ムドルは息を切らしながら、向かってくるデビルミストの群れを見据えた。
「ハァハァハァ、流石に限界がみえてきています。ですが、そうも言ってられません!!」
そう言い放つとムドルは、デビルミストを鋭い眼光で睨み身構える。そして、目の前に手を翳した。
《ダークフレイヤ・ボウスハンズ!!》
そう叫ぶと両手に漆黒の炎をまとう。
《ダークジャガー・フレイヤキャノン!!》
そう言い放った。すると翳した両手の前に、魔法陣が展開される。その後、その魔法陣が光った。それと同時に、轟々と燃え盛る漆黒の炎が現れ放たれる。
解き放たれたその漆黒の炎は、徐々に黒豹のような姿へと変わった。その黒豹のような漆黒の炎は、デビルミストの群れに当たっていく。そして、黒い炎と共に消滅する。
その後、両手にまとう漆黒の炎は消えた。
「ハァ、ハァハァハァ……」
ムドルは片膝をつき、つらい表情で荒い息を吐く。
「……まだ、居るのですか。ですが、ここで諦めたら……目が……霞む……。駄目だ! クッ……」
そう言いムドルは、よろけながらもなんとか立ち上がる。だが、体力が限界に達していた。そのため立ち上がるだけでもやっとだ。
(これほどに……まさか、ここまで体力を消耗していたとは……。確かに……ハァハァハァ……技ばかり使っていましたが……)
そう思いながらムドルは、またどこからか現れたデビルミストを凝視する。
「クソッオォォォ――――」
そう叫んだ。それと同時に、今ある全ての力を振り絞りデビルミストへと目掛け駆け出す。そして技を使いデビルミストを駆除した。
……だがその直後ムドルは動けなくなりその場に、バタンと倒れる。
「……う、動け……クッ……ハァハァハァ……」
意識はあるものの、体が限界に達し動けない。
虚ろな目でムドルは、向かってくるデビルミストを悔しい気持ちでみていた。
叫ぶ声に気づきグレイフェズはムドルの方に視線を向ける。
「ハァハァハァ……まさか、ムドル……嘘だろう……」
グレイフェズはムドルの方へ向かおうとした。するとグレイフェズの目の前を、メーメルが物凄い速さで駆け抜ける。
「グレイ、ムドルは妾が避難させるのじゃ。だから、気にせずデビルミストの駆除作業を……」
「ああ、分かった。そっちは任せる」
それを確認するとメーメルは、ムドルの方へと向かった。
(そうは言ったものの……この状況は、最悪だ。流石に一人じゃ無理だろう。これ……どうすんだよぉ)
そう思いながら向かいくるデビルミストを見据える。
「やれるだけ……やるしかねえよな」
そう言うと大剣を構え直し鋭い眼光で睨んだ。
そしてグレイフェズは、技を使いデビルミストの群れへ突っ込んでいった。
ここはバールドア城の広場。あれからメーメルはムドルのそばにくると即、転移の魔法を唱え東側の小屋に向かった。
そしてここは、東側にある小屋の中。メーメルは担いでいるムドルを床に寝かせると、魔族語で簡単な回復魔法を唱える。
「ふぅ~、これで良いのじゃ」
「メーメル様、申し訳ありません」
「うむ、ムドルは良くやったのじゃ」
そう言われムドルは余計に申し訳ない気持ちになった。
「……そうでした。魔獣の同化を解除しなければ……」
「まだ解除しない方がよいのじゃ」
「どういう事ですか?」
そう言いムドルは首を傾げる。
「解除したら、その魔獣はどうなるのじゃ?」
「……そういえば、そうですね。戦わないといけなくなるかもしれません」
「そういう事じゃ」
そう言われムドルは頷いた。その後、険しい表情になり俯く。
