ここはタルキニアの町の宿屋。

 現在、私はメーメルと荷物をまとめていた。そう、今日この町を発つからだ。

 昨日、私たちはここに着くなりギルドの方に向かいマスターと色々なことを話す。


 あ~あ……ギルドに残って、受付やりたかったなぁ。でも、まぁいいかぁ。他の町で受付の勉強してこれるし。
 そんなことよりも、マスター大変だったみたいだなぁ。色々なあと処理で……。コルザさんのこととか、この町で起きたことなんかも……一人でやってた。
 私も手伝いたかったけど、アクロマスグに行ってやらなきゃいけないことあるから……。とりあえず、マスターの手伝いができるぐらいに成長してこないとね。


 そう思いながら私は、バッグの中や異空間の収納ケースに荷物を入れる。

 「あれ? メーメル、ちょっと待ってて急いで市場に行ってくる。もしグレイ達が来たら、ムリゴを買いに行ったって言っておいて」

 「うむ、分かったのじゃ。慌てず、ゆっくりのう。まだ時間はあるのじゃ」

 そう言われ私は頷いた。

 その後、私は部屋を出て市場に向かう。


 ▼△★▽▲☆▼△


 私は市場でムリゴを買ったあと宿屋の中庭を通る。

 「あ、ルイさん。市場に行って来たのですか?」

 「ムドルさん。はい、旅の途中で食べようと思って」

 「そういう事ですか。それにしても、本当にムリゴが好きですね」

 そう言いムドルさんは、優しく微笑む。

 「うん、元々果物が好き。それにこのムリゴ美味しいし。それだけじゃないの、グレイが最初に買ってくれたのがこのムリゴだった」

 「なるほど……その時のことを思いながら、食べていると……妬けますね」

 「焼ける? ムリゴを焼くんですか??」

 そう私が聞くとムドルさんは一瞬、キョトンとした。

 「……アハハハ、そうですね。ムリゴは、焼いて食べても美味しいですよ。焼きムリゴ、食べてみますか?」

 「はい、食べてみたいです! でも、ここでですか?」

 「そうですね……あそこに木の長椅子がありますが、どうしますか?」

 そう聞かれ私は悩んだ。だけど、まだ時間あるし食べてみたかったので頷いた。

 「そうだね。お願いしようかな」

 そう私が言うとムドルさんは、ニコリと笑い木の長椅子の方に向かう。そのあとを私は追った。


 木の長椅子に腰かけると、ムドルさんも私の隣に座る。

 私は一瞬、ドキッとした。だけどグレイの顔が頭に浮かび、ムドルさんから少し離れる。

 「……まあいいでしょう。ムリゴを一個いただけますか?」

 そう言われ私は、袋からムリゴを一個とってムドルさんに渡した。

 ムドルさんはムリゴを左手で持つ。そして右手をムリゴに翳すと魔族語で詠唱する。

 するとムドルさんの右手が光って、小さな魔法陣が現れた。その魔法陣から小さな炎が現れムリゴを覆い包む。

 その後、丁度いいぐらいの色にムリゴが焼ける。

 そのムリゴをムドルさんは、私にくれた。

 それを受けとると私は、そのいい匂いにウットリする。

 「う~ん、良い匂い。いただきま~す!」

 そう言い私は、焼きムリゴを食べた。

 「うわぁ~、凄く美味しい。こんな食べ方もあるんですね」

 「ええ、本当に美味しそうに食べますね」

 そう言いムドルさんは、微笑みながら私をみつめる。

 みつめられ私は、ドキドキしてきた。


 どうしたんだろう……この空気、なんかまずい気がする。だけど……動けない。


 そう思い私は、この場をやり過ごそうと焼きムリゴを急いで食べる。

 「アツ、ハハハハハ……だけど……美味しい」

 「慌てないで、火傷しますよ……まだ熱いですので。あ、口元に……」

 そう言われ私は、自分の口をハンカチで拭こうとした。とその時、ムドルさんが私の口元の焼きムリゴの食べかすをなめる。

 「……」

 私は何も言えなくなった。そして言うまでもなく、顔が茹蛸のような状態だ。


 鼓動が鳴りやまない、だけどどうして? なんで……口元の食べかすをなめたの? でも……。私は……。


 そうこう思考を巡らせる。

 するとムドルさんが私を抱きしめた。

 更に私は混乱する。

 ムドルさんは私の耳元で囁いた。信じられない言葉を……。

 「――好きです。初めて逢ったあの日からずっと、こうしたかった」

 そう言われ私は、どうしていいか分からなくなる。


 えっ!? まって……。でも、私は……。だけど、グレイは私のことどう思ってる? 分からない……。


 考えても余計に混乱するだけだ。それにこの状況、凄くまずいと思った。

 「……む、ムドルさん。気持ちは、凄く嬉しい。だけど、どうしたらいいのか分からないの。だから今は……」

 「グレイが好きなのですね」

 「そ、それは……。う、うん……好きなんだと思う。でも、グレイは……弟子としか思ってない」

 「そうですか……そうですね」

 そう言いムドルさんは、私から少し距離を置く。

 「気持ちの整理ができてからで構いません。私は、いつまでも待ちますので……」

 ムドルさんは、ニコリと笑う。

 「ごめんなさい……」

 なぜか涙が出てきた。

 その涙をムドルさんがハンカチで拭いてくれる。

 「謝らないでください。私は、大丈夫ですので」

 そう言いムドルさんは、立ち上がり私に背を向けた。

 「そろそろ、旅立つ準備をしませんと」

 「そうですね……。私も、準備しないと」

 私もそう言うと立ち上がった。

 「このことは、誰にも言わないでください。流石に、恥ずかしいですので……」

 そう言い放ってムドルさんはこの場を離れる。

 そして私は、混乱したまま部屋に戻った。