コルザの話を私とグレイとムドルさんとメーメルは聞いていた。

「お前たちの思っている通り、今回の件は確かに私がしたことだ。だが、従うしかなかった。いや、知らなかったと言った方がいいか」

「それは、どういう事ですか? 知らなかった、従うしかない。どうやったら、そういう状況になるのか分からない」

「グレイフェズ、ティハイド様のことは知っているな」

 そう言いながらコルザはグレイに視線を向ける。

「ええ、国王陛下の叔父にあたる方のはず。それと今回のことと、何か関係があるんですか?」

「うむ、私はティハイド様を信じていた。だが、騙されたのだ。これは、言い訳になってしまうかもしれぬがな」

「いったい何があったのですか?」

 そうグレイに聞かれコルザは、つらそうな表情になった。

「最初はこの町で商売を始めたい者がいるから、ブレファス()に口添えをして欲しいと言われた」

「おかしい。普通なら直接、ブレファス様と商談するはず。それが、なぜコルザ様の所に」

 そう言うとグレイは首を傾げる。

「私もそう思って、聞いたのだ。なぜ兄の所ではなく、私なのかと」

「ティハイド様は、なんて言ったんですか?」

「返って来た言葉は……。直接、兄と話すよりも私を間に入れて、交渉した方が早く承認される。そう言っていた」

 コルザは、一点をみつめそう言った。

「それを鵜呑みにしたと言うことですか?」

「いや、全て信用した訳じゃない。だが、ティハイド様が嘘をつく訳もないと思ってしまったのだ」

「それで、承諾して保証人になったという事ですか?」

 そう問われコルザは溜息をつく。

「ああ、そうだ。だが、まさか商売が人身売買だとは思わなかった」

「書類の内容は、読まなかったのですか?」

「読んだ。ちゃんと確認した。兄も書類を確認している。だが、何がなんだか分からない。あとでみせられた書類には、そのこと……人身売買の文面と承諾のサインが……」

 そう言いコルザは、悔しそうな表情をしている。

「それはおかしい。すり替えられたなら、サインを真似たのか」

「いいや、あの筆跡は間違いなく私のものと兄のだ」

「なるほどですね。二重文章ですか」

 それを聞き私も含め全員がムドルさんの方をみた。

「ムドル、二重文章ってなんだ?」

 グレイは不思議に思い首を傾げる。

「知らないのですね。二重文章とは……。予め文章を書き、一時的に消える魔法で何もない状態にする。その上に特殊な魔法のペンで書きます。それとそのペンで書いた物は、あとで消すことが可能」

「ってことは、その二重に書かれた文章のせいで……」

「グレイ、恐らくそうだと思われます」

 それを聞いていたコルザは、苦虫を噛み潰したような表情になり遠くをみつめた。

「クッ、それが本当なら……」

「うむ……もしそれが本当ならば、魔族が関与しておるかも知れぬのじゃ」

「確かに、メーメル様の仰る通りですね」

 そう言われ私は、不思議に思う。グレイとコルザも首を傾げていた。

「どういう意味だ?」

 コルザがそう問う。

「その方法と魔法を知る者は、魔族以外いませんので」

「外部に、その方法が漏れたという事はないのか?」

「グレイ、それはあり得ぬのじゃ。その魔法は、魔族以外には使えぬのでのう」

 そう言われ私とグレイとコルザは納得し頷いた。

「そうなると、ティハイド様が魔族と手を組んでいる可能性が高い」

「クウッ、そんな方法で……騙されたというのか」

 悔しさのあまりコルザは、唇を噛み締める。

「そうなると、ティハイド様がこの件に関与している。それと……厄災の方も関係しているかもしれない」

「グレイ、それはどういう事ですか? まさか、厄災が人為的によるものだと」

「ああ、そういう事だ。ルイの能力で調べてもらったから間違いない」

 そう言いながらグレイは私の方を向いた。

「うん、間違いないと思う。厄災の発生源は、アクロマスグって所だった」

「ティハイド様の領地か。しかしなぜ、そのことが分かる?」

 そう聞かれ私は、どう答えた方がいいか悩んだ。

「コルザ様、そのことも踏まえながら話を進めます」

 そうグレイが言うとコルザは、頷き私の方に視線を向けた。