沈黙が続いていた。

 「……なぜ急に黙った?」

 沈黙に堪えられなくなったバイゼグフは口を開きドルムスを睨み付ける。

 「ゴミですので話をしてはいけないと思い、そうしたまでです」

 「ふざけるなっ! 昔からそうだ。人の言うことを素直に聞いていた。みていて吐きそうだったがな。本音を言わない……それとも言えない臆病者なのか?」

 「言っていることが理解できかねます。私は何時も本音で話している。しかし嘘を付いたことがない訳じゃない。只、人の嫌がることはしない……それだけ」

 それを聞きバイゼグフの顔は引きつり今にもドルムスへ飛びかかりそうだ。

 (このままでは周囲に居る者へのバイゼグフ様の印象が悪くなるわ。まさか、これが目的とでも云うの?)

 目を凝らしベンデアはバイゼグフを見据える。

 (結果的には、バイゼグフ様を怒らせることができました。ですが計画とは違うためアドリブになりそうですね)

 どうしたものかと考えセフィルディは頭を抱えた。

 (以前に仕えていた王の方が……まだマシだ。こんなヤツのために命を落とすのは自分に反する。
 どうする? 計画を変更した方がいいか。だが…………うむ、そうするしかないな)

 何かを思いついたらしくラギルノは、ニヤリと口角を上げる。

 (ラギルノ……何を考えている? いきなり笑みを浮かべた。まさか、ここで何かをしようとしているのか)

 不安に思いガルディスは横目でラギルノをみた。

 (そういえばガルディスからの連絡でラギルノの様子が変だと言っていた。
 下手をするとドルムスさんの暗殺を依頼された可能性があるとも。警戒しておいた方がいいな)

 そう思い司はラギルノへ視線を向ける。

 籠の中で泪は複雑な気持ちになっていた。

 (展開が……駄目だよ……こんなの……ラギルノさん……そんな覚悟……間違ってる……)

 とめたいけれど無理だと思い泪は目に涙を浮かべている。

 「クッ……何処までも善人面か!」

 我慢の限界に達したバイゼグフは玉座から立ち上がりドルムスへ飛びかかろうとした。

 それに気づきベンデアは身を乗り出しバイゼグフを止めようとする。

 まずいと思い司はドルムスの前に立ち身構えた。

 どうなるのかと思いガルディスは何時でも動けるように腰に差す剣に手を添える。

 そばに居たセフィルディはドルムスを庇い身構えた。

 それらをみて美咲は泪の籠を抱えて、この場からなるべく遠くに離れる。

 それぞれが対処する中ラギルノは今だと思い駆け出すと普段つかい慣れていない剣を抜きドルムス……いや、バイゼグフを斬りつけた。

 普段から重いバトルアックスを使っていたラギルノにとって剣は軽かったため思ったよりも切れ味が良かったらしい。

 そのためバイゼグフは苦しまずに血を吹きその場に倒れ息絶える。

 「キャアァァー!!!?」

 目の前でバイゼグフがラギルノに斬られたためベンデアは驚き悲鳴を上げた。

 それをみた司たちは何が起きたのかと目を丸くし驚き一瞬うごけなくなる。

 一瞬だけ司をみたあとラギルノはベンデアに目掛け斬りつけようとした。

 「なっ、なぜだ!?」

 目の前で起きた光景にラギルノは驚き困惑する。

 次に何をしようとしているのか気づいたガルディスは即座に動いた。ラギルノの前に立つと背を向け素早く剣を抜きベンデアを躊躇いなく斬り付ける。

 一瞬のことでベンデアは何もできずに血を吹き、バタッと倒れた。

 「お前だけに、いいところを持ってかれたくないからな」

 そう言いガルディスは剣を腰の鞘に収める。

 「そういう問題じゃない! お前まで罪を犯してどうする?」

 「それは違うだろ? 誰がみても悪いのはバイゼグフとベンデアだ」

 「ガルディスの言う通りです。予定外ですが、これでこの国は安泰となりました」

 ニコニコしながらセフィルディはラギルノをみた。

 「これも作戦の一つだったのか?」

 納得がいかない顔で司は歩み寄ってくる。

 「いえ、今も言った通り予定外。そうですね……ドルムス様が床に膝を付いた辺りから計画は失敗でしたが」

 「なるほど……運よくラギルノがバイゼグフをやってくれたお陰で結果オーライとなった。じゃあ俺がやってきたことは無意味になったか。まあ、いいけどな」

 そう言い司はバイゼグフとベンデアが倒れている方へ視線を向けた。

 そこには涙を流し泣き崩れているドルムスがいる。

 それをみて司は複雑な気持ちになっていた。

 遠くでみていた美咲は釈然としない心持で佇んでいる。

 籠の中で泪は、みちゃいけない光景を目の当たりにし吐いていた。

 (……ウッ、無理。だけど……これは現実に起きたことなんだよね。だけど、これで終わりなの? まだ何かありそうな変な予感がするんだけど)