「不甲斐ない。みんなは、必死で戦っている。それなのに、私はこんな有様……悔しいです」
「それほど落ち込む必要はないのじゃ。ムドルは良くやったと思うがのう」
「……ありがとうございます。しかしながらここに居ては、今の状況がみえない」
それを聞いたメーメルは、呆れた表情になる。
「うむ、仕方ないのじゃ。屋根の上にでも移動するかのう」
「メーメル様、申し訳ありません」
そう言いムドルは頭を深々と下げた。
その後メーメルは、魔族語で詠唱する。そして転移の魔法で、広場の状況がみえる屋根の上へと向かった。
――場所は変わり、バールドア城の広場の中央――
私はムドルさんのことが心配になり向かおうとする。だけど、メーメルが向かったのがみえた。なので大丈夫だと思い、ムドルさんの方に向かうのをやめる。
ムドルさんは問題ないね。だけどグレイ、大丈夫かな? 多分、一人じゃキツいと思う。心配だけど……今の私に何ができるの。……邪魔になるだけだよ。
そう思ったら涙が出てきた。みているのが、余りにもつら過ぎる。
どうしよう……このままじゃ……。
そうこう思い再び人々に憑りついているデビルミストを追い出そうとした。
「ルイ、待て。一旦、追い出し作業はやめておいた方がいい」
そう言いながらベルべスクが、私の方に近づいてくる。
そう言われ私は、ベルべスクの方を向いた。
「どういう事?」
「酷かもしれねぇが。デビルミストをこれ以上、追い出したら余計に増え続ける。そうじゃなくても、魔法陣から出て来てるんだからな」
私はそれを聞き周囲を見渡してみる。
「そうかもしれない。でも……憑りつかれた人たちは、どうなっちゃうの?」
「見捨てるしかないだろうな」
冷静な顔でベルべスクは、アッサリとそう言い放った。
「待って、そんな……そんなのは嫌! みんなを助けたい」
「それは無理だ。そうじゃなければ、グレイフェズは死ぬぞ。それでも良いのか? 良く考えるんだな」
そう言われ私は、どうした方がいいのかと思いグレイの方をみる。
ベルべスクの言う通りだと思う。だけど……憑りつかれた人たちを見捨てるって、できる訳ない。でも、そうしないとグレイに負担がかかる。どうしたらいいの……。
そう思いながら私は少しの間、悩んでいた。
私は悩んだ。そして、自問自答した。……本当は答えなんか分かり切っている。私は、聖人でもなんでもない……ただの女子高生。
そんな私が、みんなを救い出せるはずもない。それならやることは一つ……ベルべスクが言うように、デビルミストの追い出し作業を中断する。……それがベストだ。
でも……それで、グレイは納得してくれるかな? ううん、違う。納得させないといけない。そうじゃないと、グレイに負担がかかり……最悪な事態になっちゃう。
そう思い、やっと考えがまとまった。
「そうだね。これ以上、グレイに負担をかけたくない。だけど、みてるだけは嫌……何かやれることないかな」
「そうだな……ルイの能力でこの場の状況、なんとかできないか?」
「能力でかぁ。できるか分からないけど、やってみる。だけど……周りに居る厄災、どうしよう」
そう言い私は、キョロキョロ見回す。
「その間、オレがなんとかする」
「うん、分かった。お願いします。じゃあ、調べてみるね」
それを聞いたベルべスクは頷いた。
私はプレートを取り出して、どの能力を使った方がいいのか調べ始める。
急がなきゃ。えっと……今の状況をなんとかする能力。どれがいいだろう?
