~冒険者ギルド・マスターの部屋~
成程、マスターの本当の目的はレベッカか――。
俺とパーティを組んだことにより能力が上がったレベッカは、冒険者の中でもかなり貴重なSランクとなった。勿論、ジークの魔力の恩恵もあるが、レベッカはやはり元の能力ガ高かったんだろう。変な体質さえなければAランクでもトップクラスの実力があるとマスターが今しがた言っていた。
確かに王国としてもギルドとしても、そして責任者であるマスターとしても当然Sランク冒険者の存在はとても重宝したいところだろう。ドラシエル王国は今Sランクが10人いるかいないかぐらいだから、その人達も負担も少しは減るからな。
それにしてもマスターよ――。
俺の時に向けていたあの禍々しい殺気は何だったんだ。レベッカのこの面談では微塵もそんな素振りがないじゃねぇか。
まぁ俺の時は話の内容が内容だったから無理もないが……。
「――それではレベッカ君、君のこれからの活躍を期待しているよ。そして是非ともその素晴らしい力を、王国や我々の為にも振るって頂きたい」
「はい、勿論ですッ!王国や皆さんの為に精一杯頑張りたいと思います!」
「ハハハ、ありがとう」
マスターに褒められてレベッカもご機嫌な様子だ。素直そうな性格だから余計に効果がありそうだな。それにしても、俺はモンスターを駆逐する為に王国を出ようとずっと思っているのに……。今の会話の流れだとレベッカは本当に王国の為に頑張りそうだ。
すなわち、それは遠回しに彼女とパーティを組んだ俺の行動も制限されるという事になる。
ベヒーモスのクエスト終わったら次こそ絶対出発しようと思っていたのにさ、これじゃあ何となくレベッカに伝えにくいぞ。なんだか凄いやる気も出しているしとても水を差せるような空気ではない。やっぱり不用意にパーティを組むなんて言わない方が良かったんじゃ……。
「――時にルカ君」
おっと、急に矛先が俺になった様だ。
「何でしょうか」
「実はな――」
マスターは穏やかながら少し真剣な表情で口を開き始めた。話の内容は他でもない、俺とジークの事だった。
マスターは本部や王国に俺の話をどう伝えるかずっと考えてくれていたらしい。そしてあらゆるパターンを想定した結果、俺やジークが不用意に狙われないよう今回の件を伝えてみてはどうかと提案された。
これはちょっと意外だな……。ジークの事を知っているマスターとジャックさんの雰囲気から何となく察していたけど、コレはやはり公にしない方がいいと思っていたから。
だが、マスターはこれが決して簡単に決めた事ではなく、寧ろ相当の覚悟を決めたように俺に話していた。その緊張感がひしひしと伝わってきている。
俺はそんなマスターを勿論疑ってなどいないが、最終的にどうしてその結論に至ったのかだけ知りたかった。それをマスターに正直に伝えると、マスターは優しく教えてくれた……。
先ず、ジークの封印が解かれた事は、既にドラシエル王国の国王と、マスター。そして信頼出来るSランク冒険者達にのみ伝わっているとの事だ。
当然そのジークが俺の中にいる事まで知るのはマスターとジャックさんのみ。
言わずもがな竜神王ジークリートの力は強大なものと知られている。故に、その力を持つ俺が危険対象とみなされる事も十分に考えられるらしい。最悪即死刑も免れないだろうと……。
まぁそりゃそうだよな。ジークリートの力なんて何も知らない人からすれば未知の脅威に等しい。
是が非でもその最悪だけは避けたいと考えたマスターとジャックさんは、俺がジークの力を完全に掌握している事を国王に理解してもらえば、それが全員にとっての安全になるのでないかと言う結論に至ったとの事だ。
例え害がないと分かっていても、それを隠していたとなれば少なからず反発の声が上がる事も想定出来る。俺にもジークにも、そして王国中の人々の為にも、そうするのが最善ではないかと――。
