ここは、レインライムの街にある、ギルドの医務室。

 エリュードはベッドの上に横たわり、不安な面持ちでリムの話に耳を傾けていた。

「ゾラさん。お話しする前に、聞きたい事があるのですが。今まで、恋愛をされた経験は?」

 そう聞かれエリュードは、なんでそんな事を聞くのかと思い首をかしげる。

「そんな事を、なんで聞く?」

「いえ、ただ気になりましたので。それに、あくまで確認のためです」

 リムは真顔でそう言った。

「確認ねぇ。んー、なんか良く分からんが。まぁ、別にいいか。ああ。恋愛なんかした事がない」

「そうなんですね。じゃ今まで、好きだと言われた事もですか?」

 そう問い掛けられエリュードは、どうだったかと思い返す。

「ん? そういや昔、幼なじみに言われてた気がするが」

「まさかとは思いますが。それをなんとも思わず、適当に受け流していたって事はありませんよね?」

「そうだなぁ。多分、そうしてたと思う。別にアイツとは、()()()幼なじみってだけだ。それに好きと言っても、意味が違うだろうしな」

 エリュードがそう言うとリムは、あきれた表情になり深いため息をつく。

「なるほどですね。ゾラさんが、これ程まで鈍感だったとは思いませんでした。これでは、自分の気持ちに気づかれないのも納得です」

「どういう事だ? てか、さっきから恋愛がどうとか。意味が全然、分からない。それが今の俺と、なんの関係がある?」

 エリュードは、リムが何を言おうとしているのかその意図が分からず困惑する。

「はい。その症状と関係があるので、お話しています。ただ、話をしていて気になったのですが」

「ん? ……」

「もしかして、恋愛と無関係な世界でお仕事をしていたのでは?」

 リムは、ふと何気なくそう思い聞いてみた。

「そういう事か。そうだなぁ。関係ないわけじゃないんだろうが。恋愛なんかよりも、仕事のほうが楽しかったからな」

「仕事を優先する、タイプなのですね」

 そう言いリムは考え込んだ。

(この調子だと、自分の気持ちに気づくのはムリでしょう。
 これは、一筋縄ではいきませんね。そうなると私が。いえ、ちょっと待って。
 もしミスズさんも、ゾラさんの事が好きだったとしたら。私が言うよりも、そのほうが効果があります。
 でもその前に、確認しておいたほうがいいですよね)

「ゾラさん。単刀直入に聞きます。ミスズさんの事を、どう思われてますか?」

 リムにそう聞かれエリュードは、なんでそんな事を聞くのかと思った。

「ミスズを、どう思ってるって言われてもなぁ。昨日、知り合ったばかりだし。まぁ、強いて言うなら。優しくて、気持ちのいいヤツだとは思うが」

「いえ、そういう事じゃなく。ただ単純に、ミスズさんの事が好きなのかを聞いているのです」

 自分の話を理解してくれないエリュードに対し、リムはイライラしている。

「あっ! なるほど、そっちか。悪い。んー、どっちかと言えば。す、き……」

 エリュードは、『好き』と言い掛けた途端。また、ゆでだこのように顔を赤くし頭から湯気が出てきた。

 それと同時にどうきが激しくなり、苦しさのあまり胸をおさえる。そして、ベッドの上で横向きになり丸くなった。

「えっ! ど、どうしましょう? これは思っていた以上に、重症みたいですね」

「うっ、いったい、俺は……」

 エリュードは苦しさのあまり、まともに話す事が出来ない。

「ゾラさん。死ぬような、病ではありません。ですが、ここですこしお休みください。私は、用を思い出しましたので。申し訳ないのですが、ここを離れます」

 そう言いリムは、近くの台に水が置いてある事をエリュードに告げる。すると医務室を出て、ミスズのもとへ向かった。

 それを確認するとエリュードは、苦しいながらもなんとか起き上がり、台の上の水を飲んだ。

 そしてベッドの上でエリュードは、水の入ったコップを持ち壁に寄り掛かると思い悩むのだった。

(本当に、なんなんだ。俺の身に、何が起きてる? リムさんは、何か知ってるみたいだった。だが、なんでハッキリ言ってくれない!)