そう思いながらプレートを操作した。
そうだなぁ……んー……あっ!? そうだ。プレートの更新をしてみよう。
私はそう思いプレートの右側にある小さな魔法陣に触れる。するとプレートが発光しステータスが更新されていく。
★名前:ルイ・メイノ ★年齢:16 ★職業:受付見習い兼、冒険者 ★特殊能力:見極め
★LV:15 ★HP:15000 ★TP:0 ★MP:750
★攻撃力:7500 ★防御力:15000 ★武器:剣 ★○○…………――――
更新されたプレートを確認すると私は、特殊能力の★に手を添える。するとプレートに、新規と既存の能力が書き込まれていった。
私はその中から選ぶ……。
どれがいいかなぁ。今の状況に合った能力、そうなると……。見極めの方だと、新しいスキルを合わせて……レベル10まで覚えてる。
他のスキルだと……そうだなぁ、結構覚えてるけど。これ絶対、全部は使いきれないだろうなぁ。あははは――……。
てか、そんなことよりも。早く探さないと。
そう思い考えていると……。
「ルイ悪い、急いでくれ! オレはグレイフェズの方に行く。やっぱり、アイツ一人じゃ無理だ」
そう言われ私は、グレイフェズの方を向いた。
「分かった。急いで探すね。だからグレイのこと、お願い」
「ああ、どこまで手伝えるか分からねぇがな」
ベルべスクはそう言いグレイの方へ向かい駆け出す。
それを確認すると私は、再びプレートに目線を向け使うスキルを調べ始めた。
焦れば焦るほど、頭が働かない。余計に分からなくなる。だけど、早く使うスキルを探さなきゃ。
私はひたすら探す。今の状況に合ったスキルを……。
レベル1は、探して弱点を見極める。2は、内容の見極め。3……探し見極めて場所を特定する。4が、内容に合った物を見極め割り振り……。
レベル5は、物を見極め整理。そうだなぁ……レベル6が、複数の対象物の情報を調べ見極めて振り分け整理する。
ん~レベル7が……状況を見極め対処法を示す。レベル8が、特定の対象物の弱点を見極め対処する方法を探る。
それと……レベル9は、物事を詳しく調べ見極め対処法を探り示す。あとはレベル10……複数の対象物の弱点を見極め対処法を探り振り分ける。
そうなると……レベル7かな? ううん、なんか違う気もするし。そうだなぁ、でも……これしかないか。
そう考えがまとまると、両手を目の前に翳した。とその時、目の前に異界の魔獣が現れる。
私はそれに気づき、反射的に後ろに跳んだ。そして、体勢を整えると身構える。
だがその異界の魔獣は、私のことを追いかけてこない。なぜか、ベルべスクの方へ向かっていく。
「どうなってるの? 訳が分からない……」
そう思ったが気を取り直して、再び両手を眼前に翳す。
《見極めレベル7!!》
「この状況での対処の仕方を教えて!!」
そう言い放った。すると両手が発光し魔法陣が現れる。その魔法陣から眩い光が放たれた。
それと同時に目が眩むほどの光が周囲を覆い尽くす。その光は、一瞬で消える。
それを確認すると私は、プレートを確認した。
書き込まれてる。でも……やっぱり、無理なの? 測定不能……って……。
私は他に書き込まれていないか探してみる。だけど……なかった。
どうしよう……最悪だよ。
そう思い涙が出てくる。
本当に無理なの? 他に方法は……ないのかな。このままじゃ……。
余りにも、どうしていいか分からなくなり地面に座り込んだ。
――場面は変わり、グレイフェズが居る場所――
あれからグレイフェズは、ひたすらデビルミストの群れを技を使い大剣で駆除していた。
「クソッ……ハァハァハァ……数が多すぎる……ハァハァハァ……」
かなり疲れてきている。
「グレイフェズ、大丈夫か?」
それを聞きグレイフェズは声のした方をみた。
「ベルべスク!? 何でここに居る!!」
「ここに居ちゃまずいのか? オレは、お前だけじゃ無理だと思って来てやったのに……その態度かよ」
「悪い……だが、ルイの方は大丈夫なのか?」
そう言われベルべスクは頷く。
「恐らくな。オレの方にしか、あの怪物や魔獣はこないぞ」
「それは、どういう事だ?」
「散々オレが攻撃してたからだろうな」
それを聞きグレイフェズは納得する。
「そういう事か。確かに、ルイを襲う気配がない。どうなっている?」
