「名前はドルファだ。年は20になる」
最後の応募者は俺より少し年下の男性だった。茶色い長髪を後ろに束ねた背の高いイケメンで、女性にモテそうだろうなという第一印象だ。
「ドルファさんですね、テツヤと申します。まずは前職を教えてください」
「つい先日まで、この街でCランク冒険者をしていた。護衛任務もこなした経験がある」
「なるほど、戦闘能力は問題なさそうですね」
ひとり目の応募者と同じように元Cランク冒険者なら、戦闘能力については問題ないだろう。言葉遣いもそれほど悪いわけじゃないし、店員としての言葉遣いをちゃんと教えれば問題ない。
それにもし彼を店員として雇えれば、間違いなく女性のお客さんは増えるに違いない。しかし、なぜ彼のようなイケメン冒険者がCランクになっても、まだこのアレフレアの街にいるのかがわからない。
それに冒険者を引退した理由も気になる。まだ若いし、見たところ大きな怪我をした様子もないのに、どうして冒険者を引退する必要があるのだろう? もしかしてなにか問題でも起こしたのか?
「差し支えなければ、冒険者を引退した理由を聞いてもいいですか?」
「ああ。といっても大した理由じゃない。これまでは母と妹とこの街で一緒に暮らしていたんだが、母が病で亡くなってしまった。
俺は兄として、母の代わりに妹を育てていく義務がある。冒険者という仕事はどうしても家を空けがちになるんだ。別の街への護衛任務であれば、1週間家を空けるなんてこともよくある。
それに冒険者という仕事はどうしても危険と隣り合わせだ。もし万が一俺に何かあれば、妹はひとりになってしまうから、それだけはなんとしても避けたい」
「………………」
なるほど、家族でこの街に暮らしていたから別の街へ行かなかっただけか。冒険者として大成するよりも、家族と一緒に暮らしていくことを選んだんだな。
「冒険者を引退して、仕事を探していた時にこの店の求人を見つけた。ここの店なら給料も高くて2人で十分暮らしていけるし、家を何日も空けることがない。
それに仕事の条件が良いからだけじゃなくて、冒険者として活動していた時は、この店の方位磁石や浄水器といった道具には世話にもなった。冒険者を引退したあとも、冒険者に関われる仕事に就きたいとも思っていたんだ」
とてもまともな冒険者の引退理由とこの店の志望動機であった。妹想いの立派な兄のようだ。
「わかりました。辛いことを思い出させてしまってすみません。接客の経験があったり、お金の計算はできますか?」
「接客は初めてだが、冒険者の依頼で依頼人と話すことはよくあった。お金の計算も基本はできるつもりだ」
ふむふむ。接客に関してはこれから覚えていけばいいだろう。他の街がどうかは分からないが、少なくともこの街のお店の店員は元の世界ほど礼儀正しい接客ではないので、そこまでレベルの高い接客は必要ない。
むしろ俺のように謙りすぎると相手につけ込まれてしまうので良くないとリリアに言われた。このあたりは営業をやっていた時から染みついちゃっているんだよな……
俺のことはさておき、俺との会話も問題ないし、計算もできるなら問題ない。嘘をついているような仕草もないし、もうこの人は採用でいいんじゃないかな。
「………………」
「リリアの方からドルファさんに聞いておくことはないの?」
先程からリリアはなにも話していない。前の2人にはちょこちょこ質問をしていたんだが、ドルファさんには聞いておくことはないのかな?
「……ひとつ聞きたいのだが、ドルファの妹さんの名はアンジュと言わないか?」
んん、もしかして妹さんはリリアの知り合いだったりするのか?
