ここはバールドア城の広場付近。ここには、民衆に紛れ込んでいる人間の姿のムドルとベルべスクがいる。

 そうあれから二人は、魔族のままじゃ中に入れないだろうと人間の姿に変えた。その後、バールドア城の広場にくる。


 現在ムドルとベルベスクは、泪のプレートから写し書き記した紙を確認しながら、広場の西側に向かっていた。

「グレイの言う通り簡単に潜り込めました。それにしても、いくら式典のためとはいえ警備が緩すぎます。まぁそれを知っていて今日なのでしょう、が」

「そういう事だ。だがなぜシュウゼル様は、人間と手を組んでこんなことをするのか分からない」

「言われるまま従ってたってことですか」

 そう言われベルべスクは頷く。

「ああ、今シュウゼル様は城の地下で魔法陣の発動を待っているはずだ」

「ちょっと待て! シュウゼルは、アクロマスグのティハイドの屋敷に居る訳じゃないのですか?」

「いや、シュウゼル様はルべルスト城に居る」

 それを聞きムドルは不思議に思った。

「ルイさんが調べた限り、厄災の発生源となる場所はアクロマスグのはずです」

「それで合っている。おおもとは、そこだからな」

「どういう事だ? 発生源がそことは……」

 そう問われベルべスクは真剣な表情になる。

「良くは知らない。だが確か……誰かの屋敷の近くで、その厄災のことが記された物が出て来てどうのこうのっていうのを聞いた」

「なるほど、そうなると……シュウゼルではなく、ティハイドが首謀者という事になりますね」

「そうだろうな。恐らくシュウゼル様は利用されている」

 それを聞きムドルは遠くに視線を向けた。

「なぜ魔族は、こうも利用される。昔は、そうでもなかったはずです」

「そうだな。かつての魔族は、人間が恐れるほどだった」

「だが今は、恐れられるどころか……私たちが人間に気を使って生きている。それはそれで良いのですが……」

 そう言うとムドルは「ハァー」っと溜息をつく。

「まぁ、それに付け込んでくる連中ばかりじゃないけどな」

「そうですね。このことは、あとでルイさんたちにも伝えることにしましょう」

 ムドルはそう言い目的の場所へと向かった。そのあとをベルべスクが追いかける。



 ――場面は変わり、バールドア城にある城壁の東の外側――


 私とグレイは、あれからローブを着た。その後、フードを深々と被りここまでくる。

「ルイ、今はそれほど警備が厳重じゃない。だが、気づかれないように気をつけて進む」

「うん、分かった……気をつけるね」

 そう言うとグレイは、ニコッと笑みを浮かべた。

「じゃあ、行くぞ! 手はず通り俺が中から扉を開ける」

 そう言いグレイは、鉤縄を振り回し城壁の上にフックを引っ掛ける。と同時に、音を立てずに上って行く。その姿をみた私は、かっこいいけど原始的だなと思った。

 その後、グレイは上まで登ると鉤縄を回収する。そして姿を消した。多分、下に降りたんだと思う。

 私はグレイが扉を開けてくれるのを、まだかなぁと思い待った。すると扉が開きグレイは私に、こいと手招きをする。

 それを確認すると私は、グレイの方に歩み寄った。

「なんか変だ。警備が少なすぎる」

「それって、どういう事?」

「俺も分からない。厄災のことは知られてないと思う。知られていれば、もっと大騒ぎになっているはずだ」

 そう言いながらグレイは考えている。

「じゃ、それ以外の何かが城で起きたってことなの?」

「恐らくな。もしかしたら、厄災を起こす時間が早まったのも……そのせいかもしれない」

「そうだとしたら、どうするの?」

 そう問いかけるとグレイは、私の顔をみて口を開いた。

「厄災を放っておけない。このまま撤去作業をする」

「うん、私もその方がいいと思う」

 それを聞いたグレイは真顔で頷く。

 そして私とグレイは城壁の内側へ入って行った。