バタンッ
「この店の責任者はおるか!」
新商品の販売を始めて3日目。予想通り連日お客さんがやって来てくれて、忙しく多少のトラブルが起きつつも対処してきたのだが、なにやら面倒そうなお客さんがやってきた。
「ちょっと、ちょっと! ちゃんと順番に並んでくれないと困りますよ」
ランジェさんが突然お店に入ってきた男を咎めた。どうやらこの男は列の順番に並ばずにいきなり入ってきたらしい。
30〜40代くらいの小柄な男で、この世界に来てから初めて見る立派に仕立てられた服装だ。パリッとした布地に刺繍で模様などが入っており高価そうに見える。おそらくだが冒険者ではないのだろう。
「ふん、私は客などではない! 早くこの店の責任者を出してもらおうか」
「……私が店主のテツヤと申します。何か御用でしょうか?」
どう考えても面倒ごとの予感しかしないが、一応お店にやってきた人にはちゃんと対応しないといけない。もしかしたら、冒険者ギルドマスターのライザックさんみたいに外見は怖いが、実際にはまともな人という可能性もある。
「ふむ、テツヤと言ったな。喜ぶが良い、我が主人であるクレマンス=リジムン男爵様が、このアウトドアショップとかいう店に興味をお持ちだ。この店の経営権と、ここで売られている商品の製造方法や仕入れ先を、お前のような庶民が一生見ることもできないほどの大金で買ってやろうというありがたい申し出を伝えに参ったのだ!」
「………………」
……そんな可能性はなかった。間違いなく面倒な連中だ。
立派な服装をしているが、どうやら貴族の遣いらしい。男爵だと言っていたが、確かリリアに聞いた話だと、貴族の中の爵位の中では一番低かったはずだ。
そもそもこの冒険者の始まりの街と呼ばれるアレフレアの街は大きな街ではあるが、物価も低くて経済や文化の中心からはほど遠い街なので、男爵よりも上の貴族はいないと聞いている。
「店の前に馬車を待たせてある。話の詳細は我が主人より聞くが良い。……見窄らしい格好ではあるが、まあ仕方あるまい。さあ、我が主人を待たせるな、早く来るのだ!」
「お断りします!」
「……なに?」
こういう輩が来る可能性は考えていたが、すでに答えは決まっている。
「……聞き間違いであると思うが、貴族であるリジムン男爵様からのありがたい申し出を、話も聞かずに断ると言ったのか?」
「はい。申し訳ありませんが、このお店はお金の為だけに開いているわけではありません。私はこの街の冒険者に命を救われ、そのあともこの街の冒険者達にとてもお世話になりました。その恩を返したくて、この街に店を開いたのです。
いくら大金を積まれても売ることはできないのです。お手数をおかけして申し訳ないのですが、リジムン男爵様にはそうお伝えください」
はっきり言って、まったく望んでいない申し出ではあるが、貴族様からの遣いということだし、こちらもちゃんと頭を下げて誠意を見せる。
いきなり異世界に飛ばされて魔物に殺されかけたところをロイヤ達に救われて、今も冒険者ギルドやこの街にいるみんなにお世話になっている。どんなに大金を積まれてもこの店の権利や商品を渡すつもりはない。
そもそもお金を稼ぎたいだけなら、王都みたいな大きい街に店を開いているし、もっと高い値段で売れることは分かっているから、値段をもっと上げている。
それとこういう面倒な貴族達が少ないと思っていたから、この始まりの街で店を開いたという理由もあったのだが、こういった連中はどこにでもいるらしい……
「そちらに悪い話ではないぞ。お前が思っている以上の大金をもらえる上に、リジムン様との繋がりまでできるのだ。庶民であれば、会うことすらできない貴族様であるのだぞ?」
「大変光栄な申し出ではありますが、すでに心に決めていることですので、申し訳ございません」
全然光栄じゃないからね。気を遣っているだけだから、言葉通りに取らないでくれよ。
「……詳しい話は我が主人としてもらおう。とりあえず一緖に来てもらおうか?」
「いえ、たとえリジムン男爵様にお会いしたとしても、気持ちは変わりません。男爵様の貴重なお時間を割いてもらうのは心苦しいので、遠慮させていただきます」
その手にはのらんよ。わざわざ貴族の屋敷になんて行ったら何をされるか分からない。話を断ったらいきなり監禁、拷問コースだってありえる。たとえ話の内容を聞く前であっても、何かと理由を付けて断るつもりだった。
