ここはコルザの屋敷の書斎。

 コルザは椅子に腰かけ机上の書類に目を通していた。

 その近くの窓際にはムドルが居て監視をしている。

(今のところは、何もありません。……グレイの方は大丈夫でしょうか? ルイさんも心配です。まぁ、メーメル様は大丈夫でしょう……暴走しなければ……)

 そうこう考えながら心配な表情で窓の外をのぞく。その後、窓のそばから離れるとコルザの前を通り扉の方に向かい歩き出した。

「ムドル、まだ交代の時間でもないだろう。少しは落ちついたらどうだ」

 そう言いコルザはムドルを呼びとめる。

「だが、監視は徹底的にした方がいい」

「そうかもしれん。だが、目の前を行ったり来たりを何度もされると……流石にな」

「確かに……そうだな。これから気をつける」

 それを聞きコルザは持っていた書類を机の上に置いた。

「ふぅ、ムドル。少し話すか。私の仕事もだいぶ片づいた」

 そう言いながら立ち上がりソファーの方に向かう。そしてソファーに座るとムドルを手招きし呼んだ。

 ムドルはそれを確認するとソファーの方に向かう。

「ムドル、お前も座れ」

 そう言われムドルはどうしていいか悩む。どうしても執事をしていた時の癖が邪魔していた。

 そう、主人を守るため常に立っていないとならないからだ。例え主人が、自分より強くても……。

「どうした。座らないのか?」

「……だ、が」

「うむ、お前……どこぞで誰かに仕えていたのか?」

 そう問われムドルは答えに詰まる。

「それは……何も言えない。……すまないが」

「そうか。まあいい、冒険者は言えぬ過去を持っている者もいる。アイツもそうだったがな」

「アイツとは?」

 そう聞かれコルザはバールドア城がある方角をみた。

「グレイフェズという男だ。まぁお前は知らんだろうがな。今は城の騎士になっている」

「なるほど……ソイツも、言えない過去を……。その過去、知ってるのか?」

「ああ、私だけが知っている過去だが。アイツは余り自分のことを話さない。そういうヤツだ」

 それを聞くとムドルは真剣な表情で考え込む。

(グレイは、何か隠している。まぁ、あとでそのことは本人に聞くとして……お言葉に甘え座りますか)

 そう考えがまとまるとムドルは、コルザの真向かいのソファーに座る。

 その後、ムドルとコルザは話をしていた。するとムドルの目の前にグレイフェズが送った便箋が現れる。

 それに気づいたムドルは、咄嗟に手が動き取り隠す。

 だがコルザは、それを見逃さなかった。

「ほう、魔法の便箋か……誰かと連絡を取っているのか?」

「いや、これは……」

 そう言いムドルは隠した便箋を手にする。

「悪いが、念のためだ。みせてもらおうか」

 ムドルは観念する。もしここでバレたら強行突破するしかない、と。

 だがグレイフェズが無策で便箋を送ってくる訳もない。

 そう思い賭けにでた。グレイフェズを信じコルザに便箋を渡す。

 コルザは便箋に目を通した。するとニヤニヤし始める。

「これは……いい。実に良い物を読ませてもらった。なるほど……」

 それを聞きムドルは首を傾げる。

(便箋に、何が書かれているのでしょうか?)

 コルザは笑いながらその便箋をムドルに返した。

 受け取ったムドルは、便箋の内容に目を通す。そこには……。

 ★★★★★

 親愛なるムドル様。今日、
 夕食を、一緒に食べませんか?
 話したいことがあります。
 んー、それとも忙しいでしょうか? もしそうなら、
 話は今度でも構いません。あーそうそう、
 この前お会いした時に頂いた
 瑠璃色のブローチ、今度つけて行きますね。この前、
 在庫切れだった装備が入ったよ。後で取りに来てね。
 でも最近、中々お会いできなくて寂しいです。
 またムドル様とあの丘に行きたい。
 近くにあるけど一人じゃつまらないし。ムドル様は、
 頑張って仕事をしている。
 一緒に居たいけど、私がそばにいると邪魔になるし。
 何か手伝いたいけどね。
 いつも貴方のそばにいたいと思っている。
 そう思うだけしかできない自分がはがゆい。
 つらい。会いたい。だけど、我慢する。
 近くにいたい。
 話をしたいことが沢山ある。
 また一緒に買い物をしよう。
 買いたい物がある。だけど、今は内緒ね。仕事の、
 成功を祈っています。
 多分、ムドルなら大丈夫だよね。
 遠くにいるかは分からないけど無事を祈ってます。
 絶対に無理はしないでください。
 ルルは貴方のことが好き。これからもずっと、
 思っています。
 かなり恥ずかしい、どうしよう。
 んー数日、会っていないだけなのにね。早く、
 幸せになりたい。贅沢だね。貴方と過ごす日々が、
 幸せなのに……。
 手に負えないことがあったら相談にのります。
 くれぐれも、本当に無茶しないでください。
 連絡を待っています。

 追記、あの縦読みの本どう読めばいいの?

 ルルフェズ・グレイより
 愛しいムドル・サルベド様へ

 ★★★★★

 と書かれている。……ムドルは目が点になった。