「おお、テツヤ。この肉はなかなか美味しいな。それに青空の下で、こうやって卓を囲むのも悪くないものだな」

「たまには外でみんなでワイワイと楽しむのもいいものでしょ。アンジュさんも急なお誘いなのに来てくれてありがとうね」

 こちらの方ではリリアとアンジュさんが料理を食べながら話をしていた。

「テツヤさん、この度は関係のない私もお招きいただきありがとうございます」

 ドルファの妹のアンジュさんだ。今日も茶色い髪を後ろに束ねたポニーテールである。よくよく見ると、やっぱり兄弟だけあって、顔立ちはドルファに結構似ているな。

「このお肉もこのタレも本当に美味しいです! 兄さんが買ってきてくれたインスタントスープもとても美味しかったですし、テツヤさんは料理がとてもお上手なんですね!」

 まあインスタントスープは俺が作ったわけではないんだけどね。

「楽しんでいただけてなによりだよ。料理はいっぱいあるから遠慮なく食べてね」

「はい、楽しませていただきます。テツヤさん、兄さんを正式に雇っていただき、本当にありがとうございます」

「1週間試しに働いてもらったけれど、もう普通に接客も人並み以上にできているし、ドルファを雇えてラッキーだったよ」

「うむ、ドルファが来てくれて、私達の仕事がだいぶ楽になった。私達もとても助かっているぞ」

「今のところはみなさんに迷惑をかけていないようでなによりです。今後とも兄をよろしくお願いします」

「こちらこそ今後ともよろしくお願いしたいところだよ」

 お店としてもこのままドルファには店員として続けてほしいところである。

「テツヤさん、本日は私も誘っていただいて、本当にありがとうございます。それにこの前は美味しいお肉までいただいてしまってすみません」

「こちらこそ、いつもお世話になってますよ」

「テツヤお兄ちゃん、このお肉とっても美味しいよ!」

「それは良かった。このお肉はランジェさんがお土産に持ってきてくれたお肉なんだ。あとでランジェさんにお礼を伝えておいてね」

「はいです!」

「こちらはうちのお店で働いてくれているフィアちゃんのお母さんのレーアさん。こちらは先週新しく雇ったドルファの妹のアンジュさんだよ」

「初めまして、レーアと申します」

「初めまして、アンジュです。今後うちの兄がご迷惑をお掛けすると思います。よろしくね、フィアちゃん」

「い、いえ! ドルファお兄ちゃんはとっても優しいです! フィアのほうこそいっぱいご迷惑をかけちゃうと思います」

 女性陣が4人もいると華やかでいいな。キャンプとかバーベキューをする時はいつも男だらけだから、この光景はなかなか新鮮である。

「そういえばアンジュさんはどこかで働いているの?」

 この世界の人達は基本的に高校生くらいの年頃から働いている。下手をすれば中学生くらいの年頃からお店で働いていたりもするらしい。

 あるいはアンジュさんくらいの年頃で結婚をしている女性も大勢いる。とはいえドルファの様子からみると、たぶんアンジュさんは結婚していないんだろうな……

「はい、週の半分くらいは商店のほうで働かせてもらっています」

「そっか残念……もしも仕事を探しているなら、うちで働いてほしかったのにな」

 一応ドルファを雇ったことでアウトドアショップの人手は足りるようになったが、風邪などの病気でひとり休んでしまうと人手が足りなくなってしまう。

 アウトドア商品の利益率が高いこともあって、店の利益は結構なものとなっている。もうひとりくらいなら雇う余裕は十分にある。

 アンジュさんなら性格は良いし、男の冒険者のお客さんが増えることは間違いないからな。

「ああ、アンジュならとても可愛いから、とても良い看板娘になってくれるだろう」

「ありがとうございます。リリアさんみたいな綺麗な女性にそう言われると、とても嬉しいです」

「き、綺麗って!?」

 人には平気で可愛い言うのに、自分が綺麗と褒められると恥ずかしがっているリリアはなんだか微笑ましい。

 もしもアンジュさんがこのお店で働いてくれるようになったら、フィアちゃんとリリアと一緒に素晴らしい看板娘になるだろう。

 あれ、でもそうなるとこの店で普通の容姿の人って俺だけになるんじゃ……そもそも俺って普通の容姿くらいはあるよな? ……うん、たぶん、おそらく、きっとあるはずだ!
 
「そうだな、アンジュもこの店で働かせてもらったらどうだ。今働いている店が少し嫌だと言っていただろう?」

 うおっと!? いきなりドルファが話に入ってきた。相変わらず妹さんのことになると反応が早いな。

「嫌と言っても働けないほどではないわよ。それにまだ雇ってもらったばかりだしね」

 どうやらアンジュさんはまだ今の仕事に就いてから日が浅いようだ。

「まあ、もしも今の仕事を辞めるようなことがあったら、とりあえず声を掛けてくれると嬉しいかな」

「はい、ありがとうございます」

「レーアさんも、もし仕事を辞めるようなことがあったらぜひ声を掛けてくださいね」

「はい、もしも仕事を辞める際には考えさせてもらいますね」

 新しく店員を雇うよりは知り合いの人を雇うほうが店の秘密を守りやすいからな。2人がもし仕事を辞めるようなことがあれば、ぜひ店員として雇いたいところである。

「それじゃあそろそろデザートを用意しようかな。みんなはもう少し話しててね」

 ドルファやランジェさんもこっちに来たようだし、バーベキューもそこそこ食べ終えた。そろそろ締めのデザートといこう。といっても簡単な果物のデザートだけどな。