「分かりました」
話を全て聞き終えた俺は、自然とそう返事をしていた。
マスターとジャックさんがそこまで俺なんかを心配してくれていたなんて……。本当に感謝してもしきれない。
「そうか。ではその方向で話を進めるぞルカ君。後は“派遣クエスト”で存分にその力を発揮し、国王どころか全冒険者に君の実力を認めさせるんだ」
「はい――!」
こうして、俺は無事にレベッカとパーティー組み、国王にもジークの事を伝える方向で話がまとまった――。
♢♦♢
「レベッカずっと宿屋に泊ってるのか」
「うん。こんな体質だからパーティも追放されっぱなしだったし……。何時か王国を出ようかとも考えていたから」
「そうだったのか」
「でもルカのお陰で一気にその心配はなくなっちゃった! マスターにも期待してるって言われたから頑張らないと!」
マスターの話も終え、レベッカは新たにSランクの証明である虹色のタグを受け取り、俺達はギルドを後にしていた。
「ずっと宿屋も大変そうだな。何なら住む部屋が見つかるまで俺ん家使う?」
「ルカの家?」
「そう。俺1人だし2階誰も使ってないんだよね。好きに使ってくれて構わないけど」
「え……それは凄いありがたいけど……」
やば。何だこの微妙に気まずい空気は。よく考えたら俺また凄い変態発言してるんじゃ……。
「あ、いや、別にッ! そんな深く考えないで……! ただ、2階なんて全く使ってなくて掃除も面倒だったから、いっその事誰か使ってくれていた方が楽だなぁなんて思ってただけで……ッ!」
だからよ俺。
逆にこれが怪しく思われるんだって。本当に下心がなかったとしても。
「ううん、そうじゃなくて……! 部屋を借りられるのは凄い助かるんだけど、迷惑じゃない……? それに家賃とかどうしたらいいかと思って」
なんだ……。そう言う事か。焦った。
「全然迷惑じゃないって。家賃も当然要らない。もし逆に気を遣うなら家賃代わりに部屋の掃除だけお願い」
「本当にそれでいいの?」
「勿論。あ、そうか。念の為に魔法で結界でも張っとくか。俺が間違った行動に出ないように。それなら女の子1人でも安心だろ?」
「フフフ。大丈夫、そんな心配してないよ。じゃあお言葉に甘えて、部屋が決まるまでお借りします」
レベッカは屈託のない笑顔でそう言った。
改めて思うけどやっぱ可愛いよな。俺が言うのアレだけど、少し無防備だから気を付けた方がいいと思う。
「そういえばもうこんな時間だね。夕飯はどうする?」
「もうそんな時間になるか」
「何も決まっていないならさ、街で買ってルカの家行こうよ! 早く見てみてたいな」
「ハハハ、じゃあそうするか」
俺とレベッカはそう話し、宿屋に置いてあるレベッカの荷物を取りに行きながら街で夕飯を買って家に帰った。
~ルカの家~
「――ここが俺の家。遠慮せず入って」
「お邪魔しまーす!わ~、素敵なお部屋」
「1階のこっちがリビングとキッチン。向こうに風呂とトイレがって、あっちが一応俺の部屋。
2階は部屋が3つあるから、どこでも好きな様に使ってくれて構わないから」
「ありがとう!じゃあ早速2階見させてもらっていい?」
そんなにはしゃぐ様な豪邸ではないけど、取り敢えず喜んでくれているみたいで良かった。
「いいよ。荷物は運ぶから先に部屋でも決めてくれ」
「ルカありがとう!」
レベッカはそう言いながら2階へと駆け上がって行った。
「まぁ運ぶって言ってもコレ1つだけどな……」
聞いた話によると、レベッカは3ヶ月近く宿屋に滞在していたらしい。だが宿屋から持ってきたのはこの大きめの鞄1つだけ。追い出される度に街を転々としていたと言っていたから、荷物はいつも最小限なんだろう。
「――ルカ!部屋決めたよ!」
「はや。今行く」
こうして、寂しかった俺の家に、レベッカという1人の元気な女の子が住み始めました――。
