うん? アンジュさんを雇う?
「アンジュさんをこの店で雇う……ということはドルファはこの店を辞めるわけじゃない?」
「……もちろん従業員が十分に足りていると言うなら、俺がアンジュの代わりに辞めるのは仕方がない。だが可能ならば、俺もこのままこのアウトドアショップで働き続けたいんだ」
「いやいやいや、従業員はむしろ足りてないから! ドルファにはこのまま引き続き働いてほしいから!」
「そ、そうか」
あまりに否定するから若干ドルファが引いてしまった。ドルファが辞めるわけではないと聞いて、本当に安心したのだ。
「テツヤはドルファがこの店を辞めるのではないかと心配していたんだ。何かこの店に不満があるんじゃないかと見当違いなことを考えていたんだぞ」
「ちょっ、リリア!」
「まさか!? 給与は他の店よりも高くて、休みも1日どころか2日もある。他の駆け出し冒険者達の役に立てて仕事にやりがいもあるし、何より俺を雇ってくれて、一から丁寧に仕事を教えてくれた。
感謝こそすれ、不満なんて何ひとつないぞ! むしろこんなに良くしてくれているテツヤさんにさらに頼みごとをするのが申し訳なかったんだ」
「ドルファ……」
「だからテツヤは心配し過ぎだって言ったじゃん。他の店がどうかは知らないけどさ、このお店はとても良いお店だよ」
「俺も店を持つことなんて初めてだし、人を雇うなんてことも初めてだったからさ……分からないことばかりだし、みんなにはいろいろと迷惑をかけることもたくさんあったし。ドルファが辞めないでくれて本当に良かった……」
「テツヤ……」
元の世界も含めて店を持ったり人を雇うことなんて初めての経験だ。元の世界で働いていたブラック企業で後輩が入ってきたこともあったが、すぐに辞めてしまった。
その時もドルファのように真剣な表情で話があると切り出されて、仕事を辞めると言われた。その時の理由は俺ではなく会社に不満があると言ってはいたが、先輩の俺がもう少し何かできたこともあったんじゃないかと考えたりもした。
「あっ、ごめん、ごめん。アンジュさんがこの店で働きたいって話だよね? もちろん大歓迎だよ。お客さんも増えてきて、ちょうどもう1人くらい従業員を増やそうかなと思っていたところだったんだ」
「本当ですか! あのっ、でも本当に大丈夫なんでしょうか?」
「アンジュさんとは何度か話していて、性格に問題ないことは知っているからね。それに商店に勤めていたって言ってたから、計算も多少はできるよね。それにできなくても少しずつ覚えていけばいいだけだからさ」
すでにアンジュさんとは何回も顔を合わせていて、性格に問題ないことはすでに分かっている。商店で働いていたとも言っているし、接客業の経験者なら、なおのこと大歓迎だ。
「はい、計算はできます。兄さんから聞いていた仕事の内容でしたら、前の仕事とほとんど同じなので大丈夫だと思います!」
「うん、それなら大丈夫だよ。これからよろしくね」
いやあ、一時はドルファが辞めてしまうかとも思ったが、むしろ従業員が増えてくれるとはな。本当に助かったぜ。
「……あの、その前にテツヤさん達にひとつだけ話しておきたいことがあります。悪いけれど、兄さんは私がいいと言うまで外に出ててね」
「いや! 何の話かは分からないが、アンジュの話なら俺も……」
「いいから、早く!」
「おう!」
「「「………………」」」
アンジュさんの命令によって、ドルファが即座に外に出て階段を降りていく。本当に妹さんには絶対服従のようだ。
「あの、雇っていただいてもらうかの前に、先にテツヤさん達に前の店を辞めた理由をお話ししておきたいと思います」
「そういえば、前に話した時は今の職場が嫌だって言っていたね」
確か以前にバーベキューをした時にそんなことを言っていたはずだ。
「はい、実はその商店で一緒に働いていた男性の店員に付きまとわれてしまっていて……」
「えっ!? 付きまとわれるって……」
「その男性から告白されたのですが、性格が合わないと思ってきっぱりとお断りしました。ですが、その後から何度も言い寄ってこられたり、あとをつけられたりするようになりまして……
