ここは修練場。その隅で私は、端から端まで走らされていた。

 距離は……だいたい片道、二百メートルぐらいあると思う。そこをグレイがいいと言うまで往復しなければならない。

 走るのは得意だ。運動全般いける。だが、もう既に十往復していて流石にヘトヘトだ。


 つらい……こんなの初めてだ。それも、全力でこの距離を走るって無茶苦茶すぎる。だけど、これも必要なことだって言ってたし……やらなきゃ。


 そう思い何度も立ちどまるも、まだ大丈夫いけると自分に言い聞かせ走る。



 ――一方、ここは修練場の隅に設置された木の長椅子――


 グレイは木の長椅子に座り泪をみていた。

(んー、思ったよりも根性あるな。それに、体力も申し分ない。……そうだな。俊敏さ、か。
 男であれば警戒して近寄ってこないだろうが、ルイは女だ。そのため狙われ易い。そうなると……やれるだけのことは、全てしておいた方がいいだろう)

 真剣な表情でそう思考を巡らせる。しかし泪をみてるうちにニヤケてきた。

(……会った時はそんなでもなかった。だが、ルイのひたむきな姿勢。それに、向きになるとこが可愛い。……それだけじゃない。俺は、男でも女でも根性があるヤツが好きだ)

 そう考えていたが、ハッと我に返る。

「何考えてんだ……俺は、」

 再びルイの方に視線を向けた。

(そろそろ、休憩にしてやるか)

 その後、グレイは泪に「休憩していい」と告げる。それを聞き泪は、走るのをやめ立ちどまった。そして、壁に寄りかかり座り込んだ。



 ――場所は移り、ここはガルボルンの森――


 ここガルボルンは、バールドア城より南西に位置するタルキニアの町の南東に隣接する森である。

 辺りに人の声が響き渡っていた。

「おい、いたか?」

 瘦せ型の男性がそう言う。

「チャトレ。いや、こっちにいはいねぇ。どこ行きやがった。あの獣人のガキ……」

 小太りの男性は悔しさのあまり地面を蹴る。

「チャトレに、ハルネス。逃がしたのはおしかったわね。獣人の女は、奴隷として高く売れるのに」

 化粧が濃くスラッとした女性は悔しさのあまり顔を歪めた。

「キュララ、どうする。まだ探すのか?」

「そうね。これ以上、奥に行くのは危険すぎるわ。まぁ、顔をみられてるけど大丈夫でしょ」

「ああ、まだガキだしな」

 そう言い三人はこの場を離れ森の入口へ向かう。


 その様子を木々の合間から獣人の女の子がみていた。見た感じ羊の獣人のようではあるが、肌の色は浅黒い。

「……行った。クッ、不覚にもこの妾が捕まるとは……。なんとか、獣人と勘違いしてくれたお陰でバレずに済んだが、」

 木々の合間からキョロキョロする。

「うむ、大丈夫のようじゃな」

 そう言うと木々をかき分け道に出た。

「さて、どうする。ムドルとは、逸れてしまった。探すにも、この姿では目立つ。んー……人間にでも、化けるかのう」

 そう言うと手を目の前に翳し魔族語で詠唱をする。


 そうこの羊の獣人のような女の子は魔族ダークルスティ国の姫メーメル・ダルタンクだ。と言っても第五王女のためか誰にも期待されていない。

 そのため執事のムドルと城を抜け出し旅をしている。

 だがメーメルは草原で寝そべっていたが、ムドルが居ない隙をつかれあの三人に攫われたのだ。


 ……魔法陣が描かれる。すると漆黒の光が放たれた。

 メーメルはその漆黒の光に包まれる。そして、徐々に人間の女の子へと姿を変えていった。


 髪の色は変身前と同じで、右が黒で左が銀色のウエーブがかったミディアムヘアである。見た目は十二歳ぐらいで可愛い。――実際は三百十二歳なのだが――


 変身し終えるとメーメルは、このあとどうしたらいいのかと考える。

「そうじゃな。せっかく、人間に化けたし街をのぞいてみるか」

 そしてその後、タルキニアの町へと向かったのだった。