「テツヤ、大丈夫!?」

「ありがとう、ランジェさん。まだ戦闘になってない。おかげで間に合ったよ!」

 店の外にはランジェさんが呼んできてくれた冒険者ギルドの人達が大勢いる。危ないところだった、もう少しランジェさんが冒険者ギルドのみんなを連れてくるのが遅れていたら、戦闘が始まっていたに違いない。

 こんなこともあろうかと、面倒な貴族が来た時の対応はすでに決めてある。基本的にはこちらからは手を出さず、ランジェさんに冒険者ギルドへ連絡をしてもらい、ライザックさんを連れてくるように頼んである。

 お店のことを思って冒険者ギルドと衛兵さんに連絡をしてくれたお客さん達には悪いが、こちらは貴族や貴族の遣いがお客さん以外でお店に現れたら、すぐに連絡をするように伝えていた。

「冒険者ギルドマスターのライザックだ。街中で戦闘が起きそうになっていると連絡があってやってきたわけだが、一体これはどういうことだ?」

「い、いや。私はこの街のクレマンス=リジムン男爵様に仕える身である。さ、最近噂となっているアウトドアショップなる商店の店主と一度話がしたいと男爵様に申し付けられ、店主を迎えに来たところ、あまりに男爵様に対して不遜な態度を取られたので、少し灸を据えようとしただけである!」

 強面であるライザックさんに睨まれ、怯えながらも必死に弁明しようとしている。言っている内容はメチャクチャだがな。

「いえ、このお店の経営権と、ここで売っている商品の製造方法や仕入れ先を購入したいとの申し出を受けました。申し訳ないが売る気はないとお伝えしたところ、無理やり馬車に乗せられそうになったため、やむを得ず自衛しようとしただけです」

「……なるほど、互いに言っていることが食い違っているようだな」

「ふん、そこの平民が嘘をついているに決まっているであろう? さっさとその者をひっ捕えよ!」

 すげえ無茶を言うな、この人……いや、この文明レベルの貴族なんて、こいつみたいなやつらがいても不思議ではないのかもしれない。しかも貴族どころか、ただの使いっ走りなんだけど。主人が貴族だったり、良い服を着たりすると、自分が偉い人物だという気持ちにでもなるのかな。

「はあ……はあ……やっと追いつきました……」

 ゼエゼエと息を吐きながら冒険者ギルドの副ギルドマスターであるパトリスさんもやってきてくれた。よっぽど急いで来てくれたようで、息がだいぶ上がっている。

「……貴様は何者だ?」

「はあ……はあ……大変お見苦しいところをお見せしました。私は冒険者ギルドの副ギルドマスターのパトリスと申します。表に停められている馬車より、リジムン男爵様の遣いの方とお見受け致します」

「いかにもクレマンス=リジムン男爵様の遣いの者である。そちらの大男よりも話が分かりそうであるな」

「ああん?」

「ひっ!?」

 大男と言われてライザックさんはムッとする。ライザックさんには申し訳ないのだが、そこだけは少し同意してしまう……

「ありがとうございます。それで、こちらのお店の方々が、男爵様の遣いのあなた様にご無礼をはたらいたとお聞きしましたが?」

「うむ、この店の者が我が主人である男爵様を侮辱したのである。即刻ひっ捕えよ!」

 話が通じそうなパトリスさんが来たからか、先程よりも大きな仕草で俺を指さしてくる。

「……なるほど、事情は分かりました。ひとつお聞きしたいのですが、今回のご訪問は男爵様ご本人の指示であると理解してもよろしいですね?」

「うむ、当然である! 私はリジムン男爵様の正式な遣いであるのだからな!」

「そうですか。それでは、リジムン男爵様に抗議させていただくとしましょう」

「………………はあ?」

「男爵様の遣いの方であれば、当然ご存知のことであると思いますが、先日この街に住む貴族様と商店に、冒険者ギルドよりこのアウトドアショップに関する正式な通達をさせていただきました」

 そう、今後は写本した地図や図鑑などが公開されることもあって、貴族や大手の商店がちょっかいを出してくることは予想できた。そのため、事前にライザックさんとパトリスさんと相談して、ひとつの対策を講じていた。

「こちらのアウトドアショップという商店は冒険者ギルドと契約をした協力店となっております。何か交渉ごとがある場合には、いかなる場合においても、冒険者ギルドを通すよう通達しております」

「………………なっ!?」

 簡単な対策がこのアウトドアショップというお店を冒険者ギルドに保護してもらうということだ。何か交渉ごとがある場合には、必ず冒険者ギルドを通してもらうことによって、相手方も無茶な要求はしてこなくなるはずである。下手をすれば冒険者ギルドを敵に回すんだからな。

 もちろん冒険者ギルドの保護下に入るということは、冒険者ギルドから無茶な要求をしてくる可能性もあるが、その辺りはライザックさんとパトリスさんを信用することにした。

 まあ本当に最悪の場合は、店を畳んで別の街で新しい店を始めるなんてこともできるから、頭の良いパトリスさんはそんなことをしてこないだろう。そんなことになったら、冒険者達から冒険者ギルドが非難を受けることは間違いないもんな。

「ばっ、馬鹿な! そんな話は聞いていないぞ!」

「あなたがその通達を聞いていたかどうかは関係ありません。このお店の者が男爵様を侮辱したかどうか以前に、このお店に遣いを出した時点で、そちらに問題があるということです」

「そういうわけだ。詳しい話を聞きたいから、ちょっくら冒険者ギルドまでご同行願うぜ」

「ひっ!?」

 肩をライザックさんに叩かれて震え上がる遣いの男。うん、それほど怖い気持ちも分からんでもない。

 鎧を身に付けた男達も冒険者ギルドの職員達に囲まれていたので、無駄な抵抗はせずに冒険者ギルドへと連行されていった。