……――泪とメーメルを乗せた荷馬車はササビノ草原を通り南東へと進みバルギジアの町に向かっていた。

 意識が過去に行っている泪は、スヤスヤと寝ている。

 カロムの屋敷から出て、まだ数時間しか経っておらず陽が沈みかけていた。

 荷馬車の中には泪とメーメルの他に護衛の二人が乗っている。

 「ハァー……目の前に可愛い女が二人も居るってえのに触れられん」

 「そうだな。みてるだけって流石に生き地獄だ。仕方ない今日泊まる町で気晴らしするか」

 「それ無理じゃねえのか? 護衛の仕事で見張らないとまずいだろ」

 「やっぱ……そうだよなぁ」

 ハァーっと溜息をつき二人は、ガクッと肩を落とした。

 そんな中、泪の意識が徐々に戻ってくる。

 ……――(ん? ここは何処? 暗くてみえない。けど……これって自分の体だよね? 間違いなく意識は戻っている。んー……何処かに運ばれてるのかな? ガタンガタンって揺れてるし。
 荷馬車か何か? だけど何処に? とりあえずは様子みるか。それに拘束されて動けないしね)

 そう思い泪は一先ず様子をみることにして目を閉じる。

 (不快じゃ。まあ今、話をしているのを聞く限り何もしないとは思うがのう。だけども嫌な悪臭が漂っておる。早くここを出たいのじゃが)

 そう思いながらメーメルは心の中で溜息をついた。

 そうこうしている中に泪とメーメルを乗せた荷馬車はクロスベジアという名の町につき用意されていた倉庫の前で停車する。

 その後、泪とメーメルは護衛の二人に倉庫内へと運ばれた。



 ――場所はアクロマスグにある古びた宿屋に移る――


 宿の二階にある部屋にはララファルとユウムとビスガスが居て話をしていた。

 「なんで三人一緒の部屋なんだ?」

 「部屋が空いてなかったんだから仕方ないだろ。女であるボクが同じ部屋になってやったんだ光栄に思えよ」

 そう言われユウムとビスガスは嫌な顔をする。

 (女……確かにそうだけど、できれば人間の方が好きだ)

 (もっと胸のある綺麗な女の方がいい……)

 そう思い二人は、ハァーっと溜息をついた。



 ――場所はティハイドの屋敷に移る――


 ここはティハイドの書斎だ。机上の書類をみながらティハイドは考えごとをしている。

 (グレイフェズ、どれくらい稼いでくれる? 一週間後が楽しみだ。……そろそろ寝るか明日はバルギジアへ旅立つ。
 まあ、あとのことはカロムに任せているから問題ないだろう)

 そう考えが纏まると立ち上がり扉へと向かい歩き出した。


 ▼△★△▼☆▼△


 (流石にまだ動くのは無理か……。ハァー……確か一週間後って言ってたな。それ前に全快にしておかなきゃならない。……まあ、なんとかなるだろう)

 ベッドの上でグレイフェズは少しでも体を動かそうと試みた。だが回復をしてもらったとはいえ、まだ完全ではないようだ。

 (それにしても……ムドル。最後、本気でやりやがった。だけど、アイツの苦手なものが分かったから……次は負けないからな)

 いや、やめておいた方がいいと思われます(汗)

 (ルイ……今頃どうしている? 屋敷には潜り込めたとおもう。だが、なんだ……この胸騒ぎは? 確認したくても無理だ。
 まあ何かあればメーメルがいる。それにベルべスクとムドルが……ムドル、クッ……これじゃルイを取られかねない。なんで逆じゃなかったんだよ!)

 悔しさの余りベッドを、ドンッと思いっきり拳で殴った。



 ――場所は北側の通路に移る――


 「ハァークショッン、ハァークシェッン……。フゥ……誰か悪口でも言っているのか?」

 懐からハンカチを取り出しムドルは鼻を吹いた。

 (恐らくはグレイですね。ですが……本当に何処にいるのでしょうか? なんのために私たちから遠ざけたのでしょう。
 知られるとまずいという事? まあ、グレイなら大丈夫でしょう)

 そう思考を巡らせながら無作為に遠くをみつめる。

 「心配するだけ無駄か」

 そう言い放つと南の方へ歩き出した。