ここは、かつてアドバルド帝国があったセルフィルス大陸。そして今は名もなき村となりしログロス村だ。

 チクトス国と比べると結構な時差があり、まだ昼ぐらいで明るい。

 この村で、まだ唯一機能している建物にはクレファスとレグノスとキャリーが居て話をしていた。

 「なんとか地下室をみつけた。そこに逃げたと思われる者までも……」

 「ああ……クレファス。地下に隠れたのだろうが、それでも駄目だったようだ」

 「そうねぇ……このアタシでさえ吐きそうになったわぁ」

 本当なのかと思いクレファスとレグノスは、ジト目でキャリーをみる。


 昨日……あれからクレファスとレグノスとキャリーの三人は暫く話をしたあと村の中を探索した。

 村の至る所に骨らしき物が転がっていて三人は、その光景をみてツラく悲しい気持ちになる。

 そう思いながらも三人は堪え何か手がかりがないかと探し歩いた。

 そして奥の方に一軒だけ、かろうじて崩壊していない建物をみつける。その建物の中に入ると探索し始めた。

 暫くして奥にある倉庫らしき部屋の床に地下通路を発見する。何があるか気になり三人は備え付の階段で降りた。

 地下にくるなり三人は嫌な光景を目の当たりにし青ざめる。

 この場所に長居をしたくないと三人は思った。

 三人は話し合い、ここのことを国に帰ったら連絡して誰かに来てもらうことにする。そう考えが纏まると三人は地下から一階に上がっていった。

 その後三人は別にも残っている建物がないかと探索する。だが結局みつからず唯一残っていた建物に戻ってきた。


 現在……三人は聖女と勇者のことなどの情報を得られず、どうしたらいいのか考えている。

 「地下のことは考えないことにしよう。それよりも可笑しくないか?」

 「レグノス……手がかりが出てこないことか?」

 「そうねぇ……クレファスとレグノス。二人から聞いた話だと……グレイは、この村で育ち書庫などに残っていた本……待って書庫って!?」

 あることに気づきキャリーは窓際に立ち外を見渡した。

 「何か分かったのか?」

 そう言いクレファスは立ち上がりキャリーのそばまでくる。

 そのあとを追いレグノスも窓際まできた。

 「ここには書庫がないのよ」

 「キャリー……書庫は壊れたんじゃないんですか?」

 「そうね、レグノス。貴方の言う通り書庫があったら破壊されている。でも、その書庫があった場所を特定できない。本らしき残骸も見当たらないわ」

 それを聞きクレファスとレグノスは建物の外に出てみる。

 「そういえば、そうだな。それに、よく考えたら……この村に書庫など不釣り合い」

 「確かに……そうなるとグレイが嘘を付いたってことになる」

 「それは、どうかしら? この村に居たことは本当だったかもしれないわ。だけど生まれ育った場所は違うかもね」

 そう言いながらキャリーは建物の外にでた。

 「違う場所って、どこだ? この国で書物庫がある場所」

 「クレファス……大きな屋敷か城のような建物なら大量の本を保管できると思うのだが」

 「グレイの名前……本名なのよね?」

 そう問われクレファスとレグノスは頷いた。

 「本名まで嘘を付いてグレイにとって、どんな得がある?」

 「クレファス……嘘を付いてるかじゃないのよ。ここまで色々調べて来たけど、この国でサイアルって少ない。それに、この国の城の名前でもあるのよ」

 「……城の名前? それは知らなかった。……ん? ちょっと待て!? 城の名前を姓に使うことが許されるのは王族や親族のみじゃ」

 あり得ないと思いながらもクレファスは可能性がない訳じゃないと脳裏に浮かび困惑する。

 「ないとは言えない。只それが本当なら、なぜグレイは姓を隠さなかったのかですね。嘘を付き通すのであるならば姓をも隠すはず」

 「レグノスの言う通りね。素性を隠すのであれば余計だと思うわ」

 「そこまで頭が回らなかったんじゃないのか? 半放心状態でタルキニアの町に辿り着いたって聞いてるからな」

 以前グレイフェズから聞いたことをクレファスは思い返していた。

 「素性を隠すため……そうじゃなければ記憶が混濁している」

 「キャリー! 記憶の混濁なら、あり得る。だが、まだ……そうとは限らないがな」

 「それなら城に行って探れば分かるんじゃないのか?」

 そうレグノスに言われクレファスとキャリーは頷いたあと城があるだろう方角へ視線を向ける。

 「まだ時間はある。転移の魔道具を使えば今日中に帝都へ着けるだろう」

 「アタシも、それって一つあれば大丈夫なのかしら?」

 そう聞かれクレファスは、コクッと頷いた。

 「そうと決まれば、ここに長居をしている必要はない」

 「レグノス、その通りね。まあ……帝都の方が建物はマシだったから寝泊りできるわ」

 「その通りだ。サッサと行くぞ」

 そう言いクレファスは転移のペンダントを取りだす。

 それをみたレグノスとキャリーはクレファスの手を掴んだ。

 それを確認するとクレファスは転移のペンダントに触れながら帝都アドバルドを脳裏に浮かべる。その後、転移のペンダントが発光して三人は残像と共に消えた。