ここはタルキニアの町の市場街。その路地の古びた倉庫がみえる空き家に、グレイフェズとメーメルはいた。

「グレイ、どうするつもりなのじゃ?」

 そう言いメーメルは、窓から古びた倉庫をのぞきみる。

「下手に乗りこむのは危険だ。それに、この件の主犯がコルザ様なら……その尻尾をつかまないと」

「うむ、そっちはムドルがいると思うのじゃが」

「そうだが……どうやって連絡をとる? 何か方法があれば……」

 それを聞きメーメルは、グレイフェズのバッグを指差した。

「そこに、便箋があるじゃろう」

 そう言われグレイフェズは、自分のバッグに視線を向ける。

「そうか、ムドルに手紙を送れば。だが……文面をどうする? 下手に送ってバレたら……」

「恋文を書けばよい」

「こ、恋文!? ちょっと待て、それはどういう事だ? なんでそうなる……」

 グレイフェズは驚いた。なんでそんなことを突然、言い出したのか……その意図が分からなかったからだ。

「そのまま送っては、内容をみられた時にバレてしまうじゃろう。それなら、恋文のように書いて送れば良いと思ったのじゃ」

「なるほど……それなら、問題ないか。だけど、それを誰が書く? 勿論、メーメルだよな」

 そう問われメーメルは首を横に振る。

「妾よりグレイの方が良い。それに余り時間もないしのう。伝えたいことは自分で書いた方がいいじゃろう」

 メーメルは、ニタアと笑みを浮かべた。

「その顔は、楽しんでないか? だが……そうだな、その方が確かに早い。嫌だが……書くか」

 そう言い渋々グレイフェズは、バッグの中からペンと便箋をだす。

 そして、床に便箋を置くと書き始めた。

 それをメーメルはどんな文を書くのかと、ワクワクしながらグレイフェズの手元をみる。

 グレイフェズはメーメルにみられ書きづらい。額に汗をかきながら書いている。書きながらイライラし始めた。

「ああぁぁぁぁー、なんで俺がムドル宛にこんな文を書かなきゃいけねえー」

 そう叫び頭をかきむしる。

「シー、なのじゃ」

 そう言われグレイフェズは、メーメルをジト目でみた。

「……そうだな」

 グレイフェズは不貞腐れた態度でそう言う。その後、また書き始める。

 それをメーメルは、ニヤニヤしながらみていた。



 それから数十分後グレイフェズは、なんとか暗号まじりに恋文を書き上げる。

 書き上げたグレイフェズはゲッソリしていた。そして、もうこんな恋文は絶対に書かないと思い心に刻んだ。

「あとは、これをムドルに送るだけだ」

「うむ、そうじゃな。ムドルが、どういう反応をするか楽しみじゃ」

「メーメル、やっぱり楽しんでるよな」

 そう聞かれメーメルは頷いた。

「勿論じゃ。滅多に、こんなことは起きないからのう」

 そう言い切られグレイフェズは、ガクッと肩を落とす。

「まぁいい。それよりも、早くこれを送らないとな」

 そう言いグレイフェズは、便箋の魔法陣に触れ魔力を注いだ。すると便箋が発光して、パッと消える。

「これで、いい。あとは……」

 グレイフェズは古びた倉庫の方に視線を向けた。