♢♦♢
~冒険者ギルド・訓練場~
俺とジャックさんはマスターの部屋……ではなく、ギルドを出て直ぐ隣にある訓練場に案内された。
「マリアちゃん、何で訓練場に?」
「――来たようだね」
俺の質問に答えたのはマリアちゃんではなくマスター。しかもマスターの直ぐ側には2人の“冒険者”が――。
「あれ? バルトにリアーナじゃねぇか。何してるんだこんな所で」
やはりそうだったか。
マスターの横にいる人達が冒険者だと分かったのは、その2人が余りに有名だから。
風魔法を得意とする“風撃のバルト”と“氷の魔法使いリアーナ”。両者ともジャックさんと同じSランク冒険者。実力も折り紙つきだ。
「2人共私が呼んだのだ。一先ずグリフォン討伐ご苦労だったねルカ君。予想以上に早い帰りだったな」
「いえいえ、とんでもないです」
まぁロック山脈なんて普通の冒険者なら1週間は最低でも掛かるからな。これも実力の証明になるだろう少しは。
それにしても……何か妙に“嫌な感じ”だなさっきから。
「約束通りのクエスト達成見事だ。君には新たに冒険者タグを渡さなくてはならんのだが……。これはその“最終確認”とでも言おうか――」
おいおい……。もしかしてまだ俺の実力を試す気か?しかもバルトさんとリアーナさんはまだしも、何故貴方が“槍”を持っているんだマスターよ。
今俺の脳裏に駆け巡った“最悪”が現実となるならば、それはそれは考えてただけで恐ろしい――。
「ルカ君。今から君には、最後のテストとして“我々”と戦ってもらう!」
やっぱりかッ!
この空気感、もうそれしか答えがないもんなッ!
しかも……。
「待って下さいよマスター!急に戦うって……しかも我々って……」
「勿論、私とバルトとリアーナ……そして君もこちらだジャック」
そう言ったマスターの顔はいつの間にか鬼と化していた。
「成程、そう言う事ね。じゃあ早速やろうじゃねぇかルカ!」
「いや、吞み込み早過ぎだし、切り替えも早過ぎですよジャックさん……!」
「君は今から我々の攻撃を30分防ぎきってもらおうか」
「――⁉」
なにぃ⁉ Sランク3人とSSSランク1人の攻撃を防ぎきれだと⁉ しかも30分も! 幾らジークの力があるからってイジメもここまでくると酷いぞマスター!
<ほぉ、まぁ絶対に我が勝つが、さっきのグリフォンよりはいい退屈凌ぎになりそうだ>
「マリア君、時間を見ててくれ」
「あ、はい! 分かりました!」
「もう始めるんですか?」
「無論」
一言そう言うなり、マスターは本当に魔力を高め出し、それに続きバルトさんもリアーナさんも、そして当たり前かの如くジャックさんまで魔力を高め戦闘態勢に入った――。
「マジかよ……」
せめて気持ちの準備ぐらいさせてくれ!
「行くぞ」
俺の思いも虚しく、訳の分からん最終テストという戦いの火蓋が切って落とされた――。
「よっしゃぁぁぁ!」
「……⁉」
開始早々1番に攻撃を仕掛けて来たのはバルトさん。
風撃と呼ばれるだけあって見るからに風魔法の使い手。体に風の刃を纏い繰り出す連撃は、敵を一瞬で蹴散らすと言う……。
――ズバンッ!ズバンッ!ズバンッ!
「速ッ……!」
俺は連続で繰り出された突きと蹴りを何とか躱した。
攻撃が速い。しかも風圧が凄くて当たってもいないのに体が持っていかれそうだ。
<心地よい風だ>
吞気な事を言ってるジークは無視。
この状況だと近距離タイプのバルトさんとジャックさんが先ず攻撃を仕掛けてくる。バルトさんを上手く躱せたとしても次に来るのが……。
「竜神王の本気を見せてみろルカ!」
――ガキィィンッ!
「ぐッ、ジャックさん……!」
やはり連続で仕掛けてきた。
ジャックさんが振り下ろしてきた剣を、俺は魔力で超強化した腕で防いだ。
「ハッハッハッ、俺の剣を腕で防ぐとはな」
「熱ッ!」
炎魔法の使い手でもあるジャックさんの剣は業火に包まれている。この火力は幾ら魔力で防御していても近くにいたら熱過ぎだ。俺は何とか鍔迫り合いで払いのけ、一旦ジャックさんとバルトさんから距離を取った。
何故なら……。
「――“氷の追撃”!」
氷の魔法使い、遠距離タイプのリアーナさんの魔法がやはり飛んできた。バルトさんとジャックさんを同時に相手しながらコレを防ぐのは難しい。
――シュバンッ!