「さぁ、オレも知らねぇ。だが、ムドルの時もそうだった。コイツら……倒せば倒すほど、強くなっていきやがる」
「なるほど……厄介だな。で、何か策はあるのか?」
そう問われベルべスクは首を横に振った。
「いや、ない。だが、今ルイが能力を使って調べている」
「そうか……ルイが……」
グレイフェズは泪の方に視線を向ける。と同時に青ざめた。
「なんで……ルイが頭を抱えて蹲っている!?」
それを聞きベルべスクもルイの方をみる。
「……」
何も言えなくなりベルべスクは、血の気が引いていき凍りついた。
「あの様子じゃ、どうしようもないってことか」
悔しさのあまり、地面に目掛け大剣を突き刺す。
グレイフェズは、紫の怪物とデビルミストの群れを順に睨んだ。
「何度、言ったか忘れたが……言う事は同じだ。やるしかねえよな」
それを聞いたベルべスクは、我に返りグレイフェズの方を向くと頷いた。
「ああ、そうだ。やるしかねぇわ、な!」
そう言いベルべスクは、ニヤリと笑みを浮かべる。
そして二人は、二手に分かれデビルミストの群れを駆除し始めたのだった。
ここはバールドア城の広場。状況は最悪――そんな中でも泪たち、いやグレイフェズとベルべスクは迫りくるデビルミストの群れに向かっていく。
しかし泪は、この状況で何もできないのかと思い悩み頭を抱え蹲ってしまった。
▼△★▽▲☆▼△
私は、なんて無力なんだろうって思った。そう、能力があっても……役に立たない。厄災をどうにかすることもできないなんて……。
それに、私がこの世界に居る意味って何? だけど、なんとかしたい。やれるだけのことを……。でも……どうやって? それが分からないから……。
考えれば考えるほど、余計に何も浮かばず……ただ涙が溢れ出るだけだ。
グレイ大丈夫かな?
そう思い私はグレイの方をみる。
つらそう……。グレイもだけど、ベルべスクさんも……。ここで考えてても、何も解決しない。今、私にできることって何かな?
そう考えながらグレイを目で追う。そして、ひたすら何ができるのか考えていた。
――場所は、ベルべスクの居る方へ移る――
ベルべスクは異界の怪物と魔獣を警戒しながら、デビルミストとの間合いを取った。
(ここは杖を使った方が、いいか)
そう思い魔族語で唱えると異空間が開く。そこから、いかにもアンティークな杖を取り出した。
「さて、オレが持ってる最高のこの杖で……どこまで戦えるか分からねぇ。だが、やらなきゃな」
そう言い杖を持ち直し身構えると、デビルミストの群れを見据える。その後、魔族語で唱え始めた。
《聖なる精霊 光の雷獣 異空間を繋ぐ扉 我、命ず いでよ 聖なる雷獣セイントライル!!》
そう言い放ちベルべスクは、杖を頭上に掲げる。すると、杖の先端の魔石が光った。それと同時に、魔石から光の柱が空高く放たれる。
光が放たれた周囲の空が眩く光った。その後、魔法陣が展開される。そしてその魔法陣から、光のエレメント系のライオンのような聖獣が現れた。
これが聖なる雷獣セイントライルだ。名前の割には、猛獣のような姿をしている。
セイントライルは、スッとベルべスクの前へと降り立った。
そして……。――ガオォォオオオーン!!――
そう雄叫びを上げる。
――いや、これライオンそのものでしょ。ただエレメント状態なだけで……。まぁ、それはさておき……――
それを確認するとベルべスクは、杖をセイントライルに向けた。
「目の前のデビルミストの群れを滅せよ!!」
そう魔族語で命令すると、セイントライルは……。
――ガオォォオオオーン!!――
と、雄叫びを上げデビルミストの群れに突っ込んでいく。
セイントライルは雷をまといながら一体一体、仕留めていった。
「意外と……いけるのか?」
そう思ったのは、束の間。
セイントライルは数百ものデビルミストを駆除したあと、そのまま消滅してしまった。……っと言っても、消えて元の精霊界に戻って行っただけである。
「クソッオォォォ、やっぱり……オレの力じゃ、こんなもんか」
悔しがりながらベルべスクは、まだ居るデビルミストの群れに視線を向け睨んでいた。
ここはバールドア城の広場。ベルべスクは、向かいくるデビルミストの群れを睨み見据える。
(さっきのような魔法は、何度も使えねぇ。大量に魔力を消費するからな。そうなると……どうする?
