エリュードが苦しそうにしている最中。

 ティムとダインは、エリュードがいるテーブルよりすこし離れた席で小声で話し始めた。

「ダイン。ゾラのことなんだけど」

「ん? アイツがどうしたんだ?」

 そう言うとダインは、エリュードのほうをチラッとみる。

「これは、女の直感なんだけどね。アイツ、ミスズのことが好きなんじゃないのかな?」

「ああ、なるほど、それでか。あの様子じゃ、アイツ。本気でミスズのことが好きみたいだな」

「それでさぁ。いい事を考えたんだけど」

 ティムはそう言いダインにその内容を説明した。

「……ほう。それって面白そうだな。それに、うまくいけば」

「うん。これが成功すれば、めでたく二人は結ばれる」

 ティムがドヤ顔でそう言うと、二人はワクワクし始める。


 __はっきり言って恐らく二人にとっては、迷惑な話である。__


 そしてティムとダインは、それを実行するために作戦を練るのであった。



 一方そのころ美鈴は、このギルドの食堂のカウンターのほうに行き、水をもらうとエリュードの所まで戻ってきていた。

 美鈴はエリュードのそばに水を置き話し掛ける。

「水、持ってきたよ。これですこし落ち着くかな?」

「す、まない。ハァハァ。ど、うも。ハァハァ。今日は、ちょ、うしが。わるい、みた、いだ」

 そう言ったあとエリュードは、ジョッキに注がれている水を一気に飲み干した。

「……。ん、ん!? これ、って」

 と同時にエリュードは、途中まで言い掛け立ち上がると、顔をさらに赤くし何か言おうとしたが言葉にならず、そのまま床にバタンと倒れた。

 それを見た美鈴は驚きエリュードのそばにより、しゃがみ込むと目をウルウルさせながら、大丈夫かと不安な表情でのぞき込んだ。

「エリュ、あっ! ゾラ!? 大丈夫? どうしよう。息はしてるけど反応がない」

 美鈴はエリュードが苦しそうにうなっていて、揺さぶってもなんの反応も示さなかったため、さらに不安になりどうしようかとアタフタし始める。

 その様子を見ていたギルドの者たちは、どうしたのかとガヤガヤと騒ぎ出した。



 ティムとダインはエリュードが倒れた直後。美鈴とエリュードをくっ付けるための策を練っていた。

 だが、バタンと倒れる大きな音を聞きエリュードと美鈴がいるテーブルのほうをみる。

「ちょ、いったい何が起きたの?」

「なんでゾラが、ぶっ倒れてるんだ?」

 そう言い二人は、慌ててエリュードのほうへと駆け寄った。



 そのころリムは、試験のための依頼書を何枚かみつけると、美鈴とエリュードのほうへ向かっていた。

 その途中バタンと倒れる大きな音を聞きリムは、何があったのか心配になりエリュードのそばに駆け寄る。

「いったい、何があったのですか?」

 そう言いながらリムは、しゃがみ込みエリュードの状態をみた。

「リムさん。ウチにも何がなんだか、よく分からないんだけど」

 美鈴はリムに、分かる範囲でこうなるまでの経緯を説明する。

「なるほど。倒れた直後、ジョッキの水を飲み干した。と、いう事はですね。ちょっと待ってください」

 そう言いリムは立ち上がり、テーブルの上に置いてあるカラのジョッキを取ると調べ始めた。

(クンクン。これは……もしかしたらと思ってましたが。なるほどですね)

 リムはジョッキを調べながら、いい匂いがしてきたため推測から確信へと変わる。そして、美鈴を見ると問いかけた。

「ミスズさん。ゾラさんには、間違いなく水を飲ませたのですよね?」

「はい。ウチは間違いなく。あそこで水をもらってきてゾラに渡しました。けど、なんで……グスン」

 そう言い美鈴は、どうしていいか分からなくなり涙が込み上げてくる。

「なるほど。このジョッキからは、ミュウズという超純度の高い、お酒の甘い香りがします」

「えっ? お酒って!」

 そう言い美鈴は、うなだれるように床に座り込んだ。

「はい。ミスズさんは恐らく間違って、お酒を持ってきてしまったのかもしれませんね」

 リムはエリュードのそばにくるとしゃがみ込み、異空間にあるケースから布を取り出すと冷却の魔法を使い布を凍らせた。

 すかさずリムは、エリュードのおでこにその凍った布を乗せる。

 するとエリュードは一瞬ビクッとし、「ヒィッ!?」と声を発した。だがすぐに、またうなり出し寝込んだ。

「これで、すこしは良くなると思いますが。ただ、ずっとこのままここにってわけにもいきませんし。どうしましょうか?」

 どうしたらいいのかとリムは、思考を巡らせている。

 するとティムとダインは、何が起きたのかと思いエリュードのそばまできた。

「いったい何があったの? って、ゾラのおでこに凍った布って事は……」

「まさか!? 酔って倒れたのか?」

 そう二人が聞くと、リムと美鈴とそばでその様子を見ていた者たちは「うん」と言い大きく首を縦に振る。

 そしてその後みんなで、エリュードをどうするか話し合った。