ここは東側にある倉庫付近の通路。その奥の行き止まりでは、ムドルとトラットがベルべスクを待っていた。

 「こないな。本当に大丈夫なのか?」

 「……無視するとも思えません。ですが……」

 そう言うもムドルは、何かあったのかと心配になってくる。

 「誰が無視するって?」

 そうベルべスクの声が聞こえムドルとトラットは、どこに居るのかと思い周囲を見回した。

 するとベルべスクは、姿を隠す魔法を解除する。それと同時に、スッと姿を現した。

 「……なるほど、気配と匂いまで消す魔法もかけて……ここに、ねぇ」

 そう言いながらムドルは、自分の背後に居るベルべスクの方へと振り向き睨んだ。

 「あーいや、気づかれるとまずいだろ。それに、偶々ムドルの後ろでオレの話をしてるのが聞こえてきた。だから、なぁ……ハハハ……」

 そうベルべスクは、なんとか苦しい言い訳をしている。

 「ハァー、まあいいでしょう。それで、大丈夫ですよね?」

 「んー……そうだな」

 そう言うとベルべスクは、トラットを見据えた。

 「無理なら……べ、別にいい。変なことをされるのは、ごめんだからな」

 「トラット……ムドルの影に押し込むことはできる。それよりも、小さくなった方がいいんじゃねぇのか?」

 「小さく……そのあとは、どうするんだ?」

 不安な顔でトラットは、ベルべスクをみる。

 「そりゃあ、勿論ムドルのポケットだろうな」

 「なるほど……その方が、いいですね」

 そう言いながらムドルは、自分の肩に乗ってるトラットに視線を向けた。

 「ずっとポケットの中か……んー……」

 「休憩の時に、ポケットから出してもらえばいいんじゃねぇのか」

 「そうだな……そうするか。だが、元の姿に戻れるんだよな?」

 そうトラットに聞かれベルべスクは頷く。

 「ああ、自分でも戻ることができるぞ。それも、簡単にな」

 そう言いながらベルべスクは、異空間から黒い腕輪を取りだした。それを持ち直すとトラットにみせる。

 「伸縮ブレスレットですか。確かにそれなら、自分の意思で小さくなったり……大きくなれますね」

 「そういう事だ。どうする?」

 「んー……それなら、安全かもな。分かった……」

 それを聞きベルべスクは、トラットの首に装着した。

 「ハテ? なんで、首なんだ」

 「トラットの腕じゃ、小さいと思ってな」

 「そうか……それで、これはどう使う?」

 そう問われベルべスクは、使い方を教える。

 トラットはそれを聞き教わった通り、首の腕輪に右前足を軽く添えた。それと同時に、小さくなれと念じる。

 するとトラットの体が発光して、小さくなっていった。

 その後トラットは、ムドルのポケットに跳び込んだ。

 それを確認したムドルは、ベルべスクへ視線を向ける。

 その後ムドルは、ベルべスクにトラットから聞いたことを伝えた。

 「そうか。じゃあ、大丈夫だな。あとは、こっちだけだ。それはそうと……このことをグレイフェズに、どう知らせる?」

 「確かに……居場所が、分かりません。普通なら、匂いや気配で分かるのですが」

 「ああ、オレもだ。いったいグレイフェズは、どこに連れて行かれたんだ」

 そう言いベルべスクは、難しい表情で床の一点をみつめる。

 「そうですね……まぁグレイなら、心配はないと思いますが」

 そう言うもムドルは、心配になり眉をハの字にした。

 「だな……今は、コッチが先だ」

 そうベルべスクが言うとムドルは、コクリと頷く。

 その後ベルべスクは、また姿を消して自分の持ち場に戻る。

 それを視認するとムドルは、再び警備のため通路を歩き始めたのだった。