野郎、あの使えない奴と組んだらしいぜ?」
「え、それってこの間話していた子? なんか人の魔力吸って使えなくしちゃうとかいう……」

 チャイルドベアーの討伐が失敗に終わったグレイパーティは、また新たなクエスト受けるべく冒険者ギルドに集まっていた。

 グレイは昨日のイラつきと二日酔いが相まって、朝から冒険者ギルドに来るなり受付にいたマリアに当たっていた。何やらツブツと文句を言っていたが、リアーナが帰る時にたまたま居合わせ、困っていたマリアはリアーナに助けられたのだった。

 そしてリアーナが上手く話を済ませると、納得したグレイは大人しく離れた椅子に腰を掛け、そのまま眠りについていた。

「グハハハ! 雑魚は雑魚同士で引き寄せ合うものだ!」
「確かに、間違いないわね」
「雑用と訳アリでパーティ組んで何するんだよな全く!」

 ギルドに集まったラミア達はゆっくり休めたのかいつも通りのテンションだ。ルカとレベッカの噂話をして盛り上がっている。何時しか眠っていたグレイもその話し声で目が覚めラミア達の元に行ったが、どうも話しに入るテンションではない様子である。

 その時、ギルドにいた他の冒険者達の話がグレイ達に聞こえた――。

「なぁ、お前も聞いたか⁉」
「何がだよ」
「あのFランクのルカって言う冒険者がここ最近、グリフォンとベヒーモスを連続で討伐したらしいぞ!」
「え⁉ グリフォンとベヒーモスを⁉ そんなの何かの間違いだろ……。しかもルカってFランクの奴だろ?」
「ああ、そうだよ!しかもコレ本当の話らしいぜ!再診断でSSSランクになって黒色のタグをマスターから貰ったらしいんだよ! しかも更に驚け!何とどっかのSランクパーティが倒せなかったソンモンキーの突然変異個体を、いとも簡単に倒したらしい!」
「は⁉ 凄いなそりゃ!」

 会話を聞いたグレイ達は互いに目を見合わせていた。

「嘘でしょ……?」
「いやいや、そんな訳ないって。有り得ない」
「だったら今の話はなんなんだ?」
「それは分からねぇけど……」
「討伐したのはヤバい子の方じゃない?」

 グレイ達もまるで理解が追い付かない。彼らにとってはとても信じられない話だからだろう。

 徐にギルド内を見渡すと、よくよく見ればギルド中の冒険者達がルカ達の話題で持ちきりであった――。

「絶対有り得ねぇだろそんなの……!どんな卑怯な手を使ったんだ」
「そうよね。ルカは討伐どころかまともに戦える訳がないわ! 雑用しか出来ないんだから!」
「グハハハ、遂に何やら姑息な手を使い出したか」
「じゃなきゃ有り得ないわよ。……ってグレイ、何時まで黙ってんの?」

 終始黙っていたグレイにラミアが声を掛けた。
 だがグレイはまだ話す調子ではない。昨日の事と優れない体調のせいで体が重かった。しかもまだグレイは昨夜の薬草や素材の処理が出来なかった事にモヤモヤしている。

(くっそ……。俺だってあの程度本来なら出来るんだよ……。今までずっとやる機会がなかっただけだ。俺はパーティのリーダーで皆をまとめていたからな。
あんな雑用直ぐに覚えられる。役立たずのルカと違って俺は何でも出来るんだからよ……!)

 一心不乱に雑念を取り払ったグレイは、開き直ったお陰で何時も通りの調子を取り戻した様だ。勝手に傷ついたプライドも修復したらしい。

「悪い悪い、ちょっと酒が残っていてな。もう大丈夫だ!
なぁに、ルカの事は絶対に何かの間違いさ。お前らの言うようになにか卑怯な手を使ったんだろう。追い込まれればネズミも知恵を絞るからな。
普通に考えろよ、あのルカだぜ? ずっと俺達の雑用しかしてこなかったアイツが、どうやってモンスター討伐するんだよ。スライム1体召喚出来ない無能の召喚士がよ!」

 本調子に戻ったグレイの言葉に、ラミア達もすっかり納得した表情を浮かべていた。

「だよな! あのルカが倒せる訳ねぇ。一瞬でも疑った俺が馬鹿だったぜ!」
「キャハハ、全くだわ! 」
「他の奴らはルカの実力をまともに知らない。だからこんな根も葉もない噂に泳がされてるんだ」

