リリアが案内してくれた道具屋は冒険者ギルドから近くにある、とても大きな道具屋だった。

「いらっしゃいませ!」

 うちの店よりも遥かに大きく、店員の数もパッと見で7〜8人はいるとても規模の大きな店だった。アウトドアショップの店を開く時に、値段をつける参考にいくつかお店を回ったが、屋台や小さい店を中心に回っていたので、このお店に入るのは初めてだ。

「すごく大きな店だね」

「とっても広いお店です」

「この店はこの街の中でも、かなり大きな店だからな。駆け出し冒険者にとっては多少高価な商品が多いから、ランクの少し上がった冒険者がよく来ている」

「なるほど」

 同じ冒険者をターゲットとしているお店でも、いろいろな棲み分けがあるらしい。確かに値段を見ると、ポーチや水筒などといった冒険者に必要そうなものでも、結構お高い商品が多い。その分品質が良かったり、耐久性に優れているのかもしれない。

「おお、もしかしてこれはポーションか!」

「どれも綺麗です」

 リリアとフィアちゃんと店内を回っていると、青い色の液体が入ったガラスの筒が棚にいくつも置いてあった。隣には黄色の毒消しポーションや緑色のマナポーションと書かれたガラス瓶も置いてある。

「ああ、冒険者には必須の道具だな。ここの店のポーションは多少高価だが、品質はなかなか良いものが多いんだ。私も普段冒険者として活動している時は、ここの店のポーションを携帯しているぞ」

 やっぱり冒険者にとってポーションは必須なんだな。しかし、ポーションの入れ物となっているガラスの筒の品質はそれほど良くないように思える。少しデコボコしているし、すべての筒が均一の形をしていないし、透明ではなく半透明だ。

 この世界に来た時に、香辛料の入ったガラスの容器が高値で売れていた理由が良くわかる。やはりガラスを綺麗に加工するのはとても難しいんだな。ちなみに使い終わったポーションのガラスの容器は有料で買取って再利用しているらしい。

「へえ〜。うちの店にもいくつか買って置いておこうかな。なにかあった時に便利そうだ」

「いや、特に店に置いておく必要はないだろう。ポーションには使用期限もあるし、時間が経てば経つほどその効果は落ちてくる。この街にいるならポーションはすぐに手に入るし、怪我を負ったらその時に購入すれば問題ないだろう」

「……なるほど、使用期限があって効果も落ちていくのか」

 どうやらこの世界のポーションにはいろいろと使用方法があるらしい。まあ当たり前といえば当たり前か。

 他にもこのお店では冒険者のための道具がいろいろと売っていた。リュックや解体用のナイフ、野営用のテントや寝袋など、元の世界でキャンプギアの好きな俺にとってはお店を回っているだけでも十分に楽しめた。

 今のところはこのお店の商品とうちのお店で売り出す予定の商品はそれほどかぶっていないから大丈夫そうだ。しかし、アウトドアショップのレベルが上がったら、テントや寝袋などは購入できるようになりそうなんだよな。

 当たり前だが、こっちの世界テントや寝袋は元の世界のクオリティに比べると明らかに劣っている。値段にもよるが、他のお店の商品が売れなくなりそうな気もする。まあレベアップはまだまだ先だし、その時になったら考えるとしよう。



 道具屋をまわった後も、リリアとフィアちゃんと一緒に市場や屋台などを見て歩いた。リリアの休日は冒険者として必要な店を回ったり、美味しいご飯を食べて過ごすようだ。

 ……そこまで休日になっているとは言い難いが、本人が気分転換できているのならそれで問題ないだろう。個人的には普段俺が行かない異世界らしいお店を回れたからとても楽しめた。

 そしてさすがに今日は晩ご飯を作るのも手間なので、俺の行きつけ……というかこの街に来てからずっとお世話になっていた宿にやってきた。

「ここは俺がこの街に来てずっとお世話になっていた宿なんだ。宿屋なんだけど、料理がとても美味しいんだよ」

 フィアちゃんは前に一度来たことはあるが、リリアは初めてだ。

「あら、テツヤさん。いらっしゃい」

「お兄ちゃん、いらっしゃい」

 女将さんもアルベラちゃんも元気そうだった。明日はいよいよアウトドアショップのオープンだから、さすがに今日は酒をやめておいて、料理とジュースを頼んだ。

「それじゃあリリアもフィアちゃんも明日から忙しくなると思うけどよろしくね!」

「ああ、任せてくれ!」

「が、頑張ります!」

 明日の開店に向けてジュースで乾杯し、この店のおっちゃんの料理にアウトドアスパイスを追加で入れつつ、美味しい料理を楽しんだ。

「今日はいろいろまわって楽しかったね。普段リリア達冒険者がどういう店に行くのか知れて勉強になったよ」

「私としてもあれほど目を輝かせて楽しそうにしてくれたら案内した甲斐もあるな。……まさかあれほど喜んでくれるとは思ってもいなかったぞ」

「テツヤお兄ちゃん、とっても楽しそうだったね。フィアもあんなに大きなお店に入るのは初めてだったから楽しかったよ!」

 どうやら俺はよっぽど楽しそうに冒険者のための鍛冶屋や道具屋をまわっていたらしい。やっぱり男としてはああいうお店で商品を見ているだけでもテンションが上がってしまう。

 鍛冶屋とか男の子ロマンしかないもんな。まあ俺にはあんなに高価な武器や防具などまったく必要ないが、それでも槌を振るうドワーフ達の姿には感動してしまった。明日からのオープンに向けて、異世界での休日を楽しむことができたな。

 さあ、明日はいよいよアウトドアショップのオープンだ。気合を入れるとしよう!