「よし、一先ず躱しきった。次はこっちの番……っておいおい」
無事リアーナさんの氷も躱したかと思ったのも束の間。躱した筈の氷塊が空中で方向を変えまた俺目掛けて飛んできた。
マジですか……。この氷まさかの追跡機能付きじゃん。
「うらうらうらぁぁぁッ!」
「余所見してんなよ!」
「げッ……!」
空中の氷塊に視線を移していた僅か一瞬の間に、地上では既にバルトさんとジャックさんがまた俺に攻撃を仕掛けて来ていた。
やばいッ!
頭では瞬時にそう思っていた。
だが、俺はこの3年間徹底してパーティの裏方に回っていた。雑用は勿論戦闘のサポートまで。
これは良くも悪くも……無意識の内に俺がジークの力を自由自在に扱える特訓にもなっていた――。
「「……⁉⁉」」
僅か一瞬の出来事。
考えるよりもまず体が動いていた。
俺は眼前まで迫っていたバルトさんの蹴りとジャックさんの剣をいなしながら軌道を変え、それぞれ2人の攻撃を飛んできていた氷塊へと向け相殺させた――。
――ズガァァンッ!
「なッ⁉」
「やるじゃねぇか……!」
ジャックさん達の攻撃を防いだ俺は今度こそ反撃しようと攻撃態勢に入ろうとしていたが、どうやらまだまだダメらしい。
今の攻撃の衝撃で氷塊が割れ爆炎が巻き起こった事により、視界一杯に煙が広がっている。全く姿を目視出来ないが、その中で静かだが確実にマスターの足音が俺へと近づいてきていた。
そしてその足音が一瞬消えたかと思った刹那、背後の煙の中から鬼の形相をしたマスターが槍の切っ先を俺に向けていた――。
「死ねッッ!」
「ええッッ⁉」
足音に一早く気付けた俺は、間一髪マスターの槍を躱せた。雷槍の英雄と呼ばれた伝説のSSSランクだけあって凄まじい一撃だった。
だが俺が気になったのはそこじゃない。これ確かテストだよな……? 聞き間違いでなければ、今マスター“死ねッッ!”って言ったよな……?
しっかり俺目掛けて――。
「――そこまで!」
時間を測っていたマリアちゃんの掛け声が響き、無事に最終テストは幕を閉じたらしい。
俺は正直、マスターの最初の攻撃時の死ね発言からその言葉がずっと気になり、残りの29分の戦いを全く思い出せずにいた。
「よくやったなルカ。流石だったぜ」
「凄い子が現れましたね」
「ここまで強いとは驚いた」
複雑な心境だったが、ジャックさんもリアーナさんもバルトさんもとても俺を褒めてくれた。これは素直に嬉しい。
「ご苦労だったねルカ君。これで見事君の実力は証明された。改めて……この冒険者タグを君に渡すよ」
「あ、ありがとうございます!」
そう言って俺にタグを渡すマスターの表情は、皆が良く知るとても優しくて穏やかな顔だった。
さっき俺が見たアレは一体……。
そこまで考えた瞬間、俺の本能がそれ以上の詮索を止めたのだった。
アレはなにかの間違いだ。本気の戦闘だったからマスターも思わず気合いが入っていたんだろう。絶対そうだ。
こうして、俺は無事にSSSランクの証明である、黒色の冒険者タグを手に入れた。
「よっしゃー! 本物の黒色タグだ!白じゃない!」
嬉しくて俺はつい大声を上げてしまった。心の底から嬉しいのは何年振りだろうか。
「ではルカ君。無事力を証明出来た所で“次のクエスト”を頼むよ――」
「え……?」
話の流れが急過ぎて、俺はそのままただただ流された。そして気が付けばまたSランククエストの手続きが進められ、いつの間にかギルドの表へ出ていたのだった。
<――じゃあまた行くとするか>
「は?」
こうして、俺は新たなクエストへと向かった。
後にある1人の女の子と出会う運命だとは、全く知る由もなく――。
~冒険者ギルド・訓練場~
俺とジャックさんはマスターの部屋……ではなく、ギルドを出て直ぐ隣にある訓練場に案内された。
「マリアちゃん、何で訓練場に?」
「――来たようだね」
俺の質問に答えたのはマリアちゃんではなくマスター。しかもマスターの直ぐ側には2人の“冒険者”が――。
