屋台でお店を出してから4日が過ぎた。キツネの獣人であるフィアちゃんを従業員として雇えてから、人手不足も解消できて順調である。

 昨日はひとつだけ問題があった。方位磁石をひとりで100個も購入したいというお客さんが現れたが、明らかに転売する目的だったために断った。そもそもこのお店で売っている商品には、こういった転売目的の購入を防ぐために、同じ商品はひとり3個までの購入制限を付けている。

 いくら自分の商店を持っていないからといって、転売のことを考えていないほど愚かではない。もちろん、正当な理由がある場合には大量販売も考えるが、今回のお客さんは目的を聞いても答えなかったため、おそらくは転売目的だったのだろう。

 購入できなかったことに逆上して、何かしてくるかとも身構えたが、特に暴れたりはせず大人しく引いてくれた。やはりお店にお客さんが増えれば増えるほど、いろいろなお客さんがやってくる。いくら治安が良い町でも元の世界の日本とは比べるまでもない。改めて気を引き締めよう。



「よし、これでLV3にレベルアップできるぞ!」

 LV2に上がってからLV3に上がるまで、アウトドアショップでの金貨50枚分の購入が完了する。とはいえ手持ちがかなりギリギリだったため、宿の部屋の中には明日以降に販売するキャンプギアが山のように積まれている。今売っているキャンプギアが小さい物ばかりだからできたことでもある。

「それでもレベルアップできるなら、早めにしておきたいんだよな」

 うちの店のメイン商品である方位磁石の売り上げが、そろそろ落ち着いてくる頃だろう。噂を聞いてかなりの数の駆け出し冒険者が方位磁石を購入したと思うので、この数日のように1日で大量に売れることは、なくなっていくのではないかと思っている。

 もちろん毎日のように新しい冒険者がこの街にやってくるので、まったく売れなくなるなんてことはないが、多少売り上げは落ちるだろう。早くアウトドアショップのレベルを上げて、新しい商品を購入できるようにしておきたい。

 前回のレベルアップアップでは新しく購入できるキャンプギアが結構増えていた。今回のレベルアップでは何が増えるか楽しみである。

「さあて、今回はどんなキャンプギアが増えるのかな……っと!」

『アウトドアショップのレベルが3に上がりました。購入できる商品が増えます』

「よし、前回のレベルアップと同じで商品が増えているな! しかも結構便利そうなキャンプギアが増えている。……って次のレベルアップまで金貨500枚かよ!? こりゃ次のレベルアップは当分先になりそうだな……」

 商品の一覧を見ると、アウトドアショップの能力で購入できるキャンプギアの種類がかなり増えていた。今回のレベルアップでは前回のレベルアップの倍以上にラインナップが増えていた。さすがにまだテントや寝袋のような大きくて高価な商品はなかったが、それでも十分に便利で売れそうなキャンプギアがいくつもあった。

 しかし、問題は次のレベルアップまで金貨500枚もの大金が必要になることだ。今の屋台でのお店の売り上げでは相当な日数が必要となりそうだ。

 まあこれについては地道にコツコツとやっていく他なさそうだ。現状でも毎日結構な大金を稼ぐことができている。あまり急いで大金を稼ごうとすると、面倒ごとも付いて回ってくるからな。すでに多少は目立っているだろうし、ゆっくりと過ごしながら次のレベルアップを目指せばいい。

「あとはどんな商品をいくらで売るかを考えないといけないな。また方位磁石みたいに確認しないといけないこともありそうだ。その時はロイヤ達かリリアに依頼しよう」

 いろいろと考えなくてはならないことも多そうだ。今夜は長くなりそうだぜ!

 市場で買ってきたツマミとぬるいお酒を片手に、ああでもないこうでもないと考えながら夜を過ごしていった。





◆  ◇  ◆  ◇  ◆

「あっ、いたいた。ニコレ、ロイヤ、ファル、おはよう!」

「おはよう、テツヤ!」

「おはよう。テツヤが朝早くから冒険者ギルドに顔を出すなんて珍しいな」

「おはよう。どうした? 何か問題でも起きたのか?」

「いや、お店のほうは順調だよ。今日はまた3人に依頼したいことがあってさ」

「なるほど、また護衛依頼か?」

「いや、今回俺は同行しなくても大丈夫なことだ。ただこれを依頼に出すのもどうか微妙なところだったから、ちょっと3人に相談したいんだ」



「……なるほど。確かにこれなら指名依頼を出すほどのことじゃないな」

「そうね、これくらいなら別にお金なんていらないわよ」

「そうだな。どうせ今日は依頼で森に行くし、ぱぱっと済ませてこよう」

「ありがとう。でも、さすがに報酬なしじゃ気が引けるから、今日の晩ご飯は奢るよ。それでどうだ?」

「いいの!? やった〜!」

「別にこれくらいなら、礼など気にしなくてもいいんだぞ」

「親しき仲にも礼儀ありだ。そんなに大きなことではなくても、頼み事をするならちゃんとお礼はしないとな。それに俺はもうあの森には入りたくない」

 もうゴブリンやらイノシシやらは勘弁だ。街の中で安全に商売でお金を稼げるならそれに越したことはない。

「……よっぽど森で迷ったりゴブリンに襲われたことが怖かったんだな」

「了解した。それじゃあ今日の晩ご飯はありがたくご馳走になるとしよう」

「ああ、こっちこそよろしく頼む!」

「……ねえテツヤ、せっかくだからフィアちゃんも一緒に連れてきたらどう?」

「「「………………」」」

「ちょっと!? 前回は少し取り乱しちゃっただけだから!」

「「「少し?」」」

 俺とロイヤとファルの声が完全にハモった。あれは少しとかいうレベルじゃなかったぞ。完全に通報一歩手前だった。

「……うう。ロイヤとファルに怒られてちゃんと反省したから〜本気で気をつけるからお願い〜」

「……まあ、あまりに酷かったらロイヤと俺の2人がかりでなんとかする」

「そうだな。前回俺達はあの子とそんなに話せなかったし、せっかくなら誘ってみてくれないか?」

「2人がそう言うなら大丈夫かな。誘ってはみるけれど、あまり期待はするなよ」

 フィアちゃん本人に聞いてみるとしよう。さすがに本人が嫌がっていたら強制なんてできない。