「なぜお前は、そう悪態をつくのだ。それほどに私のことが憎いか?」

 二人の言い合いは、まだ続いていた。その言い合いも段々と過激になりつつある。

 「さあ、どうでしょう。いえ、そういう兄上こそ私を馬鹿にしていると思うのだが」

 「そんなつもりなどない。只お前のしていることを正したいだけだ。いい加減、国の財源を使い尽くすのはよしたらどうだ」

 「正す? 可笑しなことをいう。何一つ私は悪いことなどしていない。それを言い掛かりで難癖つけるつもりか?」

 その言葉を聞きドルムスは何度ついたかも分からない溜息がでた。

 「そうか……あくまでも、そういう態度をとるのだな。何時かは改心してくれると思っていた。だが、それは叶わなかったようだ」

 「フンッ、訳が分からん。そもそも兄上は国を捨てたのではないのか?」

 「ああ、その通りだ。だから平民として、お前に逢っている。そうか……それならバイゼグフ様と言った方がしっくりくるな」

 イラッとしバイゼグフは顔を引きつらせ努筋が浮かび上がる。

 「面白い。そっちが、そうなら……ドルムスと言った方が良さそうだ」

 「そう言ってくれるとありがたいです。あっ、そうでした」

 そう言いながらドルムスは床に膝を付き正座した。

 それをみた周囲の者は一斉に、ざわつき驚いている。

 「ドルムス様!? いけません立ってください!」

 予想だにしない行動に出たドルムスに対してセフィルディは慌てて立つように促した。そう、この行動は王をバイゼグフだと認めてしまうものだからである。

 「いいのだこれで……何もできぬ者が王になっても国にとっては不利益にしかならぬからな」

 「そういう事だ。無能など只のゴミでしかない」

 それを聞いた両脇に居る司たちは、はらわたが煮えくりかえり今にも口を出しそうになるも堪えている。

 (いい加減にしろよ。バイゼグフ……ゴミはお前だ!)

 ひたすら堪え司は俯き無作為に睨んだ。

 (なんなの? これが兄弟の会話……信じられない。ううん、酷いのはバイゼグフの方よ。ドルムスさんが下手に出ているのに、それをいいことに言いたい放題って)

 つらい表情を浮かべ美咲はドルムスとバイゼグフを順にみる。

 (クッ……あろうことか、これが実の兄に対してとる態度か? バイゼグフ、今ここで抹殺してやろうか。しかし……それをしたら作戦が無意味になる)

 剣を抜き今にもバイゼグフを斬ってしまいそうになるもガルディスは必死に堪えた。

 (呆れるな。バイゼグフがゴミでドルムス様はやる気なし。これじゃ国は成り立つ訳もない。まあ今のオレには関係ないが)

 目を細めラギルノは馬鹿らしいと思いながらドルムスとバイゼグフをみている。

 (ああ……これでは作戦も無意味になってしまいます。どうしたら……)

 焦りを隠せないセフィルディは、どうしていいのかと悩んだ。

 (酷いね。こんなヤツが王となったら他と戦争にならなくても国は亡ぶよ。やっぱり王は、ドルムスさんがいいと思う。だけど、その気がないんだよね)

 どうなるのかと考えながら泪は脳裏に流れてくる司たちの思考を感じ取っている。

 そして室内の空気が重くなり暫く誰一人として口を開く者はいなかった。