「ライザックさん、こんばんは」

「ご無沙汰しているな、ギルドマスター」

 お店の営業が終わり、閉店作業を終えて、リリアと一緒に冒険者ギルドにやってきた。

「おう、テツヤにリリア。わざわざ足を運んでもらって悪いな!」

 顔に傷痕のある大柄な男。元の世界だったら、どう見てもそのスジの人にしか見えないこの人は、この街の冒険者ギルドマスターだ。

 とはいえ、もう何度か会っているから、さすがに怖くはなくなった……ちょっとだけね。いや、怖いものは怖いんだよ……

「いえいえ。こちらにとってもありがたい話ですから。それとこれはお土産です。昨日知り合いの冒険者からワイルドボアの肉をもらったので、前に作ったダナマベアと同じように燻製して香辛料をかけてみました」

 昨日ロイヤ達からワイルドボアというイノシシ型の魔物の肉をお裾分けしてもらった。

 いやあ、鍋とステーキにしてリリアと一緒に食べたが、とてもうまかったな! さすがに高級食材のダナマベアの肉までとはいかなかったが、それでも十分うまかった。

 そしてその肉を燻製してアウトドアスパイスを振り掛けた特製の燻製肉だ。もちろんロイヤ達の分も作ってあるから、次にあった時に渡す予定だ。

 前回ダナマベアの燻製肉を作った時に、ライザックさんが気に入っていたから、ロイヤ達に許可をもらって、ライザックさん達の分も作っておいた。

「おお! そりゃありがてえ! この前もらったダナマベアの肉は香辛料が効いていてうまかったからな! これがまた酒に合うんだよ。テツヤ、一杯どうだ?」

 ゴクリッ

 冒険者ギルドマスターの部屋の机からコップとボトルを取り出すライザックさん。

 仕事が終わったあとの酒はうまいんだよなあ。思わず喉が鳴ってしまった。スモークウッドで燻された香ばしい燻製肉の香りも漂っていて、食欲が刺激される。

 ……てか仕事する部屋の机に酒があるってどういうことだよ!?

「ギルドマスター、この部屋でお酒は控えてください。それにこれからテツヤさんと大事なお話をするんでしょう?」

「おっとそうだったな。酒はあとにしておくか」

「……たとえあとでも、この部屋で飲まないでくださいね」

「「………………」」

 パトリスさんもいろいろと大変そうだな。

「ゴホンッ、それではテツヤさん。まずは浄水器をこちらで確認してみたところ、川の水や湧き水などを安全に飲めることがわかりました。それも多少濁った水でも問題はないみたいですね」

「はい」

 俺も以前に自分の身をもって検証してみたからな。とはいえ、さすがに濁った水までは試していなかった。そこまで高くない浄水器でも、結構な効果はあったようだ。

「以前よりテツヤさんに卸していただくようになりました方位磁石のおかげで、あの森での行方不明になる者が大幅に減りました。

 森で迷うことが少なくなったとはいえ、こちらの浄水器を持っていれば、さらに冒険者の生存確率が上がります。

 こちらも冒険者ギルドで販売させていただけないでしょうか? 方位磁石と同様に、テツヤさんのお店での販売価格である銀貨3枚でお売りいただき、それに銅貨2枚を加えた値段で販売したいと思います」

 方位磁石のほうは銀貨2枚で冒険者ギルドに卸して、銀貨2枚と銅貨2枚で販売している。これだと冒険者ギルドの儲けはほぼないが、冒険者の生存率を上げるためにそれでもいいそうだ。

「はい。冒険者の生存率が上がるのはいいことですからね。それに冒険者ギルドの告知を見て、アウトドアショップに来てくれるお客さんも大勢いるので、こちらからもぜひお願いします」

 俺も駆け出し冒険者のロイヤ達に助けられたし、この街の人達にたくさん助けられている。少しでもこの街の冒険者達の役に立てるなら何よりだ。

 それに冒険者ギルドでうちの商品を置いてもらえて信用も上がるし、お店の宣伝にもなるしいいことづくめだ。冒険者ギルドの売店でポーションや毒消しなどと同様に取り扱ってもらえるならなによりだ。

「本当ですか、ありがとうございます!」

「よっしゃ! 話は終わりだな。それじゃあ下の階で飲もうぜ!」

「……まあ下の階ならいいでしょう。それではテツヤさん、今後ともよろしくお願いします」

「はい、パトリスさんの分もあるので、今度感想を聞かせてくださいね」

「おや、私の分もあるのですね。重ね重ねありがとうございます」

 うむ、日々のお付き合いは大切である。決して賄賂ではないからね!



「ほら、テツヤ。まずは一杯」

「ありがとうございます」

「ほれ、リリアもだ。今日は俺個人からの奢りだ。2人には世話になっているからな、たくさん食ってくれ」

「それでは遠慮なくいただこう」

 冒険者ギルドの1階にある食堂にライザックさんとリリアと一緒にやってきた。

「まず何はともあれ、乾杯!」

「「乾杯!」」

 カコンッ

 木でできたコップを持ち、3人で乾杯をする。俺はライザックさんからもらったお酒で、リリアは食堂で注文したジュースである。

「うわっ、このワインはうまいですね! 俺が飲んでるものとは全然違いますよ!」

「なかなかいけるだろ! そこそこ値が張るけれど、これがまたうめえんだよ。テツヤが作ったこの肉もうめえ。よく酒と合うぜ!」

「テツヤ、明日も店があるのだから、ほどほどにな」

「ああ、危ない危ない。気を付けるよ」

 俺もそこまで酒に強いわけじゃないからな。明日も仕事があるし、ほどほどにしておかなければ。とりあえずこのお酒の銘柄と値段はあとで聞いておこう。

「テツヤもだいぶリリアの尻に敷かれているみたいだな……」

「だ、誰も尻に敷いてなどいない!?」

「ははは……」

 ライザックさんは相変わらずリリアをからかっているみたいだな。