ここはバールドア城の出入口付近。クレファスは目の前の状況をみて苛立っていた。

(……これでは、無駄に命を落とすだけだ。クソッ、みていることしかできないのか!)

 そう思い近くにある柱を、ドンッと右拳で叩く。

 そうこうしていると城の出入口の扉が開いた。

 それに気づきクレファスは出入口の方を向きみる。

 扉の所には、淡藤色で長い髪の男性が立っていた。

「レグノス、何かあったのか?」

「至急、執務室にこいとの指示だ」

 そう言いながら淡藤色の男性は、クレファスのそばへと歩み寄る。


 この男性はレグノス・バルキリ、二十五歳、魔術騎士団二番隊の隊長だ。


 そばまでくるとレグノスは、クレファスをみたあと広場の方へ視線を向けた。

「まさか……これほど、とはな。これでは何れ城の中にも……」

「ああ、そううなるだろうな。だがこの非常時に、いったい……どういう事だ?」

「さあ、私にも上の考えてることは分からぬ。ただ、指示に従うまで……」

 それを聞きクレファスは溜息をつく。

「ふぅ〜、お前は相変わらずだな。……この状況で、俺がここを離れたらどうなる。とは言うものの現状、何もできていない」

「確かに……酷いものだな。これに……勝てる策など、私も思いつかぬ」

「……仕方ない。ここは部下に任せて、サッサと行って戻ってくるか。俺も上には、逆らえんからな」

 そう言いクレファスは、ここを任せられる者に声をかける。そして代わりに、ここの指揮をするように指示を出した。その後レグノスと共に、執務室の方へと向かう。



 ――場所は、広場の東側へと移る――


 あれからムドルは、ベルベスクとここに来ていた。

「ベルベスク、チャチャッと終わらせますよ」

「ああ、そうだな。で、何を召喚する?」

「ルイさんのプレートに書かれていたのは……確か、虎と言う生き物でした。……ベルベスク、どのような生き物か知っていますか?」

 そう聞かれベルベスクは、首を横に振る。

「みたことも、聞いたこともねえな。だが、なんとかなるだろう」

「では、私も準備をしますので……失敗しないでくださいよ」

「失敗? する訳ないだろう!」

 そう言いベルベスクは、ムッとしムドルを睨む。

「そうでした。魔法に関しては、かなりの腕ですからね。期待していますよ!」

 ムドルはそう言いながらもベルベスクを、キッと睨み返す。

 それをみたベルベスクは、ビクッとし身震いする。

「じゃあ、始めるぞ!」

「ええ、お願いします」

 そう言いムドルは、ベルベスクの方に両手を翳す。

 それを確認したベルベスクは、魔族語で詠唱し始めたのだった。