デビルミストだけじゃねぇ……異界の怪物や魔獣も居る。それを、どう倒せばいい……)
そうこう考えていたが、埒が明かないと思い直した。
「とりあえず、魔力を最低限に抑えて数を多く放つ。……それしかねぇ」
ベルべスクはそう言い杖を持ち身構える。そして魔族語で詠唱しようとした。とその時、異界の怪物の鉄の棍棒がベルべスクの背中に直撃する。
「グハッ……」
そのままベルべスクは前に倒れ込む。
「……やべぇ、油断した。……立たねぇと、やられる!」
背中を押さえながら立ち上がろうとする。
異界の怪物は近くまで来ていた。
「クソッ、間に合わねぇ!?」
そう思ったその時……目の前にグレイフェズが、息を切らし異界の怪物の前に立ちはだかる。そして大剣を構え直すと、異界の怪物を斬った。すると異界の怪物は、バタンと倒れ消滅する。
ベルべスクはそれをみて、ホッと胸を撫で下ろした。
「おい!? 何、ボーっと考え込んでる。死にたいなら、別だけどな」
「……そうだな。悪い、そういえば……以前に似たようなことをムドルにも言われた。ホントに、お前たち似てるな」
「そうか……まぁいい。それよりも、動けるか?」
そう問われベルべスクは頷く。
「ああ、なんとかな。オレは、昔から撃たれ強いから大丈夫だ。散々、ムドルに鍛えられた」
そう言いよろけながら立ち上がる。
「それならいいが、無理するなよ」
「グレイフェズ、お前もな。かなり無理してるんじゃねぇのか?」
「そうかもな。だが、限界なんて言ってられねえだろう。この状況を、どうにかしなきゃならない」
グレイフェズはそう言うと、遥か向こうに居るデビルミストの群れを見据えた。
「そうだな。これ以上、お前に負担かけられねぇみたいだ」
「そうしてくれると助かる。俺も、なんとかしないとな」
そう言いお互い見合い頷く。その後グレイフェズは、自分の持ち場に戻っていった。
「ああは、言ったが。流石に、さっきの一撃は効いてる。だが、なんとかしなきゃな」
苦痛の表情を浮かべ、デビルミストの方に視線を向ける。
その後ベルべスクは何度も召喚魔法を使い、デビルミストの群れと異界の怪物や魔獣を倒していった。
片やグレイフェズも、デビルミストの群れを技を使い大剣で斬っていく。
だが……それでも減ることはない。そして段々、二人の体力と魔力が尽きて来ていた。
ここはバールドア城の広場。あれからグレイフェズとベルべスクは、ひたすらデビルミストと異界の怪物や魔獣と戦っていた。
だけど二人だけの力では、無理がある。それだけではない……ベルべスクは、さっき異界の怪物から攻撃を受けた背中の痛みを堪えながらなので余計だ。
片やグレイフェズも、体力の限界に近い状態である。
「クソッ、まだくるのかよ!?」
そう思いながら目の前のデビルミストの群れを見据えた。それと同時に大剣を構え直しグレイフェズは、技名を叫びデビルミストの群れに向かおうとする。
だが、疲れすぎていたせいか足がもつれ転ぶ。
「って、まずい!!」
グレイフェズは急ぎ起き上がる。しかしデビルミストの群れは、グレイフェズの目の前を通過し紫色の怪物の方へと向かっていく。
「クッ、行かせるかよぉぉおおお――」
