「フィアもご一緒していいんですか?」

「フィアちゃんが大丈夫ならで構わないよ。もちろんご飯代は俺が出すから」

 朝に冒険者ギルドへ行き、ロイヤ達にひとつお願い事をした後、いつも通り屋台で店を開いた。お客さんの波が少し落ち着いたところで、休憩がてらに朝ロイヤ達と話していたことをフィアちゃんに伝えた。

「はい、もちろん大丈夫ですよ!」

「よかった。それじゃあ今日は早く店を閉めるから、そのあと移動しよう。あんまり遅くならないようにするからね」

「はいです! ……あの、テツヤお兄ちゃん。フィアからもひとつお願いがあるです」

「お願い?」

「えっとね、テツヤお兄ちゃんがいっぱいお金をくれたおかげで、お母さんの具合がだいぶ良くなってきたの」

「おおっ、それは良かったね!」

 フィアちゃんからお母さんの具合を聞いていたが、疲労に効く薬を買ったり、栄養のあるご飯を食べさせてあげることができて、少しずつ回復に向かっていることは聞いていた。

「それでね、お礼を言いたいから、一度家に連れてきてってお母さんに頼まれたの」

「なるほど、それじゃあフィアちゃんの家に行ってから食事に行こうか。お母さんも体調が良さそうなら、食事にも一緒についてきてもらっても良いね」

「本当!? テツヤお兄ちゃん、ありがとう!」

「それくらいなら全然大丈夫だよ」

 街でたまたまフィアちゃんと出会い、毎日多めの給料を払って、今日は夜に食事に連れて行ってあげる。

 ……どうみても怪しい男にしか見えない。というより元の世界だったら、この時点で通報案件である。どちらにせよ店としてフィアちゃんを雇っている以上、母親には一度キチンと挨拶に行こうと思っていたところだ。



「よし、今日はこのあたりで店を閉めよう。フィアちゃん、今日もお疲れさま」

「はいです!」

 昨日店を閉めた時よりもだいぶ早い時間帯にお店を閉める。屋台のほうは明日も借りているので、本日の営業は終了しましたと書いてある貼り紙を貼っておいた。

「こっちです」

「へえ〜こっちは住宅街みたいになっていたんだ」

 フィアちゃんに案内されて、お母さんがいるフィアちゃんの家に向かう。案内された場所はこの街の住宅街になっているようで、同じ形をした建物がずらっと並んでいる。

「ここがフィア達のおうちだよ」

 そして案内された家は木造建ての2階にある部屋だった。

「お母さん、ただいま!」

「フィア、おかえり。あら、もしかしてその人が例の……
?」

「うん、テツヤお兄ちゃんだよ」

「初めまして、テツヤと申します」

「初めましてテツヤさん、フィアの母親のレーアです」

 レーアさんはフィアちゃんと同じキツネの獣人で、ピンと先の尖ったケモミミとフィアちゃんよりも大きなフサフサとした尻尾があった。一児の母なのにだいぶ若い女性のように見える。もしかしたらまだ20代くらいなのかもしれない。

「狭いところですが、どうぞお入りになってください。今お茶を入れますね」

「お邪魔します。あとお茶は大丈夫ですよ、まだ体調も完全に治っていないと聞いていますから、無理はしないでくださいね」

「いえ、もうほとんど治っているから大丈夫ですよ。むしろ、1週間も休んでいて身体も鈍っていますから、少しくらい動いたほうがいいんです」

 どうやらレーアさんの体調はだいぶ良くなっているみたいだ。最初フィアちゃんに聞いた時は、ベッドでずっと安静にしていたようだが、今はもう普通に歩けるらしい。

 部屋の中に案内されてテーブルの前の椅子に座る。元の世界のアパートのような間取りとなっていた。

「この度はフィアを雇ってくださいまして、本当にありがとうございます。おかげさまで私もすっかり良くなりました」

「いえ、うちのお店もフィアちゃんがいてくれたおかげで、とても大助かりでした。うちの店は少し前にオープンしたばかりなんです。人手が足りなくなって、人を雇おうと思っていた時にフィアちゃんと出会ったんです。お釣りの計算もできるし、接客もできるし、とても助かっています」

「そうですか……フィアがそんなに……」

「ええ、ちょうどこちらからもレーアさんへご挨拶に伺いたかったんです。レーアさんの体調が治ったあとも、フィアちゃんをうちの店で雇わせてもらえないでしょうか?」

「………………」

 レーアさんの体調が良くなったら、フィアちゃんがうちの店で働く必要がなくなる。また新しく人を雇えばいいのだが、できればこのままフィアちゃんにうちの店で働いてほしい。

「お母さん、私ももう働けるんだよ! 私だってお母さんの助けになりたいもん!」

「フィア………………ええ、そうですね。私の目の届かないところで勝手に冒険者になられるよりは、安全なこの街の中で働いてくれるほうが私も安心できます。テツヤさん、娘をよろしくお願いします」

「はい! 無理や危険なことは絶対にさせませんから!」

「お母さん、ありがとう! テツヤお兄ちゃん、これからもよろしくお願いします!」

「うん、こちらこそよろしくね。あのレーアさん、もしよかったらレーアさんもうちのお店で働きませんか? 過労で倒れてしまうくらい大変な仕事よりは、うちの店のほうが楽だと思いますよ!」

 アウトドアショップのレベルが3に上がって商品も増えた。もう少しお金を貯めたら屋台ではなく店舗を借りる予定だし、人手は2人でも足りなくなるはずだ。過労で倒れてしまうくらいのブラックな場所で働くよりは、うちのお店で働いてもらいたい。

「……テツヤさん、ありがとうございます。お気持ちはとても嬉しいんですけれど、今の職場も気に入っているんです。今回過労で倒れたのも、私がひとりで勝手に頑張り過ぎてしまっただけなんですよ。店長さんからはゆっくり休んで身体を治したら、店に戻ってきてほしいと言われておりますから」

「……そうですか、とても良い店長さんなんですね」

 どうやら俺が想像していたのとは違ってホワイトな職場だったらしい。俺が勤めていたブラック企業も少しは見習ってほしいものである。

 俺が連日の残業で体調を崩して会社を休むと連絡をした時に、家で安静に仕事をしていればすぐに治るという謎の理由で、体調の悪い中家で仕事をさせられたことがある……あれは一生忘れないからな!