ここはギルドのマスター(ドルバドスさん)の部屋。

 私はソファーに座り、黙ってみんなの会話を聞いていた。

 テーブルの上には、無造作に置かれた二枚の依頼書がある。その中の一枚を手に取りグレイは、険しい表情でみていた。

「……人員要請か。依頼人は、コルザ・リチャム。……これは、どういう事だ? なんで……あの人が、」

「グレイ、そういえばお前……コルザのこと知ってたな」

「ああ、昔……あの人には世話になった。……恩がある人だ。だが、この依頼書は……」

 グレイは頭を抱えながら、持っている依頼書をジッとみる。

 私には二人の会話が良く分からない。だけど聞いていればそのうち分かると思い、そのまま二人の会話に耳を傾けた。

 ムドルさんとメーメルはその話を真剣に聞いている。

「んー、話が良くみえないのですが」

「お前には……いや、ムドルそれにルイとメーメルにも詳しく話しておいた方がいいな」

 そう言うとグレイは、詳しく説明し始めた。



 ――場所は移り、ここはコルザの屋敷――


 コルザの屋敷は酒場街より西の高台にある。その建物内の二階の書斎では、コルザが苦虫を噛み潰したような顔で窓の外を眺めていた。

「なぜ、こうも上手くいかない……」

 悔しさのあまり持っていたペンをボキッと折る。

(立て続けに三人も攫い損ねた。このままでは、ティハイド様に怒られてしまう。もっと役に立つものを雇わねば、な)

 そう考えながら机に向かい椅子に腰かけた。


 このコルザ・リチャムは、町長のブレファス・リチャムの弟だ。位は、男爵である。


 薄黄緑に銀色がチラホラ混ざった短い髪に両手を乗せると、ガクッと前かがみになり両肘をついた。

(まだ、攫った少女たちのことは知られていない。だが、三人も逃がした。足が付かなければよいが……。その前に使える人員が必要だ。そのために、依頼をしたのだからな)

 だが、不安な表情は隠せない。本当にこれで良かったのかと思っていたからだ。

 そうこう考えているとノックされ扉が開く。そこから紫の髪の男が部屋の中に入ってきた。

 そしてコルザの前までくると軽く頭を下げる。

「コルザ様。まだ悩まれているのですか? 起きたことを悔やんでも仕方がありません。それよりも昨日、攫った少女を早くこの屋敷から別の場所に移しませんと」

「ああ、そうだな。トゼル……そっちは、お前に任せる」

「承知しました。では早速、行動に移したいと思います」

 そう言いながらトゼルは、頭を下げるとニヤリと笑みを浮かべた。

 その後トゼルは、部屋から出ていく。

 それを確認したコルザは、再び頭を抱える。

(こんなことなら、このようなことに手を貸すのではなかった。だが、ティハイド様(あの方)には逆らえない。それに今更……どうにもならん……)

 そう思いながら更に思い悩むのだった。