それをみたグレイフェズはそう叫び、大剣を持ち直すとデビルミストの群れに向かい駆け出した。
一方ベルべスクは、魔法を使いデビルミストの群れと異界の怪物や魔獣を倒している。
「魔力だけじゃねぇ……痛みを庇いながらのせいか、余計な体力を使ってる。だが、なんとかしねぇとな」
そう言いながら異界の魔獣に目掛け魔法で攻撃し倒した。とその直後、別の方向からデビルミストの群れが現れる。
「グレイフェズの方とは別に、二方向からだと……対処しきれねぇ」
そう言うもベルべスクは、前方にみえるデビルミストの群れに目掛け召喚魔法を使い攻撃し消滅させた。
だがしかし、別方向からくるデビルミストの群れにまで手が回らない。
「コリャまずいな。だが、なんとかしねぇと……」
そう言い魔法を唱えようとする。
――だが二人共に、間に合わなかった。
デビルミストの群れは、異界の怪物に憑依していく……。
それをみたグレイフェズは、大剣を地面に突き刺す。そして大剣を握ったまま、ガクッと肩を落とし地面に膝をついた。
「ま、間に合わなかった……最悪だ……」
そう言いながら大剣の柄部分を、ジーっとみつめる。
デビルミストの群れが紫の怪物に憑依してく姿をみて、ベルべスクは頭を抱えながら身を震わせていた。
「やっぱり、無理なのか……。クッ……」
悔しさと怯えとが混ざりベルべスクは、どうしていいか分からなくなる。
――そんな最中。城内からみていた者たちは、何も分からないながらも状況が最悪だと思った。そのため外に待機している者を、全て城の中へと避難させる――
――場所は移り、東側にある小屋の屋根――
あれからメーメルの魔法でムドルは、小屋の屋根の上へと転移して来ていた。
そして広場の状況をみていたが……。
「やはり……無理だったのか。私の体力が、もっと保てば……」
そう言い悔しい表情をする。
「ムドルがあの場所に居たとて、同じ結果だったはずじゃ」
「そうだとしても……悔しい。また、悲劇は繰り返されるのか。それに、この姿になっても防げなかった」
それを聞きメーメルは、つらくなり涙ぐむ。
「そうじゃな。ムドルに何も言ってあげられぬ。妾も同じなのじゃ……何もできない自分が、はがゆい」
そう言いメーメルは、ムドルをみつめた。
そして二人は、再び広場へと視線を向ける。
「メーメル様、みているだけはつら過ぎます。やれるだけのことをしたいのですが」
「うむ、そうじゃな。妾も、同じじゃ」
そう言いお互い見合い頷いた。
「うむ、でも……今のままでは無理なのじゃ。もう少し回復するかのう」
メーメルはそう言うと、魔族語で魔法を唱えムドルを回復させる。
「メーメル様、ありがとうございます。これならば、少しは戦えるかと」
「そうじゃな。妾は、グレイとベルべスクの回復をしてくるのじゃ」
「分かりました。では……」
そう言いムドルは屋根から飛び降り広場の中央へと向かった。
それを確認するとメーメルは、気になり泪の方をみる。
「相当、落ち込んでいるようじゃな。まずは、ルイの方に向かうかのう」
そう言うとメーメルは、魔法を使い泪の方へ転移していった。
――場所は変わり、泪が居る方の広場――
どうしよう……結局、駄目だった。このままじゃみんな……グスン、私は何をすればいいの?