「ああ、うちの妹を知っているのか。まあこの街で一番……いや、この国で一番可愛いといっても過言じゃないから知っていても当然か!」
「………………」
ドルファさんがいきなり人が変わったようにキラキラとした笑顔で話し始めた。
「そうなんだよ、うちの妹は可愛すぎてひとりにしておくのは本当に心配なんだ。今こうしている間にも悪い男が言い寄っていないかと思うと不安で胸がいっぱいになる!」
「ねえ、リリア。この人ってさあ……」
「……ああ。私も初めて会ったが、冒険者ギルドでは重度のシスコンで残念な冒険者として有名だ。実力もあるし、顔が良いから女性にも人気はあるのだが、絶対に女にはなびかないそうだ」
「………………」
ま、まあ、妹さん思いなのはいいことだよな。妹がいない俺には分からないが、妹さんを大切にしているんなら、悪い人ではないんじゃないか。
「……確か妹さんが誘拐事件に巻き込まれそうになった時に、その誘拐組織をひとりで潰したことによってCランク冒険者に昇格したはずだ」
「……ヤバいやつだな!?」
思ったよりもヤバそうな人だった!
「ふう……とりあえず3人の面接は終わったけれど、どうするかなあ」
一応面接は無事に終わったが、誰を雇うかだなあ。いや、誰も雇わずに来週も続けて募集するという手もあるけど……
「……あの中だったらドルファでいいんじゃないか?」
「えっ!?」
「まあテツヤの気持ちは分かるが、彼がシスコンということは店にとって大した問題にはならないだろう。3人の中では一番実力もあるし、なにより彼が一番長く働きそうで、秘密も守ってくれそうだ」
……確かにリリアの言う通り、よくよく考えてみると彼がシスコンであってもお店には関係ないか。そしてリリアが言うのなら、彼が一番実力があるのは事実だろうし、一番長く働いてくれそうでもある。
「言われてみると、確かに彼が一番適しているっぽいな。とりあえず彼を雇ってみるか」
妹さんのことさえ触れなければ、かなり優良な人材であることは間違いない。2人目の人も迷うところだが、彼の期待にうちの店が応えるのは難しそうだからな。
どちらにせよ、1週間はお互いにとって試用期間となる。リリアと話し合って、とりあえずドルファさんを雇ってみることに決まった。
最後の応募者は俺より少し年下の男性だった。茶色い長髪を後ろに束ねた背の高いイケメンで、女性にモテそうだろうなという第一印象だ。
「ドルファさんですね、テツヤと申します。まずは前職を教えてください」
「つい先日まで、この街でCランク冒険者をしていた。護衛任務もこなした経験がある」
「なるほど、戦闘能力は問題なさそうですね」
ひとり目の応募者と同じように元Cランク冒険者なら、戦闘能力については問題ないだろう。言葉遣いもそれほど悪いわけじゃないし、店員としての言葉遣いをちゃんと教えれば問題ない。
それにもし彼を店員として雇えれば、間違いなく女性のお客さんは増えるに違いない。しかし、なぜ彼のようなイケメン冒険者がCランクになっても、まだこのアレフレアの街にいるのかがわからない。
それに冒険者を引退した理由も気になる。まだ若いし、見たところ大きな怪我をした様子もないのに、どうして冒険者を引退する必要があるのだろう? もしかしてなにか問題でも起こしたのか?
