謁見の間では兵士や従者たちが喜んでいいのか複雑な気持ちになっていた。

 息絶えて絨毯の上に横たわっているバイゼグフに覆い被さりドルムスは泣いている。

 (なぜ最後まで改心してくれなかった……)

 それをみてセフィルディは何も言えず声をかけられないようだ。

 (ドルムス様……つらいでしょう。お気持ちは十分に分かります……ですが仕方なかったこと)

 どう言葉をかけたらいいのかと司は考えるも思い付かづ悩んでいる。

 (正当な理由……そうだとしてもドルムスさんにとってバイゼグフは実の弟だ。俺が同じ立場なら堪えられないだろうな。
 下手すればラギルノへ仕返しをしていたかもしれない。弟が悪いと思っても俺ならそうする。でもドルムスさんは恐らく……それをしないだろう)

 バイゼグフを斬ったことが間違いじゃないと分かっていてもラギルノは、ドルムスをみて複雑な思いになっていた。

 (これが普通だ。ドルムスにとって、オレは弟を殺した敵。だが恐らくオレは罰せられないだろう。
 ハァー……何時もこうだ。自分が思っていることと逆になる。でも今回ばかりは気持ちがいい……今までと違ってな)

 近くまで来た美咲は司の後ろに隠れ泪の籠を抱きしめながら泣いている。

 (バイゼグフやベンデアのことは、どうでもいいけど。なんかドルムスさんが可哀そう。でも回避できなかったから仕方ないんだよね)

 籠の中では泪が失神寸前で頭に流れる映像をみている。

 (いいよもう……こんなのみていたくない。それに、もうこんなとこに居たくないよ)

 そんな中ガルディスだけはラギルノを心配に思いみていた。

 (ラギルノ、お前は悪くない。馬鹿なことは考えるな。言葉に出して伝えたい……だが無理だ。恐らくバイゼグフをやったことは納得しているだろう。
 しかし今ある光景をみて悪いことを頭に浮かべている可能性がある。今までの、お前なら……やりかねない)

 真剣な面持ちでラギルノは司の方へ視線を向ける。

 (このままだとオレが英雄か? いや、こんなんで英雄になっても気分が悪い。それに、どう考えても立ち位置が違うんじゃないのか。
 それにオレからみて、ドルムスは王の器にみえん。バイゼグフもだったが……まあ知らんフリをして姿を消せばいい。だが、なぜかモヤモヤして駄目だ)

 そう思いラギルノはドルムスの方をみた。

 (様子が変だ。司をみたあとドルムス様へ視線を向けた……警戒した方がよさそうだな)

 そんな心配を余所にラギルノは何を思ったか泣き崩れるドルムスのそばへ歩み寄る。

 それをみて司、セフィルディ、ガルディスはラギルノを静止させようと動いた。

 「なぜ泣く? 遅かれ早かれ、こうなることは分かっていたはずだ。そもそも王となる者……上に立つ者が弱みをみせてどうする?」

 そう言いラギルノは泣き崩れるドルムスを掴みバイゼグフから引き剥がすと、わざと司の居る方へ投げる。

 咄嗟に動き司はドルムスを、キャッチして床に座らせた。

 「言っていることは正しい。だが、なぜドルムスさんを投げた?」

 ラギルノがとった行動に対し司は納得いかず怒りが込み上げてくる。そして怒りラギルノを鋭い眼光で睨んだ。

 (フッ……相変わらず単純だ。こうでなくては面白くないからな……これでいい)

 ニヤッと口角を上げラギルノは悪相になり司を見据えたのだった。