成程、マスターの本当の目的はレベッカか――。
俺とパーティを組んだことにより能力が上がったレベッカは、冒険者の中でもかなり貴重なSランクとなった。勿論、ジークの魔力の恩恵もあるが、レベッカはやはり元の能力ガ高かったんだろう。変な体質さえなければAランクでもトップクラスの実力があるとマスターが今しがた言っていた。
確かに王国としてもギルドとしても、そして責任者であるマスターとしても当然Sランク冒険者の存在はとても重宝したいところだろう。ドラシエル王国は今Sランクが10人いるかいないかぐらいだから、その人達も負担も少しは減るからな。
それにしてもマスターよ――。
俺の時に向けていたあの禍々しい殺気は何だったんだ。レベッカのこの面談では微塵もそんな素振りがないじゃねぇか。
まぁ俺の時は話の内容が内容だったから無理もないが……。
「――それではレベッカ君、君のこれからの活躍を期待しているよ。そして是非ともその素晴らしい力を、王国や我々の為にも振るって頂きたい」
「はい、勿論ですッ!王国や皆さんの為に精一杯頑張りたいと思います!」
「ハハハ、ありがとう」
マスターに褒められてレベッカもご機嫌な様子だ。素直そうな性格だから余計に効果がありそうだな。それにしても、俺はモンスターを駆逐する為に王国を出ようとずっと思っているのに……。今の会話の流れだとレベッカは本当に王国の為に頑張りそうだ。
すなわち、それは遠回しに彼女とパーティを組んだ俺の行動も制限されるという事になる。
ベヒーモスのクエスト終わったら次こそ絶対出発しようと思っていたのにさ、これじゃあ何となくレベッカに伝えにくいぞ。なんだか凄いやる気も出しているしとても水を差せるような空気ではない。やっぱり不用意にパーティを組むなんて言わない方が良かったんじゃ……。
「――時にルカ君」
おっと、急に矛先が俺になった様だ。
「何でしょうか」
「実はな――」
マスターは穏やかながら少し真剣な表情で口を開き始めた。話の内容は他でもない、俺とジークの事だった。
マスターは本部や王国に俺の話をどう伝えるかずっと考えてくれていたらしい。そしてあらゆるパターンを想定した結果、俺やジークが不用意に狙われないよう今回の件を伝えてみてはどうかと提案された。
これはちょっと意外だな……。ジークの事を知っているマスターとジャックさんの雰囲気から何となく察していたけど、コレはやはり公にしない方がいいと思っていたから。
だが、マスターはこれが決して簡単に決めた事ではなく、寧ろ相当の覚悟を決めたように俺に話していた。その緊張感がひしひしと伝わってきている。
俺はそんなマスターを勿論疑ってなどいないが、最終的にどうしてその結論に至ったのかだけ知りたかった。それをマスターに正直に伝えると、マスターは優しく教えてくれた……。
先ず、ジークの封印が解かれた事は、既にドラシエル王国の国王と、マスター。そして信頼出来るSランク冒険者達にのみ伝わっているとの事だ。
当然そのジークが俺の中にいる事まで知るのはマスターとジャックさんのみ。
言わずもがな竜神王ジークリートの力は強大なものと知られている。故に、その力を持つ俺が危険対象とみなされる事も十分に考えられるらしい。最悪即死刑も免れないだろうと……。
まぁそりゃそうだよな。ジークリートの力なんて何も知らない人からすれば未知の脅威に等しい。
是が非でもその最悪だけは避けたいと考えたマスターとジャックさんは、俺がジークの力を完全に掌握している事を国王に理解してもらえば、それが全員にとっての安全になるのでないかと言う結論に至ったとの事だ。
例え害がないと分かっていても、それを隠していたとなれば少なからず反発の声が上がる事も想定出来る。俺にもジークにも、そして王国中の人々の為にも、そうするのが最善ではないかと――。
