最近のアウトドア用のライトは昔よく使用されていた懐中電灯などとは比較にならないほど強力なものが多い。

 今ではそれこそ軍用で使われていたり、車のヘッドライトに匹敵するほどの光量を持つライトなんかも手に入れることが可能だ。さすがにこのハンドライトはそれほど強力なものではないが、まともな灯りのない真っ暗な夜に目へ当てられてはたまったものではない。

 アウトドアショップのレベルが上がった時に購入できるようになったこのハンドライトだが、さすがにこの異世界では技術的にヤバい代物だし、今俺が使ったように悪用もできるため一般販売はしていないし、これからもしない予定だ。

「目があ、目がああああ!」

「よし! リリア、今のうちに拘束を頼む!」

「……テツヤ、今の話は本当なのか?」

「へっ?」

 なぜか武器を手放してうずくまっているストーカーを前にリリアがすぐに動いてくれていない。リリアのことだから、俺が言う前にストーカーを確保しよう動いているのかとも思っていたのに。

 むしろなぜかストーカーではなく俺のほうを鋭い目で見ているような……

 んっ? そういえば今の話って……

「いやいやいや! 今のは作り話だから! こういえばストーカーが武器を持って襲ってくると思っただけだよ!」

「そ、そうか! うん、ならいいんだ!」

 先程までの俺への鋭い視線を外してストーカーを拘束し始めるリリア。

 ……もしかしてやきもちを焼いてくれたのかな。そんな状況でないのは百も承知だけどかなり嬉しい! いや、本当に今はそんな状況じゃないぞ!

「くそっ、寄るなあああ!」

「はっ!」

「ぐあっ!」

 まだ視界が回復しておらずに腕をブンブンと振り回していたが、武器も手放して目も見えないストーカーは一瞬でリリアに取り押さえられた。

 俺も少しだけであるが、役に立てたようでよかった。リリアひとりでも楽々拘束できた可能性は高いが、相手もナイフを持っている以上、万が一がないとは言い切れない。それに仲間はいないみたいだけど、こいつを引き渡すまではまだ油断してはいけないな。

 そしてそのままストアで購入した縄によって拘束したストーカーを連行し、衛兵達に引き渡して事情を説明した。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「……そういうわけで、アンジュのストーカーは無事に逮捕されたから安心してくれ。警戒態勢も解除するよ」

 そして次の日、お店にやってきた従業員のみんなに昨日の出来事を説明した。

「テツヤさん、リリアさん、本当にご迷惑をおかけしました!」

「前にも言ったけれど、これはアンジュのせいじゃないからね。それに誰もケガすることがなく解決したんだから、ここは素直に喜ぶところだよ」

「ああ。本当にアンジュやドルファのほうへ行かずに良かったぞ」

 これはむしろストーカーのほうにとっても、うちの店にとってもだな。下手にドルファに接触したら、拘束どころかやり過ぎてしまって、ドルファも逮捕されてしまう可能性のほうが高かった。

「はい! 本当にありがとうございました!」

 笑顔でニッコリと微笑むアンジュ。……まあ彼女のこんな可愛らしい笑顔を見たら、ストーカーのように彼女に夢中になってしまう気持ちも分からなくはないか。

「くそっ、俺としたことが……アンジュがそんなやつにつけまわされていたのに気付けなかったのは一生の不覚だ!」

 今さらながら、ようやくストーカーのことをドルファにも話した。妹の危機に気付くことができなかったことを本気で悔しがっているみたいだ。

 あのままドルファには何も話さないという選択肢もあったが、無事にストーカーは捕まったことだし、家族であるドルファには伝えておいたほうがいいと判断した。

「俺が知っていれば、そいつを八つ裂きにしてやったものを……」

 ……シスコンであるドルファなら本当にやりかねないところである。

「ドルファがやり過ぎて逆に逮捕される可能性もあったから、アンジュも相談できなかったんだ。アンジュを大切にしたい気持ちも分かるけれど、逆にそれが悩みの種になってしまうこともあるんだぞ」

 ドルファがアンジュを大切にしていることは間違いないが、兄妹愛が重すぎるがゆえに相談できなかったのも事実だ。

「うう……」

「兄さんが私を大切にしてくれるのは嬉しいけれど、そのせいで兄さんが捕まってしまったら、私は本当に悲しいわ。兄さんが私を大切にしてくれているように、私も兄さんが大切なの。だから兄さんも自分のことをもう少し大事にしてね」

「アンジュ!! ……悪かった、俺も今後はもう少し周りのことも考えて動く。ちゃんと自分のことも考えるからな!」

 おおっ、なんだかめちゃくちゃいい感じでまとまっている! さすがにアンジュも長年ドルファと兄妹をしてきていることもあって、ドルファの扱いは慣れているようだ。

「アンジュお姉ちゃん、ドルファお兄ちゃん、よかったね!」

「結局僕はなんの助けにもならなかったけれど、誰も大きな怪我がなくてよかったね」

「フィアちゃんにもランジェさんにもたくさんご心配をおかけしました。本当にありがとうございました!」

「店のみんなには本当に迷惑をかけた。それに俺やアンジュのためにいろいろと手伝ってくれて本当に感謝する。なにかみんなが困った時、今度は俺も力になるから何でも言ってほしい!」

「私にも力になれることがありましたら、なんでも仰ってくださいね!」

 なんだかんだでストーカーのおかげで、この店のみんなの結束がより固まった気がする。逆にあのストーカーに感謝しなければいけないかもしれないな。

 ちなみにそのストーカーについてだが、明確な殺意で武器を持って襲ってきたこともあって、鉱山や危険地帯で長年強制労働の罪となるらしい。今回の件で俺を深く恨んでいる可能性もあるし、解放される際には俺も気をつけるとしよう。