ここはバールドア城の広場より南東側。フウルリスクは警備の手薄そうな、裏口にある用水路の出入口の方に向かっていた。

 するとフウルリスクの目の前を、二人の兵士が話しながら通りすぎる。

 その話をフウルリスクは聞き逃さなかった。

「……聖女が城から抜け出したって……どうなっている? 何がなんだか分からない……でも、とりあえず知らせておきますか」

 そう思いながら近くの茂みに隠れる。それから周囲を確認した。

「ヨシ、大丈夫そうだな」

 そう言うと左手の腕輪に手を添える。



 ――場所は変わり、ティハイドの居る部屋――


 あれからティハイドは、今か今かと式典が始まるのを待っていた。

(まだか……なぜ、まだ始まらん。それに、フウルリスクから連絡がこない。何をやっているのだ!)

 そう思いながら座っているソファーの背もたれを、ドンッと右拳で叩く。

 その時、左手首の腕輪が光る。そして魔法陣が展開された。それに気づき腕輪に左手を添える。

「フウルリスクか?」

 “はい、ティハイド様”

「何か分かったのか?」

 そうティハイドは問う。

 “そのことなのですが、聖女が城から居なくなったみたいです”

「聖女が、失踪した。ほう、これは面白い。だが、計画はそのまま遂行する。いいな!」

 “承知いたしました”

 そう言うとフウルリスクは通信を切った。

(聖女が消えた、か。まあその方が、やり易い。さて、私はどうする? このまま聖女がみつからなければ、式典は中止。
 そうなれば、ここに居る意味がなくなるな。撤退を早めても、問題ないだろう)

 そう考えがまとまると左手の腕輪に右手を添える。すると魔法陣が浮かび上がった。

「シュウゼル、私だ」

 “ティハイドか……どうした?”

「聖女が消えた。恐らく式典は中止になる」

 そう言うとティハイドは窓の方を向く。

 “そうなると、そこに居る理由はないな”

「ああ、そういう事だ。至急、迎えをよこせ」

 “分かった。少し待て……”

 そう言いシュウゼルは通信を切る。

「さて、あとのことは任せておけば大丈夫だ。転移用のペンダントも持たせてあるしな」

 そう言いニヤリと笑みを浮かべた。



 ――場所は変わり、用水路の旧出入口――


 清美とサクリスは出入口から外へ出る。

「多分、大丈夫だと思うけど気をつけて行こう」

「うん、そうだね」

「それとこの大勢の中に紛れれば外にでれると思う」

 そう言われ清美は大勢の人が集まる広場をみた。

「凄い人数。これみんな、式典のために集まったの?」

「勿論、そうだよ。キヨミをみたくて集まって来た人たち」

「そうか、なんか申し訳ない気がしてきちゃった」

 それを聞いたサクリスは、呆れた表情をする。

「そんなこと言ったら、ここまで来た意味がなくなる」

「そうだね。ここまで来たんだから、後戻りなんかできない」

 そう清美が言うとサクリスは頷いた。

「じゃあ行くよ!」

 そう言いサクリスは、清美の手を取り広場の人込みの方へ向かう。

 だが、その途中で清美はフウルリスクとぶつかる。

「イタッ、ごめんなさい」

 清美はサクリスの手から離れよろけ倒れそうになった。

「あっ、すまない。大丈夫ですか?」

 そう言いフウルリスクは、倒れかけた清美を抱きかかえる。

「キヨミ大丈夫?」

「うん、平気だよ。この人が支えてくれたから」

 そう言い清美は、体勢を立て直しフウルリスクに視線を向けた。

 そして二人は顔を赤らめ見つめ合っている。

(なんて綺麗なんだ。この世の者とも思えないほどに美しい。……まさか、聖女。あり得なくはない。でも……)

(えっと……どうしたんだろう、私。なんかドキドキしてる。目と目が合っただけなのに……変だ、顔が熱い)

 サクリスは、ムッとした表情でフウルリスクをみた。

「ありがとうございます。私共は急いでいますので、キヨミ様いきましょう」

「待ってくれ、もしかして……君が聖女か?」

 そう問われ清美は焦る。サクリスは警戒し睨む。

(警戒している。この様子だと間違いないな。まさかこんな所で、出逢うなんて……これって運命か? もしそうならこの人を救いたい。
 だけど……そうなると、ティハイド様を裏切ることになる。しかしそれでも、これは価値があることなんじゃ)

 そう考えフウルリスクは、決心し片膝をつき清美の右手に口づけをした。

「聖女さま。この城から出たいのですよね?」

「お前、何者だ? それに城の者でもないのに、なぜそのことを知っている」

 そう聞かれフウルリスクは、立ち上がりサクリスの方を向く。

「そうでした。名乗るのが礼儀ですね。ボクは、フウルリスク・ペシアと申します。聖女さまが居なくなった噂は、偶々そこですれ違った兵士の話を聞いたから」

「そうなのですね。私たちのことを、知らせるのですか?」

「いいえ、そのつもりはありません」

 フウルリスクがそう言うとサクリスは首を傾げる。

「それって、どういう事だ?」

 そうサクリスが問うとフウルリスクはその理由を話し出した。