ここはタルキニアの町の西南西に位置する住宅街。私は人気(ひとけ)のない所を探し歩いていた。


 あれから私は、グレイとメーメルと宿屋を出たあとすぐに別れる。その後、ここに来ていた。


 色々と考えながら私は、キョロキョロと周囲をみながら歩いている。


 グレイにもらったブローチがあるから大丈夫。それに、すぐグレイに連絡が行くように便箋に名前を書いておいたから心配ないよね。


 そう思いながら左の手のひらを、チラッとみた。そこには、誰にもみえないくらい小さく折り畳まれた便箋がある。

「うん、大丈夫」

 そう頷くと、ひたすら歩いていた。


 だけど本当に、ただ歩いてるだけでいいのかな? でも変な演技しちゃうと却って警戒されちゃうよね。
 退屈だけど……あっ! そうだ。一度、市場に行って食べ物を買ってこよう。それに、どこを歩けって言ってなかったし。


 そう思い私は場所を移動する。



 ――場所は移り、ここは商店街の中にある宿屋――


 そしてこの場所は、商人バル・イムの泊まる部屋だ。グレイフェズとメーメルは、紹介状を持ちここに来ていた。


 現在、グレイフェズとメーメルは豪華なソファーに座りバルの話を聞いている。部屋はかなり豪華だ。

「なるほど。ちょっと目を離した隙に攫われた」

 そう言いグレイフェズは真剣な面持ちでバルをみる。その横でメーメルは、黙って話を聞いていた。

「はい、娘のシュセナは……まだ十三歳。私は、常に傍にいました。あの時も、市場でムリゴを買ってあげようと店主と話してる隙に……。ああ……シュセナ……」

 バルはシュセナのお気に入りだったぬいぐるみを持ち涙ぐむ。

「……二人で、旅をしながら商売をしているのですか?」

「そうだが。それとこれと何か関係あるのか?」

「いいえ、関係はありません。ただ、気になっただけなので。気に障ったのなら、申し訳ない」

 そう言いグレイフェズは頭を下げた。

「いや、大丈夫だ。依頼人のことを知る必要があると、思ってのことだろう。違うか?」

「ええ、その通りです。流石は、商売をしている方ですね。そこまで見抜くとは……」

「どうだろう。商売柄、人をみて話す癖が……それはそうと。君は信用できそうだな」

 バルはニヤリと笑みを浮かべると立ち上がる。そして、奥の引き出しから袋を持ち出した。その後、再びソファーに腰かける。

「これは、気持ちだ。資金に使って欲しい」

 そう言うとバルは、ドサッと袋を置いた。

 グレイは袋に何が入っているのかを確認する。すると中には、この国のお金ドラゴ硬貨が大量に入っていた。豪華な屋敷が二軒、買えるほどの金である。

「ちょっと、待ってください。こんなにもらえません。それに依頼料は、ギルドの方で受け取るのが……」

「うむ、それは分かっている。だが、色々と調べたりと金が抜けるはず。それにここには、私の気持ちも含まれている。頼む受け取って欲しい。そして、娘をどうか探し出してくれ……」

「ですが……」

 グレイフェズは迷った。この金を受け取っていいのかと……。

「グレイ、いいんじゃないのか。こう言っているし」

 そうメーメルに言われるも、グレイフェズは更に悩む。だが、確かに資金は必要だ。そう考え受け取っても問題ないと判断し口を開いた。

「そうだな。気持ちとして頂きます。どこまで、ご期待に添えるか分かりません。ですが、お嬢さんは絶対に探しあてます!!」

 そう言いグレイフェズは真剣な眼差しでバルを見据える。

 バルはそれを聞き安心した表情になり、グレイフェズとメーメルを交互にみた。

 その後グレイフェズとメーメルは、バルにその時の状況を詳しく聞く。

 そして話を全て聞くと二人は、シュセナを探すためこの宿屋をあとにしたのだった。