ここはレインライムの船着き場からネツオン大陸に向かう途中の海上。

 あれからエリュードとヴァウロイとライルとゴルイドは、美鈴を助けるべく船に乗りネツオン大陸に向かっていた。

 狭い船室が三箇所ある。その一室を使い話し合いをしていた。

「なぁ、間に合うと思うか?」

 そう言いエリュードは心配な表情で下を向いている。

「どうだろう。流石に距離があり過ぎるしね」

「ああ、ライルちゃんの言う通りだ。だが、ミスズちゃんをどうにかして助けてぇ」

「そうだニャ。僕も助けたい。でも、今はこの方法しかないのニャ」

 ヴァウロイがそう言うと三人は頷いた。

(ミスズ、無事でいてくれ)

 そう願いエリュードはネツオン大陸があるだろう方角をみる。

 そしてエリュード達は、間に合わないかもと思いつつも、一握りの希望に賭けネツオン大陸に向かい進んだ。



 場所は移り、ここはウリナスの街。カイトはこの街の宿屋に泊まっていた。


 あれからコーンの森で野宿をしたあとウリナスの街を目指し旅立つ。その後、途中で神官セリアと合流する。


 現在、セリアはカイトとは別の部屋で休んでいた。

 カイトはベットの上に座り考えごとをしている。

(んー、急にどういう事だ? 昨日、美鈴とかいう女を追わなくていいと言ってきた。
 聞き返すにも、そのあと交信が切れたし。まぁ、別にやることが変わったわけじゃない。
 セリアも仲間になったことだし。それに二人でこのあと冒険者ギルドに行く。
 とりあえずはセリアがいればこの世界で何をすればいいか分かるしな)

 そう思いながらベッドにバタンと仰向けになった。



 一方セリアは、カイトの隣の部屋でくつろいでいる。

「勇者カイト、本当に大丈夫でしょうか? この世界のことを知らないのは当然ですが」

 椅子に腰かけテーブルに置かれている紅茶のような飲み物が入ったカップを持ち口に含む。

(城でもそうでしたが。好みの女性をみつけると声をかける。男性であれば当たり前な生理現象なのでしょう。
 そうだとしても、度が過ぎます。……ですが、なぜ私には興味を示してくださらないのでしょうか?)

 そう思い立ち上がり姿見鏡が立てかけられている壁へと向かい歩き出した。

 姿見鏡の前までくると自分の姿をじっくりみる。

(やはり化粧もしてなくて、そばかすだらけでは駄目ですよね。それに服も神官服の延長のようなものですし。
 これではカイトでなくても相手にされませんわ。そうですね、ギルド登録もしなければなりません。
 という事で、この機会にイメージチェンジでもしましょう)

 そう考えがまとまると急ぎお洒落な服を買いに商店街に向かった。

 その後イメージチェンジしたセリアはカイトの部屋に行くも相手にされず撃沈し部屋に戻る。

(何がいけなかったのでしょうか? せっかく花柄の金色が混じったカラフルな紫の衣装を買って着てみせたのに……。
 返って来た言葉が『どこかで歌会でもするのか?』って、それだけならまだいいわ。
 全然、似合ってない。とは、いくらなんでも酷すぎます。……ですが、やはりいつもの服が落ち着きますわね)

 そう考えながら気持ちが落ち着くといつもの服に着替えたのだった。



 場所は遥か北東部に位置する孤島にある辺境の地。その北西部にある西洋の城を思わせる建物の中。

 ヴァンディロードは部屋の長椅子に座りくつろいでいる。

(新たな魔王様の復活、か。以前、テルマ様が魔王としてこの地に君臨される前に起きたような兆候が至る所にみえてきている。
 それが誰なのか、調査してはいるが分からん。それ故に女神に歯向かう美鈴をキープしておく方がいいだろう。まぁそうではないにしろ何かの役に立つであろうからな)

 そう思い不敵な笑みを浮かべていた。



 場所は一転し、ここはネツオン大陸の海岸沿い。美鈴たちは大きな船の前に立っていた。


 あのあと美鈴たちは、これからどうするか考える。その後、いつまでも居られないという事になり旅立つことにした。

 だが、どうやって海を渡り他の島に行くか悩んだ。

 それならばとファルスが自分の能力を使い熱耐性のある船を造ると言う。

 そんな能力があるのかと美鈴とドラバルトとマグドラスは驚く。だが、ミィレインはファルスの正体を知っていたため驚いたフリをする。

 その後ファルスは造っている所をみられたくないと言い一人で海岸まで行った。



 ファルスは海岸に着くと誰もいないことを確認したあと海に手を翳し神語で詠唱する。すると立派な船が現れた。

 その後、近くにあった杭になりそうな大きく長い石を地面に埋め込んだ。そして流されないように船の鎖を杭に巻き付けると船内を確認する。

 そして確認が済むとその場を離れドラギドラスの洞窟へ向い美鈴たちに準備ができたことを告げた。


 現在、美鈴たちはファルスの造った船の前で話をしている。

「うわあぁ~、すごぉーい!」

「うむ、これほどの物を一瞬で造ってしまうとはな。どんな能力かはわからぬが、これは魔王様に匹敵する力かもしれん」

「確かにドラバルト様の言う通り、この能力は凄い」

 そう言われファルスとミィレインは苦笑した。

「それはそうと、これからどこに向かう?」

「そうだな。一度、竜人の里に行きたい。しばらく戻っていなかったから里の者たちが心配だ」

「ですが、恐らく里の者たちはドラバルト様が死んだと思っているはず」

 そうマグドラスに言われドラバルトはどうしたら良いかと悩み始める。

「ねぇ、それなら何があったかそのまま伝えればいいんじゃ」

「そうね。アタシも美鈴が言うように、そのまま真実を言った方がいいと思うわ」

「それもそうだ。まあ、それに行けばなんとかなるだろう」

 そう納得するとドラバルトは遥か遠くをみつめた。

 その後、ドラバルトはマグドラスに別れの挨拶を済ませると船に乗り込む。

 そのあとをファルスとミィレインが追う。そして美鈴は最後に乗り込んだ。

(そういえば、さっきミィレインが言ってたけど。ファルスさんが、あのスイクラムを懲らしめてくれたって。
 それにファルスさんは他の世界の神様に仕える者ってことも言ってた。んー、でもそんな人がなんでこんな所にいるんだろう?)

 そう疑問に思いながら船室へと向かった。

(ふぅ~、まぁそのことを考えたって仕方ないし……)

 美鈴はそう思いながら自分のために用意された船室に入る。

「うわぁ、結構、綺麗で広々~……」

 そう言い窓際まで駆け出す。

「異世界の海か。そういえば、元の世界でも海に行ったことなかったなぁ」

 ウットリしながら海を眺めた。

(……エリュード、今頃どうしているのかな?)

 ふとエリュードのことが頭を過る。

(大丈夫だよね。ここを出たら、どこかの町の冒険者ギルドで依頼して探せば、)

 一瞬だけ不安になったが、まだ希望はあると思い直した。

 その後ファルスが操縦し船が動き竜人の里ドドリギアに向かう。

 そして美鈴たちはしばしの航海を楽しんだのだった。

 以後、美鈴たちがどうなったのか。美鈴はエリュードと逢うことができたのか……。それは神のみぞ知る。


 ――って、ここで言う神はスイクラムではなくファイグ(ファルス)になります――


 こうして美鈴の物語は一旦、幕を閉じる。しかしまだ美鈴たちの旅は終わらず……。___★反逆の章・完結★