「いったいなんの用でしょうか?」

 ベンデアの目の前に立ちラギルノは真剣な顔をしている。

 「その前に座りなさいよ」

 「いえ、まだ勤務中ですので」

 「そ、そう……まあいいわ」

 話しづらそうだ。

 「ねえ、ラギルノは出世したいと思わない?」

 「できるならしたい。だが、そんな旨い話あるとも思えません」

 「そうね……だけどアタシなら爵位を与えられるわ」

 それを聞きラギルノはベンデアが何を言いたいのか、なんとなく理解する。

 (恐らく目の前に餌をぶら下げて何かをやらせようという魂胆……探ってみるか)

 軽く笑みを浮かべるとラギルノは口を開いた。

 「ただじゃないですよね」

 「そうね……ある人物を抹殺して欲しいのよ」

 「なるほど……それで誰を?」

 クスッと笑いベンデアはラギルノを見据える。

 「それは言えないわ。但し貴方が引き受けてくれると云うのなら別だけど」

 「警戒してる訳か。まあ、そうだろうな」

 暗殺する相手の予想はついていた。だが確証がない。そのためラギルノは何時になく悩んでいる。

 (汚れ役か……昔も似たような立ち位置だったな。今回は、そうならないと思っていたが。やはり、こうなるのか。いや……断ればすむ。
 ……まてよ。逆か……そうだ。そうするか。その方が俺にあったやり方かもしれん。まあ恨まれるかもしれないがな。
 それに元の仕事が戻って来ただけだ。但し、それアルファだが)

 フゥーっと息を吐くとラギルノは表情を悪相へと一変した。

 「面白い……引き受けてもいいが爵位だけじゃ物足りない」

 それを聞きベンデアは意外だったため余計に喜んだ。

 (餌にくいついたわ。まさか、ラギルノがねぇ。でも、これで計画を遂行できるわ)

 軽く首を縦に振るとベンデアは、ニヤリと笑みを浮かべる。

 「勿論、爵位だけではなく……貴方の望む物をあげるわよ。但し、この国と城以外だけどね」

 「それだけの価値があるってことか。フッ、やりがいがありそうだ」

 「その口ぶりだと、やってくれるという事かしら?」

 そう問われラギルノは考えたフリをしたあと頷いた。

 「ああ、そのつもりですよ。それで、どうすればいい?」

 その問いにベンデアは返答し説明する。

 それをラギルノは笑みを浮かべながら聞いていた。


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 ここは傭兵宿舎。そしてガルディスの部屋だ。

 あれからガルディスは部屋に入るなりベッドに横になる。

 (恐らく誘いに乗っていたら、ドルムス様の暗殺を命じられていただろう。タダで爵位を与えてくれる訳がない。
 だが断ったことで他の誰かに……俺以外に誘うとするなら、ラギルノか。アイツなら誘いに乗るかもしれない。
 いや、そこまで落ちぶれているのか? 昔だってそうだ。只アイツは仕える国を間違えただけだ。まあ俺も違う意味で間違えたともいえるがな)

 そう思いながら天井の一点を無作為にみた。

 (今日は気分がすぐれない。気晴らしに酒場にでも行くか)

 起き上がったあとベッドを降り着替える。その後バッグを持ち部屋を出て酒場へと向かった。