「やはり残念ですが、リジムン男爵への追求はできませんでした……」
「そうですか……」
やはりと言うべきか、副ギルドマスターのパトリスさんが以前に言っていたように、冒険者ギルドを通さずに貴族からの遣いが来たことに関して、男爵に責任を負わせることはできなかったようだ。
「まあ、向こうにそんな遣いを出した覚えがないと言われてしまえば、それ以上のことは追求できねえな」
「ふむ……例の貴族の遣いの男が正式な男爵の遣いと証言しているのに駄目なのか?」
「それが男爵からの助けが来ないのを悟ったようで、例の遣いの男も証言を覆して、自分ひとりが勝手にアウトドアショップの評判を落とすために騒ぎを起こしたと言い始めましてね……」
「えっ、そんなのありなんですか?」
「まあ下手をしたら男爵に消されるとでも思ったんだろ。武器を抜こうとしていたから、衛兵に引き渡してしばらくは牢屋に入ってもらうが、別に命までは取りゃしねえからな」
「なるほど……」
「男爵程度にそれほどの力があるとは、とても思えないけれどねえ」
「ランジェの言う通り、男爵にそれほどの権限もないし、衛兵のいる牢屋を襲撃できるようなやつもいねえだろ」
……逆に言うと公爵みたいな上流貴族や王族とかなら事件を揉み消すこともできそうだし、それほどの人を雇うこともできるのかもしれない。
やっぱりいくら治安が良い街であるとは言っても、物騒な世界であることに変わりはないんだよなあ。
「少なくとも今回の出来事はこの街に広まるでしょうから、冒険者ギルドを通さずに直接このお店に手を出してくる輩は減るでしょう。すでにいくつかテツヤさんの店へ交渉したいというお話があるのですが、いかがしますか?」
「もう来ているんですか……そうですね、目を通させてもらいますね」
今までも店に直接交渉に来ていたお客さんや商人もいたが、基本的にはすべて断ってきた。アウトドアショップで売っている品を大量に購入したいという話しかなかったからな。たぶん大量に仕入れて、別の街で高く売るとかだろう。
今回来ている話もやはり商品の大量購入を希望する話だった。大きな商店から今アウトドアショップで販売している値段よりも高く購入するという、かなり良い話も来ていたが、貴族の遣いの男にも言ったように、お金の問題ではないので断るとしよう。
とはいえ、方位磁石や浄水器などがあれば、冒険者の助けにもなる。せっかく冒険者ギルドと協力することになったわけだし、方位磁石や浄水器などは他の街の冒険者ギルドに卸してみても良いかもしれないな。
「それではテツヤさん、こちらがテツヤさんが提供してくれた地図をもとに写した簡易版の地図となります。大きな街や山や川のみで、小さな村は写しておりません。問題がないようでしたら、この簡易版の地図をさらに複製して販売させていただきたいと思います」
「あっ、もうできたんですね」
パトリスさんが机に2枚の地図を広げる。一方の精巧な地図のほうは、俺がアウトドアショップの能力で出した地図で、もう一方の地図はライザックさんとパトリスさんが信頼のおける人に依頼して写してもらった地図である。
地図の内容もそうだが、元の世界の高品質な紙やインクとは異なって、品質もだいぶ劣っていた。やはりアウトドアショップで購入した地図をそのまま販売していたら、完全に悪目立ちしてしまうところだったな。
「……ふむふむ、俺が見る限りは問題なさそうですね。リリアとランジェさんはどう?」
「問題ないと思うぞ。ちゃんとある程度知名度がある街しか記載されていない」
「うん、大丈夫そうだね。前に実際に使ってみたけれど、方位磁石と合わせて使うと本当に便利だったよ。たぶん地図と方位磁石があれば、初めて通る道でも迷うことはほとんどなくなると思うね」
目印になる山や川も記載されているから、よっぽどのことがなければ道に迷うことはなくなるだろう。まあ元の世界の人なら地図や方位磁石だけじゃなく、スマホのマップ機能や検索機能がないと道に迷う人はいるかもしれないな。俺も地図と方位磁石だけでは少し不安だ。
「二人ともありがとう。パトリスさん、ライザックさん、問題なさそうです」
「ありがとうございます! それではこちらの簡易版の地図を複製させていただきますね」
「うし、すでに大量に複製する準備は整っているからな。次の週には販売できるようになるだろ!」
すでに量産体制は整っているらしい。この1週間で写本ができる信頼のできる人を探して、さらに写した簡易版の地図を大量生産する準備を整えていたとは驚いたな。
それだけ冒険者ギルド側も地図の販売に力を入れるつもりなんだろう。冒険者ならよっぽどのことがない限り、地図は持っておいたほうがいいもんな。
「おそらく来週から冒険者ギルドで販売が可能になるかと思います。テツヤさんには毎月、売上の一部をお支払いします。ほとんどのギルド職員はテツヤさんが地図や図鑑に関わっていることを知らないので、私かギルドマスターをお呼びください」
「わかりました」
俺が精巧な地図や図鑑を提供したことは冒険者ギルド職員にも秘密になっている。写本の元にした地図や図鑑も後ほど処分する予定だ。
最初は写本した地図や図鑑をアウトドアショップでも販売しようとも思っていたが、販売したせいで今回みたいな貴族がちょっかいを出してくる可能性はあるし、販売はすべて冒険者ギルドに任せることにした。
そもそもアウトドアショップの利益だけでも結構な金額を稼いでいるわけだし、最初の地図と図鑑を提供しただけで、少しの不労所得があるなら十分である。というより不労所得バンザイだぜ!