「あれ? バルトにリアーナじゃねぇか。何してるんだこんな所で」
やはりそうだったか。
マスターの横にいる人達が冒険者だと分かったのは、その2人が余りに有名だから。
風魔法を得意とする“風撃のバルト”と“氷の魔法使いリアーナ”。両者ともジャックさんと同じSランク冒険者。実力も折り紙つきだ。
「2人共私が呼んだのだ。一先ずグリフォン討伐ご苦労だったねルカ君。予想以上に早い帰りだったな」
「いえいえ、とんでもないです」
まぁロック山脈なんて普通の冒険者なら1週間は最低でも掛かるからな。これも実力の証明になるだろう少しは。
それにしても……何か妙に“嫌な感じ”だなさっきから。
「約束通りのクエスト達成見事だ。君には新たに冒険者タグを渡さなくてはならんのだが……。これはその“最終確認”とでも言おうか――」
おいおい……。もしかしてまだ俺の実力を試す気か?しかもバルトさんとリアーナさんはまだしも、何故貴方が“槍”を持っているんだマスターよ。
今俺の脳裏に駆け巡った“最悪”が現実となるならば、それはそれは考えてただけで恐ろしい――。
「ルカ君。今から君には、最後のテストとして“我々”と戦ってもらう!」
やっぱりかッ!
この空気感、もうそれしか答えがないもんなッ!
しかも……。
「待って下さいよマスター!急に戦うって……しかも我々って……」
「勿論、私とバルトとリアーナ……そして君もこちらだジャック」
そう言ったマスターの顔はいつの間にか鬼と化していた。
「成程、そう言う事ね。じゃあ早速やろうじゃねぇかルカ!」
「いや、吞み込み早過ぎだし、切り替えも早過ぎですよジャックさん……!」
「君は今から我々の攻撃を30分防ぎきってもらおうか」
「――⁉」
なにぃ⁉ Sランク3人とSSSランク1人の攻撃を防ぎきれだと⁉ しかも30分も! 幾らジークの力があるからってイジメもここまでくると酷いぞマスター!
<ほぉ、まぁ絶対に我が勝つが、さっきのグリフォンよりはいい退屈凌ぎになりそうだ>
「マリア君、時間を見ててくれ」
「あ、はい! 分かりました!」
「もう始めるんですか?」
「無論」
一言そう言うなり、マスターは本当に魔力を高め出し、それに続きバルトさんもリアーナさんも、そして当たり前かの如くジャックさんまで魔力を高め戦闘態勢に入った――。
「マジかよ……」
せめて気持ちの準備ぐらいさせてくれ!
「行くぞ」
俺の思いも虚しく、訳の分からん最終テストという戦いの火蓋が切って落とされた――。
「よっしゃぁぁぁ!」
「……⁉」
開始早々1番に攻撃を仕掛けて来たのはバルトさん。
風撃と呼ばれるだけあって見るからに風魔法の使い手。体に風の刃を纏い繰り出す連撃は、敵を一瞬で蹴散らすと言う……。
――ズバンッ!ズバンッ!ズバンッ!
「速ッ……!」
俺は連続で繰り出された突きと蹴りを何とか躱した。
攻撃が速い。しかも風圧が凄くて当たってもいないのに体が持っていかれそうだ。
<心地よい風だ>
吞気な事を言ってるジークは無視。
この状況だと近距離タイプのバルトさんとジャックさんが先ず攻撃を仕掛けてくる。バルトさんを上手く躱せたとしても次に来るのが……。
「竜神王の本気を見せてみろルカ!」
――ガキィィンッ!
「ぐッ、ジャックさん……!」
やはり連続で仕掛けてきた。
ジャックさんが振り下ろしてきた剣を、俺は魔力で超強化した腕で防いだ。
「ハッハッハッ、俺の剣を腕で防ぐとはな」
「熱ッ!」
炎魔法の使い手でもあるジャックさんの剣は業火に包まれている。この火力は幾ら魔力で防御していても近くにいたら熱過ぎだ。俺は何とか鍔迫り合いで払いのけ、一旦ジャックさんとバルトさんから距離を取った。
何故なら……。
「――“氷の追撃”!」
氷の魔法使い、遠距離タイプのリアーナさんの魔法がやはり飛んできた。バルトさんとジャックさんを同時に相手しながらコレを防ぐのは難しい。
――シュバンッ!