お店の店長にも相談したのですが、取りあってくれませんでした。街の衛兵さんにも相談したのですが、実害がでていないからと同様でした。もしも兄と同じ職場で働ければ、兄と一緒に帰宅することができるので、安全に帰ることができます」
「なるほど……確かに実際に言い寄られるだけでは衛兵も関与できないか。兄のドルファに相談すれば、むしろドルファが逮捕されかねないというわけだな……」
う〜ん、日本でもストーカー規制法ができたのはすこし前だし、この世界では実害が出てからでしか衛兵も手を出せないのも理解できる。しかし、実害が出てからではもう遅い。
かといってドルファに話すと、下手をすれば……というより、相手をボコボコにしてドルファが逮捕される結末になる可能性のほうが高いわけか。
「……女性を怖がらせるのは許せないね。アンジュさん、ちょっとその男の名前と人相を教えてくれない? 大丈夫、僕ならバレずにボコボコにするから!」
「えっ、えっと……それはさすがに……」
……ランジェさんもしれっと怖いことを言うなあ。プレイボーイではあるが、女性は大切にしているみたいだし、女性に迷惑行為をするのは許せないのだろう。
「もしかしたら、その人がこのお店に来てしまうかもしれません。なのでみなさんにも迷惑をかけてしまう可能性がありまして……」
先に理由を話しておきたいというのはそういうことか。もしかしたらそのストーカーがこの店にやって来たり、騒ぎを起こす可能性もある。
わざわざ自分が不利になることを自分が雇われるかどうかを決める前にちゃんと話してくれたし、アンジュさんはいい娘だな。それなら俺の答えは決まっている。
両隣を見ると、リリアもランジェさんも俺が何かを喋る前に目を見て頷いてくれた。この異世界にやってきて何度も思ったことだが、やはり俺は従業員に恵まれているようだ。
問題ありませんよ。アンジュさんをアウトドアショップの従業員として雇います。もちろん従業員の安全は最大限守りますから!」
「アンジュさんをこの店で雇う……ということはドルファはこの店を辞めるわけじゃない?」
「……もちろん従業員が十分に足りていると言うなら、俺がアンジュの代わりに辞めるのは仕方がない。だが可能ならば、俺もこのままこのアウトドアショップで働き続けたいんだ」
「いやいやいや、従業員はむしろ足りてないから! ドルファにはこのまま引き続き働いてほしいから!」
「そ、そうか」
あまりに否定するから若干ドルファが引いてしまった。ドルファが辞めるわけではないと聞いて、本当に安心したのだ。
「テツヤはドルファがこの店を辞めるのではないかと心配していたんだ。何かこの店に不満があるんじゃないかと見当違いなことを考えていたんだぞ」
「ちょっ、リリア!」
「まさか!? 給与は他の店よりも高くて、休みも1日どころか2日もある。他の駆け出し冒険者達の役に立てて仕事にやりがいもあるし、何より俺を雇ってくれて、一から丁寧に仕事を教えてくれた。
感謝こそすれ、不満なんて何ひとつないぞ! むしろこんなに良くしてくれているテツヤさんにさらに頼みごとをするのが申し訳なかったんだ」
「ドルファ……」
「だからテツヤは心配し過ぎだって言ったじゃん。他の店がどうかは知らないけどさ、このお店はとても良いお店だよ」
「俺も店を持つことなんて初めてだし、人を雇うなんてことも初めてだったからさ……分からないことばかりだし、みんなにはいろいろと迷惑をかけることもたくさんあったし。ドルファが辞めないでくれて本当に良かった……」
「テツヤ……」
元の世界も含めて店を持ったり人を雇うことなんて初めての経験だ。元の世界で働いていたブラック企業で後輩が入ってきたこともあったが、すぐに辞めてしまった。
その時もドルファのように真剣な表情で話があると切り出されて、仕事を辞めると言われた。その時の理由は俺ではなく会社に不満があると言ってはいたが、先輩の俺がもう少し何かできたこともあったんじゃないかと考えたりもした。
