「……まだついてきている?」

「……ああ。一定の距離を保ってついてきているな。やはりひとりで間違いないようだ」

 ひとりとなると、アウトドアショップを狙ってきたというわけではなさそうだ。そうなるとやはりアンジュのストーカーの可能性が高くなるが、なんでアンジュじゃなくて俺とリリアのあとをついてきているんだ?

「……一応ここまで来ればお店まですぐそこだ。人通りもないし、あの角を曲がったところで待ち伏せてみるか?」

「……そうだね。でもさっきも言ったけれど、少しでも危なかったらすぐに逃げよう」

「……ああ、もちろんだ。安心しろ、テツヤには怪我ひとつ付けさせないさ!」

 めっちゃ格好いい!

 男として女性であるリリアに守られるのはどうなのかと思うが、リリアが頼もしく見えて仕方がない。これが主人公に守られるヒロインの気持ちなのだろうか。

「……っ!?」

「おい、なぜ私達のあとをつけている!」

 茶色の髪に整った顔立ちをしたイケメンに特徴的な位置にあるホクロ、やはり俺達をつけていたのはアンジュのストーカーの男であった。俺とリリアが曲がり角を曲がったところで待ち伏せていると、とても驚いた表情をしていた。

「………………」

 ストーカーは特に武器を持っていないようだが、なぜか俺のほうを睨んでいる。

 それにしてもなぜだ? 改めてストーカーと対峙してもやはり面識はなく、アウトドアショップに来た時が初対面だと思うのだが……

「おい、おまえがアンジュの男か!」

「………………はい?」

 いきなりストーカーがわけのわからないことを口走り始めた。どうしてそんな話になった?

「………………テツヤ?」

「いや、違うから!」

 なぜかリリアまでストーカーの言っていることを真に受けている。リリアはほぼいつも俺と一緒にいるでしょうが!

「とぼけるな! アンジュの近くにいる男の中でアンジュの男である可能性があるのはおまえしかいない!」

「どうやったらそういう結論になるのかサッパリ分からないんだが……」

「ここで働いているアンジュの兄を除いて、女好きのエルフは常に別の女と一緒にいることが確認できた。それにアンジュはあいつみたいなチャラい男には絶対になびかない! そうなるとアンジュの男はおまえに違いない!」

「………………」

 ……いやそんなビシッと謎はすべて解けたみたいに人差し指を俺に向けているが、その推理は完全に的外れだぞ。確かにアンジュに男がいることは男を寄せ付けないようにはっきりと公言したが、わざわざアンジュの男を詮索してくるとはな。

 そもそもそんな彼氏なんて実在しないんだよね。そしてランジェさんがチャラい男扱いされている……俺から見たらこのストーカーの男のほうが見た目はチャラチャラしているんだけど。

「おまえはたいした顔をしていないが、金だけはあるようだからな」

「余計なお世話だ!」

 この店で働いている従業員の中で普通の容姿をしているのが俺だけなのは自覚しているんだからほっとけ!

「そこの護衛の女を金で雇ったように、アンジュにも金をちらつかせたのか? それとも何か弱みを握って脅迫したのか? でなければアンジュが貴様のようなしょぼくれた男と一緒にいるわけがない!」

「………………」

 俺こいつを殴っても許されるよね?

「アンジュが仕事を辞めてしまって、俺がどこにいるかを探す間に貴様のような男に騙されてしまったアンジュ……彼女は俺が守ってみせる! 二度と彼女に近付くんじゃない!」

「………………」

 本気で頭が痛くなってきた。そもそもアンジュが仕事を辞めたのはお前のせいなんだがな……

 話がまったく通じていない。この男を説得できる気がしないぞ。アンジュもこんな男に絡まれるとは本当についてないな。

 とはいえ、相手は手を出してきていないし、この男を逮捕したりはできないんだよな。ここは少しずるいが……

「はんっ、おまえのようなアンジュのあとをつけまわすような卑怯な男にアンジュがなびくわけないだろ。すでにアンジュは俺のものだ。おまえこそ二度と彼女に近付くんじゃない!」

「な、なんだと!?」

「聞こえなかったか、アンジュは俺のものだ。どうせアンジュを守るなんて口先だけだろう? アンジュの後ろをこそこそとつけるだけの陰湿で根性の腐った男が粋がってんじゃねえよ!」

「……き、貴様! 誰が口先だけだと!」

 これでもかというほど煽り散らしてやったら、さすがにストーカーもキレたようで小型のナイフを出してきた。武器を出してきたことによって、こちらの正当防衛が主張できるし、殺人未遂の罪になる。

 ストーカーのアンジュへの想いを利用するのは少しだけ罪悪感はあるが、そもそもアンジュへの想いが彼女の迷惑になっていることは間違いないし、彼女が仕事を辞めざるを得なくしてしまったのだからな。

「アンジュにふさわしいのは俺だ!」

 逆上してきたストーカーは俺の隣に元Bランク冒険者のリリアが護衛にいるにもかかわらず、俺に向かって飛びかかってきた。恋は盲目というか、単にこのストーカーが短絡的なだけかはわからないが、リリアが護衛でここにいることなんて調べてあるだろうに……

 しかし、俺もただリリアに守られているだけではない!

 護身用に持っていたあるものを取り出してスイッチを入れる。

「うわっ、目が、目があああああああ!」

 武器を落として、某大佐のようにのたうち回るストーカー。これでリリアも危険なくストーカーを取り押さえることができるだろう。

 俺が取り出したもの、それはハンドライト、それもアウトドア用の強力な光の出るやつだ。

 失明の危険もあるから、良い子は絶対に真似しちゃだめだぞ!