「そうですか……」
やはりと言うべきか、副ギルドマスターのパトリスさんが以前に言っていたように、冒険者ギルドを通さずに貴族からの遣いが来たことに関して、男爵に責任を負わせることはできなかったようだ。
「まあ、向こうにそんな遣いを出した覚えがないと言われてしまえば、それ以上のことは追求できねえな」
「ふむ……例の貴族の遣いの男が正式な男爵の遣いと証言しているのに駄目なのか?」
「それが男爵からの助けが来ないのを悟ったようで、例の遣いの男も証言を覆して、自分ひとりが勝手にアウトドアショップの評判を落とすために騒ぎを起こしたと言い始めましてね……」
「えっ、そんなのありなんですか?」
「まあ下手をしたら男爵に消されるとでも思ったんだろ。武器を抜こうとしていたから、衛兵に引き渡してしばらくは牢屋に入ってもらうが、別に命までは取りゃしねえからな」
「なるほど……」
「男爵程度にそれほどの力があるとは、とても思えないけれどねえ」
「ランジェの言う通り、男爵にそれほどの権限もないし、衛兵のいる牢屋を襲撃できるようなやつもいねえだろ」
……逆に言うと公爵みたいな上流貴族や王族とかなら事件を揉み消すこともできそうだし、それほどの人を雇うこともできるのかもしれない。
やっぱりいくら治安が良い街であるとは言っても、物騒な世界であることに変わりはないんだよなあ。
「少なくとも今回の出来事はこの街に広まるでしょうから、冒険者ギルドを通さずに直接このお店に手を出してくる輩は減るでしょう。すでにいくつかテツヤさんの店へ交渉したいというお話があるのですが、いかがしますか?」
「もう来ているんですか……そうですね、目を通させてもらいますね」
今までも店に直接交渉に来ていたお客さんや商人もいたが、基本的にはすべて断ってきた。アウトドアショップで売っている品を大量に購入したいという話しかなかったからな。たぶん大量に仕入れて、別の街で高く売るとかだろう。
今回来ている話もやはり商品の大量購入を希望する話だった。大きな商店から今アウトドアショップで販売している値段よりも高く購入するという、かなり良い話も来ていたが、貴族の遣いの男にも言ったように、お金の問題ではないので断るとしよう。
とはいえ、方位磁石や浄水器などがあれば、冒険者の助けにもなる。せっかく冒険者ギルドと協力することになったわけだし、方位磁石や浄水器などは他の街の冒険者ギルドに卸してみても良いかもしれないな。
「それではテツヤさん、こちらがテツヤさんが提供してくれた地図をもとに写した簡易版の地図となります。大きな街や山や川のみで、小さな村は写しておりません。問題がないようでしたら、この簡易版の地図をさらに複製して販売させていただきたいと思います」
「あっ、もうできたんですね」
パトリスさんが机に2枚の地図を広げる。一方の精巧な地図のほうは、俺がアウトドアショップの能力で出した地図で、もう一方の地図はライザックさんとパトリスさんが信頼のおける人に依頼して写してもらった地図である。
地図の内容もそうだが、元の世界の高品質な紙やインクとは異なって、品質もだいぶ劣っていた。やはりアウトドアショップで購入した地図をそのまま販売していたら、完全に悪目立ちしてしまうところだったな。
「……ふむふむ、俺が見る限りは問題なさそうですね。リリアとランジェさんはどう?」
「問題ないと思うぞ。ちゃんとある程度知名度がある街しか記載されていない」
「うん、大丈夫そうだね。前に実際に使ってみたけれど、方位磁石と合わせて使うと本当に便利だったよ。たぶん地図と方位磁石があれば、初めて通る道でも迷うことはほとんどなくなると思うね」
目印になる山や川も記載されているから、よっぽどのことがなければ道に迷うことはなくなるだろう。まあ元の世界の人なら地図や方位磁石だけじゃなく、スマホのマップ機能や検索機能がないと道に迷う人はいるかもしれないな。俺も地図と方位磁石だけでは少し不安だ。
「二人ともありがとう。パトリスさん、ライザックさん、問題なさそうです」
「ありがとうございます! それではこちらの簡易版の地図を複製させていただきますね」
「うし、すでに大量に複製する準備は整っているからな。次の週には販売できるようになるだろ!」
すでに量産体制は整っているらしい。この1週間で写本ができる信頼のできる人を探して、さらに写した簡易版の地図を大量生産する準備を整えていたとは驚いたな。
それだけ冒険者ギルド側も地図の販売に力を入れるつもりなんだろう。冒険者ならよっぽどのことがない限り、地図は持っておいたほうがいいもんな。
「おそらく来週から冒険者ギルドで販売が可能になるかと思います。テツヤさんには毎月、売上の一部をお支払いします。ほとんどのギルド職員はテツヤさんが地図や図鑑に関わっていることを知らないので、私かギルドマスターをお呼びください」
「わかりました」
俺が精巧な地図や図鑑を提供したことは冒険者ギルド職員にも秘密になっている。写本の元にした地図や図鑑も後ほど処分する予定だ。
最初は写本した地図や図鑑をアウトドアショップでも販売しようとも思っていたが、販売したせいで今回みたいな貴族がちょっかいを出してくる可能性はあるし、販売はすべて冒険者ギルドに任せることにした。
そもそもアウトドアショップの利益だけでも結構な金額を稼いでいるわけだし、最初の地図と図鑑を提供しただけで、少しの不労所得があるなら十分である。というより不労所得バンザイだぜ!