ここはバールドア城の広場から東にある小屋。

 その小屋の中には、泪たちがいる。

 泪たちが見ている前でグレイフェズとムドルは、能力を解放しようとしていた。

 ムドルは覚悟を決め、目の前を見据える。

 その後、眼前に両手を翳すと魔族語で詠唱した。すると魔法陣が展開していき、そこから黒い光が放たれる。その黒い光は、ムドルを覆い包んだ。

 黒い光が消えると魔族の姿へと変わる。

(……気持ちが落ち着きません。ですが、覚悟を決めないと)

 ムドルは気持ちを切り替えた。左手の親指と人差し指で、パチンッと左耳のピアスを弾く。


 キィーン――……


 辺りに甲高い音が鳴り響いた。それと同時に波紋が現れ広がる。

 それを確認すると眼前に両手を翳した。

 《異なる(モロワツ)(ムヤニ) 偽と(ヂロ)(リノ) あるべき(ハツゼミ)姿(ユダラ) 封印(ウフヒノ)されし(ヤネリ)能力(ンフチョム) 我、(ナネ)願う(ケダフ) 真の(リノン)力を(イマタヌ)解き放(ロミアワ)たれたし!!(ラネラリ)

 そう唱え言い放つと、翳した両手が光って魔法陣が展開される。

 それを視認すると両手を頭上に掲げた。それと一緒に魔法陣も移動する。

 右手を掲げたまま左手の人差し指で、左耳のピアスを後方に弾いた。


 リィーン――……


 綺麗な高い音が鳴り、周囲に響き渡る。すると掲げた右手の上にある魔法陣が、回転しながら下降していく。

 それと同時に、ムドルから異常なほどの威圧感が放たれた。

 下まで到達すると魔法陣は消える。


 ムドルの姿は、さほど変わっておらず。黒髪の部分が若干、こげ茶がかっていた。見た目は、少し人間に近い。


 それをそばでみていたグレイフェズは、驚異的な威圧感に身を震わせる。……まだ能力を開放していなかったため、余計にそう感じた。

(……見た目は、余り変わっていない。だが、なんなんだ! この途轍もない威圧は……。それに、この世界の者とも思えない……この感覚……)

 そう思いながらムドルを凝視する。

 それに気づきムドルは、グレイの方を向いた。

「どうしたのですか? グレイは、能力を開放しないのでしょうか」

「いや、能力を開放する。ただ……いや、やっぱりいい。さて、俺もやるか……」

 そう言うとグレイフェズは、左の小指に嵌めている指輪に右手を添える。

 《古の鎖 現と古 あるべき姿 封印されし力 我、願う 真の姿を解き放たれたし!!》

 そう詠唱すると両手を頭上に掲げた。

 すると指輪がキランッと光る。と同時に、指輪から眩い光が真上に放たれ魔法陣が展開していく。

 その魔法陣が展開し終えるとグレイフェズの真下に、スッと降下する。そして、徐々にグレイフェズの姿が変化していった。


 白銀から黒に銀が混じった髪色へ変わっている。髪型と容姿はそのままだ。明らかに違うのは、尋常じゃないほどの膨大な能力である。


 魔法陣が地面まで到達すると激しい光を放ち消えた。

「これで……いいんだよな。まだ、自信はない」

「グレイ。私は……久々すぎて、ちゃんと能力が使えるか心配なんですけどね」

 そう言い二人は、ニヤリとお互い笑みを浮かべる。その後、泪たちの方へ向かい歩き出した。