 グレイ達はこれ以上ないくらい頷いて納得していた。

「その通りだ。俺達が倒せなかったソンモンキーを、どうやったらついで感覚で倒せるんだよ。しかもやっぱり突然変異の個体“らしい”じゃねぇか!
全く……誰だよこんな噂広めたのは? でたらめもいい所だぜ」
「下らない時間を使ったな。早く次のクエストに行こうぜグレイ」

 グレイ達はこの事実を信じる訳がなかった……。
 そして、この確かな噂を広めた者がリアーナである事も、当然グレイ達は知る由もないのだ――。

「次は確実に仕留めるぞ。回復薬も大量に持ってモンスター除けも買おう。万全の状態でクエストに行かねぇとな。もし失敗すればAランクへ“降格”になっちまうぞ」

 そう。
 パーティーランクはギルドで定められた基準値に沿ってランク付けされている。クエストの達成数や討伐実績などがパーティランクに反映される決まりになっているのだ。クエストを成功させればポイントが付与され、失敗すればポイントは減る。この獲得したポイントによってパーティランクも上がったり下がったりするのだ。

 グレイ達はSランクパーティになったものの、最近のクエスト失敗の連続でポイントはギリギリ。まさにこれから受けようとしているクエストで失敗してしまうと、Aランクパーティに降格してしまうのだ――。

 良くも悪くもSランクパーティは目立つ存在。
 もしAランクパーティに降格するような事になれば、たちまち今のルカ達の話題同様、ギルドや他の冒険者達の注目の的となってしまうだろう。

「今日は何がなんでもこのAランククエスト成功させるぞ!」

 こうしてグレイ達は目的のモンスターを討伐するべく、昨日同様ウォール湖へと足を運んだ――。

♢♦♢

~ウォール湖~

「――何やってんだお前ら!真剣にやれッ!」

 綺麗な湖を前に、突如グレイの怒号が響いた。

 今回の討伐対象はウォール湖に生息する“ネッシーマン”であった。
 湖の中に生息するネッシーマンは首の長いAランク指定のモンスター。

 湖まで辿り着き、目的のネッシーマンを見事見つけたグレイ達は何時もの連携攻撃を仕掛けた。そしてしっかりと攻撃は決まったのだが、またして倒しきるまでには至らなかった――。

 反対に、今度は攻撃されたネッシーマンが魔力を高め陸にいるグレイ達に突っ込んで行った。

『ギヴォォォォ』
「クソがッ! だから何で倒せねぇんだよッ! 真面目にやれ馬鹿共!
「何が馬鹿だ! こっちは真面目にやってるだろうがよ!」
「俺だっていつも以上に魔力を込めているぞ!」
「そうよ! アンタこそちゃんと止め差しなさいよグレイッ!」

 今回は回復薬も多く持ってきた。
 余計な出費だがモンスター除けも買った。
 ここまで来るのに体力も消費しなかった。

 それなのに倒せない現状に皆はただ焦り困惑し、その後も闇雲に必死で攻撃し続けた。暫く経って不意に冷静になったグレイが気付く。 

「おい、皆の攻撃がバラバラだ! もう1度しっかり連携を取って確実に決めるぞ!」

 グレイの指示で最後の連携攻撃を繰り出した一行は、これまで何百回とやってきた得意の連携攻撃を今度こそネッシーマンに決めた――。

「よし!これでどうだッ!」

 いつの間にか回復薬も使い切り、最後の魔力を振り絞って繰り出した連携攻撃。確実に攻撃は命中しネッシーマンにダメージを与え、その巨体は湖に静かに沈んでいった。

 ……かに思われたが、突如湖面がバチバチと光り出した。

『ギヴォォォォ!』
「なにッ……⁉」

 湖の中から勢いよく姿を現したネッシーマンは、倒されるどころか得意の雷攻撃を口からグレイ達に放つのだった。

「に、逃げろぉぉッ……!!」

 全員がその場から走り去った。全員が我先にと……。

 途中で誰かが躓いたが立ち止まらない。

 事もあろうか、リーダーであるグレイは誰よりも自分の命が大事であったのだ――。









 こうして、グレイパーティーはまたもクエスト失敗。

 Aランクへの降格が決まった――。

♢♦♢

~冒険者ギルド~

 リアーナさんの依頼を達成した俺達はギルドに戻った。
 受付のマリアちゃんに「特に変わった様子は無かった」と調査結果を報告していると、突如ある男がレベッカに声を掛けてきた。

