つらそうなラギルノをみて司は呆れ果て苛立っていた。

 「いい加減にしろ! 負けるのが嫌なら、やめればいいだろ」

 「それができれば苦労しない。負けた者は生きている価値などないのだからな」

 「それなら以前ラギルノに敗れている俺の方が皆無だ」

 ムッとした表情でガルディスはラギルノをみる。

 「フンッ、お前のような単純馬鹿と一緒にするな」

 「……単純馬鹿か、余程おこらせて死にたいらしい。しかし今お前を殺したら喧嘩をする相手が居なくなる」

 「ガルディス……言っている意味が理解できん。お前はオレとの喧嘩を楽しんでるのか?」

 ニヤッと笑みを浮かべながらガルディスは、コクッと頷いた。

 「楽しんでいる訳ではないが寂しくなるだろ」

 「オレは、お前が居なくなってもなんとも思わん」

 「……クッ、そうだとしてもだ! 俺は寂しいんだよ……悪いか……」

 言ったはいいがガルディスは恥ずかしくなりラギルノから目お逸らす。

 「なるほど……話し相手が居なくて寂しいって訳か。という事は彼女も居ない……そうかそうか」

 「おい、何を納得している。彼女が居ないのは今だけだ!」

 「そうだったユリナーシャと云う女と付き合っていたな。どうせなら、ここに呼んだらどうだ」

 何時もの二人の言い合いになっていて旨い具合に話が逸れているようだ。

 「あの人とは身分や種族が違い過ぎる。ましてや国から追われる身の自分が顔を合わせられる訳もない」

 いや只単に、また何かをされる可能性があるから嫌なだけである。

 「こだわっている訳か……まあオレには関係ないがな」

 「関係ないなら……言うな」

 思い出したくないことを言われガルディスは頭が痛くなった。

 「それならオレも同じだ。お前には関係ないこと……口出しするな」

 「まあ、お待ちください。だいぶ逸れてしまいましたね……話を戻しましょうか。一つ提案があるのです。ラギルノ、貴方に選んで頂きたい」

 「選ぶ……何をですか?」

 セフィルディが何を言いたいのか分からずラギルノは首を傾げる。

 「勿論、我が国の王をですよ」

 「言ってることが理解できない。既に権利を所有している者が居るではありませんか」

 「どうでしょうか。ラギルノ、貴方は言いましたよね。王とは国の象徴。国や民の者を思いやることのできる者が相応しいと。それと弱みをみせてはいけないとも……」

 言いたいことが理解できずラギルノは怪訝な表情を浮かべた。

 「言いましたが……それが王を選ぶことと、どう繋がるのか?」

 「貴方には人の善し悪しを見極める力がある。いえ恐らく今まで培って来た経験によるものだと思われます」

 「それは違……違います。只、当たり前のことを言っただけのこと」

 首を横に振りセフィルディはラギルノを見据える。

 「いいえ、その当たり前のことを王になるかもしれない者に助言できる人が居たとしても……ごくわずかでしょう」

 「そ、それは……ですが王を決めるも何も」

 「今のドルムス様は一度、継承権を放棄している身です。それに王となる器が他にも居ると思いませんか? いえ、そもそも誰が相応しいのか分かっていますよね」

 籠の中で泪は失神寸前から回復して話を聞いていた。

 (なるほど……やっとセフィルディさんのターンだね)

 欠伸をしながら泪は呆れている。

 「ああ……相応しい者は、ここにいる。ですが恐らく、やりたがらないだろう」

 「それは、どうでしょう。さあラギルノ、貴方が思う王に相応しい者とは誰なのですか?」

 「……」

 そうセフィルディに聞かれラギルノは言葉に詰まり俯いた。

 それらを聞いていた司と美咲は嫌な予感が頭をよぎる。

 (まさか……美咲のことか?)

 司の思考は、ズレている……。

 (……もしかして、このために司に書かせたの?)

 心配になり美咲は司へ視線を送った。

 「どうなっても知らん。まあ……言うだけなら問題ないか。オレの理想どおりとはいかないが王に相応しい器を持っている者。それはツカサ・クオン、お前だ!」

 そう言い放ちラギルノは司を指差している。

 と同時に美咲以外の周囲の者たちは、オオーっと歓声を沸かせ拍手が鳴り響いた。

 「ちょ、待て……俺が王? ふざけたことを言うな。それならラギルノ、お前がなればいい」

 「いえ、それはどうでしょうか」

 何時バイゼグフの書斎から持って来たのかセフィルディは丸められてリボンがされた便箋を懐から取り出し司にみせる。

 「それは……」

 セフィルディが持っている便箋を司は奪い取ろうとした。

 だがセフィルディは先読みをしていたのか目の前に透明な光の壁を張っている。

 その光の壁に遮られ司は、その先に進めなかった。

 ニヤッと笑みを浮かべセフィルディは便箋のリボンを解き読み始める。

 「読みますよ」

 意地悪気味に言い読み始めた。

 「……――バイゼグフ亡きあとは、この書類を借用書とする。払えない場合は、この国ごとツカサ・クオンに譲るものとし――ここに承諾する」

 読み終えると便箋の書類を持ったまま司にみせる。

 「この書類には、バイゼグフ様のサインもあります」

 何も言えなくなり司は顔から大量の汗を流し立っていた。