「差し支えなければ、冒険者を引退した理由を聞いてもいいですか?」
「ああ。といっても大した理由じゃない。これまでは母と妹とこの街で一緒に暮らしていたんだが、母が病で亡くなってしまった。
俺は兄として、母の代わりに妹を育てていく義務がある。冒険者という仕事はどうしても家を空けがちになるんだ。別の街への護衛任務であれば、1週間家を空けるなんてこともよくある。
それに冒険者という仕事はどうしても危険と隣り合わせだ。もし万が一俺に何かあれば、妹はひとりになってしまうから、それだけはなんとしても避けたい」
「………………」
なるほど、家族でこの街に暮らしていたから別の街へ行かなかっただけか。冒険者として大成するよりも、家族と一緒に暮らしていくことを選んだんだな。
「冒険者を引退して、仕事を探していた時にこの店の求人を見つけた。ここの店なら給料も高くて2人で十分暮らしていけるし、家を何日も空けることがない。
それに仕事の条件が良いからだけじゃなくて、冒険者として活動していた時は、この店の方位磁石や浄水器といった道具には世話にもなった。冒険者を引退したあとも、冒険者に関われる仕事に就きたいとも思っていたんだ」
とてもまともな冒険者の引退理由とこの店の志望動機であった。妹想いの立派な兄のようだ。
「わかりました。辛いことを思い出させてしまってすみません。接客の経験があったり、お金の計算はできますか?」
「接客は初めてだが、冒険者の依頼で依頼人と話すことはよくあった。お金の計算も基本はできるつもりだ」
ふむふむ。接客に関してはこれから覚えていけばいいだろう。他の街がどうかは分からないが、少なくともこの街のお店の店員は元の世界ほど礼儀正しい接客ではないので、そこまでレベルの高い接客は必要ない。
むしろ俺のように謙りすぎると相手につけ込まれてしまうので良くないとリリアに言われた。このあたりは営業をやっていた時から染みついちゃっているんだよな……
俺のことはさておき、俺との会話も問題ないし、計算もできるなら問題ない。嘘をついているような仕草もないし、もうこの人は採用でいいんじゃないかな。
「………………」
「リリアの方からドルファさんに聞いておくことはないの?」
先程からリリアはなにも話していない。前の2人にはちょこちょこ質問をしていたんだが、ドルファさんには聞いておくことはないのかな?
「……ひとつ聞きたいのだが、ドルファの妹さんの名はアンジュと言わないか?」
んん、もしかして妹さんはリリアの知り合いだったりするのか?
「ああ、うちの妹を知っているのか。まあこの街で一番……いや、この国で一番可愛いといっても過言じゃないから知っていても当然か!」
「………………」
ドルファさんがいきなり人が変わったようにキラキラとした笑顔で話し始めた。
「そうなんだよ、うちの妹は可愛すぎてひとりにしておくのは本当に心配なんだ。今こうしている間にも悪い男が言い寄っていないかと思うと不安で胸がいっぱいになる!」
「ねえ、リリア。この人ってさあ……」
「……ああ。私も初めて会ったが、冒険者ギルドでは重度のシスコンで残念な冒険者として有名だ。実力もあるし、顔が良いから女性にも人気はあるのだが、絶対に女にはなびかないそうだ」
「………………」
ま、まあ、妹さん思いなのはいいことだよな。妹がいない俺には分からないが、妹さんを大切にしているんなら、悪い人ではないんじゃないか。
「……確か妹さんが誘拐事件に巻き込まれそうになった時に、その誘拐組織をひとりで潰したことによってCランク冒険者に昇格したはずだ」
「……ヤバいやつだな!?」
思ったよりもヤバそうな人だった!
「ふう……とりあえず3人の面接は終わったけれど、どうするかなあ」
一応面接は無事に終わったが、誰を雇うかだなあ。いや、誰も雇わずに来週も続けて募集するという手もあるけど……
「……あの中だったらドルファでいいんじゃないか?」
「えっ!?」
「まあテツヤの気持ちは分かるが、彼がシスコンということは店にとって大した問題にはならないだろう。3人の中では一番実力もあるし、なにより彼が一番長く働きそうで、秘密も守ってくれそうだ」
……確かにリリアの言う通り、よくよく考えてみると彼がシスコンであってもお店には関係ないか。そしてリリアが言うのなら、彼が一番実力があるのは事実だろうし、一番長く働いてくれそうでもある。
「言われてみると、確かに彼が一番適しているっぽいな。とりあえず彼を雇ってみるか」
妹さんのことさえ触れなければ、かなり優良な人材であることは間違いない。2人目の人も迷うところだが、彼の期待にうちの店が応えるのは難しそうだからな。
どちらにせよ、1週間はお互いにとって試用期間となる。リリアと話し合って、とりあえずドルファさんを雇ってみることに決まった。