「分かりました」
話を全て聞き終えた俺は、自然とそう返事をしていた。
マスターとジャックさんがそこまで俺なんかを心配してくれていたなんて……。本当に感謝してもしきれない。
「そうか。ではその方向で話を進めるぞルカ君。後は“派遣クエスト”で存分にその力を発揮し、国王どころか全冒険者に君の実力を認めさせるんだ」
「はい――!」
こうして、俺は無事にレベッカとパーティー組み、国王にもジークの事を伝える方向で話がまとまった――。
♢♦♢
「レベッカずっと宿屋に泊ってるのか」
「うん。こんな体質だからパーティも追放されっぱなしだったし……。何時か王国を出ようかとも考えていたから」
「そうだったのか」
「でもルカのお陰で一気にその心配はなくなっちゃった! マスターにも期待してるって言われたから頑張らないと!」
マスターの話も終え、レベッカは新たにSランクの証明である虹色のタグを受け取り、俺達はギルドを後にしていた。
「ずっと宿屋も大変そうだな。何なら住む部屋が見つかるまで俺ん家使う?」
「ルカの家?」
「そう。俺1人だし2階誰も使ってないんだよね。好きに使ってくれて構わないけど」
「え……それは凄いありがたいけど……」
やば。何だこの微妙に気まずい空気は。よく考えたら俺また凄い変態発言してるんじゃ……。
「あ、いや、別にッ! そんな深く考えないで……! ただ、2階なんて全く使ってなくて掃除も面倒だったから、いっその事誰か使ってくれていた方が楽だなぁなんて思ってただけで……ッ!」
だからよ俺。
逆にこれが怪しく思われるんだって。本当に下心がなかったとしても。
「ううん、そうじゃなくて……! 部屋を借りられるのは凄い助かるんだけど、迷惑じゃない……? それに家賃とかどうしたらいいかと思って」
なんだ……。そう言う事か。焦った。
「全然迷惑じゃないって。家賃も当然要らない。もし逆に気を遣うなら家賃代わりに部屋の掃除だけお願い」
「本当にそれでいいの?」
「勿論。あ、そうか。念の為に魔法で結界でも張っとくか。俺が間違った行動に出ないように。それなら女の子1人でも安心だろ?」
「フフフ。大丈夫、そんな心配してないよ。じゃあお言葉に甘えて、部屋が決まるまでお借りします」
レベッカは屈託のない笑顔でそう言った。
改めて思うけどやっぱ可愛いよな。俺が言うのアレだけど、少し無防備だから気を付けた方がいいと思う。
「そういえばもうこんな時間だね。夕飯はどうする?」
「もうそんな時間になるか」
「何も決まっていないならさ、街で買ってルカの家行こうよ! 早く見てみてたいな」
「ハハハ、じゃあそうするか」
俺とレベッカはそう話し、宿屋に置いてあるレベッカの荷物を取りに行きながら街で夕飯を買って家に帰った。
~ルカの家~
「――ここが俺の家。遠慮せず入って」
「お邪魔しまーす!わ~、素敵なお部屋」
「1階のこっちがリビングとキッチン。向こうに風呂とトイレがって、あっちが一応俺の部屋。
2階は部屋が3つあるから、どこでも好きな様に使ってくれて構わないから」
「ありがとう!じゃあ早速2階見させてもらっていい?」
そんなにはしゃぐ様な豪邸ではないけど、取り敢えず喜んでくれているみたいで良かった。
「いいよ。荷物は運ぶから先に部屋でも決めてくれ」
「ルカありがとう!」
レベッカはそう言いながら2階へと駆け上がって行った。
「まぁ運ぶって言ってもコレ1つだけどな……」
聞いた話によると、レベッカは3ヶ月近く宿屋に滞在していたらしい。だが宿屋から持ってきたのはこの大きめの鞄1つだけ。追い出される度に街を転々としていたと言っていたから、荷物はいつも最小限なんだろう。
「――ルカ!部屋決めたよ!」
「はや。今行く」
こうして、寂しかった俺の家に、レベッカという1人の元気な女の子が住み始めました――。