「……あまり手荒なことはしたくないのだがな」
パチンッ
男爵の遣いの男が指を鳴らすと、全身に鎧を身に付けた騎士のような格好をした3人の男達が店の中に入ってきた。
「話し合いはそこまでになりそうだな、テツヤ」
「テツヤさんは下がっていてくれ」
話し合いではすまなくなりそうになったところで、リリアとドルファが俺を庇うように前に出てくれた。
「え、衛兵に知らせてくる!」
「俺は冒険者ギルドに知らせてくる!」
お店の常連のお客さん達が、店を出て人を呼びに行ってくれた。しかし不味いな……このまま貴族の遣いの人と戦闘になるのは避けたい。たとえリリア達がこの人達を倒せたとしても、いろいろと問題になることは間違いないんだよな。とはいえ、この人達を怪我しないように捕らえてくれなどという甘いことを2人に言うつもりもない。
「……リリア、ドルファ、大丈夫そう?」
「問題ないな。装備は良いかもしれないが、身のこなしでその者の腕はだいたいわかる。私とドルファで十分対処できる相手だ」
戦闘についてはまったく分からないが、元Bランク冒険者のリリアがそう言うなら信じるしかない。2人には少しでも危険があるなら、降参して時間を稼ぐ作戦に変更すると伝えてある。
「まったく店員風情が手間をかけさせるな。ほら、さっさと取り押さえるんだ。くれぐれも殺したりはするなよ!」
ジリッ
鎧を身につけた3人の男達が前に出てくる。相手のほうが数は多いけれど、本当に大丈夫なのか?
「……断っておくが、先にそちらから手を出すのなら、こちらも容赦はしない。たとえ鎧があっても命を捨てる覚悟で来い!」
「悪いが俺も手加減する気はねえ! そっちが来るなら殺す覚悟でいく!」
「「「うう……」」」
リリアとドルファの迫力に圧倒され、前に出ることができない男達。どうやら2人よりも格下の相手らしい。
「そこまでだ! 双方武器を下せ!」
「なにっ!?」
戦闘が始まるかと思った矢先、冒険者ギルドマスターであるライザックさんの大声が周囲に響き渡った。
ふう〜どうやら間に合ってくれたらしい。
「この店の責任者はおるか!」
新商品の販売を始めて3日目。予想通り連日お客さんがやって来てくれて、忙しく多少のトラブルが起きつつも対処してきたのだが、なにやら面倒そうなお客さんがやってきた。
「ちょっと、ちょっと! ちゃんと順番に並んでくれないと困りますよ」
ランジェさんが突然お店に入ってきた男を咎めた。どうやらこの男は列の順番に並ばずにいきなり入ってきたらしい。
30〜40代くらいの小柄な男で、この世界に来てから初めて見る立派に仕立てられた服装だ。パリッとした布地に刺繍で模様などが入っており高価そうに見える。おそらくだが冒険者ではないのだろう。
「ふん、私は客などではない! 早くこの店の責任者を出してもらおうか」
「……私が店主のテツヤと申します。何か御用でしょうか?」
どう考えても面倒ごとの予感しかしないが、一応お店にやってきた人にはちゃんと対応しないといけない。もしかしたら、冒険者ギルドマスターのライザックさんみたいに外見は怖いが、実際にはまともな人という可能性もある。
「ふむ、テツヤと言ったな。喜ぶが良い、我が主人であるクレマンス=リジムン男爵様が、このアウトドアショップとかいう店に興味をお持ちだ。この店の経営権と、ここで売られている商品の製造方法や仕入れ先を、お前のような庶民が一生見ることもできないほどの大金で買ってやろうというありがたい申し出を伝えに参ったのだ!」
「………………」
……そんな可能性はなかった。間違いなく面倒な連中だ。
立派な服装をしているが、どうやら貴族の遣いらしい。男爵だと言っていたが、確かリリアに聞いた話だと、貴族の中の爵位の中では一番低かったはずだ。
そもそもこの冒険者の始まりの街と呼ばれるアレフレアの街は大きな街ではあるが、物価も低くて経済や文化の中心からはほど遠い街なので、男爵よりも上の貴族はいないと聞いている。
「店の前に馬車を待たせてある。話の詳細は我が主人より聞くが良い。……見窄らしい格好ではあるが、まあ仕方あるまい。さあ、我が主人を待たせるな、早く来るのだ!」
「お断りします!」
「……なに?」
