ここはバールドア城の医療施設内にある救護室。厄災の件から、五日が過ぎている。

 私はベッドの上に座り、ボーッと考えていた。その脇でトラ猫が寝ている。


 あの怪物にやられてからの、記憶が全くない。このベッドの上で目覚めてから、ふとなぜかプレートをみなきゃと思った。
 なんでそう思ったのかは分からないけど……なぜか、そうしないといけないような気がしたのだ。
 そこには勇者のことが記載され、どんなことを思って厄災を創ったのかとかも。それにその他のことも、色々と書かれている。


 そう思考を巡らせながら、グレイの方に視線を向けた。


 グレイ、何か考えてるみたい。……このことは、あとで話した方がいいよね。今は、まだ……。


 そうこう考えていると……。


 「ニャァ~……何、考えてた?」

 そう言いながらトラ猫は、私の膝の上に乗る。

 なぜこのトラ猫が喋るのか、それは……ここに召喚された影響らしい。他にも何かあるかもしれないけどね。

 そしてこのトラ猫の名前は、トラ猫の【トラ】とキャットの【ット】で【トラット】って私が名付けた。

 「……トラット、かぁ。一瞬、驚いちゃった。アハハハ……」

 「いい加減、慣れろ。オイラだって、今の状況に慣れようとしてるんだ」

 「ごめん、そうだね。でも、なんで私の所から離れないの?」

 私は気になりそう問いかける。

 「なんとなく、かな。同じ世界の匂いがする、からだと思う。多分……」

 「そっかぁ。でも、喋る猫か……なんか異世界って気がして良いかもね」

 そう言いトラットを抱きかかえた。



 ――視点は、ムドルへと移る――


 腕を組みながらベッドに腰かけムドルは、黒豹のような魔獣をジト目でみていた。

 「主よ。ワタシは、これからどうすれば良いのでしょうか?」

 そう女性のような声でムドルに問いかける。

 「待ってください。先程も言いましたが、私はお前の主ではありません」

 「いいえ、私は貴方さまに新たな感情を……」

 そう言いなぜか顔を赤らめた。

 それをみたムドルは、頭を抱え青ざめる。

 「ちょ、待て……。なぜそこで、顔を赤くするのですか……」

 「それを言わせるのですか? まさか、ワタシを手なずけたのは……。アレは、遊びだったのですね」

 そう言いながら泣き出した。

 「いや違……て、そもそも……なぜそうなるのですか?」

 そうこう言い合いは続く……。因みにこの魔獣の名前は、キルリアと言うらしい。


 一方グレイフェズは、ムドルに背を向けベッドに腰かけていた。それも肩が小刻みに動いている。

 そうムドルと黒豹のような魔獣の言い合いが聞こえてきたため、おかしくて笑いを堪えていたのだ。

 (ムドルが……魔獣に好かれている。ププッ……待て、耐えられない。それもあの魔獣、メスだったとはな……)

 そう思いながら口を手で塞ぎ下を向いている。

 そして近くにいたメーメルやベルべスクも、ムドルに背を向け笑いを堪えていたのだった。