「――おい、レベッカ! お前Sランクになったと言うのは本当か?」

 ニヤニヤしながら急に現れたこの男。何処かで聞いた事のある声だと思ったら、レベッカの元パーティの奴だ。話し掛けられたレベッカも一瞬で不快そうな顔つきになっていた。

「何ですか?」

 口調と雰囲気から怒ってるのが分かる。
 そりゃそうだ。レベッカに幾らか非があるとは言え、あんな場所で急に捨てられたんだからな。

「それが本当ならパーティーに戻って来い! 歓迎してやるぞ」
「……結構です」

 馬鹿なのかこの男は……。自己中にも程がある。不愉快だな。

「ガハハハ! そんな奴とパーティー組んだって良い事ないだろ。俺達はAランクパーティなんだからよ」
「例え貴方達がSSSランクでも私は戻りません。そもそもそういう問題じゃないんです。私はルカとしか組みませんから、もう話し掛けないで下さい」

 おー。凄い怒ってるなレベッカ。こんなに怒れる子なんだ……。って言うか俺としか組まないってヤバいな。嬉しくて思わず顔が緩みそうだ。

「なんだお前ッ! 急に偉そうになりやがったな! 強気な女も嫌いじゃない。リーダーの俺が戻って来いって命令してるんだから大人しく戻れよ!」

 ――ガシッ……!
「……⁉」

 男がレベッカの腕を掴もうと手を伸ばしたが、俺はそれよりも早く男のゴツイ腕を掴んでいた。

「てめぇ、何レベッカ触ろうとしてるんだコラ――」
「あぁ?」

 気が付いたら反射的に手が出ていた。今更引っ込める訳にもいかないし、そのつもりも毛頭ない。

「俺のパーティに手を出すな」
「お前には関係ねぇだろうがッ! 離しやがれ!」

 怒る相手に対し、俺も相当怒っているが妙に落ち着いた気分でもあった。
 男は俺が掴んでいる手を思い切り振り払うと、再びレベッカへと手を伸ばした。

「<――触るんじゃねぇ>」
「「……ッ⁉⁉」」

 男の態度にキレた俺は、無意識にジークの覇気を放っていた――。

 簡単に言えばこの力は竜神王ジークリートの“威圧”。コレを向けられた相手はその圧倒的な威圧から恐怖が生まれ、動けなくなるのだ。

 凄い力業だから余り好きじゃない。滅多に使わないし、人に向けたのも始めてだ多分……。案の定、俺より遥かに図体のデカいこの男も全身が震えている。

「あ、あぁ……⁉」

 俺を見ながらどんどん顔も青ざめていく。
 ジークの覇気の影響を受け、コイツだけでなく周囲にいる者達にも影響が出てしまっていた。

「次レベッカに手を出したら殺す――」

 最後に一睨みしながら奴を脅すと、男は膝から崩れ落ちその場で失禁したのだった。

「ル、ルカ! もう私は大丈夫だから、ね、落ち着いて……?」

 無意識に周囲に覇気を放っていた俺だったが、レベッカには向けていなかった様だ。1人だけ無事であったレベッカがそっと俺の手を掴み鎮めてくれた。

 彼女の温もりによって俺もハッと我に返った。


「あ、ああ……ごめんレベッカ。大丈夫か?」
「私は大丈夫! ルカももう平気?」

 微笑みながら言うレベッカを見て、俺は一瞬我を忘れてキレてしまった事に急に恥ずかしさが生まれた。

 しまった。コイツだけならまだしも、関係ない人にまで影響を与えてるじゃないか……。何やってんだよ俺!

