ここはバールドア城の広場。未だに魔法陣から厄災が出て来ている。

 この危機に城の騎士団も出動していた。と言っても、五番隊だけだ。

 それでも被害は、増え続ける一方である。

「クッ、なんでこんな時に……。グレイ、それとサクリスもが居ない!」

 厄災を見据えながら、浅黄(あさぎ)色で長い髪の男は悔しがっていた。


 この男性が騎士団五番隊の隊長クレファス・ハルビ、年齢は二十五歳である。

 浅黄色の長い髪で左側は、細かく幾重にも編み込んでいた。それを、一つにまとめ縛っている。


 クレファスは厄災を避けながら、この場をどう対処したらいいのかと悩んでいた。

(このままでは、ここだけの被害でとどまらないだろう。……あの二人が居ない。しかし、居たとしても……この怪現象をどうにかできたとも思えん。
 それよりも……なぜ、五番隊だけが……クッ……。他の隊と他の団は、城内の守りに……いつもそうだ。一番面倒で危険なことを、この五番隊によこす。
 確かに、身分があるかないのか分からない隊だ。だからと言って……)

 そう思い唇を噛みしめる。

 目の前では隊の騎士たちが厄災の餌食になっていた。それをみても、何もできない自分がはがゆい。自分も前に出て戦いたいと思う。だがそれは、できなかった。

 自分が持ち場を離れることは敗北をいみする。そう、指示を出す者が居なくなるからだ。

(恐らく……グレイであれば、指示に従わないだろう。止めても、厄災に向かって行く。だが、俺にはそれができない。……悔しいがな)

 立場を理解していた。そのため、余計に厄災に向かって行くことができないのだ。

「クレファス様、後退してください。ここは俺たちで阻止します」

「ああ、すまない。だが、無理はするな。相手は、厄災かもしれん」

「はい、ですが……命にもかけてここは守り抜きます」

 その騎士の言葉を聞き、クレファスは泣きそうになる。

「ああ、任せた……」

 そう言いクレファスは安全な後ろへ退いた。

(戦っている者が、なんなのか分からん。これでは、指示を真面に出せる訳がない)

 そう思いながら城の出入口の前までくる。

 そして戦ってる騎士たちを、つらそうな表情でみていた。



 ――場所は移り、バールドア城内の執務室――


 ここには国王カルゼアと大臣のクベイル、そしてカイルディがいる。

 執務室の外には、上位騎士団の者たちが守りについていた。

「なんという事だ!! 聖女は居なくなる……その挙句、厄災だと。ああ、私の代でこの国は終わるというのか……」

「陛下、それはまだ分かりません。今、聖女さまを探させております」

「カイルディ、聖女さまが戻っても……却って危険に晒してしまうのではないのか」

 クベイルにそう言われカイルディは、目を閉じ考え始める。

(確かに、仮にキヨミ様がここに居たとして……どれだけの戦力になるでしょうか。国を守るためだとしても、勝手にこの世界に召喚してしまいました。
 もし無事ここから逃げ延びているのであれば……追うのではなく、守りの者を送るのが良いのかもしれません)

 そう考えがまとまるとカイルディは、カルゼアとクベイルにこのことを伝えた。

「……厄災の最中。誰を向かわせるというのだ? それに聖女さまが、どこに居るのかも分からないというのに……」

「クレファスが居ります。ただ、騎士団五番隊を捨てることになりますが」

「……それは無理だ! アレが首を縦に振ると思っているのか?」

 そうクベイルに言われカイルディは首を横に振る。

「恐らく無理でしょう。しかし今、動かせる人材はクレファスだけかと思われます」

「そうだな。それしかないか……」

「陛下……」

 クベイルは難しい顔になり俯いた。

「では、外の者に……クレファスをここに連れてくるよう伝えたいと思います」

 そう言いカイルディは、一礼をすると扉の方へと向かう。

 そのあと扉を開け、通路側にいる者にクレファスを連れてくるように指示をする。

 そしてその後カイルディは、カルゼアとクベイルの方へ戻って来たのだった。