そう思うと、余計に涙が溢れ出た。
そうこうしている間にも、デビルミストの群れが紫の怪物に憑依していき姿を変えていく。
それを私は、ただみていることしかできなかった。
現在の状況は最悪だ。デビルミストの群れが、紫の怪物に憑依していく。そのため紫の怪物の体は、どんどん変化する。
――グオォォオオオーー……――
そう雄叫びが辺りに轟く……。紫の怪物の体が、徐々に大きくなる。
それをみていられずにグレイフェズは、よろけながらも大剣を杖の代わりに使い立ち上がった。
(このままじゃ……。なんとか……ハァハァハァ……しねぇと……)
そして、地面から大剣を引き抜くと紫の怪物を見据える。と同時に、大剣を構え紫の怪物へと突進した。
「ウオォォオオオーー……」
そう叫び紫の怪物の体に目掛け大剣を右斜めに振り上げ斬る。……だがビクともせず、弾き飛ばされた。
グレイフェズは、そのまま地面に叩きつけられる。
「ハアァァアアアーー……」
するとグレイフェズの後ろから、そう叫ぶ声がしてきた。それと同時に、黒い影が跳び上がる。
そしてその黒い影は現在、約六百センチメートルもある紫の怪物の頭の位置にまで到達する。
すると間髪入れずに、蹴り、回し蹴り、膝蹴り、パンチ、あらゆる攻撃を連続で繰り出した。
そう……その黒い影はムドルだ。
「ムドル……動けるようになったのか……ハァハァハァ……」
そう言いグレイフェズはムドルの方へと視線を向けた。
やはり紫の怪物には、ムドルの攻撃が効かない。
ムドルは一旦、攻撃をやめ地面に着地する。
そしてグレイフェズのそばまできた。
「グレイ、大丈夫ですか?」
「ハァハァ……なんとかな。それより、もう大丈夫なのか?」
そう聞かれムドルは頷く。
「完全には、回復していませんが……なんとか大丈夫かと」
「そうか……無理するなよ」
「その言葉……そっくりそのまま、お返しします。無理をしているのは、グレイの方だと思いますが」
そう言いムドルは、グレイフェズをジト目でみる。
「そうだな。だが、お互い様だろう」
グレイフェズはそう言いながら立とうとした。
「そうですね。ですが、今はじっとしていてください。メーメル様が、回復してくれるはずなので」
それを聞きグレイフェズは、地面に座り込んだ。
「回復……それは、助かる。だが、待ってる間にも怪物は……」
「どうでしょう。今、攻撃してみましたが無理でした。そうなると、万全の状態でも勝ち目があるかどうか。それなのに、回復していない状態では余計に無理だと思われます」
そう言いムドルは難しい表情になる。
「確かにな。それで、何か方法はみつかったのか?」
「いいえ、何もありません。ただ、みているだけでは……つらかったので」
「そういう事か。それで、メーメルは今どこに居る?」
そう問われムドルは、キョロキョロしたあと泪の方を向き指差した。
「ルイさんの方にいるみたいですね。メーメル様が、何か怒っているみたいです」
そう言われグレイフェズは、泪の方を向き目を凝らしみる。
「よくみえないが、ルイはどんな状態なんだ?」
「泣いているみたいですね。様子からして、メーメル様に怒られて泣いている訳じゃなさそうです」
「……なるほど。もしそうだとしたら、ルイはこの状況下でどうしていいか分からなくて泣いてるのかもな。それに……アイツも一応、女だ」
そう言いグレイフェズは、悲しい表情で俯いた。
「女性……そうですね。これ以上ルイさんに、つらい思いはさせたくありません」
「ああ、勿論だ。それには、なんとかあの怪物を倒さないとな」
グレイフェズはそう言いながら、紫の怪物の方を向く。
するとムドルも紫の怪物の方に視線を向ける。
「ええ、ありったけの力を使って……」
