「そういう事か。……まさか、そんな勇者にまつわる過去が。だが、俺がその勇者の立場だったら同じことをしたかもな」

 グレイは真剣な面持ちで考え込んでいる。

「そうだね。だけど今の話だと、その勇者と聖女(二人)がその後どうなったか分からないんだよね?」

「うむ、そうじゃな」

「だが、なんで魔族がこんなことを知っている?」

 そうグレイが問うとメーメルは、遠くをみるように目を細め口を開く。

「なぜか……。それはのう。その件を知り魔族の王は、探したのじゃ」

「探した……なぜだ。もしかしてその能力、欲しさにか?」

「欲しさに……それも、あったのかもしれぬ。しかし魔族の王は、悔いていたらしい。もっと何か方法が、他にあったのではないのかと……」

 それを聞き私は不思議に思った。

「何で魔王がそう思ったの? 私の知ってる魔王のイメージと、なんか違う気がする」

「なるほどのう。どういうイメージを抱いているかは知らぬが。強い能力を持つ者にしか分からぬ苦悩。それを魔族の王は知っておったということじゃ」

「強き能力を持つ者。もし勇者の能力を恐れた者たちが現れたとしたら」

 それを聞いたメーメルは、コクリと頷く。

「グレイ、その通りじゃ。勇者は魔族のように討伐……駆除対象になるじゃろう」

「そんな……ことって、いくらなんでも、あり得ないんじゃ?」

 信じられなかった。私は、そんなことがあって欲しくない……そう思う。

「いや、あり得ないことはない。自分たちの脅威になる者を排除したいと考えるのが、普通だろうからな」

 私は悲しくなった。確かにグレイの言う通りだと思う。だけど、本当ならその勇者だってそんなことしたくなかったはずだ。

 そう思っていたら涙がでてきた。

「ルイ、泣いてるのか?」

「だって、そうだったとしたら……その勇者、可哀そうすぎるよ。グスン……」

「そうじゃな。魔族の王はその後、勇者の安否が気になり配下の者たちに探させたらしい。でも、みつからなかったようじゃ」

 メーメルは悲しい表情になる。

「じゃ、死んだか生きてるか……元の世界に帰ったのかも分からないのか」

「そういう事じゃ。まぁ、どこかにはそのことを知る者がいるかもじゃがな」

「だが、断言できないんだよな」

 そう言うとグレイは、キッとメーメルをみた。

「断言できぬ。しかし、知る者がいないとも言えぬ」

「グスン……そうだね。旅してれば、どこかで……」

 私がそう言うと二人は、コクリと頷く。

「そうだな。希望がない訳じゃない。それに俺が知りたいことも、何か分かるかもしれない」

「うん、私が知りたいこともね」

「そうなるのう。妾は、色々な場所に行ければよい」

 そう言いメーメルは、ニコリと笑みを浮かべた。

 グレイは私を不安な表情でみている。

 この時グレイがなんでこんな表情をしていたのか……私は、それほど気にしていなかった。