「俺も大丈夫だ。ありがとう」

 一先ず事なきを得た様だが、この雰囲気は余りにも気まずいな……。
 そんな事を思っていた俺に救いのヒーローが現れた。

「――よーし、ここらでお開きだ。皆自分のクエストに集中してくれ! それと漏らしてるお前! 事の経緯は見させてもらった。取り敢えずマスターに報告するからこっち来い」

 場を何時もの雰囲気へと戻してくれたのはジャックさんだった。
 ギルドにいた人達をそそくさと促し、まるで今の出来事が無かったかの如く対応してくれた。

「ありがとうございますジャックさん! なんとお礼を言えば良いか!」
 
 思わず俺はジャックさんにハグしながらお礼を言った。

「止めろ、くっ付くな。それにルカ。お前もマスターの所に来い。横のお嬢ちゃんもな」
「え、俺達もですか――?」


♢♦♢

~マスターの部屋~


 取り敢えずクエストの報告と処理を終えた後、俺とレベッカはジャックさんに言われた通りマスターの部屋に訪れていた。

 そして、部屋に入るなり何故か4人の者達がマスターの前で正座をしていた。コレは何か見てはならぬものを見てしまったのでは……と思いながら恐る恐る部屋に入り状況を確認すると、正座していた1人はさっきひと悶着あったレベッカの元パーティのリーダー男だった。

「――先ずはリアーナの依頼を受けてくれてありがとうルカ君。それにレベッカ君もね。その話を聞きたい所だが、先に“こっち”を処理しようか」

 マスターはそう言うと、俺達をソファへと座るよう促した。

「疲れている所申し訳ないね。早速だが、レベッカ君……。もし嫌でなければ、君がパーティーから外された時の事を詳しく聞かせてほしい。

彼らから聞いた話だと、何やら君が魔力を吸い取った後に、勝手に森の奥へと走っていなくなってしまい、姿が分からなくなったと言っておるのだが……。コレは事実かな?」

 成程。さっきのひと悶着でレベッカの元パーティの奴らが事情聴取でもされたのか。そしてその事実を確認する為に俺達も呼ばれたと。

「いえ、違います……。確かに皆さんの魔力を吸い取ってしまいましたけど、私は自分で走り去ったのではなく、森の中で突如追放されてしまい、あのばに置いて行かれました……」
「成程ね。では、今しがたの受付前の騒ぎはどういった経緯だったかね? 分かる範囲で聞かせておくれ」
「あ、はい。私とルカがクエストの報告をしていると、当然彼にパーティーに戻って来いと言われました。なのでお断りをしたら無理矢理腕を掴まれそうになり、それをルカが止めてくれたんです」

 マスターはジャックさんに「事実かね?」と目配せで確認を取る。

「そうですね。それにさっきこのお漏らしを連れて行く際、気が動転していのか知りませんが、彼女を力尽くで自分の女にするつもりだったとも呟いていましたよ」

 覇気の影響で意識が朦朧としたのか、ジャックさんの言葉に男は目を見開いて茫然としていた。

「成程成程。ではルカ君は仲間を助けようと“力を使った”訳だね?」
「はい……すみません」

 俺は何故か謝っていた。
 マスターの何処か棘のある言葉が無意識にそうさせたのだろう……。だが今回は俺も悪い。無暗に人に使う力ではないんだから。

「うむ、よく分かった。それでは“処分”を言い渡そう――」

 マスターは突如冷たくそう言い放った。

「君達はメンバー全員、このドラシエル王国より追放とする。金輪際王国に立ち入る事を私が許さない」
「そ、そんなッ……⁉」
「そしてルカ君――。
君は仲間の為とは言え、不用意に関係ない者達にまで危害を加えた。よって1週間の謹慎処分を言い渡す」
「……分かりました」

 これでも罰にしては軽過ぎる。俺は無関係の人を傷付けてしまったんだから……。今回の事は猛省しなくちゃいけない。

「王国から追放なんて噓ですよね⁉」
「そ、そうですよ! 私には普通に家族がいます……!」
「責任はリーダーのコイツ1人だろう!何故俺達まで⁉」

 当たり前かの如く、レベッカの元パーティの奴らは納得していない。

「ハハハ、面白い事を聞く者達だ。自分が捨てたのならば、それはまた自分も誰かに捨てられるという事だ。
逆に何故自分達は捨てられぬと思った?勘違いも甚だしい。私の管理下で最も重い罪は、仲間や家族を裏切り見捨てる事だ!そんな奴らは冒険者を名乗るでないッ!
当たり前の事が出来ぬ自己中な冒険者など、いればいる程迷惑でしかないわ――」

 マスターの言葉に、もう誰も反論する者はいなかった――。