こういう輩が来る可能性は考えていたが、すでに答えは決まっている。
「……聞き間違いであると思うが、貴族であるリジムン男爵様からのありがたい申し出を、話も聞かずに断ると言ったのか?」
「はい。申し訳ありませんが、このお店はお金の為だけに開いているわけではありません。私はこの街の冒険者に命を救われ、そのあともこの街の冒険者達にとてもお世話になりました。その恩を返したくて、この街に店を開いたのです。
いくら大金を積まれても売ることはできないのです。お手数をおかけして申し訳ないのですが、リジムン男爵様にはそうお伝えください」
はっきり言って、まったく望んでいない申し出ではあるが、貴族様からの遣いということだし、こちらもちゃんと頭を下げて誠意を見せる。
いきなり異世界に飛ばされて魔物に殺されかけたところをロイヤ達に救われて、今も冒険者ギルドやこの街にいるみんなにお世話になっている。どんなに大金を積まれてもこの店の権利や商品を渡すつもりはない。
そもそもお金を稼ぎたいだけなら、王都みたいな大きい街に店を開いているし、もっと高い値段で売れることは分かっているから、値段をもっと上げている。
それとこういう面倒な貴族達が少ないと思っていたから、この始まりの街で店を開いたという理由もあったのだが、こういった連中はどこにでもいるらしい……
「そちらに悪い話ではないぞ。お前が思っている以上の大金をもらえる上に、リジムン様との繋がりまでできるのだ。庶民であれば、会うことすらできない貴族様であるのだぞ?」
「大変光栄な申し出ではありますが、すでに心に決めていることですので、申し訳ございません」
全然光栄じゃないからね。気を遣っているだけだから、言葉通りに取らないでくれよ。
「……詳しい話は我が主人としてもらおう。とりあえず一緖に来てもらおうか?」
「いえ、たとえリジムン男爵様にお会いしたとしても、気持ちは変わりません。男爵様の貴重なお時間を割いてもらうのは心苦しいので、遠慮させていただきます」
その手にはのらんよ。わざわざ貴族の屋敷になんて行ったら何をされるか分からない。話を断ったらいきなり監禁、拷問コースだってありえる。たとえ話の内容を聞く前であっても、何かと理由を付けて断るつもりだった。
「……あまり手荒なことはしたくないのだがな」
パチンッ
男爵の遣いの男が指を鳴らすと、全身に鎧を身に付けた騎士のような格好をした3人の男達が店の中に入ってきた。
「話し合いはそこまでになりそうだな、テツヤ」
「テツヤさんは下がっていてくれ」
話し合いではすまなくなりそうになったところで、リリアとドルファが俺を庇うように前に出てくれた。
「え、衛兵に知らせてくる!」
「俺は冒険者ギルドに知らせてくる!」
お店の常連のお客さん達が、店を出て人を呼びに行ってくれた。しかし不味いな……このまま貴族の遣いの人と戦闘になるのは避けたい。たとえリリア達がこの人達を倒せたとしても、いろいろと問題になることは間違いないんだよな。とはいえ、この人達を怪我しないように捕らえてくれなどという甘いことを2人に言うつもりもない。
「……リリア、ドルファ、大丈夫そう?」
「問題ないな。装備は良いかもしれないが、身のこなしでその者の腕はだいたいわかる。私とドルファで十分対処できる相手だ」
戦闘についてはまったく分からないが、元Bランク冒険者のリリアがそう言うなら信じるしかない。2人には少しでも危険があるなら、降参して時間を稼ぐ作戦に変更すると伝えてある。
「まったく店員風情が手間をかけさせるな。ほら、さっさと取り押さえるんだ。くれぐれも殺したりはするなよ!」
ジリッ
鎧を身につけた3人の男達が前に出てくる。相手のほうが数は多いけれど、本当に大丈夫なのか?
「……断っておくが、先にそちらから手を出すのなら、こちらも容赦はしない。たとえ鎧があっても命を捨てる覚悟で来い!」
「悪いが俺も手加減する気はねえ! そっちが来るなら殺す覚悟でいく!」
「「「うう……」」」
リリアとドルファの迫力に圧倒され、前に出ることができない男達。どうやら2人よりも格下の相手らしい。
「そこまでだ! 双方武器を下せ!」
「なにっ!?」
戦闘が始まるかと思った矢先、冒険者ギルドマスターであるライザックさんの大声が周囲に響き渡った。
ふう〜どうやら間に合ってくれたらしい。