ムドルは便箋の内容を全て読み終える。それと同時に目が点になり青ざめた。

 便箋を持つ手は、プルプルと震えている。

「あー、も、も……いや、これは……」

 ムドルのその態度は、明らかに挙動不審だ。そう、どう言葉を返せばいいか困っていた。

(恋文? どういう意味でしょう。これを書いたのは、間違いなくグレイだと思います。ですが、なぜこのような物を……。んー、連絡をと書いてありますね)

「どうした? 顔が青いぞ。もしや、余りにも恥ずかしい文面だったためか」

 そう言いながらコルザは、笑いを堪えている。

「いや、それは……」

 ムドルはコルザから目線を逸らした。

「まあいい、それはそうと。返事を書かないといけないのではないのか?」

「そうだが。今は……」

「うむ、ここで書けばいい。もしみられるのが恥ずかしいのであれば、私は仕事に戻る。この文面を見る限り余程、お前に会いたいのだろうからな」

 そう言いながらコルザは立ち上がる。

「すまない……」

 ムドルは深々と頭を下げた。

 それを確認するとコルザは、ニヤニヤしながら机の方に向かい椅子に座る。

(あの筆跡。独特な……文面。まさか、とは思うが。そうだとしたら、ムドルは……。それに、そうだとすればあの恋文はなんらかの暗号文か?
 だが、アイツは城にいるはずだ。そう簡単に抜け出せるはずがない。考えすぎか?)

 そう思いながらコルザは、チラッとムドルをみた。

(もし、そうだったとしても……今のこの状況をどうもできん。そもそも、あの方には逆らえないのだからな)

 そう考えながら書類に目を通し始める。


 一方ムドルは、便箋をテーブルに置くと専用のペンで書き始めた。

(んー、何を考えているのでしょう? 普通なら書いているところを監視する、と思うのですが。いくらそれが、恋人への手紙でも。
 ……分からない。それとも気づいているのでしょうか? それならば尚更、警戒するはず)

 そう考えながらコルザをチラッとみる。

(気になりますが、今はこのとんでもない恋文を解読しなければ……。ですが、なぜこのような……)

 グレイフェズから送られてきた文章を再度、読み返した。

(意味が……分からない。読めば読むほど、ゾッとするのですが……)

 すると、文面の下の方に書かれている【追記】の文章が気になり目線をとめる。

(縦読みの本? どういう事でしょうか。まさかとは思いますが……縦に読めと……)

 そう思い試しに縦に読んでみた。

(親夕話ん話こ瑠在でま近頑一何いそつ近話ま買成多遠絶ル思かん幸幸手く連……んー、さっぱりですね。恐らく、暗号文だとは思うのですが……)

 何度も何度も読み返す。と、あることに気づいた。

(なるほど……そういうことですか。【親】が【し】……するとあとは……)

 そう思い読み進めていく。

しゆはんは(主犯は)こるざで(コルザで)まちがいない(間違いない)そつちはまかせた(そっちは任せた)とぜるを(トゼルを)かんししてくれ(監視してくれ)……そういう事ですか。流石に、これは難解……怪文ですね)

 やっと文章を読み取ることができ一息ついた。その後、返信する文を書き始める。

 書きあがると便箋の魔法陣に魔力を注いだ。すると便箋は、パッと消えた。

(これでいいでしょう。ですが、流石にこの文は……ないですね)

 再び便箋に書かれている文章を読み顔を引きつらせる。

 そしてその後ムドルは、立ち上がり机のそばの窓の方へと向かった。