「あっ、ごめん、ごめん。アンジュさんがこの店で働きたいって話だよね? もちろん大歓迎だよ。お客さんも増えてきて、ちょうどもう1人くらい従業員を増やそうかなと思っていたところだったんだ」
「本当ですか! あのっ、でも本当に大丈夫なんでしょうか?」
「アンジュさんとは何度か話していて、性格に問題ないことは知っているからね。それに商店に勤めていたって言ってたから、計算も多少はできるよね。それにできなくても少しずつ覚えていけばいいだけだからさ」
すでにアンジュさんとは何回も顔を合わせていて、性格に問題ないことはすでに分かっている。商店で働いていたとも言っているし、接客業の経験者なら、なおのこと大歓迎だ。
「はい、計算はできます。兄さんから聞いていた仕事の内容でしたら、前の仕事とほとんど同じなので大丈夫だと思います!」
「うん、それなら大丈夫だよ。これからよろしくね」
いやあ、一時はドルファが辞めてしまうかとも思ったが、むしろ従業員が増えてくれるとはな。本当に助かったぜ。
「……あの、その前にテツヤさん達にひとつだけ話しておきたいことがあります。悪いけれど、兄さんは私がいいと言うまで外に出ててね」
「いや! 何の話かは分からないが、アンジュの話なら俺も……」
「いいから、早く!」
「おう!」
「「「………………」」」
アンジュさんの命令によって、ドルファが即座に外に出て階段を降りていく。本当に妹さんには絶対服従のようだ。
「あの、雇っていただいてもらうかの前に、先にテツヤさん達に前の店を辞めた理由をお話ししておきたいと思います」
「そういえば、前に話した時は今の職場が嫌だって言っていたね」
確か以前にバーベキューをした時にそんなことを言っていたはずだ。
「はい、実はその商店で一緒に働いていた男性の店員に付きまとわれてしまっていて……」
「えっ!? 付きまとわれるって……」
「その男性から告白されたのですが、性格が合わないと思ってきっぱりとお断りしました。ですが、その後から何度も言い寄ってこられたり、あとをつけられたりするようになりまして……
お店の店長にも相談したのですが、取りあってくれませんでした。街の衛兵さんにも相談したのですが、実害がでていないからと同様でした。もしも兄と同じ職場で働ければ、兄と一緒に帰宅することができるので、安全に帰ることができます」
「なるほど……確かに実際に言い寄られるだけでは衛兵も関与できないか。兄のドルファに相談すれば、むしろドルファが逮捕されかねないというわけだな……」
う〜ん、日本でもストーカー規制法ができたのはすこし前だし、この世界では実害が出てからでしか衛兵も手を出せないのも理解できる。しかし、実害が出てからではもう遅い。
かといってドルファに話すと、下手をすれば……というより、相手をボコボコにしてドルファが逮捕される結末になる可能性のほうが高いわけか。
「……女性を怖がらせるのは許せないね。アンジュさん、ちょっとその男の名前と人相を教えてくれない? 大丈夫、僕ならバレずにボコボコにするから!」
「えっ、えっと……それはさすがに……」
……ランジェさんもしれっと怖いことを言うなあ。プレイボーイではあるが、女性は大切にしているみたいだし、女性に迷惑行為をするのは許せないのだろう。
「もしかしたら、その人がこのお店に来てしまうかもしれません。なのでみなさんにも迷惑をかけてしまう可能性がありまして……」
先に理由を話しておきたいというのはそういうことか。もしかしたらそのストーカーがこの店にやって来たり、騒ぎを起こす可能性もある。
わざわざ自分が不利になることを自分が雇われるかどうかを決める前にちゃんと話してくれたし、アンジュさんはいい娘だな。それなら俺の答えは決まっている。
両隣を見ると、リリアもランジェさんも俺が何かを喋る前に目を見て頷いてくれた。この異世界にやってきて何度も思ったことだが、やはり俺は従業員に恵まれているようだ。
問題ありませんよ。アンジュさんをアウトドアショップの従業員として雇います。もちろん従業員の安全は最大限守りますから!」