そうムドルが言うとグレイフェズは頷いた。
その後ムドルは、ベルべスクの方へ向かう。
それをみたベルべスクは、驚き逃げようとする。だが即、捕まる。
それからベルべスクは、ムドルに訳を聞き納得した。
その後ベルべスクは、ムドルとグレイフェズのそばまでくる。
そして三人は、メーメルがくるのを話しながら待つ。
――その間にも、紫の怪物は姿を変えながら巨大化していくのだった。
私は現在、メーメルに怒られている。当然だ……ただここで何もせず、私は泣きながらみている。怒られても仕方がない。
「泣きたい気持ちは分かるのじゃ。しかし何もできないでは済まされぬ」
「そうだけど……どうすればいいの? 私の力じゃ、倒せない。できるのであれば私だって……」
「うむ……そうじゃなぁ。ルイ、気持ちの整理がついたらで良い。あとからくるのじゃ……良いな!?」
それを聞き私は頷いた。
それをみたメーメルは、私に背を向けグレイ達の方に向かい駆け出す。
そんなメーメルをみて私は、凄いと思った。魔族とはいえ、同じ女なのに全然違う。それに私なんかよりも遥かに強い。私もみんなと戦えるぐらいの力があれば、と思った。
分かってる。ただ、私にはそこまでの勇気がないだけだ。
それが……私にはできない。グレイ達は、それができている。
頭で考えているだけでは何も解決できない。そう思っても行動に移すことが……一歩、踏み出すことができないのだ。
私はグレイ達の方をみながら、ひたすら自問自答していた。
――場所は、グレイフェズ達が居る方へと移る――
相変わらず紫の怪物は、デビルミストを体内に吸収し姿を変え続けていた。
そんな中グレイフェズとムドルとベルべスクは、その光景を悔しい気持ちでみている。
そこに猛ダッシュでメーメルが、グレイフェズ達の方に向かってきた。
「何、ボケっとみておるのじゃあぁぁあああ――」
それを聞き三人は一瞬、ビクッとして後ろに仰け反る。
「メーメル……べ、別にボケっとしていた訳じゃない!!」
「グレイ、本当かのう? ……まぁ良い。それよりも、回復が先じゃな」
そう言いメーメルは魔族語で魔法を唱え、グレイフェズとベルべスクの回復を順にした。その後メーメルは、バッグの中から魔力回復ドリンクを取り出しベルべスクに渡す。
「メーメル様、申し訳ありません。有難く頂きます」
ベルべスクはそう言うと、メーメルに頭を下げる。そして、魔力回復ドリンクを飲んだ。
「すまない、メーメル……助かった。それはそうとルイの状態は、どうなんだ?」
「うむ……相当、落ち込んでおったのじゃ。自分にできることが何か、みえておらぬ。それを、自分で気づき……みつけるしかないのじゃ」
「そうか……俺が傍に居てやれれば……。いや、そうだな。メーメルの言うように、自分で気づかないと意味がない」
そう言うとメーメルは頷いた。
「そうですね。私も同感です。それに……これ以上、ルイさんを危険な目に遭わせたくありません」
ムドルはそう言い、キッと紫の怪物を睨む。
「ああ、そうだな。俺も同じ気持ちだ」
そう言うとグレイフェズも、紫の怪物を睨みつけた。
「悪いがオレは、雑魚の方を片づける」
「ベルべスク、それでいい。ただ、そっちが済んだら……こっちも頼む」
グレイフェズにそう言われベルべスクは、口角を上げ頷く。
「妾もベルべスクと一緒に、雑魚の怪物と魔獣を倒すのじゃ」
「メーメル様、無理だけはなされませぬように……」
「大丈夫じゃ。それよりも、ムドルもグレイも無理はするでない……良いな!!」
それを聞きグレイフェズとムドルは頷き立ち上がった。その後、二人は紫の怪物の方を向く。
そしてグレイフェズ達は、各自の持ち場に向かったのだった。