「よし、一先ず躱しきった。次はこっちの番……っておいおい」
無事リアーナさんの氷も躱したかと思ったのも束の間。躱した筈の氷塊が空中で方向を変えまた俺目掛けて飛んできた。
マジですか……。この氷まさかの追跡機能付きじゃん。
「うらうらうらぁぁぁッ!」
「余所見してんなよ!」
「げッ……!」
空中の氷塊に視線を移していた僅か一瞬の間に、地上では既にバルトさんとジャックさんがまた俺に攻撃を仕掛けて来ていた。
やばいッ!
頭では瞬時にそう思っていた。
だが、俺はこの3年間徹底してパーティの裏方に回っていた。雑用は勿論戦闘のサポートまで。
これは良くも悪くも……無意識の内に俺がジークの力を自由自在に扱える特訓にもなっていた――。
「「……⁉⁉」」
僅か一瞬の出来事。
考えるよりもまず体が動いていた。
俺は眼前まで迫っていたバルトさんの蹴りとジャックさんの剣をいなしながら軌道を変え、それぞれ2人の攻撃を飛んできていた氷塊へと向け相殺させた――。
――ズガァァンッ!
「なッ⁉」
「やるじゃねぇか……!」
ジャックさん達の攻撃を防いだ俺は今度こそ反撃しようと攻撃態勢に入ろうとしていたが、どうやらまだまだダメらしい。
今の攻撃の衝撃で氷塊が割れ爆炎が巻き起こった事により、視界一杯に煙が広がっている。全く姿を目視出来ないが、その中で静かだが確実にマスターの足音が俺へと近づいてきていた。
そしてその足音が一瞬消えたかと思った刹那、背後の煙の中から鬼の形相をしたマスターが槍の切っ先を俺に向けていた――。
「死ねッッ!」
「ええッッ⁉」
足音に一早く気付けた俺は、間一髪マスターの槍を躱せた。雷槍の英雄と呼ばれた伝説のSSSランクだけあって凄まじい一撃だった。
だが俺が気になったのはそこじゃない。これ確かテストだよな……? 聞き間違いでなければ、今マスター“死ねッッ!”って言ったよな……?
しっかり俺目掛けて――。
「――そこまで!」
時間を測っていたマリアちゃんの掛け声が響き、無事に最終テストは幕を閉じたらしい。
俺は正直、マスターの最初の攻撃時の死ね発言からその言葉がずっと気になり、残りの29分の戦いを全く思い出せずにいた。
「よくやったなルカ。流石だったぜ」
「凄い子が現れましたね」
「ここまで強いとは驚いた」
複雑な心境だったが、ジャックさんもリアーナさんもバルトさんもとても俺を褒めてくれた。これは素直に嬉しい。
「ご苦労だったねルカ君。これで見事君の実力は証明された。改めて……この冒険者タグを君に渡すよ」
「あ、ありがとうございます!」
そう言って俺にタグを渡すマスターの表情は、皆が良く知るとても優しくて穏やかな顔だった。
さっき俺が見たアレは一体……。
そこまで考えた瞬間、俺の本能がそれ以上の詮索を止めたのだった。
アレはなにかの間違いだ。本気の戦闘だったからマスターも思わず気合いが入っていたんだろう。絶対そうだ。
こうして、俺は無事にSSSランクの証明である、黒色の冒険者タグを手に入れた。
「よっしゃー! 本物の黒色タグだ!白じゃない!」
嬉しくて俺はつい大声を上げてしまった。心の底から嬉しいのは何年振りだろうか。
「ではルカ君。無事力を証明出来た所で“次のクエスト”を頼むよ――」
「え……?」
話の流れが急過ぎて、俺はそのままただただ流された。そして気が付けばまたSランククエストの手続きが進められ、いつの間にかギルドの表へ出ていたのだった。
<――じゃあまた行くとするか>
「は?」
こうして、俺は新たなクエストへと向かった。
後にある1人の女の子と出会う運命だとは、全く知る由もなく――。