「そもそもさ……私が来たって意味ないのよ。……支えになんて……無理。多分ラギルノからしたら……ガキにみえていると思うしね」

 やけ食いをしながらオレンジ色の前髪を払い除けたフリをし涙を拭った。


 この女性はルナセア・ロハスブルク、二十四歳。元ブルゲスタ帝国の四天王であり天才とまで言われし者である。

 最初にブルゲスタ帝国がしていることに対し疑問を抱き裏切った者だ。

 ラギルノが帝国を裏切り皇帝を斬って、その場に居た司へなすりつけ逃亡した辺りからルナセアは消息を絶っていた。

 そんなルナセアを司は自分の能力を使い探し当て……いや違う。魔法の便箋を使い連絡し呼んだのである。


 昔のことを思い出しルナセアは余計つらくなってきた。

 「挨拶だけでもしておこうかな。そうじゃないと……後悔する気がするし」

 深呼吸したあとルナセアはラギルノの方へ向かう。


 ラギルノをみている女性が、もう一人いるようだ。その女性は赤紫で短髪……そうログロスの村に置いてきたサフィアである。

 「あーあ……ボスが偉くなった。呼んでくれなかったしボスは、アタシのことなんてどうでもいい存在なんだよなぁ」

 そう呟くと、ハァーっと溜息をついた。


 この女性はサフィア・バグマ、二十三歳。

 一年前ぐらいから、とある町での依頼でラギルノと知り合い気にいってボスと呼びストーカーの如く一緒に行動していたのだ。

 食べ物を口にしながらサフィアはラギルノをみていた。するとラギルノの方へ向かうルナセアの姿をみて首を傾げる。

 (誰だろう? なんか泣いているみたい。ボスの知り合いかな? まさか! 彼女ってことないよね。もし、そうなら……)

 食器をテーブルに置くとサフィアは、なぜか取られたくないと思いラギルノの方へ向かう。

 (なんなの? この感情って……もしかしてアタシ……ボスのことが好きってこと?)

 今まで感じたことのない思いが心底から湧き上がってくる。その感情をサフィアは抑えることができない。

 今ここで自分の想いを伝えなければ、あの女に取られる……後悔すると考え無我夢中で駆け出していた。


 ▼△★△▼☆▼△


 (なんでオレの所に、こんなに女性が集まっているんだ? 慣れないせいか……疲れた……)

 女性たちから質問攻めにあいラギルノは疲れきっていた。そのため女性たちの輪から、なんとか抜け出し壁際に設置された椅子へと歩み寄る。

 「ら、ラギルノ……あー……えっと……」

 その声を聞きラギルノは振り返った。

 「ルナセア……なんで、お前がここに?」

 そう問われルナセアは理由を説明しようとする。

 「ボス、逢いにきたよ~」

 邪魔するようにサフィアはラギルノに声をかけた。

 「ゲッ!? サフィア……なんで、ここにいる?」

 「勿論ボスの出世の、お祝いに来たんだよ」

 「へえー……それだけなの? じゃあ、サッサと済ませてくれるかしら。私はラギルノと大事な話をしたいのだけど」

 邪魔だと思いルナセアは嫌な顔をしサフィアをみる。

 「大事な話……それならアタシもボスと話したいのよね」

 「待て……いい加減にしろ! こんな所で言い合いをしてどうする?」

 「そもそも、ラギルノ! この女とは、どういう関係なのよ!?」

 そう問われるもラギルノは、サフィアと関係をもったことがないため返答に困った。

 「なんでボスの名前を気安く呼び捨てで呼んでいる?」

 「昔の仲間だからよ。それよりも貴女こそ……ラギルノのことを、どこかの悪人みたいな呼び方をしないでくれるかしら」

 ルナセアとサフィア……二人の言い合いは段々とエスカレートしていき、ラギルノが止めようと入るも治まる気配なしだ。

 (困った……いい加減にしてくれよ。この状況を、どうしろって云うんだ?
 ……今日は厄日か? なんで二人が言い合いをしているか分からん。やはり……女の考えていることは理解不能だ)

 頭が痛くなりラギルノは近くの椅子に腰かけると俯き頭を抱える。

 その後もルナセアとサフィアの言い合いは続いていたのだった。